【Incatenare】強奪せよ

<オープニング>


 赤黒く照りつく胴丸に、幾つもの矢が突き刺さっている。
 己を軸に独楽を模した回転をすると、固く刺さったままの矢が間近の男を薙ぐ。
 構えたパイルバンカー越しに、防ぎ損ねた傷みが走る。しかし寄る眉根は元から変わらず、男の突き出したパイルバンカーが、禍々しい色にそれ以上は染まらぬ胴丸を打った。
 開けたはずの穴はしかし、胴丸を纏う地縛霊の薙刀が威力を削いでしまっていて。
 サングラスをくいと押し上げ、男は引き抜いた杭の照準を再び定める。
「手前ェがそいつをどれだけ振るってきたかは知らねぇが……」
 彼にとって、鈍った痛覚など瞳を濡らす理由にもならない。
「次に誰かをそいつで襲うときには、俺に断りを入れな」
 ――もっとも、そんな機会が来ればの話だがな。
 言い切るよりも早く、刀を振り回したゴースト目掛け、男のパイルバンカーが唸りをあげた。


 地縛霊が現れたと、井伏・恭賀(運命予報士・bn0110)が開口一番に告げる。
 現場は山の中腹でひっそりとそびえる、人気を忘れた廃屋だ。そこそこ裕福な人が住んでいたのだろうか、どっしり構えられた母屋は広い。
 母屋の右端――玄関から入りすぐ左に伸びる部屋は、広々としていて戦うには申し分ない。だが、部屋の端から端への到達は二十秒かかってしまう。
 母屋には、窓の無い縁側が寄り添っている。そのため、玄関から正直に突入する必要もないだろう。母屋へ入るだけならば。
 一方、玄関とは反対となる母屋の左側には、納屋が建つ。地縛霊が出現したのは、この納屋だ。
「急斜面が納屋のすぐ左隣にあるんだけどね、天井が壊れてるから、月明かりは充分差し込むよ〜」
 切り立った急斜面に関しては、這い上がるのは難しいだろう。
 納屋の天井は全て抜け落ちており、視界に難は無い。広さも狭めの教室ほどだが、入り口が二箇所存在する。一つは納屋の南、もう一つは母屋へすぐに入れる北の扉だ。
 また、納屋のすぐ南側は開けた庭になっている。植物が自由気ままに伸びているぐらいで他に障害物も無く、庭へ身を潜めるならば、向こうからも発見される可能性があることを、充分承知しておくべきだろう。見晴らしは最適だ。
「母屋右側には馬小屋跡もあるけど、狭いし殆ど壊れてるから、戦いには向かないね〜」
 平たく言うと、左から納屋、少し奥まった場所に母屋、そして右に馬小屋跡が残っている。
 ちなみに地縛霊は、庭を含め敷地内であれば何処へでも移動できる性質だ。
「地縛霊は胴丸っていう鎧みたいなの付けた姿だよ〜。武器は薙刀と、身体に刺さった矢だね」
 身体を軸にその場で回転すると、突き刺さったままの無数の矢が周囲の敵を追撃する。
 そして薙刀は月光を帯びて振るわれ、攻撃と同時に体力を奪ってくるため、注意が要る。
 技は以上の近接攻撃のみ。だが曲がりなりにも地縛霊だ。油断は禁物となる。

