こうかんにっき。


<オープニング>


「はい、次ルナちゃんの番」
 差し出された一冊のノートには、赤く縁取られた花柄が愛らしく散りばめられている。
 ルナと呼ばれた少女は、それを受け取ると瞳を眇め微笑んだ。橙色の光が窓から差し込み、そんな彼女の頬を照らしていく。
 かじかむ指先を擦る少女達のやり取りは、ごく一般的な学校生活の一部だ。
 しかしルナと呼ばれた少女は、そこで奇妙な風の音を聴いた。
「ミキネ、何か喋った?」
「え? ううん、何も喋ってないわ」
 ぐらりと歪んだのは空間か視界か。違和感へ思考を巡らせるよりも早く、また声が聞こえる。
「……あたしの……ばん……」
 振り返ったルナたちの目に、黒く伸びた髪で顔のほとんどを覆った少女の姿があった。青白い指先や髪からは水が滴り、僅かに覗く口元と瞳は血を塗りたくったかのように赤い。
 少女はルナたちの方へと近づいてくる。ひたひたと、冷え切ってしまったような裸足で。
「あたしのばんあたしのばんあたしのばん」
「ひっ!?」
 恐怖のあまりルナがノートを床へ落とす。それより一瞬早く、現れた少女は傍らにいたはずのミキネへ喰らいついていた。文字通り、その喉元に。
「い、いやぁッ!?」
 へたりと腰を抜かしたルナを、今し方軟い喉を噛み千切った少女が徐に見遣る。
「つぎ、あたしのばん。あなたのばん」
 迫る少女の顔を最後に、ルナの意識は消えていた。


 井伏・恭賀(高校生運命予報士・bn0110)は地縛霊が出現したことを伝えると、一冊のノートを能力者達の前へ広げた。愛らしい花飾りがついたピンクの表紙で、ノートというより日記帳の厚さだ。
「これは、売ってたのをちょっと買ってきただけなんだけど……」
 少々照れを隠すように、恭賀は頬を掻く。
 そしてすぐに、交換日記が地縛霊の出現条件に関わっているのだと話し始めた。
「場所は中学校の一年三組の教室だよ。一応夜に向かってもらうけど不安なら、はいコレ」
 恭賀は忍び込む学校の制服を差し出し、説明を続ける。
 被害に遭ったのは二人の少女。放課後の教室で日記を交換しあったのが原因だ。このことからも判るように、『交換日記』を渡すことで地縛霊が生み出した特殊空間へと連れ込まれる。
「特殊空間の中は教室とほっとんど見た目変わらないよ。鏡みたいに左右逆ってぐらいで」
 地縛霊は全身びしょぬれの少女だ。姿こそか細く今にも折れてしまいそうだが、見目に反し力強い攻撃を得意とするため、注意が要る。
 教室内で日記を交換しあった直後、教室内にいる全ての存在が特殊空間へ移されてしまう。
 そして、日記を手渡した者の近くに地縛霊は現れる。真っ先に狙うのも、『日記を持った者』ではなく、『日記を手渡した人物』なのだ。
 手渡した者が一人だけならその一人を、複数であればその中から狙いやすそうな存在を選ぶだろう。ルナとミキネに対する様子からも、今回戦う地縛霊の性質が窺える。
「ここは上手く能力者さん側で操作できそうだよね〜。で、肝心の攻撃だけど……」
 地縛霊は、相手一人の急所へ噛み付く力強い技の他、広範囲へノートを撒き散らす技も使う。無数のノートはいずれも真っ赤に染まっていて、飛び交い鋭利に切り裂いて回るのだ。
 また、ノートに裂かれた際に己の力を強化していると、不快な言葉に支配されてしまう。侵食した言葉は傷ついた者へ猛毒を纏わせていくため、気をつけるべきだ。もちろん強化さえしていなければ、その言葉を聞き流すことができる。
「地縛霊は一体だけど、彼女が連れてくるリビングデッドは三体いるよー。ちょっと面倒だね」
 リビングデッドは夏服姿の少女二体と、冬服姿の少女一体。
 いずれも腐敗が進んでいて、殴ってくる力も凄まじい。殴打だけでなく抱きついて締め付けてくることもあり、締め付けられている間は身動きが侭ならないのはもちろん、じわじわと苦痛を与えられる。
 また、冬服姿のリビングデッドは身体を軸として腕を高速で振り回すことで、近くにいる存在全てを叩くこともできる。この技は、運が悪いと追撃に見舞われるため、油断禁物だ。

