≪食う寝る遊ぶ。≫食っては寝て、食っては寝て


<オープニング>


「カレーの匂いがするよ」
 夕暮れの住宅街。
 一軒の家の前で立ち止まった黒依・しろ(食う寝る遊ぶ・b49029) が、皆を振り返る。
「おいしそうな匂いですぅ、夜のごはんの支度中でしょ〜か」
 と、高村・稀梨枝(ねるねるねるね・b59207)も気づき、
「オレ、今夜はカレーが食べたくなった」
 と、神原・マキ(深山育ちの鬼げんこつ・b54363)が言った、次の瞬間。
「え……? どうして……?」
 雲林院・サーナ(ヘリオトロピウム・b63826)が、目の前の光景に息を呑む。
 9人は、20畳ほどの広さのある、血だらけのキッチンの中に立っていたのだ。
「ウ……ウウ……グウ……ッ!」
 長く尖った耳をもつ大型犬のような妖獣が、能力者たちに向かって、異様な唸り声を上げている。鋭い牙が生えそろった口をぱっくりと開けると、中には、丸ごとのボンレスハムや、ステーキ肉の塊が……!
「うわあ、口の中が、食べ物でいっぱいだよ。どうやって詰め込んだのかな?」
 驚き呆れる西野・御子(小学生青龍拳士・b16555)の隣で、久々利・かのこ(マロンロワイヤル・b17784)が、冷蔵庫のある方を指さす。
「あちらからも、お迎えが……僕たちは、歓迎されているようですね」
 ふらふらと並んで歩いてくるのは、中年男女の2体のリビングデッドだ。普段着姿の男の口の中には肉じゃが、エプロンをつけた女の口の中にはケーキが見える。
 そして……、
「……食いたい……食いたい……」
 不気味な声を発しているのは、台所の奥で、生のままのインスタントラーメンを囓っていた囓っていた、肥満体の地縛霊だ。
「……食いたい……足りない……おまえたち……食いたい……」
 インスタントラーメンを投げ捨てた地縛霊は、床に散乱していた包丁を握り、ぶよぶよと余った肉の間から、小さな目で能力者を睨みつけた。
「どうしてこんなことになったのか、全然わからないけれど……」
 綾織・みつき(イノセントアイロニー・b39657)が、首を傾げながらも、戦闘に備える。
「このまま放っておけば、いずれは、近隣の住民を巻き込むことになるだろう。そうならないように、オレたちが、ゴーストを退治する!」
 決意を込めて言い、カードを高く掲げた加賀見・眠斗(天穹の風使い・b16661)に、全員が続いた。
「「「イグニッション!!!」」」

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参加者
西野・御子(小学生青龍拳士・b16555)
加賀見・眠斗(天穹の風使い・b16661)
久々利・かのこ(マロンロワイヤル・b17784)
綾織・みつき(イノセントアイロニー・b39657)
黒依・しろ(食う寝る遊ぶ・b49029)
神原・マキ(深山育ちの鬼げんこつ・b54363)
高村・稀梨枝(ねるねるねるね・b59207)
雲林院・サーナ(ヘリオトロピウム・b63826)
NPC:アーネスト・オオクボ(小学生従属種ヴァンパイア・bn0189)




