● 青星と宵月

「しまった……!」
 マイシャは息を切らせて走っていた。
 このままでは、待ち合わせに間に合わない。
「遅れてすまない!」
 女神の木の下へ飛び込みながら、そう謝るマイシャ……だが。
「……あれ?」
 待ち合わせ相手、クロエの姿は見当たらない。
「マイシャ! すみません、お待たせして……お待ちになりましたでしょう?」
 と、そんな彼に降りかかる声。その主はクロエ以外に有り得ない。
 急いで走って来たからか、息が上がっている彼女の様子に、マイシャは苦笑いしながら、自分も来るのが遅れて、今着いたばかりだと話す。
「まあ、そうでしたの」
「似た者同士……だな」
 申し訳無さそうな表情を和らげたクロエに、そうマイシャが笑うと、クロエもつられるように微笑んだ。

 そうして、さえずりの泉まで歩いて来た二人は、ピクニックだとばかりに持ち寄ったお菓子を広げる。
「今日が晴れで本当に良かった」
 いつもは旅団で一緒。でもたまには、こんな風に外で過ごすのも良いなとマイシャは空を見上げる。
 青い空、白い雲。それはとても清清しくて。
「マイシャ、これ……」
 そんな彼に、クロエはケーキと飲み物を差し出した。どちらも彼の為に用意した物。果たして、その口に合うだろうかと、ドキドキしながら反応を待つ。
「ん、美味しい。クロエは本当に器用だな、ケーキもチョコドリンクも売り物みたいだ」
 どれ……と一口食べたマイシャは、そうクロエに絶賛する。褒められた事への照れと、何より彼が喜んでくれた事に赤くなりながらも笑みを浮かべるクロエ。そんな彼女に、今度はマイシャの方から手作りショコラを渡す。
「……美味しいです!」
 それを一口食べて、クロエは幸せそうに満面の笑みでマイシャを見つめた。

 二人の作ったお菓子は、どれも本当に美味しくて、ついつい手が伸びていく。
 美味しいお菓子が二人の心を軽やかにさせているのか、交わされる話題もどんどん弾む。
 ときどき、辺りでさえずっていた鳥達が舞い降りて、二人の側からお菓子をついばんで行くが、その光景すら、楽しい時間を彩るエッセンスのようだ。
 そうして、あっという間に楽しい時間は過ぎ去って、空が茜色に染まり始める。

「今日は本当に楽しかったです。……また来年も、一緒に来れますように……」
 そう1日を振り返って呟くクロエ。そんな彼女の言葉に、マイシャも頷いて。
「来年も来れるといいな……いや、来よう」
 ただ願うのではなく、実現させよう。
 そう振り返ったマイシャに、はいっとクロエは頷いて、彼と一緒に帰路に着いた。

 さようなら、また来年のランララ聖花祭の日に訪れる時まで。
 さえずりの泉に、そう別れを告げながら。


イラスト:ぴよ