● ランララ聖花祭〜迎えてくれる人と〜

「はぁ、はぁ……」
 サガンは荒く呼吸を繰り返しながら、女神の木を目指していた。
 最後の試練は、ついさっき越えた。
 あとは彼女が待つ女神の木まで、辿り着くだけだ。
 途中で拾った木の棒を杖代わりにして、サガンはボロボロになりながらも道を進み続ける。
 ……彼女が、待っているのだから!
「それにしても、くじ運悪いんでしょうか……」
 ここまでの道のりを思い返すと、自然と溜息が出てくる。それでも決して挫けず、サガンはまた1歩踏み出した。

「あ……」
 一方、女神の木の下で待っていたヤチヨは、現れた人影に目を丸くした。
 全身ボロボロになっているけど、あれは間違いなくサガンだ。
 そう思ったら、ヤチヨの体は自然と駆け出していた。
「サガン、大丈夫かえ……!?」
「いや、その、ははは……」
 慌てた様子のヤチヨに、サガンは自分の不甲斐なさに苦笑しながら返す。気恥ずかしさから照れた顔で、ヤチヨに歩み寄れば、一体どんな酷い試練だったのかと、心配げに尋ねられて。
「その、なんていうか……」
 頬をかきつつ、サガンはここまでの道のりを語り始めた。

「そうじゃったか、大変であったのう……おお、忘れていたのじゃ」
 サガンの話を聞いていたヤチヨは、そう心からの言葉を告げると、不意に思い出した様子で、綺麗にラッピングされた包みを取り出した。
 中身は、ヤチヨ手作りのお菓子。このランララ聖花祭でサガンに渡すため、用意した物だ。
「そ、その……サガン、おぬしにじゃ」
「ありがとうございます」
 照れながら差し出したそれを、サガンは嬉しそうに、でもやっぱり照れた顔で受け取る。
 そして、早速和紙に添えられた紐を外し、中に入っていた大福を取る。
「…………」
 そんなサガンを、ヤチヨがじーっと見つめる。
 甘い物が苦手なヤチヨにとって、お菓子を作るのはこれが初めてのこと。だから、ちゃんと出来ているか、その味がどうしても気になって、大福から目を離せないのだ。
(「ええっと……」)
 射るような視線をちょっと気にしながらも、サガンは大福を一口食べる。
 その直後、口の中に広がる、程よく甘みが抑えられた餡子の味。
 それが、なんとも彼女の作ったお菓子らしくて、自然と顔に笑みが浮かんだ。
「とっても美味しいですよ、ヤチヨさん」
 そう告げると、ヤチヨは頬を赤くしながら「そ、それは良かった」と呟き返す。
「さてと……せっかくですから、他の場所も見に行って見ましょうか?」
 そうして大福を食べ終えると、そうサガンはヤチヨに誘いかける。
 その言葉に、ヤチヨは真っ赤になりながらも、こくんと頷き返すのだった。


イラスト:摩宮靄羅