● 星空の下で

 ランララ聖花祭の夜、ベアリクスはフォルテと星屑の丘を訪れていた。
 見上げれば、そこには満天の星あかり。
 きらきら、きらきらと、無数の星が夜空でまたたいている。
 手頃な場所で立ち止まったベアリクスに続き、フォルテも足を止めると、ただ無言で空を見上げた。
 なるほど、確かにこの空はとても綺麗だ。
(「どうしよう……」)
 けれど今、ベアリクスに夜空を楽しむような余裕は無かった。
 隣にいるフォルテをちらっと見て、悩む彼女の胸の内は大嵐。
 今日こそ、彼に告白しようか?
 でも、嫌われたらどうしよう……断られたら、どうしよう。
 そう不安が募り、その1歩が踏み出せない。

「……どうした?」
 そんなベアリクスの様子を怪訝に思い、フォルテが首を傾げる。
 彼の問いに、咄嗟に何でもないと首を振って……これじゃ、いけないと、ベアリクスは自分を叱咤する。
「……フォルテ」
 勇気を、出して。
 その一歩を踏み出すのだと自分に言い聞かせて、ベアリクスはフォルテに近付くと、そのまま、彼の体に抱きついた。
 ベアリクスの行動に、フォルテの目が微かに見開かれる。けれど、それ以上に驚きを露にする事なく、フォルテは「どうした?」と彼女に尋ね返した。
「あ、あの……」
 ぎゅっと、フォルテの体に抱き付いて、ベアリクスは言葉を飲み込む。
 言わなきゃ。言わなくちゃ。
 でも……と脳裏に過ぎるのは数多の不安。それが、ベアリクスを前に進ませてくれない。
「フォルテ……」
 相手の胸に顔を埋めながら、それでも、紡げるのは彼の名前だけ。
 その1歩を踏み出すのが、とても怖い。

(「あ……」)
 ふと見上げれば、フォルテの顔の向こうには、きらめく無数の星たち。
 その暖かくて柔らかい光が、自分たちを見守っているかと思うと……緊張した気持ちも、少しだけ和らいでいく。
 どうか、どうか、私に力を貸して……。
 まるで祈るように、そうベアリクスは深呼吸すると、フォルテの瞳を改めて見上げた。

 果たして、ベアリクスが想いを告げられたのか……フォルテが、その答えをどう返したのか。
 それは、2人と……見守っていた星達だけが、知っている。


イラスト:史祇守壱