<リプレイ>
●不利動組突入編 襖を蹴り倒すだとか、障子を破りへし折りながら登場だとか、或いは畳を裏返すだとか。 和室での荒事となると大抵その辺りが挙がるだろう。 そして、不利動・明(大一大万大吉・b14416)はお約束の例に漏れず、堂々とやってのけた。襖を足袋履きの足で蹴り倒したのである。 「かちこみだ! 今日こそケリをつけるぞ!」 ちなみに、カメラを足から脚、胴、そして顔へと移してみると、明は着流し。 「おおー! なんかすごいね、任侠映画みたい!」 花屋敷・らみ(約束は心の中にあるから・b27696)の視線は、襖を取り払ってぶち抜かれた部屋に一同に会している地縛霊達ではなく、寧ろ明の方へと向けられていた。 さて、地縛霊達の方はというと、堂々と乗り込まれておきながら動かない訳でもなく。 『ぁあん? 何処の者じゃあ?』 『音羽のモンかのう?』 異変に気付いて立ち上がる若い衆、ざっと五人程。腰の短刀を抜いてみたり、或いはさらに刃渡りの長い刀を抜いてみたり。後ろの方では膝立ちで拳銃の装填を確認しているらしい。 「す、凄い迫力……ヤクザ映画とかの撮影ってこういうものなのかな?」 一方、水田・えり子(伝説の少女になりたい・b02066)は、ちゃんと敵勢力を確認するべく部屋の方を見ているのだが。 確かに、彼等は気迫を込めてこちらを睨み付けてくる。部屋が、そして地縛霊達が狂気ではなく侠気に侵されていた。 実のところ、仮に地縛霊じゃなかったとしても十分怖い人達なのである。 「やはり、内田オフィスの仲間達で力を合わせて倒しておきたいわね」 ぐ、と拳を握って決意を固めているのは紫苑・涙(乙女ハート燐華の底力・b30086)。能力者としては実に正しい姿だ。 「ちょ、ちょっとどきどき気分です!」 着流しオールバックの明の後ろで震えている書生みたいな着流しは投間・一矢(怪鳥王騎の右腕・b56512)。見ている方がいろいろと心配になってくる。 『直々に来るとは思うとったがのう……ちぃと前までションベン垂れとった坊主が大きゅうなったわい』 上座に居た袴姿の初老の男、視線の先には明。組長らしき彼は、顎に手を当てて一つ頷いた。 『確かに若いが……それだけじゃのう、若いの』 眉一つしか動かさなかった頭に比べ、隣に座る黒の着物姿の隣の女は、鮫の様な笑みで能力者達を見回している。 「あんな事言われてるけど……アーサー、がんばろうね」 イレーナ・ファングバード(青いハートのストレンジャー・b58075)の隣に控えるケットシーが、鳴き声と共に一つ頷いた。 「お、おんどれりゃ、たまとったりゅぞーー……」 言われるばかりでは沽券に関わる。だが、ここぞというところで夢前・柚澄(白い梦の中の黄昏・b21037)が台詞を盛大に噛んだ。 「悪くて怖い人にも仁義の二文字……でも、思いっきりふっとばすのみ!」 柚澄の前に勇み出て、姫咲・ルナ(ピンクの月夜は仔猫の想い出・b07611)が詠唱兵器を構える。 『ンじゃとぉ!?』 『しごうしちゃろうか!?』 頭に血が上った若い衆が、ついに皆立ち上がった。 しかし、奥の頭と女は、まだ座布団から腰が離れない。高みの見物という訳か。
これは、ある特殊空間での、仁義と仁義のぶつかり合いの物語である。
