ランララ聖花祭〜試練の先の試練〜

● 試練の先の試練

 こんなものには縁が無いと思っていたけれど、世の中とは判らないものだ。
 まさか、自分がこんな風に、星屑の丘に向かう日が来るだなんて。
 ……浮かれ気分で足取り軽く歩きながら、そうヴィーザルは思っていた。
 今日は、ランララ聖花祭……丘で彼女と会う約束だ。

「待ちましたか? その……今日はランララという事で、菓子など作って来たのですが……」
 ヴィーザルよりも一歩遅れてやって来たミリセントは、そうラッピングした箱を差し出した。
 家事には、全くの不慣れで。
 料理とは戦闘よりも遥かに難しいものだと心底思いながらも、何とか完成させる事が出来た、彼へのプレゼント。
「私は家事などは不得意で……味の保障は出来ませんが……」
 果たして喜んで貰えるだろうかと、そう見つめるミリセントの視線を受けながら、ヴィーサルは嬉しそうに箱を受け取る。
(「まさか菓子を作ってもらえるとは思わなかった……結構家庭的だなー♪」)
 じんわりと喜びを噛み締めているヴィーザル。
 噛み締めながら、箱を開ければ。

 ――現れたモノを目にし、ヴィーザルは思わず、ごくりと生唾を飲み込んだ。

 それは何とも説明しがたい……どうにもこうにも正体を計りかねるような、謎の物体Xで。
 思わず顔から血の気が引くのを感じながらも、でも、ヴィーザルは「食べなきゃ嘘だよなっ!」と、その物体をひとかけら口に放り込む。
「――!」
 その瞬間、何とも形容しがたい刺激的な味覚が全身に広がるが、噴出してはいかんと自分に言い聞かせ、ヴィーザルはそれを飲み込む。
「だ、だから私は料理は苦手だと……」
「そ、そんな事ないって。ミリセントの作るものなら、なんでもうま……げほっ」
 そんなヴィーザルの反応に、思わずため息混じりにこぼすミリセント。損な彼女に笑顔を向けるヴィーザルだが、思わずむせてしまうのを止める事は出来なくて。
「いや、無理して食べなくとも! ……申し訳ありません、ヴィーザル……」
 途中ですっかり肩を落とし、恥ずかしさと申し訳なさから顔を真っ赤にしながら、そう呟くミリセント。
 瞳には、じわりと涙が浮かぶ。
(「な、泣いてる!? ええい……こういう時は!」)
 彼女の様子にハッとしたヴィーザルは、手を伸ばすとミリセントの頭を撫でる。
「ヴィーザル……」
 そんな仕草に涙を拭うと、微かに笑みを浮かべて、ミリセントはヴィーザルを見つめ返す。
 もう少し女らしさを磨いて……いつかは、もっと、彼に喜んで貰えるような料理を作れるようになろうと、そう胸にしながら。


イラスト: R-OZ