● 私だってこういうこと、するんだぞ

 様々な場所を巡っていた二人。
 最後に着いた場所は、さえずりの泉だった。
 小鳥のさえずる声、泉のせせらぎもまた、心地よい。

 アイとアストは、ゆっくりと畔を歩く。
「アストって肌綺麗だよなあ……なにか秘訣があるのか?」
 アイは思い立ったように、アストの頬を両手で触れる。
 いつになく積極的な行動に驚きつつも、アストは答える。
「いっ!? ひ、秘訣って言われてもな……肌に関係あるかどうかはわからないけど、料理作るときは肉も野菜も使うようにしてるし……バランスの問題じゃないか?」
「うむ、なるほど……」
 そう呟くアイにアストは続ける。
「……オレとしては……アイの肌だって綺麗だと思うんだけど……」
 普段の彼女なら、これを聞いただけで赤面する内容なのだが……。
「ありがとう、アスト……それにしても本当に、綺麗な肌だよなあ……いいなあ」
 けれどアイは、笑顔のまま、しげしげとアストを眺めている。
 いつもとは違うアイの態度に、アストは動けず頬を染めていった。
(「うぁ……か、顔近……しかも笑顔でこんな近……しかも触られ……あ、あうぅ……」)
 少しずつ近づいていく顔。
 そして。
 アストの唇にアイの唇が重なる。
「っ!!」
 目の前が真っ白になった。

「……た、たまには私だってこういうこと、するんだぞ」
 恥らうかのように、アイは告げる。
 矢継ぎ早な展開についていけないアスト。
 けれど、唇の感触はしっかりと残っていて。
 しばらく沈黙した後、落ち着きを取り戻したアストが口を開いた。
「オレ……アイと恋人になれてよかった」
 そのまま、アイを抱きしめ、額にキスをする。
「ありがとう。私も同じ気持ちだ。……好きだよ。アスト」

 その後、二人はゆっくりと泉を後にする。
 頬にはまだ、僅かに火照ったまま。
(「しばらくアストのことで頭がいっぱいだろうな……眠れるかな今夜?」)
 アイは思う。ふと、隣に居るアストを盗み見て。
(「今までも好きだったけど……まさかそれを超えて好きになるなんて思わなかったな……」)
 アストもまた思う。隣に居るアイを盗み見て。
 二人の視線は合わさることなく交差していく。
 けれど、繋いだ手の温もりは、二人にとって暖かく感じられたのであった。

イラスト:あず