「ただ、ね。既にこの地縛霊を倒しに向かってる人がいるんだ」
 予報士の言葉に、能力者達が首を傾いだ。一拍の後、恭賀はこう話す。
「ゴーストチェイサーのリーダー……広島の総長だよ。ほら、鉄鎖ドローミを持ったままの」
 メガリス『鉄鎖ドローミ』の代償がいかなるものかを知る彼は、あの大戦以降、誰にも渡さぬようメガリスを守り続け、そしてこれからも自分が持ち続けようと決心を既に固めている。
 その覚悟と意志は揺るがず、いかなる誘いも言葉も跳ね除けてしまう。
 しかし、彼が持つのは欲する者の多きメガリスだ。このまま放っておけば彼は殺され、メガリスも奪われてしまうだろう。特に個人で所有し放浪しているとなれば尚更、他の組織も放ってはおかない。
「地縛霊を倒すのはもちろんだけど、今回はメガリスも奪取してきてほしいんだ」
 奪取、と表現すると柔らかい響きだが、行うのは『強奪』だ。
 リーダーを戦闘不能へ追いやり、倒れて身動きができなくなったところで『鉄鎖ドローミ』を奪う――説得の侭ならない相手ゆえ、これしか術は無いだろう。
「もちろん、リーダーもドローミを渡したくなくて必死だろうから、逃がさないようにねー」
 彼を倒すだけならば、相手が一人ということもあり、そう手こずりはしないだろう。
 問題は『逃走させぬよう布石を打つこと』だ。
「地縛霊はリーダーとの戦いで、能力者さんが着く頃にはそれなりに消耗してると思うよ〜」
 地縛霊とリーダーは、納屋で戦闘を行っている。
 そこからどうするかは能力者次第だが、放っておくと最悪、地縛霊にリーダーが殺されかねない。あまり悠長に構えてもいられないだろう。

「ドローミさえ奪っちゃえば、リーダーも自分の組織に戻れるようになるしね〜」
 現在は単独行動をしているとはいえ、彼も広島の総長――そしてゴーストチェイサーのリーダーとして立った男だ。ゆえに倒したからといって、学園へ無理に連れてきてはならない。
 戦ってメガリスを強奪するという強行手段ゆえ、多少険悪な雰囲気になってしまうのはやむを得ない。しかし、これは時間が解決してくれるだろう。
 過ぎた言い訳はせず、ただ険悪になりすぎぬよう配慮ができれば、今後のことを考えると尚良い。
「能力者さん、いってらっしゃい。頼んだよ」
 恭賀は最後に深々と頭を下げ、能力者達を見送った。

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参加者
観月・咲夜(炉心・b00323)
明鏡・止水(白燐蟲使い・b06966)
三ツ矢・祭波(未完成フェアリー・b21749)
如月・優馬(天国と死と闇・b33928)
黒葛・藤王(朔・b34763)
宮村・雛乃(愛色ドルチェ・b36890)
神栖・真弥(クリムゾンロア・b39876)
橘・悠(白き霹靂・b45763)
月乃葉・優生(命を刻む懐中時計・b45954)




