ランララ聖花際

● 少年に勇気を、少女に花と口付けを

「はい、どうぞなぁ〜ん」
「すごく美味しそうだなぁ〜ん」
 満面の笑みと共に渡されたアップルパイの大きな一切れを受け取って、ギオはアップルパイをぱくりと一口。パニャナンから貰っただけでも嬉しいのに、味も格別でなおさら嬉しくなり、ギオは尻尾の先でばったばったと地面を打つ。
「パニャは料理上手だなぁ〜ん」
「嬉しいなぁ〜ん」
 にこにことパニャナンは笑っていて、ギオはとても幸せな気持ちになった。まだ沢山残ってるから長く笑顔を見ていられるかな、とお日様の光を照り返して濃い蜂蜜色に輝くアップルパイに目を遣る。
 アップルパイを取り囲む様に、真夏のお日様の綺麗な白色をした花々が揺れていて、ギオは不意に思いついてくるりと後ろを向いた。
 ギオの背中を見ながら、小首を傾げるパニャナン。アップルパイの端を齧りながら待つこと暫し。振り向いたギオがパニャナンふわりと頭の上に何かを載せた。上目遣いに見てみれば、白い花がゆらゆら揺れる。それが綺麗な真白の花の冠だと気付いて、パニャナンの口元からアップルパイの欠片がぽろりと落ちた。
「それ、やるなぁ〜ん」
 ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、ギオの胸はドキドキと高鳴りっぱなし。アップルパイの甘い香りがするほどに距離は近付いていて。大好きな、大きな青い目。いつも温かくて明るい笑顔も仕草。全部が間近にあって、ギオは想いと勇気を振り絞り身を乗り出した。
 唇がパニャナンの頬に優しく触れ、離れる。
 パニャナンは真っ赤になったギオの顔を見詰めたまま、茫と自分の頬に触れた。
 仲良しのギオ。大好きなギオ。恋ってまだ良く分からないけれど、今日を一緒に過ごしたいからアップルパイを作って朝露の庭園まで来た。
 そして突然のキス。
 普通に一緒に過ごしていたさっきまでとは違って、ギオを見ているだけで胸が苦しく、頬が熱くなる。こんな気持ち、今まで味わったことは無くて。幸せで泣いてしまいそうな気がした。
 それから、ギオとパニャナンはお互い真っ赤になったまま俯き、幸福な気分を噛み締める様に、美味しいアップルパイを一所懸命に食べた。

 夕方が来て、世界は綺麗なオレンジ色。
 立ち上がったギオの腕を取り、パニャナンはその頬にお礼のキス。
 夕陽と同じ位に顔を赤らめる2人。淡い想いを込めて見詰め合い。
(「できればずっとず〜〜っと……ギオと一緒にいられますように、なぁん」)
 恋ってやっぱりまだ良く分からないけれど、パニャナンはぎゅっとギオの手を握り、2人仲良く朝露の庭園を後にした。


イラスト: 東原史真