● なんら変わらぬ二人 〜ランララでもお茶を〜

 木漏れ日の降り注ぐ昼下がり、さえずりの泉のほとりに、ヴァンアーブルとリアの姿があった。
「……きれいなところではあるな」
 辺りを見回して、そう呟くリアにヴァンアーブルは目を細めた。敷物を広げて敷くと、リアに座るよう勧めながら、自身はバスケットの蓋を開ける。
(「うーん。普通、女性の方がお菓子を作ってくるモノだとは思うんですけどね」)
 そうちょっぴり苦笑しながら、取り出したのはガナッシュ。
(「……チョコレートくらい持って来れば良かったな……」)
 それを見て、リアはちょっぴり思う。
 今日がランララ聖花祭である事を思い出したのがついさっき、だから仕方ないとはいえ……ヴァンアーブルがチョコレートを持ってきて、更にお茶の準備まで始めるのを見たら、何だか世間と真逆のような気がして……。
(「……まあ、いいけど」)
 少し気になったが、それはそれで、と思い直すリア。
「はい、リアさん」
 そんな彼女へ差し出されるお茶を、リアは両手で受け取ると早速……。
「あつっ!」
「だ、大丈夫ですか?」
 一口飲もうとした瞬間、リアは思わず口を離した。猫舌のリアには、このお茶は熱過ぎたのだ。
「寒いからって、馬鹿に熱い茶を入れたな……」
「すみません……」
 湯気の立つ器に向けて、ふーふーと息を吹きかけるリアの様子に、ヴァンアーブルは謝りながらも顔を綻ばせる。
 最初は、自分でガナッシュを作って、自分で食べてたら世話ないと思っていたけれど。
 でも、別に良いかなと、そんな気分になる。
 こうして、彼女が猫舌だという新発見もあったし。それだけでも収穫だと思えるから。
(「いつまでもずっと、こんな風に……」)
 二人で一緒にいたいと、ヴァンアーブルは思う。
 だって、彼女は、やっと見つけた心の拠り所。
 ……もう、1人でいるのは、こりごりだから。

「…………」
 リアは静かにお茶を冷まし続け、ようやく飲めるようになったそれを口元へ運ぶ。
 そっと、その体をヴァンアーブルの方へ寄り掛からせながら。
 ……こうするのは落ち着いて、とても心が安らぐ。
(「知っているか? お前の梅の香に包まれているだけで幸せだと……」)
 彼が居れば、たとえそこが戦場であっても安らげる。
 そのくらいリアにとってヴァンアーブルは大切な人。
 だから、これからも二人で、生きていきたい。

 大切な貴方と、風に吹かれ、空を見上げ、自然の奏でに耳を傾けて。
 幾度も巡る季節を、一緒に歩いて行けるように。
 そう、言葉に出さずとも想いを同じにして、二人は寄り添いながら、心地よい静寂に満たされた時を過ごすのだった。


イラスト:羅亞羅