日月の恵み

● 日月の恵み〜二人を繋ぐモノ〜

 ウピルナとヴィルヘルムは、手を繋ぎながら歩いていた。
 やがて星屑の丘へと差し掛かった辺りで、ふとウピルナが足を止めると、一緒にヴィルヘルムの足も止まる。
 一体どうしたのだろうかと、怪訝そうなヴィルヘルムに、ウピルナはどこか恥ずかしげに、彼のために用意したプレゼントを取り出す。
「あの、これ……今日の、記念に……」
 そう差し出した小さな箱を、ヴィルヘルムは嬉しそうに手にすると、思わず笑みを零しながら、開けても良いかなと尋ねる。
「ええ、もちろん……」
 こくりと頷き返すのを見て、空けた箱の中には、銀の耳飾り……太陽と月を模した黄水晶があしらわれた、イヤーカフスがあった。
「綺麗だね……ありがとう、ルナ」
 ヴィルヘルムは嬉しそうにウピルナを抱きしめると、囁きながら、額に1つ、キスを落とす。
「そ、の……」
 恥ずかしそうにしながら、視線を落として、ウピルナは途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「こうして、着けていたら……傍に居られない時でも、繋がっていられる様な、気が、して……」
 その耳にチラリと覗くのは、銀のイヤーカフス。
 ヴィルヘルムに渡したのと同じ物……お揃いの、それ。
「ルナ……」
 そんな想いが込められた贈り物である事を、ヴィルヘルムは更に嬉しく思いながら、彼女の耳元にあるイヤーカフスに、そっと触れて。
「これに頼らなくてもいいぐらい……ずっと君の側に居たいなって……僕は思うよ」
 優しく指先で触れながら、ヴィルヘルムは、そう願うように呟く。
 2人とも冒険者である以上、ずっと一緒にいるなんて約束は出来ないけれど、でも、どこにいても、何があっても、彼女の事を想っていると……。
「……このまま、僕等の大切な思い出が消えていかないように、この想いを歌にするよ。……君だけの為に」
 僕が初めて望んだ、君のために。
 2人だけの歌を。
 プレゼントのお礼をも兼ねて、そうヴィルヘルムは歌い始める。
 言葉に出来ない想いを、声で伝えるかのように、ただ旋律だけを。
「………」
 流れる音に、ウピルナは静かに耳を傾ける。
 こうして、声を聞けるだけでも、幸せ。
 彼のすぐ傍で、穏やかに過ごせる事が、とても幸せ……。
 気持ちを、巧く言葉で伝える事は出来ないけれど。こうして隣に……優しい言葉で彼が示してくれた、私の居場所に居る事で……貴方が、大好きだという、その想いを伝えたいから……。
(「……この耳飾を選んだ、もう一つの理由は……黄水晶が表す太陽と月が似ていると、思ったから……。貴方という太陽が、私という月を照らしてくれる……貴方の存在が、私の居場所を照らし出してくれる……」)
 そんな今が、何よりも幸せなのだと、そう思いながら、ウピルナは瞳を閉ざすと、ヴィルヘルムの紡ぐメロディーに浸るのだった。


イラスト: 碧川沙奈