●不利動組乱闘編 手荒い歓迎とでも言うべきか。早速弾丸が掠め飛び、刃が向かってくる。 『おんどりゃああ!』 『タマ取ったるぁあ!』 若衆と言えど、殺しの作法には馴れている。動作は素早い。弾も刃も、その向かう先は文字通りのタマ、つまり心臓だ。 各々が防御行動に移るが、狭い室内、いくつかは食らう他無い。畳に血が滲み、縁側に赤い飛沫が散るが、やはり能力者、立ち止まる訳にはいかず。 「魔法少女プリズム☆ラミィがお相手するわっ♪」 弾丸の脇をすり抜けるサンダーシュート。僅かに被弾を逸らす様に避けつつも、和服魔法少女らみが放った雷の魔弾が上座寄りの男を撃ち抜いた。 「水田えり子、行きます! お父さん、私頑張ります!」 えり子の視線の先にはスカルサムライ。頷かずに頭を垂れたまま、しかし男は戦況を下座から然と見届けている。 ブラストヴォイスという名のBGMチェンジ。えり子が歌うは男の演歌。拳の効いた歌いっぷりは、振袖を纏め上げた赤いたすきが良く似合う。 「み、みんなかっこいい……」 一矢は、えり子の後ろで声を震わせていた。足を引っ張るまいと、手から透き刃を撃ち放つ。 『ぐぁあっ!』 当たり所が良かったのか悪かったのか、一撃で男はドスを取り落とし、そのまま崩れ落ちた。 『てめぇ、よくもレイジを……!』 「ひぃっ!?」 呼び捨てにしているあたり、この男にとっては弟分なのだろうか。メンチを切られて一矢はさらに引き下がる。 「蟲達お行き、あいつ等を倒してしまいっ!」 涙は一歩踏み込んで黒燐蟲を部屋の中央へと放った。勢い良く爆ぜ、刀を持った男達が苦悶の声を上げながら倒れていく。 「ちょっと動きにくいけど、後ろから撃つだけだから大丈夫だよね」 着物を初めて着たのか、ややぎこちない動作でイレーナが森王の槍を撃った。 容赦無い範囲弾幕に、若衆達は悉く倒されていく。何とか掠っただけで済んだ者も、イレーナの相棒、着流し姿のケットシーに胴を薙がれた。 「か、覚悟しぇいやぁーー?」 言い慣れない決まり文句と共に柚澄の手から放たれた光の十字架は、それでも広範囲に広がって男達を薙ぎ倒していく。 「今日の私は一味違うよ!」 猫が来りて笛を吹くか。ルナが一つ息を吸って蟲笛を吹けば、辛うじて立っている男に炎の魔弾が追い討ちをかける。 『姐さん……済まんのう』 畳に刀を突き刺して支えるも、その手は血でぬめり、畳の上に崩れ落ちた。 『許してつかあさい……』 或いは、縁側の板の上に握った手ごと拳銃が落ちる。 あれだけ居た手慣れも、残るは拳銃を構える三人だけ。上座に座っていた女が、漸く、膝に置いていた手で畳に触れた。 『よくもまあ……あんたら、容赦せんよ?』 巻き添えは食らっていたらしい。頬の傷を腕で拭い、両の袖から取り出だしたるは二挺拳銃。 部屋の隅、壁に凭れていたスカルサムライが刀の鍔を押し上げるが、その手を明が止める。 親父さんに出向かせる訳にはいかない、つまりはそういう事だ。 任せてくれと言わんばかりに明は一つ頷き、肩に担いだ刀を手の中で軽く回してから、一足飛びで畳の上を馳せた。 無言のままドスを袖に隠し、目の前に立ち塞がる三人を舞うかの様に斬り伏せる。 『……やりおるわい』 一筋だけ皺を刻んだ男の口元が、弓形に釣り上がった。 『代貸、やはりわしが見込んだだけある男じゃったのう』 すっくと立ち上がり、丸腰の男は威厳に満ちた表情で真っ直ぐに明の方を見据えた。 「組長、あんたには恨みは無いが……ここであんたのタマ、取らせてもらうぞ!」 男不利動明、一世一代の戦いである。
