● ランララの木の丘で〜想いを込めて〜

 キュールはドキドキしながら、シルスが来るのを待っていた。
 今日はランララ聖花祭。大好きな人に、手作りのお菓子をあげる日。
 だからスミレの形のショコラを手に、ちょっと緊張しながら彼が来るのを待つ。
「……キュールさん!」
 そこに駆け寄ってくるシルス。キュールは、彼を出迎えながら、そっと包みを差し出す。
「あ、あのね、頑張ったの。貰ってくれる……?」
 少し心配そうに見つめるキュールの言葉に、シルスは即座に頷く。
「はい。ありがとうございます」
 シルスは顔に嬉しさを滲ませながら、キュールの想いが込められたお菓子を、大切に受け取った。

 そのまま歩き出した二人は、朝露の花園へと辿り着いた。
 二人で一緒に座ると、キュールはふと周囲の花に手を伸ばす。
「綺麗……あ、そうだ」
 何か閃いた様子でキュールはそっと勿忘草を摘むと、それを編み合わせて花輪作りを始める。その様子にシルスも目を留めると、目を細めながら彼女を見つめて。
「勿忘草、キュールさんの髪の色ですね。……あ、こっちの青い花を入れたら、もっと綺麗になるかもですよ♪」
「スミレ? そうね、使ってみようかな」
 シルスの指差した先に咲くのはスミレの花。キュールはスミレも摘むと、勿忘草にバランスよく混ぜて、綺麗な花輪を作り上げていく。
「うん、完成♪」
 花輪の出来栄えに満足そうに頷くと、キュールは目を細めた。
 勿忘草もスミレも、キュールの大好きな花。
 だから、これは。
「シルスくん、これあげるね」
 プレゼントだとシルスの頭にかけると、ふんわりと花の香りが漂う。
 その様子に、楽しそうに笑ってから、キュールはもう1つ同じように花輪を作って、今度は自分の頭にかけた。
「お揃い、ですね」
 照れ臭そうに笑うシルスに微笑み返すキュール。一緒に、何か言おうとするが、何故か不思議な気分が沸いてきて、うまく何かを口にする事ができない。
 どうしてだろう?
「……何だか私、ちょっと変」
 悩んでも分からなくて、そう呟いたキュールに、シルスは心配そうな瞳を向けながら、少しでも安心させようと肩を抱きしめる。
 その仕草にキュールが顔を上げると、二人の瞳が見つめ合う。
(「……何だか、不思議な感じが、する……」)
 まるで、吸い寄せあうかのように、ふっと顔が近付いて……。
 二人は口づけを交わす。

「……シルスくん、好きよ」
「僕も……キュールさん、大好きです」
 胸の奥底から、込み上げてくる不思議な気持ち。
 もしかして……。
「これって、恋なのかな?」
「多分、この気持ちが恋なんだと、思います」
 そう見つめ合って、小さな恋人達は笑い合う。ふんわりと漂う、花の香りに包まれながら。


イラスト:赤霧天樹