頼みごとの続き

● 月と女神の木と乙女

「あの、これ……」
 女神の木の前で、ミニチュアはラーゴットに1つの箱を渡していた。
(「ランララ聖花祭の今日こそ、わたくしめの恋心をラゴ様に……!」)
 そんな想いと共に差し出された箱の中身は、ミニチュア手作りのクッキーだ。
「あら、ありがとう♪ どれどれ……?」
 ラーゴットは早速クッキーを取り出すと、一口それを齧る。
「お、お味はどうでございましょうか……?」
「とっても美味しいわよ♪」
 ちょっぴり不安げに見つめるミニチュアに、ラーゴットは「ありがとうねぇ」と、にっこり微笑みかける。
 そして、またもう1枚とクッキーに手を伸ばすラーゴット。
 一方ミニチュアは、そんなラーゴットの姿を見つめながらも、話しかける話題を思いつく事が出来なくて、ついつい無言になってしまう……。

「……あの……」
 しばらくして、ふとミニチュアは口を開いた。
 ひとつ頼みごとがあるのだというミニチュアの言葉に、ラーゴットはクッキーを飲み込むと、その表情から真剣な内容らしいと察して、真面目に耳を傾ける。
「いつかラゴ様は、わたくしめの頼みごとを何でも聞いてくれるって言ってくれたのでございます……。その、わたくしめの、一番の頼みごとは……」
 瞳を伏せがちに、そう紡いだミニチュアは、視線を上げて。
 ラーゴットを見つめながら言葉を続ける。
「……わたくしめを……ミニチュア・アップルパイを、ラーゴット・スペクトルの、たった1人の存在に……して欲しいのでございます……。その……こ、恋人、と、か……」
 頬を真っ赤に染めて、最後の方は声を細くしながらではあったけれど……そう紡いだミニチュアの言葉を、ラーゴットは決して聞き逃す事なく耳にすると、優しげに笑みを浮かべて。
 ラーゴットは、ミニチュアの両肩に手を添える。
(「え……?」)
 これは、もしかして……?
 どくんとミニチュアの鼓動が高まる中、ラーゴットの顔が近付いていく。
「アタシ……じゃない、俺も……ね。ミニの事を、たった一人の存在だと思ってる。……勿論だよ」
 自分こそ、その言葉を待っていたのだから……。
 その想いを胸の内側に呑み込んで。ラーゴットはミニチュアへと微笑みかけながら、彼女の顔に自分の顔を重ね――。

 こつん。

 その感触に「へ?」という顔で、ミニチュアは閉ざしていた瞳を開いた。
 この身を、ラーゴットに委ねよう……とまで決意していたのだけれど。触れ合ったのは、お互いの額同士で……ちょっぴり拍子抜けはしたけれど、でも。
「……この方が、わたくしめ達らしいでございます♪ ……えいっ!」
 ミニチュアはくすりと笑うと、1歩大きく踏み込んで、ラーゴットの胸へと飛び込む。
「これくらいは、オッケーでございますよね?」
「ふふふ、そうね」
 見上げるミニチュアにそう笑み返して、ラーゴットはその耳元に囁きかけた。
「これからも……宜しくね?」

 そんな2人を包み込むように、いつしか辺りには夜の帳が下りていて……。
 女神の木と頭上の月が、彼らの姿を優しく見守っていた。


イラスト: 山葵醤油 葱