<リプレイ>

●Incatenare
 かつては長閑に人の生活を見守っていた家も、今では大地が織り成す音にのみ耳を傾ける。
 山奥に横たわる住居の静寂を破ったのは、戦いの鼓動だ。
 納屋で既に繰り広げられている戦いを前に、能力者達は足早に戦場へ近づく。納屋の入り口は北と南の二箇所。ゆえに彼らは二手に分かれた。
 押し黙ったまま観月・咲夜(炉心・b00323)が、北側で時計を確認する。
 一方、南側でも突入を待ち侘びる人影があった。
「強奪……あまり気乗りはしないが」
 覚えた苦味は、如月・優馬(天国と死と闇・b33928)のみが知るものではない。
 けれど、その手段が彼のためになるであろうことも想像できた。メガリスを抱え続けた彼――そう、ゴーストチェイサーのリーダーのためにも。
「そうでもしないと、総長ずっとひとりだもんな」
 無邪気さを秘めて神栖・真弥(クリムゾンロア・b39876)が呟く。入れ直した気合いを胸に、真弥は二十秒が経過したと仲間達に告げた。
 開かれた扉の向こうから、まるで誘うかのように戦の匂いが溢れ出す。
 地縛霊の赤黒い胴丸を、パイルバンカーで文字通りぶん殴ったばかりのリーダーが映る。彼もまた乱入者に驚いたのか、僅かに唇が空気を吸い込んだ。
「加勢させてもらうよ!」
 北口から飛び込んだ月乃葉・優生(命を刻む懐中時計・b45954)が、身軽さを最大限活かし地縛霊の眼前へ飛び込む。そしてリーダーを横目に、経典へ秘めた恨みの念を地縛霊へ注ぎ込んだ。
「今は目の前のゴーストに集中しましょう」
 意志をリーダーの傍らへ立った明鏡・止水(白燐蟲使い・b06966)が続け、流すように添えた手で白燐蟲の癒しを向ける。しかし、白燐蟲はそのまま行き場なく消えた。
 リーダーは、地縛霊を見据えたまま唇を薄く開いて。
「俺は俺の仕事をするだけだ」
 協力を拒む声が突き刺さる。一人戦い続ける彼が、距離を置きたがっている者との共闘を受け入れることはないだろう。能力者達もそれは予想していた。
 透き通る氷のような扇をパタンと閉ざし、橘・悠(白き霹靂・b45763)が北口を自身で封じながら、そんなリーダーを一瞥する。
 ――奴の偽善に付き合う気はない。
 緩くかぶりを振り、早く終わらせるぞ、とだけ仲間達へ告げる。
 同じ頃、三ツ矢・祭波(未完成フェアリー・b21749)は南を封鎖するように立ちはだかり、ケットシー・ガンナーの我輩へ声をかけていた。
「頼む」
 短い一言に我輩は頷く素振りを示し、自分の魔力を祭波へ手渡す。
 北も南も、扉を開けたままの戦いとなっていた納屋の外に位置取る仲間もいるからだ。悠の後方、宮村・雛乃(愛色ドルチェ・b36890)もその一人で。
 ――強奪っていうと少し気が引けるけど、此方にだって引けない理由があるものね。
 深く頷き展開させたコアは、眩いまでの光を連れ彼女の周りを旋回する。
 次々体勢が整う間、咲夜は地縛霊とリーダーの間に割って入るべく、地を蹴っていた。主を見守るモーラットのムースは隅へ駆けるのと同時に、赤き葉脈に黒影を走らせ、咲夜が地縛霊へ一太刀を浴びせる。
 照りつく胴丸を捩り、地縛霊が身体を軸に回転した。胴丸に刺さった無数の矢羽が、咲夜と優生を切り裂く。
「よし、行くか!」
 納屋の外に陣取る優馬は高らかに宣言し、地縛霊を巻き上げる気流を生み出した。宣言同様に舞い上がるような風は、鋭く地縛霊を襲う。
 その隙に、黒葛・藤王(朔・b34763)が地縛霊へと接近していた。そして優生と、地縛霊を挟むような形で佇む。
 ――ボクらがいつもメガリスを持つことが、正しいとは限らないんじゃないかって。
 思い悩むあまり眉根が寄り、けれどその迷いを今は奥へ追いやるべく、彼女は首を振った。得物がまとうは黒き影。迷わず地縛霊を叩けば、確かな感触が腕を這う。
「さぁ、俺らも相手してやるよ!」
 真弥もまた他の前衛陣と同じように、リーダーを包囲する形で立ち、己の力を高めるべく大鎌を掲げた。
 咲夜や藤王、止水と真弥に四方を能力者に囲まれた状態で、リーダーは静かに戦場を見渡す。
 身動きが取れぬよう、突入直後に彼を囲う作戦は功を奏していた。うまく連携できなければ、この作戦自体もすんなりとはいかなかっただろう。
 流れを生むのはこの場に立ちし者。
 それをリーダーも、重々承知していたのかもしれない。

