● 待つ

 ただ、ずっと待っていた。
 彼の誕生日に失敗してしまった事。
 心残りだった事。
 それを取り戻したくて、この女神ランララの木の下に来ていた。
「喜んで……くれるかしら?」
 来てくれる事を待って………。

 時間は少し遡る。
 1月20日。その日はアリアの思い人、ゼロの誕生日であった。
 誕生日のお祝いをくれる方へ、何か感謝の気持ちを贈りたい。
 そう思って、自分の得意なホットケーキを作って、振舞ったゼロ。
 そんな彼の助けになりたいと、アリアもキッチンに立った。
「もう、何で上手くひっくり返らないかなぁ」
 もたもたしていた所為だろう。
「……あれ? 焦げ臭い……」
 ホットケーキの片面を焦がしてしまい、逃げるようにフライパンをゼロに押し付けてしまった。

 あれから数ヶ月。
 ゼロに喜んでもらえるようにと、仕事の合間を縫って、練習を重ねた。
 その結果、やっと焦がさずにホットケーキを焼けるようになったのだ。
 アリアはランララ聖花祭の日に、焼きたてのホットケーキを持って、ランララの木がある丘の上へと向かったのである。

 そして、当日。
 気づけばもう夜になっていた。
 周りには殆ど、人はいない。
 アリアは俯きながら、綺麗にリボンをつけた箱を持っていた。
 暖かかったケーキも、もう冷たくなっている。
「あっ……」
 日が暮れ、星が瞬く頃にアリアは気づいてしまった。
「約束……していなかったわ」
 失敗したわねと、思わず苦笑を浮かべた。
 と、アリアの視界が歪む。
「や、やだ……何やってるんだろ、私」
 来ない人をこんなにも待って、一人になっている。
「……帰ろう、かな」
 冷めたホットケーキを手に、アリアは帰ろうとしたとき。
「あっ……」
 アリアの方に向かって、一人の青年が走ってくる。
 青年はアリアの姿を見て、嬉しそうに微笑み手を振った。その腕には特殊な腕輪が見える。
 アリアの瞳から、また涙が零れた。
「い、いつまで待たせるのよ! お陰でホットケーキ、冷めちゃったじゃない」
 零れた涙を拭い、アリアはゼロに向かって、笑顔を向けたのであった。


イラスト:SAKURA