幸せなひとときを、二人で。

● 愛しさが、溢れて

 灰色の瞳に花の万色を映し出し、レンは朝露の庭園に見惚れていた。
 何だか幸せ……呟く様に思う。ランララ聖花祭の日、大好きな人と一緒にこの素晴らしい景色を見て過ごす穏やかな一日。今までだって幸せな日は沢山あったけれど、今日もとても幸せ。ずうっと、こんな穏やかな、幸せな日々が続けばいいな。私も、貴方も、笑っていていつも一緒にいて――胸の内で願う様に言う。
 エティアスもまた、庭園を楽しむように眺めていた。
 なんつーか、幸せだよな……美しいものを、愛しい人と見られる事が。こうして、君と出会えた事が。思いながら、エティアスは瞳に花の万色を映し出して幸せそうに微笑むレンの横顔に目を移す。すべらかな頬をさらさらと撫ぜる銀髪。真摯に引き締められ、また時として笑みを咲かせる珊瑚の唇。沢山の好きを込めて此方を見詰めて来る双眸と。
 全てが可愛く思えて、思わずエティアスはキスをした。
 頬へ、触れるだけのバードキス。
「……きゃぁっ!」
 小さな悲鳴を上げて、頬を押さえるレン。見る間に眦に涙が浮かぶ。銀に煙る睫毛が弾いてきらきら光るのを見て、まずとても可愛いと思い、それから大切な人が泣いてしまったという現実に思い至ってエティアスはわたわたとレンの顔を覗き込んだ。
「ごめんごめん、びっくりさせちまったか?」
「あ………、ご、ごめんなさい! 嫌なわけじゃないの! むしろその逆で……嬉しすぎた……のデス……」
 消え入りそうな声で、目に見えて分かるほどに頬を赤らめて、涙の残滓に潤む双眸でエティアスを上目遣いに見るレン。
 陥落。
「まったく、これ以上俺に惚れさせてどうするつもりだーっ」
 自分の感情に抗う事などできずに、エティアスはレンを抱き締める。
 いつも笑ってて欲しいけど、泣き顔とか照れた顔も大好きなんだよな――エティアスは微笑み、驚いた風に見上げて来るレンの銀髪を柔らかく撫ぜる。レンはエティアスの笑顔を見て、少しだけずるいと思う。私ばっかりどきどきして、何かされればパニックになっちゃって、ずるい。……でもね、貴方がそうやって優しく私を抱きしめてくれるその暖かさが……とっても落ち着く事も事実、なの。
 流れるエティアスの赤髪が、帳の様にレンを覆う。
 帳の中でレンはエティアスを見上げて微笑む。
「今、とっても幸せなの。 ……エティアス。大好き……」
 思いを告げて、エティアスの胸に頭を預けるレン。
「うん、大好き。君のことが、とても、愛しい」
 抱きしめるこの腕から少しでも強く、この気持ちが伝わるといい。
 そう、エティアスは改めてレンを深く抱き締めた。
     

イラスト: 吉野るん