静かな夜に……

● You’re all I need....

 今日は特別な日。
 だから、いつも連れて行くペットはお留守番。
 さあ、出かけましょう。
 彼のいる、あの場所へ……。

「「あっ……」」
 ネマとサマエルは同時に、待ち合わせ場所に着いた。
 星屑の丘で、二人は顔を見合わせ微笑んだ。
 偶然。
 そう、僅かな偶然なのだろう。
 けれど、二人にとってそれは、特別な偶然のように見えた。
 サマエルはなんだか、嬉しくて、くすぐったいような気持ちになる。

 だが、ネマはそうではなかった。
 確かにサマエルと一緒にいられるのは嬉しい。
 こうして、偶然一緒に来られたのも嬉しかった。
 だが、邪魔をするのだ。

 過去で失ったあの人の思い出が……。

 大切な人だった。
 ネマも愛していた。
 いつかは結ばれ、二人一緒に永遠に過ごすのだと、信じて疑わなかったあの頃。
 でももう、そのときには戻らない。
 もう、彼はいない。
 既に亡くなったあの彼に。もう二度と会えないのだから……。

 過去に大切な者を失ったという、確かな記憶。
 それが、サマエルに重なる。
 ネマの胸に僅かな痛みを与えるのは、不安からなのだろうか。
 それとも……。

「この季節の星は何が見るのでしょうか?」
 不安を隠すかのように、ネマが口を開いた。
「今の季節なら……そう、あの星デスネ。あの星とこの星を繋げて……」
 待っていましたとばかりに、サマエルはそういって、星について話し出す。
 星に纏わる話をいくつも語った。
 そして、一息ついた頃に、またネマが口を開いた。
「あ、そうでした。その……チョコレートを作ってきたんです」
 よかったら、食べてくれますかと訊ねるネマに。
「喜んで」
 にっこり微笑んで頷くサマエル。
 ちょっと恥ずかしいが、ネマはチョコレートを一つ串にさして、サマエルの口の中に入れてあげる。
「とても美味しいデス……」
 一口食べ終わったところで、サマエルはそう感想を告げた。
「よかった、口に合わなかったらどうしようかと思っていたんです」
 サマエルから、嬉しい感想が聞けて、ネマも嬉しそうに微笑む。
 と、ネマはじっとサマエルの瞳を見つめながら、口を開いた。
「私、今日は言いたい事があって…… ……サマエルさんの事が…好き……です」
 恥ずかしそうに頬を染め、俯くネマに。
「私は……ずっと前から好きデス」
 そうサマエルから告白された。
 ネマは、今日の中で一番綺麗な微笑で、サマエルの言葉に頷いた。
 嬉しくて言葉がでない代わりに……。

 空には美しい星々が瞬いている。
 その下で、一組の恋人同士が、唇を重ねた。
 幸せなキスを……。

 この夜がこの時が永遠に続けば良いと思う程に――


イラスト: 秋月えいる