<リプレイ>

●戦闘配置
「なんだアレ……うぅ、いくら食べる事好きだっても、あぁはなりたくないもんだな」
 加賀見・眠斗(天穹の風使い・b16661)の呟きは、皆の気持ちを代弁していた。
 動くこともできないほど太った地縛霊、食べきれないほどの食物を溜め込んできた男女のリビングデッド、口を閉じられないほど肉類を頬張った欲張りな犬型の妖獣。
 食べ物に異様な執着を見せているゴーストたちに戦きつつも、9人の能力者たちは、素早く作戦をまとめて、それぞれのポジションに移動した。
 前衛は、神原・マキ(深山育ちの鬼げんこつ・b54363)、高村・稀梨枝(ねるねるねるね・b59207)、黒依・しろ(食う寝る遊ぶ・b49029)、西野・御子(小学生青龍拳士・b16555)の4人。
 後衛は、久々利・かのこ(マロンロワイヤル・b17784)、綾織・みつき(イノセントアイロニー・b39657)、眠斗、雲林院・サーナ(ヘリオトロピウム・b63826)、アーネスト・オオクボ(小学生従属種ヴァンパイア・bn0189)の5人。
 グレートモーラットのDは、遊撃だ。
「か……齧られないようにがんばろーね! っていうか、ぼくたちは食べものじゃありませーん!!」
 と言いながら、かのこが、後衛のポジションに走る。
「あの犬の妖獣、絶対ボクよりいい物食べてると思うんだ〜……う、羨ましくなんかないんだよ〜!」
 と、同じく後衛のみつきも、回復と攻撃の射程を気にしながら、冷蔵庫の陰に隠れた。
「寝る……の……は……好き……だけ……どぉ……食べ……ら……れ……る……の……は……勘……弁……な……の……です……よぉ」
 間延びした寝言で話す稀梨枝は、先輩のマキの作戦に従って、障害物を利用しながら、犬型妖獣とリビングデッドの男女を、近距離まで引き込むつもりだ。
「食べてばかりで生きていければ幸せなんだけどねー……そうも行かないのが世の中なのですよー」
 と、しろは、壁としてゴーストの攻撃を防ぐ覚悟で、グループの先頭に出た。
「……にしても、うちの女子達は、前衛多いよなー……はは……」
(「男の自分が前に出れず、女子に壁になってもらうなんて、なんとなく申し訳なくも情けない」)
 そんな思いの眠斗は、こっそり半泣き笑いで、後衛へ向かう。
「でも、後は任せてくれ。バックアップするから、思いっきり行って来ていいぜ!」
 サーナは、高く積み上げられた米の袋の後ろから、犬型妖獣とリビングデッドの男女に狙いを定めている。他のメンバーの行動を阻まないように、1匹と2体の動きを封じるつもりなのだ。
 奥の広いテーブルには、ハンバーグ、スパゲッティ、グラタンが湯気を立て、コンロの上の大きな鍋からは、カレーの刺激的な香りが漂っている。
「おいしそうな食べ物が一杯っ!」
 近くに置いてあったサンドイッチとポテトチップの山に、つい、手を出しそうになった御子が、ここが特殊空間だということを思い出す。
「……あれ? 違ったかな? あ、そっかゴースト退治に集中しないとだね!」
 後衛の一番奥、野菜の詰まった段ボールに隠れたアーネストに向かって、眠斗が声をかけた。
「せっかく久しぶりに会ったのにこんな事に巻き込んじまってごめんな。終わったら飯でも奢るからさ」
「はいっ! 楽しみにしてます!」
 元気に返事をしたアーネストの使役ゴーストは、張り切って、皆の間を飛び回っている。

●妖獣
「食べられるより、食べる方が好きなんだよー!」
 虎紋覚醒を使った御子の青髪が逆立ち、全身に、虎の縞模様が浮かび上がる。
「バウ……ウ……」
 口から、大きなソーセージを垂らした犬型妖獣が、唸りながら走ってきた。
 地縛霊の包丁攻撃を警戒して、中衛といってもいいくらい前に出ていたかのこが、犬型妖獣に先制攻撃をかける。
「びりびりしますよっ!」
 雷の魔弾は、前足に当たり、妖獣を怯ませた。そして、その隙に……、
「みんなかわいい後輩だ! 庇って戦うぜー!」
 かのこに連携したマキが、森羅呼吸法で自己を強化する。
 冷蔵庫の後ろから顔を出したみつきは、茨の領域で、男女のリビングデッドの足止めを試みた。
「ちょ〜っとの間、動かないでね〜っ!」
 鋭い棘をもつ茨が、リビングデッドを縛り上げて締め付ける。2体は、地縛霊と前衛のちょうど中間の床に、縫い付けられたような格好になった。
「コイツでも食らいな!」
 攻撃範囲の広い地縛霊には、眠斗のスピードスケッチが飛んでいく。
「食いた……い……」
 華麗なペンさばきで生み出された、ちょっと歪んだドーナツは、命中せずに外れて消えてしまったが、地縛霊の気を引くことには成功したようだ。
「さー、今日もお願いね! せぇーの!」
 十分に引きつけた犬型妖獣を、サーナが、茨の領域で覆い尽くす。
「みんなの行動の邪魔はさせないよ!」
「凶暴……な……犬……は……怖い……の……で……すぅ」
 マキと同じ食器棚の後ろに隠れていた稀梨枝は、動きを止めた犬型妖獣めがけて、暴走黒燐弾を炸裂させた。
「フー、わんわんっ! ばうばうっ!!」
 しろの台詞が、なぜか、犬の鳴き声になっている。
「犬語ですか?」
 アーネストが、首を傾げて尋ねると、眠斗が、肩を竦めてため息をついた。
「名前が犬みたいだからって、張り合う必要は無いと思うんだ」
 しかし、張り合ったおかげか、しろのクレセントファングは、見事に命中!
「ウ……ウウ……」
 犬型妖獣は、口からステーキ肉を落として、床に倒れた。