「そうそう、忍び込むときは静かにね〜」
 人差し指を唇へ当てて、恭賀が念を押した。夜とはいえ当直の教師も残っているだろう。
 一度戦いが始まってしまえば、その音や声を不気味に思い、近寄らないでいてくれるだろう。だが、忍び込む際と学校を出る時は、咎められぬよう起動も避け慎重に行動して欲しい。そう恭賀は告げた。
 些細なことかもしれないが、世界結界への影響はなるべく無い方が良い。
「頼んだよ能力者さん。亡くなった女の子たちのためにも、必ず倒してきてほしい」
 恭賀は深々と頭を下げ、能力者達へ願いを向けた。

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参加者
華神・御守(石段の先の微笑み・b00282)
風見・隼人(喪失者・b03643)
泉野・流葉(目指せ未来の大富豪・b17892)
ルリナ・ウェイトリィ(無情なる銀月・b22678)
御影・ありす(漆黒薔薇の娘・b30953)
華月・麗音(新人ヴァンパイア・b33431)
虎森・一(守護する銀のティーガー・b37584)
神栖・真弥(クリムゾンロア・b39876)
十束・御魂(御雷の剣聖・b45696)
降魔・散人(自称器用貧乏な吸血鬼・b52388)



<リプレイ>

●こうかんにっき
 日常にありふれる学校は、喧騒の跡を色濃く残し闇に覆われていた。
 昼間であれば行き交っていたであろう温もりもなく、疎らに月明かりが差し込むだけの冷たい廊下が伸びる。目的の教室まで訪れた能力者達は、おにぎりと紅茶を口へ放り込んだ。
 おにぎりは華神・御守(石段の先の微笑み・b00282)が緊張を解すべく、そして紅茶は降魔・散人(自称器用貧乏な吸血鬼・b52388)が身体を温めるべく用意してきたものだ。
 偵察へ出ていた十束・御魂(御雷の剣聖・b45696)が、闇を纏ったまま当直室の教師に動く気配が無いことを戻り報せる。
 闇を纏った魔剣士たちが先行することで、校内へ残っていた教師たちに怪しまれる気配は無かった。猫に姿を変えていた泉野・流葉(目指せ未来の大富豪・b17892)も、安心して変身を解く。
 交換日記か、と息を整え唸ったのは虎森・一(守護する銀のティーガー・b37584)だ。
「あんまりやった事ないな……やっても三日坊主だったし」
 手繰る思い出の呟きを聞き、御影・ありす(漆黒薔薇の娘・b30953)が天井を見上げる。
「……やってみたら、楽しいでしょうか?」
 日記をつけた経験も無いが、光景を想像してみると、ありすも興味を示さずにいられなかった。
 教室の扉を開けながら、華月・麗音(新人ヴァンパイア・b33431)は嬉々として声を弾ませる。
「心の交流を深めるのに打ってつけだし。友情育んでるぜ! っつぅ気分にならね?」
 限られた仲間でのみ交換しあう日記帳。そこへ日頃の想いや、口に出せぬ言葉を秘めたのなら、それを共有する興奮や喜びもあるのだろう。ナイスなツールだ、と麗音が言葉を付け足した。
 大人しくついてきたルリナ・ウェイトリィ(無情なる銀月・b22678)は、そんな仲間達の会話に先ほどから首をかしげずにいられない。
「日記は個人的につけて、人に見せるようなものではないと聞いてます」
 理解しがたい交流方法は、ルリナの頭上に疑問符を浮かばせてばかりいる。
 交換日記、と聞いてぐるぐる視線を彷徨わせていたのは神栖・真弥(クリムゾンロア・b39876)だ。
 ――書きたい時に勝手に書き込むノートなら、結社にあるな。
 あれは楽しい、と思い返しては笑い声を零す間、御守は真っ白な交換日記へさらさらと文字を並べていく。
 みんなで悲劇を終わらせる。お薦めの甘味屋さんの紹介。
 日常と、非日常が背中合わせになった交換日記帳が、彼女の手によって閉じられる。
「みんな……いい?」
 御守が尋ねれば、御魂が頷きイグニッションカードを掲げる。
「準備OKです。皆さん、無事に勝って帰りましょう」
 はっきりした御魂の意志に仲間達も応じ、起動を済ませる。そして御守は、手にしていた交換日記を手を差し出していたルリナの手へ乗せた。
 一度まばたいただけで景色が一変する。正確には殆ど変わらぬ教室だが、まるで鏡に映したかのようだ。左右が逆転した教室の違和感を警戒し、能力者達は彼の者を待つ。
「つぎ……あたしの、ばん」
 少女の声のはずなのに、酷くしわがれて聞こえた。黒く伸びた髪で顔は窺えず、青白い指先や髪からは途切れ途切れに水が滴る。その指先が、誘うように手招いた。
 侵入者を、日記を交換しあった者達をねめつける少女の瞳は、赤い。

