● 幸せのお菓子

 特にお菓子を作るのが得意な訳ではなかった。
 ただ……。
「オリエさんに作っていただいたものなら、なんでも嬉しいのですよ」
 そんなことを言っていたから。
 今、オリエの目の前には、ひとつひとつ手作りされたクッキーが並べられていた。
 型抜きを使えば、見た目も良いクッキーがいくつもできただろう。
 そうしなかったのは、手間がかかってもいい。一つ一つ作ろうと思ったからだ。
 何だか、そういう気分だったのだ。
 上手に焼けたクッキーを袋に入れて、オリエは彼の待つ花園へと向かった。

「わあ……ありがとうございます、オリエさんっ!」
 オリエからのクッキーを受け取り、ボギーは嬉しそうな笑顔で応えた。
「こちらこそ、どういたしまして」
 思わずオリエの顔にも笑みが零れる。
 ここは、夜の朝露の花園。
 少し遅い時間のせいか、人はまばらで、そう多くはないようだ。
 静かに過ごすには良い時間なのかもしれない。

「このクッキー、ひとつひとつ手作りなんですね」
 その言葉にオリエは嬉しそうに頷いた。
「それで、少し時間がかかってしまった」
「いえいえ、そのお心遣いだけで、ボギーは胸がいっぱいなのですよ」
 本当にありがとうございますと、またぺこりと頭を下げた。
 下げなくてもいいのにとオリエは、思わず苦笑する。

 二人の時間はあっという間に過ぎていく。
 そろそろ帰る時間になり、二人は立ち上がる。
「ボギー、次は何がいい?」
 帰り際に尋ねられたリクエスト。
 不意な質問に驚きながらもボギーは。
「その、わがままを言うと……フルーツタルトとマドレーヌがいいのです」
「わがままだね」
 オリエの一言にボギーは慌てふためく。
「あ、あの、やっぱり無理なら……」
「作るよ。フルーツタルトとマドレーヌ」
 微笑むオリエにボギーも笑みを浮かべた。
「さあ、帰ろう。風が冷たくなってきたよ」
「はい!」
 二人はゆっくりと花園を後にした。
 暖かいクッキーと、次の約束を胸に……。

イラスト:汐ヶ原みずき