● ちょっぴり大人なひととき

 夜も深まる頃。空の星がくっきり見え始める頃。
 森の暗がりの中、リーナは待っていた。
 深夜という時間を選んだお陰か、辺りに人気は全く無い。
 とくんとくん……。
 高鳴る胸。ふと、顔をあげると、がさがさと木々が揺れ、そして。
「リュウっ」
 リーナは顔を綻ばせ、彼の元へと駆け寄る。
「ごめん、待たせちゃったかな?」
「ううん、あたしも来たばかりだから……気にしないで」
 そのリーナの言葉に、リュウも笑顔を見せる。

 リーナは改めて、リュウを見た。
(「いつも見ているハズなのに……」)
 それは今日が特別な日、ランララ聖花祭だから?
 それとも、彼がいつもと違う服を着ているから?
 胸がさらに高鳴る。
 それはきっと、不安だから。
 受け取ってくれると分かっていても、不安な心は止まらない。
 もし、受け取ってくれなかったら?
 もし、断られてしまったら?
 思わず、嫌な想像ばかり考えてしまう。
 リーナは緊張しながらも、そっと持っていたプレゼントを差し出す。
「あなたへのプレゼント……受け取ってくれる?」
 不安な心のまま、その結果を待つリーナ。
「もちろん」
 リュウは嬉しそうな笑顔でプレゼントを受け取り、それを大切そうに懐にしまった。
 そして、またリーナを優しく見つめるリュウ。
「やっぱり、ボクのパートナーはリーナだよ」
「あっ………」
 リュウはそのままリーナを、近くの木に押し付けるかのように。
 唇が重なった。
 その急な行動にリーナは、戸惑っていたが……。
(「ここなら人も来ないだろうし、ちょっとくらいいいかな……?」)
 リュウに体を預けるかのように、その瞳を閉じる。

 静かなさえずりの泉の水面がゆらりと揺れた。
 泉に写る月も星も美しく輝いている。
 リュウとリーナは、月影の中、二人だけの大切な時間を過ごしたのであった。


イラスト:たぢまよしかづ