●教室で
 こうして積極的に攻撃するのは初めてだと、アリスは呪われた銃弾を生み出しながら想いを馳せる。少女の地縛霊めがけ撃ちだせば、その勢いにつられチョーカーが仄かな桜の香りを漂わせてた。
 穢れを招く銃弾が地縛霊を射抜く頃、麗音は無数のコウモリを放出し、それこそ嵐のように飛び交わせる。地縛霊の少女も、共に現れた制服姿のリビングデッド三体も、容赦なく巻き込む。
「天誅くだしてやるんだぜー!!」
 ぐっと握り締めた拳を振り上げ、そう宣言しながら。
 敵との間合いを取る能力者は多く、散人もまたその一人だった。手際よく指先で編むのは術式。
「炎よ、理外れしゴーストを焼き清めたまえ」
 祈りにも似た言葉を発し魔弾を飛ばせば、炎を連れた弾は悪意に満ちた少女を炙る。けれど悲鳴は一切届かず、少女は真っ直ぐ標的を視界に捉えたままだ。
 腕にしかと交換日記を抱いたまま、ルリナがそこで彼女を蹴り上げる。体躯の近い少女を叩き着地すると、近くへ寄った夏服のリビングデッドがルリナを殴打した。
 ――交換日記、なぁ。楽しいのか?
 風見・隼人(喪失者・b03643)は首を傾げつつ、背負った蜘蛛の足を地縛霊へ突き立てる。侵食する足が生気を奪い、その命を喰らう。
 その時、冬服姿のリビングデッドが身体を独楽のように回し始めた。隼人を叩きつける腕の連打が、躊躇いもなく痛みを与えていく。
 バンダナを結び直し、よし、と気合を篭め直した一が地縛霊の少女を見つめる。
「女の子のささやかな楽しみらしいし、執着するのは、わからなくもないけど……」
 大自然の恩恵、生き生きとした植物を結い上げてできた槍を手の平へ乗せ、一が狙いを定める。
「生きてる人を妨害するのは、良くないだろ」
 戦の最中に見せる凛々しさをまとい、槍を放った。地縛霊を中心にはじけた槍は、鋭利な植物を散らばせて傷を生む。
 そこへ飛び込んだのは御魂だ。長剣で風の抵抗を受け流すように駆け抜け、黒き力の残像を落とす一太刀を地縛霊へ浴びせる。そんな御魂を、近くまで迫った夏服姿のリビングデッドが殴って応戦した。
 込み合う戦場で、流葉はこの地縛霊が見せる性分について、首を傾げていた。
 ――このクラスで、交換日記も回してもらえないほど仲間外れにされていたとか。
 想像は果てなく、終わりを知らない。それ以上の考えは一先ず置き、流葉はその手に呪符を挟み込む。治癒の願いを秘めた呪符は、彼の手から休まず投げられた。
 だん、と強く踏み込み御守が斬馬刀を振りかざす。
 ――想い出になるはずの交換日記で悲劇なんて……絶対終わらせなきゃ!
 強い意志を紅蓮の滾りへと変え、少女を叩き斬る。地縛霊は仕返しとばかりに、そんな彼女の首へと噛み付いた。寄せた顔を間近に、彼女は思わず、雫を垂らす地縛霊へ問いかける。
「……ずぶ濡れで、何があったの?」
 見開かれた血の色を帯びた地縛霊の瞳が、質問を投げた少女を捉える。しかし答えは返らない。
 交換日記も、書きたい時に好き勝手書き込むノートも、楽しむものだ。
 そう考える真弥は、交換日記に囚われたままの地縛霊をびしりと指差した。
「だから、さ。ソレに縛られるって悲しいだろ」
 終わりにしてやるぜ、と意気込み足元から伸びたのは影。真弥の決意を伴い腕を模した闇が、少女を迷わず引き裂く。宣言通りに実行するため。
 縛られもがき続ける少女を、その全てから解放するために。

