● 傍らに。

 空にはたくさんの星が瞬いている。
 そう、ここは星屑の丘。
 ファオとアズヴァルも共にここにいた。

「あの、アズヴァルさん、これを受け取ってくれますか?」
 そういって、ファオが差し出したのは、ホットチョコレート。
「私の為に? ありがとうございます」
 アズヴァルは微笑み、ファオのホットチョコレートを受け取った。
「お口に合うと嬉しく思います……こちらで飲まれるのでしょうか?」
 ふと首をかしげ訊ねた。遅い時間だというのに、ファオ達の周りには、たくさんのカップルらがいた。
「こちらで口にしても良いのですけど、少々落ち着きませんからね。後でゆっくり戴かせてもらおうかな、と」
 辺りを見て、アズヴァルはそう答える。
「そうですね。後で落ち着いてから……えと、もしお疲れで、甘みが強い方がと感じられた時はこちらもご一緒に……」
 ファオはもう一つプレゼントを渡した。ラッピングされた桜の葉型の小さなホワイトチョコだ。
「疲れたときは甘い物が欲しくなりますから。後でゆっくりと戴きますね」
 そのプレゼントも受け取り、アズヴァルは微笑む。
 ふと、ファオは夜空を見上げ、そして、アズヴァルを見た。
「こうした何気ない時間を、ご一緒出来て幸せです」
「……私も喜ばしく思いますよ。最近は余り時間が取れないので、御迷惑をおかけしてはいないかと考えたりもするのですが……」
 僅かに顔をほころばせながら、アズヴァルはそう告げる。
「迷惑なんて事は! ……それぞれの立場や、働きがあるからこその営みなのだと思います。……お勤めお疲れ様です」
「いいえ。少しは忙しい方が良いとは思いますし、苦にはなりませんよ。……ファオさんも余り無理はなさらないようにして下さい」
 アズヴァルはそっとファオの手に触れて指を握る。
「はい、アズヴァルさんもどうかお体にお気をつけて……」
 耳まで真っ赤にさせながら、ファオもそっとアズヴァルに寄り添う。
「……また、お花見などでもお会い出来るでしょうか?」
 それはファオの不安でもあった。
「そうですね、今年は少々暖かくなるのが早いようですので……いつもの時期ぐらいにまだ桜が見れると良いのですけど。また今年も桜の木を貴女と一緒にのんびりと眺めていたいものです」
 アズヴァルに抱き寄せられて、ファオは心地良さそうに頬を染めていた。
「私も楽しみに……その時に備えてお料理やお菓子を色々と考えておきますね」
 と、見上げた星を見て、ファオは気づいた。思っていたよりも時間が過ぎていた事に。
「……あ、ええと……すっかり遅い時間になってしまって……もう戻りましょうか?」
「……少し遅くなってしまいましたね。言われるまで気付きませんでした。それでは戻りましょうか。 あまり女性を遅くまで連れまわすのも、男として褒められた話では有りませんし。勿論、許されるのであれば、また話は違いますけれどもね」
「アズヴァルさんが褒められないとも、許さないと言う事も勿論無いのですが……。……その……遅くまででもご一緒に入れたら嬉しい、ですし」
 その言葉にアズヴァルは微笑む。
「では、そろそろお送りしましょう。もう随分と夜も更けてしまいましたから」
「はい、折角なので綺麗な夜空も見上げながら……ゆっくり、帰り道もご一緒させて下さい」
 二人はゆっくりと丘を降りる。
 美しい夜空を眺めながら……。


イラスト:白々白米