●縛られた者
 仲間の傷を案じ、包囲を解いて近寄った止水の掌が、優生の傷を癒す。
 淡い白燐蟲が踊る中、咲夜はゆらゆらと歩き出した地縛霊へ、狙いを定める。足元から浮かび上がった影が、悪意を引き裂く腕を模り、その胴丸へ深い傷を与えた。
 そして、傷ついたままの咲夜を案じ、ムースが納屋の隅で目を閉じ懸命に祈りを捧げる。
 矢継ぎ早、優馬の呼び起こした風が、彷徨うかのような地縛霊を足元から飛ばす。しかし地縛霊の構えた薙刀に遮られ、うまい具合に気流は伸びずに。
 覚束ないかのような足取りで、地縛霊が振り回していた薙刀を斜めに下ろす。あと一息だと、能力者立ちは互いに声をかけあった。
「それの力が惨憺(さんたん)たるものでも……」
 不意に、それまで閉ざしていた口を悠が開く。リーダーをしかと見据えたまま。
「……仲間を信頼しない主に妾らが負ける要素は、何らない」
 彼女の刺すような口調に、しかしリーダーは惑う様子もなく肩を竦め、
「そいつは残念な言葉だな」
 とかぶりを振った。南の出口で立ちはだかる祭波の元へ駆けながら。
「信頼することと、必要もなく仲間の命を代償に捧げるってのは、別の話だ」
「必要もなく、じゃと?」
 悠が眉根を寄せる。リーダーはそんな彼女へ背を向けたまま、パイルバンカーを振り上げた。
「命を犠牲にしてでも倒さなきゃならねぇ脅威が目の前にあるなら、俺は仲間と共に戦う」
 語尾は空気に溶け消え、力強さを篭めた武器が祭波を殴りつける。打撃の余韻が体内を駆け巡る猛毒となり、その身を軋ませていく。
 攻撃に躊躇いは無かった。それが彼の答えだ。
「逃がさないよ!」
 雛乃が慌てぬよう自らを律しながら茨を撃った。茨は着弾と同時に広がり、リーダーへと絡みつく。
 続けて漆黒の鳥が飛び込む。否、ブーメランだ。投てきした体勢を引き戻したのは祭波。毒に耐えながら、仲間と仲間の間にできる一瞬を埋める。
 技が封印されたままの優生は、月影の名を冠する経典を開き、狙い違わず悪しき塊の命を削る。
 刹那、藤王へと地縛霊の薙刀がかざされた。月光を帯びた刀身が身体を抉り、痛みを与えると同時に体力を奪い取っていく。
「倒さなくてはならない存在に、変わりはないので」
 閉じたまぶたを押し上げ、藤王が長剣で反撃に出る。
 そして、流れを失わぬよう、真弥が引き続き影を得物へ這わせた。気を取られないように、と幾度も自らへ言い聞かせ、本当の死に近い地縛霊を叩く。
 ――彼が仲間の元へ戻れるよう、最善を尽くさなければ。
 意気込みを白燐蟲へと継がせ、止水の手が休むことなく仲間達を癒す。直後、リーダーを締め付けその場に留まらせていた茨が、命尽きた。
 退きはしない。その意志を固めたかのように立ちはだかる祭波の眼前で、リーダーの掲げたパイルバンカーが一瞬で分解される。
 目を丸くする祭波をよそに、得物の破片はリーダーの拳へ集い固まった。
「歯、食いしばっておけよ」
 手向けるものは、言葉でなく。
 揺るがぬ覚悟を乗せた拳を、リーダーが渾身の力で振るう。
 大地を叩き割るかのような衝撃が走る。直撃すれば相当の傷を負うだろう。仲間達に比べ体力の低い祭波は膝を折ってしまった。
「……っ、るせぇ」
 だが、立ち上がることを彼らは知っている。劣らぬ気合が、その足を再び蘇らせた。
「逃がしゃしねぇぞ、広島ァッ!!」
 祭波の怒号が響く。リーダーは怯みもせず、バラバラになったままのパイルバンカーを手に、片眉を吊り上げた。
「テメェの独り旅はココで終いだ」
「気ままに旅もさせてくれねぇのか」
 冗談めいた調子は微塵もなく、リーダーが祭波に言葉を返す。
「そろそろ沈んでよっ」
 成功させなければ、そう決意を滾らせる優生は、魔を退けるべく恨みの念を経典へ篭めていく。念は地縛霊を串刺しにし、その貫きが忌まわしき悪意を断った。
 呻きが後を濁すことなく消えゆく。
 掴み取った勝機は、彼らを最大の目的へ歩ませる道標と化した。

