● 泉のほとりで

 試練を乗り越え、待ち合わせ場所にたどり着いたタケル。
 辺りを見渡すが、どうやら、待ち合わせの相手、メリーナはまだらしい。
「向こうにでも行きますかね」
 人気の少ない場所を選んで、彼は進んでいく。
 そういえばと、思う。
(「今年はあの、大きな切り株の近くで行われているんですよね」)
 大きな切り株……いや、千年世界樹の近くで行われている。
 いつもとは違う雰囲気の今日のお祭りを、タケルは感慨深く感じていた。
 ぐいっといつものバンダナを目深く下ろす。
 目元に影を落とすのは、少し気恥ずかしいから。

 ぱたぱたと走る音が聞こえる。
「た、タケルさーん、タケルさーんっ!」
 息を切らしながら、メリーナは駆けていく。
 待ち合わせの時間をとっくに過ぎてしまった。本当ならば、もう少し早くたどり着くはずだったのだが。
 焦りと不安、そして申し訳ない気持ちとで、メリーナの瞳に涙がたまっていく。
(「もう少し自分が大きかったら、もっとずっと遠くまで見渡せるのに」)
 メリーナの涙がほろりとこぼれそうになった、その時。
「メリーナ殿」
「タケル……さ……」
 最後の言葉は、言葉にならなかった。
 安心と嬉しさとでこぼれた涙が止まらない。
「メリーナ殿……」
 タケルの太い指が、優しくメリーナの涙を拭っていく。
「ご、ごめんなさい……遅れてしまって……」
「そんなこと、気にしてないですよ。私もついさっき、着いたところですから」
 そのタケルの優しい声にメリーナはやっと、微笑んだ。

 人気のない泉の畔で、メリーナは持ってきた贈り物を差し出した。
「おお、これはこれは……」
 メリーナの贈り物は素敵なお菓子。
 四つのハート型のガトー・ショコラ。
「角を中心に並べるとクローバーになるのですよ」
 見た目も嬉しいこの贈り物は、メリーナの友人から教えてもらったもの。
 貰った相手にも幸運が訪れますように、と。
「ありがとう、メリーナ殿!」
 タケルは軽々とメリーナを担ぎ上げ、喜びを表す。
「気に入っていただけて……私も嬉しいです……」
 そう微笑んで、メリーナはいつもとは違う風景に目を奪われた。
「世界はこんなにも、素敵なもので溢れているのですね」
「では、メリーナ殿」
「はい?」
「この素敵なお菓子を食べさせてくださると、私も嬉しいのですが、いかがかな?」
 その申し出にメリーナは驚きながらも、今日一番の微笑みで頷いた。
 そう、二人の時間は、まだ始まったばかり……。

イラスト:松宗ヨウ