●リビングデッド
 茨の領域から抜け出した男女のリビングデッドが、ゆっくりだが、確実な足取りで、前衛に迫る。
 マキは、地縛霊の死角になるように気をつけながら、リビングデッドを釣るための牙道砲を放った。
「新しい材料……見つけた……」
 吹き飛ばされはしなかったが、かなりの傷を負った男リビングデッドは、狙い通り、マキと稀梨枝が隠れている食器棚に、よろめきながら近づいてきた。
「見つけた……新鮮な肉……」
 女リビングデッドも、口からケーキのかけらをこぼしながら、後に続いている。
「狙いますっ!」
 身を乗り出したアーネストが、女リビングデッドにジャンクプレスを仕掛けた瞬間、地縛霊の睡眠攻撃が襲いかかった。
 後衛のアーネストと、攻撃に転じようと身構えていた前衛全員が、深い眠りに落ちる。
「皆! 起きろぉ!」
 ためらいなく、生ゴミ袋の後ろに隠れて攻撃をやり過ごした眠斗が、浄化の風を使う。
「今の攻撃、結構な誘惑だったと思うんだけど〜、大丈夫〜?」
 みつきが心配して、様子をうかがうと、5人のうち3人は目覚めていたが、お昼寝大好きな稀梨枝と、壁役のしろは、すやすやと熟睡し続けていた。
「稀梨枝は、元から眠そうな顔してた……じゃなくて! ふたりとも、本気でまだ寝てる!?」
 と、眠斗たちがあわてる中、混乱に乗じて、前衛の壁を超えた女リビングデッドが、尖った爪で、稀梨枝を引っかいた。
 バリバリッ!
 肩口を傷つけられた稀梨枝が、心地よい眠りから目覚め……、
「起こーしーたなー! この恨み……」
 不機嫌モード全開の呪いの魔眼が、女リビングデッドを切り裂いて倒した。
「今、回復するんだよ〜♪」
 みつきが投げた治癒符で、稀梨枝の傷が癒えていく。
 Dも、ぴょんぴょんと前衛まで跳ねて、稀梨枝の肩をぺろぺろなめはじめた……が、男リビングデッドの手に掴まれ、まるで、綿菓子のように齧られてまった。
「もきゅもきゅ〜!」
 ぶるぶる震えながら逃げてきたDに、かのこが、ギンギンパワーZを振りかける。
「し……食料……ち……調達……」
 Dを追いかけようとする男リビングデッドは、サーナが、茨の領域で拘束した。
「とりあえず……口の中の物飲み込んだ方がいいよ! だって攻撃したらドバーって出てきそうなんだもん……」
 と、シンクの陰でチャンスを狙っていた御子が、男リビングデッドを、強烈な龍額拳の一撃で仕留めた。