●交戦
 揺るがぬ悪意と哀しみが、戦場へノートを撒き散らす。真紅の色で濡れた無数の紙束が、独特の鋭い傷を次々と能力者達へ刻み込んでいった。それは少女の嘆きか、怒りか。
 戦いの中で知るには、余裕が無いのかもしれない。
 何度目になるだろう。厄介そうなリビングデッドへ向け、ありすが穢れを象徴する弾を発射した。止まぬ毒が、腐敗に怯えるリビングデッドの身体を蝕む。
 ――どちらもしぶといですのね。
 長く波打つ銀の髪を遊ばせ、ありすは咥内でのみ呟いた。
 刹那、麗音の広げたコウモリの群れが、ゴーストたちから体力を奪っていく。垂らした硝子のレイピアで床を引っ掻けば、透き通った音が奏でられる。
 胸の内で回るもやもやは未だ拭えず、散人は大きく息を吸いこんだ。
 地縛霊が、交換日記を渡した者を執拗に狙う、その理由。苛めに遭っていて、その輪に入れてもらえなかった少女か。或いは、交換日記を楽しみにしていた想いが、確かな念を取り残し亡くなってしまったのか。
 少女の原因がありそうな身目を思えば、なおさら。
「……未練はひとまず考えないことにしましょう」
 巡る思考を自ら遮り、炎に塗れた魔弾で地縛霊を焦がしていく。熱さはしかし、その少女が散らかすノートに阻まれ、威力を殺がれた。
 そんな最中、ルリナは再び走ってリビングデッドへと飛び込む。地縛霊を最優先とする気持ちが失せたのではない。リビングデッドの威力も侮れぬと判断し、夏服の少女を三日月の軌跡を残し蹴り上げた。
 よろめいた少女が、体勢を立て直しながらルリナへ突撃する。生前の名残であろう細腕も、リビングデッドと化した今では充分すぎる兇器で。
「あ、危ない!」
 仲間達から痛みを拭うべく、そう叫んでから一は唇を震わせた。優しく漂う歌声が和らぎをもたらし、苦痛に喘ぐことさえ忘れる。
 くるりとすぐさま振り返ったのは御守だった。
「ありがとっ! 心の温もりも感じるわっ」
 満面の笑みで礼を述べ、再び敵へ向き直る。
 不快な言葉とやらを聞けば分かるだろうか。僅かな疑問が沸き起こったのを感じ、流葉が黙り込む。地縛霊が寄せる無数のノートは、己を強化していると深刻な被害をもたらすとされている。
 そして、同時に届くのは不快な怨念。けれど強化をせず身では風音のようにさらりと流してしまうため、注意深くせねばうかがい知ることもできない。結局、指先に挟んだ呪符を飛ばし、知ることを諦めた。
「犠牲はかえりませんが、繰り返させるわけにもいきません!」
 御魂の流した刃が、黒影の異名を持つ技を地縛霊へ浴びせる。
 間髪入れず御守の寄せた紅蓮が地縛霊へと注がれた刹那、冷え切った腕を伸ばし御守にしがみつくと、少女は首筋へ牙を立てた。鈍く重たい痛みが全身をかけめぐる。
 同じ頃、隼人は殴りかかってきた夏服の少女の腕をまともに受け、そのままの流れで踏み込み背へ生やした蜘蛛の足を向けていた。貫く足が衝撃を与える頃、彼のすぐ横へ迫っていた冬服のリビングデッドが腕を高速で回し、隼人を叩き伏せる。
「ちょい油断していたか」
 眇めた瞳で呟き、そのまま意識を閉ざした。
 その隙を縫うように、真弥が闇色に染まった腕を足元から伸ばしていく。
「……やっぱり前出てぇよなぁ」
 距離を取っての戦いが不慣れなのか、真弥は苦そうに眉根を寄せひとりごちる。しかしすぐに思い直して、無茶できぬ身でもできることはある、と己を戒めた。
 ――その分、いつも以上にできることを頑張ってやるんだっ!
 敵を引き裂いたばかりの影を招き戻し、真弥は次のタイミングをうかがう。
 地縛霊の少女が青白い腕を広げ、再びノートを散らす。教室内ではばたく赤き群れは、能力者達の肌へ疼痛と擦り傷を無数に施して。
 穢れの弾丸が宙を切り裂く。何にも囚われず疾駆した弾の行く先は、リビングデッド。
 ――回復手段が限られているのは辛いですの。
 今回の地縛霊は、強化をしていると猛毒を呼び起こす。毒とはいえ侮れぬ存在に、ありすは難しそうに目を細め、結果を見守った。夏服のリビングデッドがなかなか倒れぬことを危ぶみ、照準を定めた弾の行方を。
「貫いてくださいですの」
 ありすの凛とした願いを乗せ、弾丸はリビングデッドの眉間に穴を開ける。そのままゆっくり天を仰いだリビングデッドは、床へ伏せ二度と起き上がることはなかった。
 優勢へ運ぶべく、麗音が瞬時に吸血コウモリを舞わせる。
「お前らからの傷は、お前らに償って貰うし」
 満たされる感覚に舌なめずりし、笑む。
 そこへ散人は、邪なるものを破るべく得物を手に、術式を編みこみ魔弾を浮かべた。幾度と無く向けた炎を操り、地縛霊へ浴びせる。
 リビングデッドを振り返り、一が手を構える。
「よし、そこだな!」
 植物で編み上げた槍は、一の許を離れリビングデッドへと着弾する。温かそうな冬服をも裂いて崩れた植物は、床へと相手を横たえ静かな死をもたらした。
 御守の体力を案じたルリナは、その間に交換日記を差し出していた。僅かな迷いに見回した後、ルリナが手向けたのは――。
「これをあげます」
 愛らしいデザインの日記帳を、嘆き悲しむ地縛霊の少女へと。
「……ば……」
 赤くちらつく咥内から、濡れた声が零れる。
 ほんの少しばかりの時間、少女の動きが止まった。
「あたしの……ば、ん。あたしの……っ」
 恐る恐る伸びた少女の両手が、交換日記へ触れた――瞬間、少女は今までと異なる狂気を帯びて、否、引っかかっていたものを外したかのように声を張り上げる。叫ばれたのは悲鳴か雄叫びか。
 唸り声とは思えぬ絶叫の後、少女はルリナへ抱きついた。まわした腕で狙いを定め、日記を差し出したままの彼女へ寄り添い、首筋を噛む。
「ッ、う……っ」
 視界が暗闇に閉ざされるのを感じながら、ルリナが倒れた。
 すかさず御魂、地縛霊へ切りかかる。
「眠りなさい、地獄の淵で!」
 黒き影が残像を落とし、少女の命を断ち切った。
 途端に、教室を形成していた特殊空間がぐにゃりと歪む。

