● 〜 甘いお菓子と 〜

 ふわりふわり。
 リューシャは辺りを見わたす。
 そして、見知った彼女の後姿を見つけた。
 花園の中に咲く、一輪の愛らしい花のように佇む彼女。
 彼女はリューシャの姿を見つけると、ふわりと微笑んだ。
「リューシャさんっ」
 ふわふわと小さな羽根が揺れる。
「ジルさん、今日は来てくれてありがとう」
「いいえ、こちらこそ。今日はよろしくなのです」
 互いに微笑み合い、二人は程よい場所を見つけ、そこに腰を下ろした。

 リューシャは、嬉しかった。
 こうしてフラジィルが、ランララ聖花祭の朝露の花園に来てくれた……それだけで嬉しかった。
 なのに。
「あ、今日はランララ聖花祭ですから、ジルもお菓子を持ってきたのですよ」
 フラジィルは、少し誇らしげに自分の作ってきたお菓子を差し出したのだ。
「ジルさん……本当にありがとうございます……」
 リューシャは受け取り、今度はと自分の作ってきたお菓子を差し出した。
「私もジルさんのために作ってきたんです。その……受け取ってくれますか?」
「わああ! 生チョコレートですねっ! もちろん、いただきますです。ありがとうございます、リューシャさん」
 二人はさっそく、お菓子の袋を開けて、一つずつ口の中に入れた。
「美味しい……ジルさん、この作ってくれたブラウニー、とってもとっても美味しいです」
「リューシャさんのチョコレートも、とっても甘くてとろけちゃいそうです……あ、そうでなくて……」
「はい?」
 フラジィルはにっこりと微笑んで。
「とってもとっても美味しいです。ところでその、ジルから一つ提案があるのですが……」
「何でしょう?」
「せっかくですから、お菓子を交換しながら食べませんか?」
 嫌なら別にかまわないのですが、というフラジィルにリューシャは笑って答える。
「ええ、交換しましょうか」

 苦しくて、切なくて、悲しい日々もあった。
 けれど、今日は楽しくて、嬉しくて。
 辛い事もたくさんあったのに、今は何一つ思い出せないくらい。
「ジルさん」
 リューシャは目の前にいるフラジィルに声をかけた。
「はい、リューシャさん」
「こうやって、フラジィルさんと楽しい時間を過ごせて……よか……」
 言葉が言葉にならない。
 溢れてくる想いは、溢れる涙に遮られて。
「リューシャさん……」
 そっと自分のハンカチを差し出すフラジィルに、リューシャは涙をそのままに笑みを浮かべて受け取る。
「ありがとう、ジルさん。……いつも、甘えてしまって、ごめんね。でも、ありがとう……」
「気にしないでくださいです。ジルはいつでもリューシャさんの味方なのです。だから、泣きたいときに泣くのがいいと思うのですよ」
 そういってフラジィルは、そっとリューシャの背中をさすったのであった。

 ふわりふわり。
 花が風で揺れている。
 しばらくした後で、あの楽しげな笑い声が、再び聞こえ始めた。


イラスト:花々