●肥満地縛霊
 ジャキンッ!
 巨体からは想像できない速度で飛んできた包丁が、眠り続けるしろを襲い、鎖で手繰り寄せる。
「とっておきだぜーーっ!!」
 ジュースとミネラルウォーターの箱の陰に移動して接近していたマキが飛び出して、紅蓮撃!
 獣爪「鬼爪」を装備した両手に魔炎を纏わせ、死角から飛び掛かり、X字に叩きつける。
「包丁……攻……撃……怖い……の……です……よぉ」
 ダメージに苦しみ、しろを離した地縛霊に、稀梨枝が、暴走黒燐弾を撃った。
「ぴゃ〜っ!! どれだけ食べたらあんなになっちゃうんだろ〜?! うぅぅ、ボクも食べ過ぎには注意しよ〜っと」
 巨大な肉の塊に成り果てた地縛霊に身震いしつつ、みつきが、冷蔵庫の陰からしろに治癒符を投げる。
 かのこも、ギンギンパワーZを浴びせて、傷を完全に塞いだ上に、攻撃力を上昇させた。
 さらに、眠斗の浄化の風が、今度こそしろを目覚めさせ、紅蓮撃の反動で封術されていたマキを回復させる。
「食いたい……おまえたち……食う……」
「食べるなら、ボク達より、さっきのインスタントラーメンとかの方が、おいしいと思うよー?」
 倒れながらも、まだ、包丁を投げようとする地縛霊に、御子が、龍額拳を放つ。
 サーナも、呪詛呪言を唱えた。
「自分の欲求だけに素直に生きればいいってものじゃない! 少し位我慢すればいいじゃない!」
(「本当においしいものは少しだけでお腹いっぱいになるはずだもん! きっと、お母さんお父さんと食べるご飯、そういうもののはず」)
 と、サーナは思う。
「ないものねだりするのも、自分勝手に生きるのも、ボクは絶対に認めない! だから、ボクは、一生懸命生きる!」
「お腹すいたーって、食べるのを楽しみにしてる時間があるからこそ、食べる事が嬉しいんだよね。それを忘れちゃったゴーストさんには、反省してもらわないとね?」
 御子とサーナに与えられたダメージで、ぶよぶよの身体の大部分が崩れた地縛霊に、しろが、超高速のクレセントファングを叩き込む。
「食いた……かった……」
 最後まで欲深い言葉を残して、地縛霊は動かなくなった。

 夕日の眩しさに、ふと顔を上げると、9人の目の前には、壊れかけた空き家が建っていた。住人が消えてから、もうずいぶん長い間放置されたままなのだろう。門に打ち付けられた板は腐り、伸びきった草木で、玄関がほとんど見えない。
「食う・寝る・遊ぶはどれが欠けてもダメなんだよなー。それぞれが高い水準で均衡を成すことが人生を充実させるコツなんだって、じっちゃんも言ってた。あの地縛霊は、きっと、思いっきり遊ぶことがなかったんだろな〜」
 マキの言葉に頷いて、サーナが続ける。
「食っちゃ寝はダメなんだよー! って、叔母さんも言ってた! 食べたりお昼ねしたりするのはボクも好きだけど、度を過ぎたことはダメだねーっていう反面教師にするんだよ!」
「ん〜。食べ物に対する執着が、あんな形になっちゃったのかなぁ? いずれにせよ、腹八分目が大事、ってことが解ったんだよ〜♪ 」
 と、みつきが、笑顔を見せて言う。
 どこからか、また、おいしそうなカレーの匂いが漂ってきた。
「運動したらお腹すいたよー。カレーが食べたいな♪」
 今度の匂いは、空き家からではなく、その隣の、子供の声が賑やかな家からだ、と気づいた御子は、うれしそうに、かのこと笑い合っている。
「今日……の……夜……は……カレー……です……よぉ」
 疲れてすやすやお休みモードの稀梨枝は、寝言でリクエストだ。
「よし、みんなでカレー食べに行こうかっ♪」
 ぐぎゅるるる!
 と、おなかを鳴らして、しろが提案する。
「食にまみれた地縛霊を見ても、食欲は勝る……か。さて。飯食いに行くか」
 感慨にふけりつつ、歩き出した眠斗は、結局、全員分奢る羽目になるという自分の運命を、まだ、知らなかった……。


マスター:関口元 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/08/04
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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