はむすたー☆ぱにっく


<オープニング>


 山の自然とは、季節によって異なる表情を見せる。
 写真家の男は、深い緑に満ちた山をカメラに収めていた。
 初夏の山は、青々とした強い生命力を感じ、何とも清々しい。
 自然の息吹を体に感じながら、男は美しい景色を撮り続けていた。
「おや?」
 そこへ、不自然なものが飛び出してくる。
 よく見ると……。
「ハムスター?」
 やや大きめのハムスターが、ひょっこりと顔を出していた。
 それも、一匹だけではない。
 周りを見わたすと……。
「うわっ!」
 数え切れないほどのハムスターが、男を取り囲んでいる。
 驚いてカメラを地面に落とし、立ち尽くす男へ、ハムスターがなだれ込む。
 その身を喰らいつくし、思念までもを貪り、一瞬にして写真家の全てを奪った。

「ハムスターです!」
 ゴースト事件が発生していることを知り、予報士が舞っている教室へ入った能力者を出迎えたのは山本・真緒(中学生運命予報士・bn0244)だった。
 彼女はなぜかハムスターのぬいぐるみを持っており、しきりにハムスターと口にしている。
「かわいいハムスターなんですけど、近い内にこの山の中へ入る写真家の方を食べちゃいます。その前に、やっつけてほしいんです!」
 どうやら、ハムスターの姿をした妖獣がいるらしい。
 真緒は能力者達にハムスター妖獣が現れたという山の地図を広げて、その場所の確認をすると、妖獣の特徴についても説明する。
「とにかくかわいいんです! ……あ、そうではなくて、すごいんです、数が!」
 そのハムスター妖獣はとてもかわいい姿をしているようだが、これは能力者達を油断させようとしている罠だということはすぐに理解できよう。
 問題はそこではなく、とにかく数が多いらしい。
 その数、五十匹。
「一匹辺りの強さは全然たいしたことはないんですが、数が多いので集中攻撃をうけたら、どんなに歴戦の能力者でも簡単にやられてしまいます!」
 大量のハムスターに取り囲まれてしまったら、それはひとたまりもないだろう。
 うれしい人もいるかもしれないが、思念に飢えた妖獣に全てを喰い尽くされること間違いなし。
 かわいいといっても、数は破滅を生むということを忘れずに任務に臨んでほしい。

「あんまり強くはない妖獣みたいなので、数を減らすことを意識すればいいと思います」
 真緒はハムスターのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめると、能力者達へ頭を下げて、彼らを任地へ送り出した。

マスター:えりあす 紹介ページ
 こんにちは、えりあすです。
 ハムスターな妖獣五十匹。
 一体あたりの強さは大したことありませんし、特殊な能力もありません。
 かわいいもの好きにはたまらないですけど、注意しないとあっという間に食べられてしまいますので気をつけてください。

参加者
姫咲・ルナ(ピンクの月夜は仔猫の想い出・b07611)
天皇・藍華(白獣婬戯鬼華・b17830)
鈴白・舜(呪言士・b25671)
ブルース・レイ(第三の紫陽花王子・b30727)
六御・リネ(紺碧のアエティール・b31159)
紫野・遊貴(葬黒の業・b40918)
シンヤ・レトル(蒼暁・b41423)
幻戸・美夢(ませっ娘剣士・b46293)
鳶沢・成美(三角定規二刀流・b49234)
端山・芹(中学生コミックマスター・b56843)



