● 明日(未来)へ…

「やっとこれたですー♪」
 朝露の花園の中で、そうコトナは両手を上げて体を伸ばした。
「晴れてよかったですね……」
 そんな彼女を、ポルロは優しげに見つめながら呟く。
 今日はランララ聖花祭。前から楽しみにしてた日だから、いい天気になって良かった。
(「だって、今日は……」)
 3月になったら結婚する二人にとっては、独身最後のランララ聖花祭なのだから。
「……綺麗な空ですね〜」
 こんな風に、素敵な空の日になって良かったと、コトナは大きく頭上を仰ぐ。
 済んだように高く綺麗な青空を、ゆっくりと渡るように流れていく雲。
 この先の結婚を前にして、感慨深いものがあると、そうコトナが空を見つけていると……。
「はい」
「え?」
 すっと近付いたポルロの指先が髪に触れる。
 いや、指だけではない。それ以外の何かが髪に差し込まれて……。
「やっぱり思った通りです。似合いますよ」
「これ……お花?」
 そう微笑むポルロの前で手を当てたコトナは、それが花であると気付く。
 小さくて可憐で、とても可愛い白い花……。
 心がくすぐったくなるような嬉しさを感じながら、コトナは笑顔で、じゃあ私もと包みを手にする。
「結婚前の最後のチョコだから、気合入れたんですよ」
 それを、想いを込めて差し出すコトナ。
 ポルロはチョコを受け取りながら、嬉しそうに笑う。
「では、お返しは……」
 すっとコトナに顔を近づけると、その頬に、ちゅっと小さくキスを贈る。
「にゃあぁ……」
 そんなポルロの『お返し』に、コトナは真っ赤になって、恥ずかしそうに照れるのだった。

「ねえ、ポルロさん……」
 照れ恥ずかしさで染まった赤みが抜けきらぬ中、コトナは彼を見上げる。
「また、来年も、その次も……ずーっと一緒に来ましょうね」
 そう微笑む彼女を愛しく思いながら、ポルロは深く頷き返す。
「ええ。また……来年も来ましょうね」
 ほんの少しだけ、自分の顔も赤いような気がするのは気のせいだろうか。もしかしてコトナのが移ったのかもしれない。
 そんな事を少しだけ思いながら、ポルロは用意しておいたシートを足元に広げる。
「せっかくですから、少しゆっくりしていきましょう」

 肩を並べて座ると、咲き誇る花々を見つめる二人。
 その向こう側には、なんだか、自分達がこれから進む道の先が……新しく始まる二人の幸せな日々が、見えてくるような、そんな気がした。


イラスト:枯野ハクヤ