● 幸せ一杯☆

 ライナーは女神ランララの木の下に来ていた。
「……ふっ、この程度の試練なんて、傭兵大隊の頃に比べたら屁でもないっす」
 とか言いながらも、肩で大きく息をしているのは、気のせいだろうか。
「ライナーさん……」
 と、声をかけるのはカエデ。
「お、おわっ! も、もう来ていたんすか!?」
 その言葉にカエデはこくんと頷いた。
「あの……その……お待たせしたく……なかったですから……」
 カエデの言葉にライナーは驚きながらも、嬉しく思う。
「それじゃ、泉の方へ行ってみないっすか? 風が流れてて気持ち良いと思うっす」
「……はい……」
 ライナーの提案にカエデは、小さく嬉しそうに同意したのであった。

 そして、目的地であるさえずりの泉に到着した。
 小鳥の声が嬉しそうに聞こえるのは、きっとここに来る者達の心が弾んでいるからかもしれない。
 カエデの歩くスピードで歩きながら、ライナーは良い場所を発見した。
「カエデさん、ここらで休憩なんてどうっすか?」
「……はい……休憩しましょう……」
 ライナーはさっとハンカチを取り出し、その上にカエデを座らせる。
 少々強引だったが、カエデは恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに微笑んでいた。
(「やっぱり、来てよかったっす!」)
 1年ほどずっと会えなかった時期があった。もちろん、去年のランララ聖花祭にも参加できなかった。
 だからこそ、この時間が大切で幸せな時間になるのだ。

 小鳥のさえずりが、ライナー達のすぐ側で聞こえた。
「あっ……」
 ふと、辺りを見ると、カエデの側に小鳥が集まり始めていた。
「ら、ライナー……さん……」
 困ったようにカエデはライナーを見る。
「大丈夫っすよ。ただ、遊びたいだけっす」
 ライナーはカエデの側にいた一羽の小鳥に指を差し出す。小鳥は首をかしげていたが、ちょこんと差し出された指に乗った。少しさえずり、すぐに飛び立ってしまったが。
「…………」
 それでもまだ戸惑っていたが、時間が経つにつれて、カエデも小鳥に慣れてきた様子。
 カエデもライナーと同じように自分の指に小鳥を止まらせていた。
 上手く出来て、嬉しそうに微笑んでいる。
(「自分は……この笑顔を守る為に、戦って来たんすね」)
 と、ライナーとカエデの目が合った。にこっと微笑み。
「カエデさん、これからもよろしくお願いするっす」
 ライナーは告げる。万感の想いを込めて……。
「はい……私からも……よろしく、お願いします……」
 そして、思い出したようにカエデはごそごそと何かを取り出した。
「ライナーさん……その、これ……受け取ってくれますか?」
 それは、カエデの手作りのお菓子。
 ライナーはとびきりの笑顔で応えた。
「もちろんっすよっ!!」


イラスト:山本佳織