<リプレイ>

 夏の山は鬱蒼した緑が、自然の力強さと生命力を表現している。
 その息吹を感じながら、能力者達は山道を歩いた。
 目に焼きつくその美しい景観は、誰でも写真として残しておきたいと思うだろう。
 仕事の後にでも写真撮ってみるかな……鈴白・舜(呪言士・b25671)は、周囲の景色を見渡しながら思った。だが、その自然に見惚れているわけではない。この緑に紛れる妖獣を警戒しているのだ。
「ハムスター妖獣の群れか……どこに潜んでるかわからないし、注意しないとね」
 紫野・遊貴(葬黒の業・b40918)も双眼鏡を覗きつつ、山に存在する不自然な存在を探しながら山道を進む。
 この山に存在する妖獣は、ハムスターの姿をしているという。
 それも、かなりの数が。
 一体あたりの強さは、この山に足を踏み入れた能力者ならソロでも余裕で勝てるくらいなのだが、存在する数が五十匹もいる。
 まさに、数の暴力。
 取り囲まれてしまえば、どんな歴戦の能力者であってもひとたまりもない。
「この辺りのようね、件の場所は」
 端山・芹(中学生コミックマスター・b56843)は、地図と道にある看板を照らし合わせて、写真家が襲われるであろうポイントを割り出した。
 この辺りは比較的開けた場所で、周囲の景色をカメラに収めるには絶好の場所だ。
 この先からは山頂に向かう細い道が続いており、これ以上先に行くのはやや危険。
「ここで円陣を組んでおいた方がよさそうね」
 天皇・藍華(白獣婬戯鬼華・b17830)が提案すると、能力者達はフォーメーションを組む。
 孤立すると非常に危険ということで、円陣を組んで一人辺りが受ける負担を減らす作戦だ。
 数がいれば確実に全方位を取り囲まれるだろうし、後衛型の者を守る意味でも、この陣形は重要性が高いだろう。
「この陣形なら、外側の人がケガをしたらすぐに内側の人と交代できますからね」
 これぞまさしくロータリー円陣……と、車かエンジン工学に興味がないとわからない例えを示す鳶沢・成美(三角定規二刀流・b49234)。
「いたわよ、向こうの茂みの中で動いてるわ」
 幻戸・美夢(ませっ娘剣士・b46293)が物音に気づき、異変を仲間に伝えた。
 茂みの中から、ひょっこりと顔を出し、自分達をおいしそうに見ている。
「あっちにも一匹、二匹……って、数えれねーくらいじゃん!」
 シンヤ・レトル(蒼暁・b41423)も一匹現れては頭を出すハムスターの姿に困惑した。
 次々へと茂みの中から頭を出すハムスター妖獣の数の多いこと……。
 一匹や二匹程度なら「かわいいかも」なんて思うかもしれないが、これだけわんさか出てきたらありがたみもない。
 五十匹ってこんなに多かったっけ……顔にげんなりした表情が浮かぶシンヤだった。
「こ、こんなにわらわらいる……なんだかこわいよー!」
 姫咲・ルナ(ピンクの月夜は仔猫の想い出・b07611)は、獲物を見つけてなだれ込んでくるハムスター妖獣に恐怖した。
 胸元でお月様の飾りがついたマジカルロッドを両手で握り締め「がんばろう!」とは思うものの、その圧倒的な数、威圧的な勢いに飲み込まれてルナの足がすくむ。
「美夢ちゃん、がんばろうね!」
 恐怖を振り払い、魔法陣を描き出して、信頼する友と共にハムスター妖獣を迎え撃つ。
「かわいいハムスターさんが……わっ、私達を食べてもおいしくないですからっ!」
 六御・リネ(紺碧のアエティール・b31159)もまた、錫杖を強く握り締め、勢いよく突進してくるハムスター妖獣の群れに震えていた。
 かわいいハムスター妖獣との戦いを想定していたものの、実際にはそんなことが思考に浮かばないほど切羽詰っている。数匹ならまだ「かわいい」と思えるだろうが、これだけいれば暴力だ。
「おしおきしなくちゃいけませんけど……くうぅ、心がツキンツキンと痛みます……!」
 錫杖についた遊環を鳴らし、雑念を払い、戦いに向けてリフレクトコアを呼び出すリネ。
「ハムスターってネズミだよね……そういや、ガンちゃんはネズミ食べられる?」
 冷静さを保つため、ケットシーのガンちゃんにそんなことを言ってみるブルース・レイ(第三の紫陽花王子・b30727)。ガンちゃんが眉をしかめているのは、本当にネズミが嫌いだからなのか、迫り来るハムスター妖獣の洪水に対する恐怖からなのか。
 全てを喰らいつくす波が近づくにつれ、穏やかだったブルースの表情が殺気だってきた。
「一匹残らず撃ち抜いてやるぜ」
 詠唱ライフルを構え、ガンちゃんから受けた力を補填し、ゴーストの厚い壁に穴を開けんと銃口を向ける。
「これだけ俺達を食う気満々だと、かわいいとも思えないな……」
 舜はガンちゃんから離れた位置に立ち、ハムスター妖獣を攻撃するタイミングを計っていた。
 ちょっと猫は……ある意味、ハム軍団よりも問題だ。
 正反対の場所を陣取り、舜は呪いの言葉をつぶやき始めた。
「さて……この数は面倒そうだけど、やるしかないか」
 遊貴も黒燐蟲を体から呼び集める。
 ハムスター妖獣が我々を喰らおうとしているのと同じように、黒燐蟲も妖獣達を喰い尽くそうと黒い光を放ち始めた。
 円陣を組み、ハムスター妖獣を迎撃する能力者達を、バリアが包み込む。
「これだけいたら、しばらく回復の手を休ませることはできないわね」
 藍華は夢境の力を呼び覚まし、仲間を守る盾を生み出す。
「ふぅ……面倒な数ね、まったく」
「たくさんいるけど、ぜーんぶターゲットね。オイタする子には、おいしいひまわりの種あげないよっ!」
 大自然の景観に大量のマンガ原稿が乱れ飛んだ。
 芹とルナ、二人のコミックマスターが放ったそれが、鋭い刃となって多数のハムスター妖獣を切り裂いていく。
「数には範囲で対処……しかし、こんなに泥濁陣を思い切り使えるのもめずらしい」
 成美は大地の気を操り、ハムスター妖獣達の進行方向に毒の沼地を生み出した。
 突如と地面に現れる毒気に満たされた領域に、ハムスター妖獣は次々とはまっていき、苦しみの声をあげた。
 舜の喉奥から捻り出される凝縮した呪いの声が、ハムスター妖獣達の呻きをさらに大きいものとし、ブルースの銃撃が前列の一体を蜂の巣にする。
「邪魔だ、どいてろっ! っつーか多い多い多い!?」
 そこへ、シンヤの放つ圧縮された気迫が穴を開けていく。
 攻撃の第一波が終了し、三体ほどのハムスター妖獣が吹き飛んだが、まだまだである。
 奇声をあげながら突貫してくる死の波が、もうそこまで迫ってきていた。

