● BITTERorSWEET

 心地よい日差し。今日はランララ聖花祭の日。
 この会場に満ちている、恋人同士の甘い空気。マルエラはそれが何となく恥ずかしく感じられた。
 隣には恋人のカイエンがいる……。

「ふう、これでやっと一息つけるぜ」
 カイエンは嬉しそうに見つけたベンチに腰を下ろす。
 辺りは依然、カップルだらけの甘い世界が広がっている……。
 マルエラはごそごそと何かを取り出した。
「はい」
 差し出したのは、美味しそうなチョコレート。
「お、サンキューっ!」
 ぱくんと一口で食べて………。
「!!!!!」
 あまりの苦さにカイエンはその場でうずくまった。

(「やられた……!」)
 そう、カイエンの食べたのは、カカオを贅沢に使った、激苦チョコレートだったのだ。
 その影でマルエラはそのカイエンの様子に、くすくす笑っている様子。
(「やられっぱなしは、性に合わねェ!」)
 カイエンはすぐさま、マルエラの顔を引き寄せた。
「……お返しだ、この悪戯娘」
「へ?」
 笑っていたマルエラに強引に口付けを交わし、そして。

 がぶっ!
「……っに、にがぁ〜いぃ…!」
「……ってェー!!」

 カイエンの口移しで渡した激苦チョコレートは、マルエラの口の中に。
 そして、急な出来事にマルエラは驚き、カイエンの舌を噛んでしまった。

(「……つーか相打ちって。何やってんだ俺ら」)
 思わずカイエンは心の中で呟いた。
 カイエンは口の痛みに耐え、マルエラはチョコレートの苦さに耐えている。
(「コイツといると、本当に飽きねェんだよな」)
 そう思ったとたん、笑いがこみ上げてきた。

(「せっかく、悪戯が成功したと思ったのに〜」)
 マルエラは、口の中に残る苦さに耐えていた。大きな塊は飲み込んだが、まだ口の中には苦さが残っている。気が付くとカイエンは笑っていた。マルエラが思わず、事故とはいえ舌を噛んでしまって、痛いはず。なのに笑っている。
(「な、何か悔しいっ」)
 マルエラはむっとしながら、カイエンを見る。
「……悪かったな」
 くしゃりとマルエラの頭を撫でるカイエン。
 悪いのは、最初にやったのは、マルエラだというのに……カイエンはそんなことは些細な事と、気にしていない様子。
「こっちこそ、ごめんなさい」
 マルエラはお詫びもこめて、もう一つのプレゼントを手渡した。
 手作りの小さなチョコレートケーキ。
「……これは大丈夫なんだよな?」
「そ、そこまで悪くないもんっ」
 今度は二人で笑い合う。
 小さな悪戯から始まった二人の時間。
 苦い時間はゆっくりと、二人だけの甘い時間へと変わっていったのであった。


イラスト:酔生夢子