●不利動組訣別編 不意に、沈黙が訪れた。 鹿威しが鳴り、池の水音が脳内の空隙に流れ込む。 『こういう日が来るとは、思うとった』 意思同じくして此処に在る。明は一つ頷いた。 でも、一度鞘走った刃は斬り裂かねば止まらない。居合い抜きの黒影剣、闇が触れるその先には男が一人。 『しかしなあ、おどれのタマと取っ替えで、わしにもっぺんムショ入りせえちゅうんか……?』 低く揺れる声が、静かに響く。 『お勤めもせん若い者には殺られんわい……!』 男は鬼気迫る形相で黒の刀を素手で掴み、口元だけで笑う。 「私では知りえない、か……」 お勤めというものが、どれ程のものかは分からない。ただ、男は全てを見たという目で明の意識を冒していく。ただの言葉だけで、身体中が軋む様に痛む。 「おつとめ……」 「……って何?」 ルナとイレーナが小首を傾げている。 「え、えっと、確か、懲役の事です」 えり子の後ろに隠れたままの一矢が小さく呟いた。 「刑務所から出てくると、『お勤めご苦労さんです』って、組の人達がお迎えするんですよ」 頷きながら、えり子が補足する。 ドスなりタマなりチャカなりお勤めなり、これら一連の単語はそのテの専門用語であり、知らない者の方が多い。ただ、明がその身に傷を受ける程の言葉という事は、少なくとも彼はその単語の意味を知っているのだろう。 「……大丈夫かな」 背中が震えている、それが分からないらみではない。表情は見えないが、僅かに聞こえる呻きが男の言葉の重みを伝えている。 『さて、うちの者をようしごうしてくれたのう……』 他人の心配をしている場合ではないということか。女は銃口を下座へと向けた。 『礼はようけせんとねえ……?』 くすり、小さな笑い声と共に銃声が鳴る。 先程の様な乱戦ではない。射程十分、視界良好。狙い済ました二発は真っ直ぐに柚澄の左胸を狙っていた。 言葉を発する間も無く膝を折った柚澄の側へとスーパーモーラットが駆け寄った。 「はぷ、ありがとう……」 何とか動く片腕でそっとスーパーモーラットを抱き締め、為されるがままに傷を癒す。 「よくもやってくれたね……」 エンジンに火が点いていた涙だったが、ついにはギアが入ってしまったらしい。 「どちらが本当の姐さんか、勝負しようやないの!」 足袋履きの足捌き、小走りに涙が駆けた。相手の懐に潜り込み、黒く染め上げた一対の獣爪で二撃を見舞う。 食い込む様な、深い音が鳴った。拳を引けば、女の身体が揺らぐ。 『あんた、ええ目じゃねえ……』 涙の一撃に女は精一杯の苦笑で応え、畳に沈んでいった。 連れ添った女が倒れ、男は何を思うのか。 『神輿は一人では担げん……代貸、あんたはそれをよう知っとるのう』 刀を握ったままの男は、視線を宙に向けた。 神輿は、一人では担げない。集まって担いでこそのもの。 良い仲間を持っただとか、そういった意味合いか。ストレートに伝えないのは、この男の厳しさでもあるのだろう。 「……そうだな」 僅かな沈黙の後、男の言葉に頷き、明は後ろに視線だけを向けた。 間近で心配そうに見つめる涙、少し遠くには一矢、ルナ、えり子、イレーナ、柚澄、らみの姿がある。 仲間を心配させない為にも、自分は、この男を討たねばならない。 「往くぞ……!」 赤く染まった指の鞘口から刀を抜き、手首を返しながら袈裟懸けに斬り下ろす。 その動き、刹那の一閃である。 『若く、真っ直ぐな太刀筋じゃあ……』 男が倒れるよりも先に、赤い血飛沫が舞った。
八人が次に目を開けると、そこは、荒れ果てた藪の中にある草生した日本家屋。 屋根の瓦は落ち、縁側の板も朽ち果て、池は緑色に濁っている。 ただ、何かが違う。 畳には、錆びた刀が一本だけ刺さっていた。
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参加者:8人
作成日:2009/04/27
得票数:カッコいい16
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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