 空中を舞うマンガの原稿に、動物を虐める内容が描かれたものがあった。
 本人にはそんな意識はないにしろ、能力者達を飲み込んだ思念に飢える妖獣の群れに、正常な精神でいられる者は少ないだろう。
「鬱陶しいわね」
 顔だけ見ればかわいいが、身を喰らおうとしてくる動物の皮を被ったゴーストに対し、そういった思いをぶつけるのも仕方ない。
 芹に続き、ルナも原稿用紙を生み出し続ける。
 ルナの描く世界は、愛に満ちた乙女チックなもの。
 愛にあふれるマンガが、ハムスター妖獣達に降り注ぐ。
「みんな、大丈夫?」
 藍華は夢の力で仲間達を守り続けた。
 幸い円陣であったため、一人が集中されるということはなく、一体あたりの攻撃力も大したことはない。
 問題はいつまで耐え切れるか……藍華は時間が経つにつれ高まってくる感情を顔に表しながら、仲間の支援を続ける。
「腕に噛み付くな! って、次は足か!」
 シンヤは足に食いついてきたハムスター妖獣を潰す勢いで震脚を踏んだ。
 吹き飛ばしたいところだが、その後ろにも妖獣が噛み付こうと押し寄せている。
 震脚の衝撃でひっくり返ったハムスター妖獣をブルースが正確に撃ち抜き、とどめを刺す。
 ガンちゃんも絶え間ない銃撃を放ち、解放された遊貴の黒燐蟲がゴーストを喰らおうと飛び交う。
 銃声とハムスター妖獣の悲鳴が止んだのち、この世とは思えぬ声が戦場を駆け抜けた。
 舜が叫ぶ怨嗟の言葉が傷を生み、美夢の放った漆黒の嵐がその傷口から力を吸い出していく。
「かわいい子ぶるのにロクなヤツがいないって聞いたコトあるけど、まさにそうね」
 黒い群れは吸血コウモリ。
 噛みつかれ、引っ掻かれた傷を、吸血コウモリが奪ってきた力で癒す。
 リネの生み出した植物の槍が、自然ならざる存在を打ち消そうとし、成美も毒の沼にハムスター妖獣を沈めていく。
 範囲攻撃による波状攻撃は、徐々に効果を見せ始めていた。
 重ねれば重ねるほど打撃は蓄積し、ハムスター妖獣は数を減らしていく。
 三分の一は消えただろうか。
 だが、まだハムスター妖獣の余力は十分にある。
 油断はできない。

