貴女に似合う色は…

● 貴女に似合う色は…

 エルバートとユウカは、花々が咲き乱れる朝露の花園にいた。
 二人の腕の中には、互いに贈り合ったプレゼントがある。エルバートの腕の中には、ユウカから渡されたケーキの箱が。ユウカの腕の中には、エルバートからプレゼントされた花束が抱かれている。
「花の事はよく分からなくてな……花言葉と色だけを指定して、店主に選んでもらったのだ」
 ふと、花を選んだ時の事を思い返し、エルバートは苦笑しながら、すまなさそうに告げると「確か前に、青が好きだと言っていただろう?」と続ける。
「それを覚えていたから、青い花を選んだのだ。……確かに、貴女によく似合う色だな」
「エルバート……」
「青の他にも、貴女に似合う色を探したいな……」
 エルバートの言葉に照れて、頬を赤く染めるユウカ。そんな彼女に、他に似合う色は無いだろうかと思いを巡らせながら、エルバートは彼女の様子に色を絡めて囁く。
「さしあたり、貴女の頬を染める朱だろうか。……それが貴女によく似合っている事は解っているよ」
「まあ……意地悪、ですのね」
 少し人の悪い悪戯な笑みを浮かべながら、ウインクして見せるエルバートの様子に、ユウカは更に頬を染めながら、恥ずかしげに抗議の声を上げる。
 けれど同時に、少しだけユウカは嬉しさも感じる。彼のこのような様子を目にしたのは初めてのこと……自分の知らない彼の一面を、新たに一つ知る事が出来たから。
(「……我がことながら、好きな恋人の表情を見る為とはいえ、こんな言葉が言えたとは……」)
 だが、それはエルバート自身にとっても驚きだった。……その感情を、表には出さないように、心の内に隠すようにしていたから、きっとユウカは気付いていないだろうけれど。
 エルバートはユウカによって、新しい表情を引き出されたというのが正しいのかもしれない。
「……さて、次は向こうを歩いてみようか?」
「ええ、まいりましょう」
 肩を並べて歩きながら、二人は思う。
 きっとまだ、互いに相手の知らない一面……もしかしたら、自分自身ですら気付いていないような一面があるのだろう。
 けれど、同時に思う。これから少しずつ知っていけば良いのだと。
(「……これからも、ずっと傍で、様々な表情をお互いに見せ合えれば幸せですわね……」)
 そう思いながらエルバートを見つめたユウカの思いと、どこか通じた気持ちを抱きながら、エルバートは彼女に微笑み返した。


イラスト: 霧生実奈