ランララ聖花祭・花園にて

● 愛があれば十分

「ガイヤ様のクッキーを焼いてきたのですなぁ〜ん」
 今、リィルアリアの心臓は、爆発寸前。
 目の前にいる大切な恋人の為に、朝早く起きて作ったクッキーをそっと差し出した。
「俺に?」
 ガイヤは、リィルアリアから受け取ったクッキーの袋を開けて、一つのクッキーを取り出した。
「…………」
 見るからに怪しい形。
 怪しい色。
 臭いが、クッキーっぽいのが救いか?
 ガイヤは思わず、そのクッキーを凝視していた。

 実はガイヤは既に、お菓子の感想をはっきり言わないつもりで来ていた。
 本当の事を言えば、目の前にいる恋人のリィルアリアが傷つくのではないか。
 そう危惧していたのだ。

 それが今、目の前にある。
 ガイヤの額から、つうっと一筋の汗が流れた。
「ガイヤ様?」
 心配そうに覗き込むリィルアリアの姿に、ガイヤは心を決めた。
 ぱっくんとその歪なクッキーを口の中に入れた。
(「…………不味い」)
 案の定、そのクッキーは不味かった。

(「味はどうかなぁ〜ん? 味見しなかったけど、大丈夫かなぁ〜ん?」)
 ちょっぴり問題ありな発言を心の中でしながら、リィルアリアは不安そうにガイヤの様子を見ていた。
「…………」
 クッキーを口の中に入れ、渋い顔を浮かべるガイヤ。
(「もしかして、本当に美味しくなかったなぁ〜ん!?」)
 リィルアリアの瞳に涙が溜まっていく……。
「個性的な味だが、愛が詰まっているな」
 ガイヤがそう告げた。
「本当なぁん?」
「ああ、本当だ。………大事なのは見た目ではなく、中身だからな」
 笑みを浮かべたリィルアリアの瞳から、嬉し涙が零れた。
「嬉しいなぁん……」
 しかも、ガイヤに頭を撫でられて、リィルアリアは幸せだった。
「ありきたりな言葉だが……アリア、愛してる」
 そういって、ガイヤはリィルアリアを抱きしめ。
 唇を重ねた。

 今、リィルアリアは幸せの絶頂にいた。
 隣には大好きなガイヤがいて。
 そして、クッキーのお礼のキスまで貰えたのだから。
「そうなぁ〜ん♪ ガイヤ様、私もクッキー、食べてみてもいいなぁ〜ん?」
「あ、いや、これは……その!!」
「?」
 結局、そのクッキーはリィルアリアの口に入る事無く。
 こうして、リィルアリアにとって幸せな、ガイヤにとって苦難の日が終わりを告げたのであった。


イラスト: moca