 戦いは中盤くらいから、一気にハムスター妖獣達の戦力が落ちた。
 数が多いハムスター妖獣であったが、初撃で相手を飲み込めず、能力者達にじわりじわりと消耗させられていったのだ。
 それでも、我先にと能力者達の殺して思念を喰らおうと押し寄せるハムスター妖獣を、前衛の者が必死に受け止め、彼らが盾となってくれることに報いろうとコミックマスター達は自分達の世界を具現した紙を放つ。
 漫画家の武器ともいえるその原稿は、先ほどよりも多くのハムスター妖獣を葬った。
「美夢ちゃんは大丈夫!?」
 ルナは心配そうに美夢の背中へ声をかけると、そのままハムスター妖獣を押さえつけながら「大丈夫」と小さく返事する。
 数が多いということは、それだけ回復量も多いということ。
 彼女が操る吸血コウモリがハムスター妖獣を傷つけつつ、自身の身を癒していた。
「ネズミはおとなしく食われてしまうといいよ!」
 藍華も余裕を見て、高まった感情と共に白燐蟲を放って攻撃し、ブルースも狙撃で一体ずつ確実に数を減らしていた。
「ガン、そっちにいったぞ。外すな」
 一つの悲鳴が激しい銃声の轟きによって消えた。
「随分と減ったな。あとは、数えるほどだけか……」
 舜の叫びによって地獄を見たハムスター妖獣が、バタバタと倒れていく。
 すでに、ハムスター妖獣は壊滅状態であった。
 見渡せば、あと六体だけ。
 あとは、残党狩りである。
 シンヤは噛み付かれた恨みを乗せたキックで目の前のハムスター妖獣を蹴り倒し、リネも自然の槍から光の槍へと変えて、一体ずつ始末していく。
「あとちょっとですね……何だか、虐めてるような気もしますが……仕方ありませんよね」
 光の穂先が突き刺さり、断末魔の声をあげながら消えていくハムスター妖獣を見ながら、どこか心が痛むリネだった。
「どうやら、無事で終われそうですね」
 成美も一体を沈め、追い討ちをかけるように黒燐蟲が残ったハムスター妖獣に喰らいついていく。
 黒い蟲の群れに覆われ、悲痛な声をあげるハムスター妖獣。
「撃ち漏らしたのを頼んだよ」
 そこから逃げ出し、生存したのは、わずかに二体。
 数は力なり。
 その数無き、力無きゴーストを相手することなど、十人の能力者にしてみればたわいもないことだ。

 残ったハムスター妖獣もとどめを刺され、山に平和が戻った。
 木々から漏れてくる優しい風が、戦いで疲れた体を癒してくれる。
「哀れな連中ね、自然に生きるコトすらできないなんて」
 美夢はゴーストが消え去った戦場を見渡した。
 妖獣は死んだ動物の残留思念がゴースト化したものだ。
 それは、この山で捨てられ、繁殖したハムスターの……などと考えつつ、遊貴は荒れた場所を直していた。
 もしかして、人間達のエゴイズムがゴーストを生み出すきっかけになっているのかもしれない。
「いくらかわいくたって、中身はこわいのね……」
 外見だけに惑わされず冷静な判断ができるようになりたい……と、戦いの中で知ったことを心に刻み込むルナ。
 その横ではブルースがガンちゃんの頭を撫で撫でしつつ、特製チョコレートをご褒美としてあげていた。
「ガンちゃん偉い! ハムスターよりかわいいぞ!」
 ご主人様にほめられ、ガンちゃんは嬉しそうに尻尾を振った。
「さて、撤収しますか」
 それにしても今回はたっぷり不浄泥濁陣を堪能しました……成美が戦場に背を向け、シンヤも帰る支度を始めた。
「何だか、ネズミがちょっと怖くなってきた……」
 まさかいないよな? と、茂みを注意深く見ながら用心するシンヤだった。
 帰路につくまでのわずかな時間、舜はカメラで山の自然を撮っていた。
 ここにくる写真家はどんな景色を写すんだろう……そう思いつつ、一つの命を救ったということに、ほっと胸を撫で下ろす。
 そろそろ夕方のはず。
 でも、まだ日差しが強く感じる。
 夏なんだな、そう肌で感じながら、能力者達は山をあとにした。


マスター:えりあす 紹介ページ
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いまいち
参加者:10人
作成日:2009/06/28
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