思いを馳せて、たゆたう時

● 2人だから、時には子供のように

 ランララ聖花祭の夜、星屑の丘で一組の新婚夫婦が寄り添っていた。
 冷静で大人びた二人が、いつもは見せないほど寛いだ表情で微笑みあっている。
 降るような満天の星空を見上げれば、此処に来て良かったと無邪気に笑うことも出来る。
 初めて彼を意識したのも、こんな風に星が綺麗な夜だった。思い返しながら、アティは今の幸せを噛み締める。月明かりに照らされた彼女を見て、「やはりアティは美しい」とガルスタが囁いた。
 照れて何も言えなくなってしまうくらい甘い言葉を、彼は率直に口にする。
「アティ、愛している」
「……私も、愛しているわ……ガルスタ……」
 二人は今日、ランララ聖花祭の日に旅団で内々の結婚式を挙げたのだった。
 嬉しくて頬が緩むのを一日中我慢していたとアティが微笑む。
 嬉し過ぎて泣いてしまいそうなのも我慢していたと少しだけ恥ずかしそうに呟いた。
 家事は二人でしましょうなどと、これから過ごして行く二人の幸せな生活を思い、穏やかに語る。
 このまま時が止まってしまえば良いと願うほど、優しく愛しい時間が二人の間を流れていた。
 いずれ時が二人を別つと、二人は既に知っていた。
 冒険者はいつ命を落とすとも知れない存在。
 何よりも、永遠の命を持つドリアッドのアティと、限られた命しか持たないガルスタの間に隔たる溝は大き過ぎた。けれど、想いは誰にも止めることは出来ない。
 二人は現在と言う時を、今までもこれからも大切に過ごして行く。
 想いは永久であると信じ、共に在り続けたいと願い続けながら愛し合う。
 いつか来る日を覚悟しながら、美しい夜空の下で二人は優しく微笑み合う。
 精一杯生きよう。
 精一杯愛そう。
 想いを胸に秘めながら、今日と言う日の夜だけは、彼らは二人きりで無邪気に笑う。
「……貴方と過ごす私の人生、全て……貴方を愛することだけに、費やしたいわ……」
 限られた時間であっても、アティは全てを捧げて彼を愛したいと願っていた。
 にっこりと笑う彼女の頬に手を添えて、ガルスタは祈るように囁いた。
「いつでも、いつまでも、共に在りたいな」
 彼は彼女の唇に、そっと優しく口付けた。



イラスト: 椛音