●奪取
 ドローミを渡して貰えないか――能力者達の用件は、端的で明瞭だった。
「私達も必要としていますので」
 しかし、僅かに身を彼らの方へ傾けたものの、リーダーは止水の口上に反応を示さない。
「共に戦った相手を、後ろから打つ真似はしたくないのです」
「それでやられたとなりゃ、それは俺の弱さだ」
 止水の毅然とした態度にも動じることなく、リーダーはようやく元の形状へ戻ったパイルバンカーを掲げる。駆動音を鳴り止ませる気配は無かった。
 サングラス越しに何を映しているのかはわからない。ただ彼の決意が胸をチクチクと痛めつけた。渡さない、と言葉で象らずともわかる。鉄鎖ドローミを差し出す気など、彼には毛頭ないことが。
「……やることはもう決まってるんだろう?」
 結局は力のぶつけ合いとなることを、彼も能力者達も知らぬわけではない。ゆえに、止水の話しが終わると同時に幾つもの足音が吹き抜ける。
 南側寄りのリーダーを包囲するべく、咲夜が真っ先に地を蹴った。引き抜いた二種の刃へ黒影の異名を持つ技を施し、地面ごと抉るかのように斬り上げる。
 ――容易に同情して良い資格は、俺にはない。
 彼らがどんな苦痛と悲しみを味わったのか、想像するほど背筋を冷たさが駆け抜ける。だからこそと得物を握る手に力を篭め、咲夜が振るった一撃だ。
 振るわれる影をパイルバンカーで受け止め、そのまま押し返すように咲夜を強打する。殴打は骨まで到達するような衝撃で、喰らった後も体内を駆け巡る苦しさは尋常でない。
「きゅぅ!」
 風に毛を遊ばせながら、ムースがキリッと凛々しさを表情に描く。そしてすぐさま祈りを捧げると、咲夜は己を蝕む猛毒がすっと消えていくのを感じた。
 前衛メンバーによる包囲が最優先。そう考え、祭波はリーダーの足がしばらく動かぬよう、二丁拳銃を指で回した我輩を見遣る。
「我輩! 今のうちに足止め頼む!」
 指示が伝わり終える頃には既に照準を定め、我輩が自由を拭うべく狙撃した。リーダーは逃走手段を奪われてもなお、抗うことを忘れず武器を前方に構える。
 直後、優生は呪いの言葉で唇を震わせず、一先ず包囲網を築くべくリーダーの傍らへ立ちはだかった。すかさず雛乃の撃ち出した茨が、慎重に相手の足を封じるべく弾ける。しかし、茨をリーダーは軽い足取りで交わしてしまう。
 傷の癒えを待つのも問題と考え、止水は先ほど肉体を凌駕したばかりの祭波へ、白燐蟲の輝きをもたらした。
 そこで呪いの言葉が宙を貫く。悠の解き放った呪詛は、リーダーが身を翻しやり過ごした。負けていられないのは、相手も同じなのだろう。
 藤王が影を招き叩けば、同時に真弥がリーダーの前へ突撃し、蒼き大鎌へ影の加護を添えて斬った。
 抑止されていた移動の術を取り戻し、リーダーは包囲の陣が再編されぬうちに底を蹴る。彼の周りに張り付いて止まない能力者達の合い間を縫い、立ちはだかる形で構えてた藤王へと、巨大なパイルバンカーで殴りかかった。
 鈍い音が走り、藤王もまた激痛とともに猛毒に苛まれる。
「やるしか、ないな」
 日頃の性格をひっくり返したかのように、優馬が低く呟き風を呼ぶ。これで広島の総長も救われるならば。そう溢れかけた声は喉でつかえた。
 風に巻き上げられ、サングラス越しにリーダーの瞳が映る。真っ直ぐな視線は彷徨わず、自身を攻撃した者を捉えて。
「悪いが、そのメガリスは俺たちがもらう」
 次に優馬が喉から流れさせたのは、彼と同じ決意の証。
「俺らは絶対負けない!」
 真弥の大鎌が宙もろともリーダーを切り裂く。膝を着きかけた一人の男は、苦痛にかギリッと歯を噛み締めた。
 噛み締めたまま体勢を立て直し、パイルバンカーに叫びを篭める。すると、先ほどと同じようにパイルバンカーが複雑に分解され、彼の拳へと姿を変えた。
「……賭けるのは嫌いじゃねぇ」
 零れた言葉を、近くにいた者達が拾う。
 身を挺してでも逃がさない。その意志だけでは叶わぬこともあっただろう。だが今のリーダーは一人。そして能力者達には――仲間がいる。覚悟の大きさをはかるのではない。数だけではものさしにならない。それでも。
 鈴の音が鳴った気がした。剣へ飾られた鈴に、玉など入っていないのに。
 耳障りな高音をすり減らせて、咲夜が男の拳を一手に引き受けた。身体を走った衝撃は凄まじく、息苦しささえ抱く。
 黙したままの男へ、咲夜が踏み込む。癒しは止水たちがもたらしてくれる。だからこそ自分は漆黒で斬り伏せた。
 やがて遠ざかる意識の中、男が声を絞り出す。
「……これ、は……手にした、者を……不幸に……っ、ものだ」
 途切れ途切れに届く音へ、咲夜は目を逸らさずこう告げる。
「確実に、届けるから」
 それをリーダーが耳にしたのか否かは、もうわからなかった。