 気付いたときには、静寂が広がる元の教室に彼らは立っていた。
「終わった……お疲れ様ー」
 真弥の一言で、ハッとしたように仲間達も互いの顔を確認する。
 よほど強い思い入れがあったんだろうと、一は唇を結んだまま踵を返す。彼女が求めた交換日記も、もうここには無い。床へ落ちた日記帳を拾い上げ、御守は細く息を吐いた。
 やりきれないですね、と御魂も意識せずうつむき呟く。
 しんみりと物思いに耽る仲間達を眺めて、麗音は交換日記に抱き始めた興味を、胸の内で燻らせる。
 不意に、御守が冷えた空気を取り払うように声を弾ませた。
「明日、この日記の甘味屋行ってみる?」
 日記、と聞いて仲間達の視線が彼女の手にある日記帳へ集う。真っ先に言葉を返したのは真弥だ。
「えっ。御守先輩、日記書いてたのか?」
 小さく笑いながら、彼女は日記帳を開いて見せる。
 覗き込んだ仲間達の笑い声が、幾つも重なって響く。

 気の所為か、笑い声が少しだけ多く聞こえた。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2009/02/19
得票数:笑える2  カッコいい2  ハートフル3  せつない16 
冒険結果:成功!
重傷者:風見・隼人(喪失者・b03643)  ルリナ・ウェイトリィ(無情なる銀月・b22678) 
死亡者:なし
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