【NO MORE…】

● ボクと彼女とたこ焼きと…

「こんな日ぃくらい、本ばっかり読んでんと一緒にでかけような♪」
 ランララ聖花祭の日。特に予定も無いからと、家に篭って本を読んでいたノアを、そんな台詞と共に半ば強引に引っ張り出して、ルエアはさえずりの泉を訪れた。
 良く晴れた空から降り注ぐ陽光。さえずりの泉は青空を映してきらきらと輝く。
「綺麗やわ〜」
 薄蒼の薔薇が咲く可愛らしいドレスの裾をたくし上げ、冷たい泉に足を浸すルエア。対してノアの反応は淡々とした物だった。
「そう……」
 どこか上の空な短い応えに次いで、紙をめくる音がする。ルエアがノアを振り返ると、案の定ノアは本を読んでいた。
 楽しげな水音を立ててみたり、銀の鱗を輝かせる小魚達を見つけたと歓声を上げるルエア。
「ノアも来ぃや、ごっつ気持ちいいで?」
「うん……」
 向日葵を思わせる笑みを咲かせて誘いを掛けるルエアに、本に没頭したままノアは生返事を返す。
 それが、ちょっとだけ面白く無くて。
 折角ドレスも着てめかしてるのに、お世辞の1個も言えないのかな〜……などと思いつつもノアのいる木陰に戻り、バスケットの中から取って置きの一皿を取り出し、ルエアはずいとノアに差し出した。
「ほら、ノアも食べてみぃ。美味しすぎて気絶するで?」
 皿の上にはまだ暖かなたこ焼きが乗っていた。勿論ルエアの手作りだ。本を読んでいた方がいいのになぁ……と思いながら、ノアは渋々たこ焼きの皿を受け取って、始めて目にした丸い食べ物にじっと見る。
 こんなのが美味しいのだろうか。細い木の串でたこ焼きを一つ突き刺し、口に運ぶノア。噛み締めれば中からとろりと生地とだしが溶け、大粒のタコが転がり出た。
 あ……、凄く……美味しい……。
 ルエアにこんな美味しい物が作れるのかと半ば感動するも、表情は殆ど変えず、ノアは黙々と2つ目のたこ焼きを食べる。
「感想は?」
 ずずいと膝を寄せて顔を覗き込むルエア。
「……ん、まあまあ……だよ」
 そう、ノアは3つ目のたこ焼きを口へ。素っ気無い返答に、取り得は少ないがたこ焼きを焼くことだけは誰にも負けない自信が有る……美味しいのは間違い無いっ! と、心で拳を握り締めちらちらとルエアはノアの顔を見遣る。
 見詰めてみても、やっぱり素知らぬ風のノアに大きな溜息を一つ。まあいいやと思い切って、ルエアは自分のたこ焼きを食べ始めた。
「やっぱり美味いわ〜」
 実に楽しげにたこ焼きを食べるルエアに、ノアは本の影でくすりと笑い声を一つ零す。
 ありがとうね、美味しかったと心の中で言って、また本に没頭するノア。
 2人で過ごす時間は、こうして穏やかに過ぎて行った。


イラスト: 茶駝乾