●ドローミを胸に
 さわさわと木々が囁くだけの静寂が蘇る。
 リーダーは母屋へ数人で運んだ。戦いの際に交わせなかった心をせめてと、それぞれの想いを傍に添えて。
 止水は詫びやゴーストチェイサ―の抗争に関するメモを残し、雛乃は「夜は冷えるから」と温かい心遣いをブランケットへ寄せ、我輩へ託していた。
 肝心の我輩は一瞬首をかしげたような仕草をしたものの、祭波の言葉で「かけてあげる物だ」と一先ず頷く。
「許しを得るわけじゃないが……」
 後味も苦く、優馬はおにぎりを置いた。
 食べ物を持参したメンバーは他にもいて、咲夜は菓子類を、祭波は「鎌倉筆頭銀誓館」と力強く名乗った蜜柑を残す。
 そして、すぐに能力者達は母屋から脱し、物陰から一度リーダーの様子を窺った。
「因縁感じちゃうなぁ。ドローミだなんて」
 人狼としても不思議な感覚なのだろうか、優生は肩を竦め、その鉄鎖ドローミ運搬を担った雛乃へと振り返る。
 すっかり大人しくなった鉄鎖ドローミ――使わずに運ぶだけなら影響ないのだと、能力者達は改めてその奇妙さを思い知った。
 いずれにせよ終わったのだ。顔を見合わせ胸を撫で下ろす。
「では、学園へ戻りましょうか」
 止水が告げ、闇を照らしながら歩き出した。
 念には念をと、第三者の影が無いか警戒を強めたまま帰路を辿る。

 妙に汗ばむなと考えてみたら、夏も近かった。
 季節が巡るように、時間の流れもまた、彼の心持ちに変化をもたらすのだろうか。
 彼らを見届けた空が優しく白み、想いを連れた風が頬を撫でていく。
 笑顔で再会できるであろう『いつか』を、今はただ願うばかりだった。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2009/05/13
得票数:楽しい2  泣ける3  カッコいい103  知的3  ハートフル3  ロマンティック2  せつない103  えっち1 
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