● さえずり事変

 どこもかしこも、幸せそうなカップルばかりのランララ聖花祭。
 もちろん、このセレとツバメの二人も、幸せな時間を過ごしていた。

 そう、そのときまでは。

 心地よい日差しを浴びながら、セレと二人はさえずりの泉に来ていた。
「ねえ、ツバメさん。木登りしません?」
 セレの言葉にきょとんとするツバメ。セレは笑顔で続ける。
「ふふ……私、木登りは得意なんですよ」
 渋るツバメにセレは笑って手を引く。
 そんなセレにツバメも、思わず微笑んだ。
「ほな、登りますえ。手助けしてもろうてもええですか?」
「喜んで」

 そして、登った幹の上。
「う〜ん、いい天気やなぁ……泉もきらきらしてて滅茶綺麗やし……」
 ツバメが感心して、辺りを見わたした。
 高いところから見る景色は格別であった。柔らかな日差しを受けて輝く泉。そして、空を舞う小鳥の近い事、近い事。手を伸ばせばすぐつかめてしまいそうであった。
「ええ、とっても。木洩れ日も湖面も、キラキラ輝いて。……貴女が居るから、なおさら綺麗に見えるんでしょうね」
「せ、セレはん……」
 セレの言葉に思わず頬を染めるツバメ。
「せ、折角のランララやし、お弁当……サンドイッチ作ってきたんやけど」
 そういって、ツバメは手に持っていたバスケットを差し出した。その中にはたくさんのサンドイッチが詰め込まれている。
 セレはそのバスケットから、サンドイッチを一切れ、手に取った。
「ね、ツバメさん。あ〜んして」
「って、あ〜んはええからっ! あ〜んはっっ!!」
 慌ててツバメそれを止めさせようとするが。
「いいからいいから。ね。ほら、あ〜ん」
 そんなセレの微笑みにツバメが降参した。
「もう……仕方ありまへんなぁ……」
 実は満更でもなかった様子。あーんとセレから渡されるサンドイッチをぱくんと食べた。
「うむ、我ながら美味し……」
 そのツバメの幸せな時間は、次のセレの一言で終わりを告げる。
「っはは……雛鳥みたいですね?」
 何気ない、悪気無い一言だったのだが……その一言が余計であった。
 かちーんと、ツバメの顔が固まり、そして。
「そ……それ言わはったら、あきまへんーーっっっ!!」
 ずべしっ!!
「うわあっ!!」
 ざばーーーんっ!!
 哀れ、セレはツバメの見事なハイキックで、泉の中にどぽーんと落ちていってしまった。
「わ、あわっ!! つ、ツバメ……さんっ!!」
 慌てるセレ。だが、ツバメは木の上で全く気づいていない。
「確かに雛かもしれへんけど……けど……」
 いや、ツバメはツバメで、かなり凹んでいるのだ。

 数十分後。
 哀れなセレは救出される。周りにいた他のカップルの手によって。
 こうして、二人のショッキングなランララ聖花祭は幕を下ろしたのであった。


イラスト:橘平