<リプレイ>
●一人の幼女と五人の変態たち 問題の旧校舎は、古びた木造の校舎だった。かなり老朽化が進んでいるらしく、板張りの廊下はもちろん、階段も一段一段上るたびに、ギィー、ギィーと軋んだ音を立てる。 「ところで亀山先輩」 「なんだよ」 睦月・誡(誇り無き夜闇の剣・b48547)は意味ありげな表情を浮かべ、亀山・草介(キングオブチキンハート・bn0168)の隣に並んだ。 「今回、私と先輩以外は女性ですな!」 「そうだな」 「これは、やる気が出ますな先輩。むふふふふ……」 「ああ、確かにやる気がムラムラ……って、言っとくが俺はロリコンじゃねーぞ」 女性といっても今回は何故か小学生が多い。前を歩いていた相上・鳴瑠(雷鳴閃姫・b22667)の後姿を見ながら、それを気にした風に答えた草介だったが、そこでふと考え込んだ。 「……いや、しかし今のうちから『優しいお兄ちゃん』的な立場を大事にキープしておけば、五年後くらいには自分に好意を寄せる従順な美少女が出来上が──」 「静かにしような」 後ろを歩いていた双葉・清香(てぃーえす・b61694)は草介の頭をガツンと殴る。 「この辺りでいいと思うなー」 二階への階段を上りきる手前で、言乃葉・伝(元気印なたくあん娘・b02161)が皆を振り返る。ここなら廊下からは死角となるが、地縛霊の現れた音や気配が十分に伝わるはずだ。 「それじゃ私たちはここで待ってるわね」 「頑張りますです」 久峩・亜弥音(茶狂・b04140)の言葉に七瀬・鏡華(古流武術継承候補者・b49180)は、やや緊張した面持ちで頷いた。そして身を隠している皆に見守られながら、二階の廊下へと足を踏み入れる。夕方といっても日はまだ高く、窓からは十分な明かりが差し込んでいた。 (「これで地縛霊が現れなかったら……ボク女の子として自信が無くなっちゃうですよね……」) 鏡華は窓ガラスをちらりと眺め、そこに映っているワンピース姿の自分を確認する。念のためにと女の子らしい格好をしてきた鏡華だったが、それは杞憂に終わった。 「ハァ……ハァ……幼女ぉ……」 ワンピースを着ていたことが幸いしたのかは分からないが、地縛霊はいともあっさり姿を現す。いずれにせよ地縛霊は鏡華を女子小学生と認めたのだ。 (「うぅ……」) 鏡華は背後に生じた気配に薄気味悪さを感じながらも、それに気付かないフリをして廊下を進んでいく。 「可愛いよぉ……可愛い……可愛い可愛い可愛い可愛い……」 地縛霊はブツブツと呟いていたが、その声を段々と大きくしながら鏡華へと近付いていった。そして鏡華の背後に立った瞬間、後ろから彼女を抱きすくめる。 「好きだよ……好きだ……大好きだ……」 (「くっ……! 我慢なのです……」) 耳元で囁く声に思わず反撃してしまいそうになった鏡華だったが、拳をぎゅっと握り締めてそれを耐える。ここで戦ってしまったら、特殊空間に囚われている女の子を助けることが出来なくなってしまうからだ。 「幼女……フフ……幼女……」 地縛霊は鏡華を抱き上げると3年B組の扉をガラリと開いて滑り込み、素早くピシャリと閉じる。
「参りましょう、皆様」 真月・沙梨花(死門封殺の呪を操る者・b56331)の言葉に頷くと、能力者たちは『3年B組』の札が付いた教室へと駆け出した。
●五人の変態と四人の幼女とロスタイム幼女 特殊空間の中は一見広めの教室にしか見えないが、どこか異質な空気が漂っている。教室といっても机や椅子が整然と並べられているわけではなかった。昔懐かしい木製の机や椅子が数個、辺りに転がっているだけだ。そしてそこに待っていたのは四人の男たち。背の高い痩せぎすの男、首にタオルを掛けたジャージ姿の男、ねずみ色のスーツを着た口髭の男、小太りでハゲ頭の男。 「幼女ォォォォッ!!」 「幼女だ……幼女だ……」 「フヒ……フヒヒ……フヒィ、ヒョヒョヒョ……」 「嫁になれェェェッッ!!!」 てんでバラバラの風体をした四人だが、まともな会話が出来そうもない事と足に繋がれた鎖の二つが、彼らも地縛霊である事を示していた。新たに表れた四人の変態は鏡華ただ一人を目指して殺到し、覆い被さろうとしてくる。 「変態さんはいなくなれー!」 鏡華は自分を押さえつけていた地縛霊の腕を振りほどくと、振り向きざまに蹴り上げた。斬撃のような蹴り足が変態の胸元を斜めに切り裂く。 「幼女! 幼女!」 「何もしないから……愛してるから……」 「フゥ……フゥ……フ、フフフフ、フッフッフフフゥ!」 「好きなんだヨォォォォォ! 仕方ないんだアァァァァァァ!」 だが群がってくる四人の地縛霊までは手が回らない。多勢に無勢とはこのことだ。 「大丈夫か!」 そのとき教室の扉が荒々しく開け放たれ、小学生の仲間を先頭に皆が飛び込んで来る。教室を見渡せば中央には地縛霊たちに囲まれた鏡華。隅には倒れている少女がいた。ユヰ・アドラステア(名も無き中間色・b27420)は彼女を眠らせておこうと思っていたが、既に意識を失っているようで、ヒュプノヴォイスの必要は無さそうだ。 「れでぃを攫う敵め! 返していただきますよ!」 誡は声を張り上げながら少女に駆け寄ると、意識の無い彼女を抱き上げる。それを邪魔されぬようにと、伝や清香は地縛霊たちに接近した。 「ははは、変態狂師の夢とか最悪だな……!」 新たな幼女の出現を理解した変態たちは、分散して襲い掛かってくる。 「愛してるぅぅぅぅぅ!!」 「リコーダー持ってる? リコーダーくれよ。な? リコーダー寄越せェェェッッッッ!!!!」 「結婚しよう! 結婚しよう!」 伝にはジャージ姿の男が、鳴瑠には口髭の男が、沙梨花にはハゲ頭の男が、それぞれ突進してきた。教師風の変態は相変わらず鏡華に粘着している。 「このロリコン野郎ども、思う存分相手してやっから成仏しやがれ」 最後の地縛霊、痩せぎすの男の前に立ち塞がる清香。変態は清香をじーっと見詰め── 「幼女ォォォォ! 俺だけの幼女ォォォォォ!」 「あーっ!?」 変態は吼えながら走る。三ヶ月前までは小学生だった清香を華麗にスルーして、地縛霊は鳴瑠へと向かった。どうやらロリコンにとって三ヶ月の差というものは天と地ほどの開きがあるようだ。 「気持ちの悪い方々ですね……。大人しく動かないでいて欲しいです。と、鳴瑠は思います……」 鳴瑠は自分の傍に寄って来た二人の地縛霊を茨の領域で包み込んだ。 「幼……女……」 「あぁ……ぁ」 魔力の茨に絡め取られた変態は、必死にもがきながら鳴瑠に向かって手を伸ばしている。 「ああはなりたくねーなぁ」 「草介、お前は大丈夫だろうな?」 ユヰは草介に鋭い視線を向けた。 「も、もちろん。真面目に戦うぜ!」 炎の魔弾を撃つ草介を横目で確認しながら、ユヰは荒れ狂う吹雪を起こして地縛霊たち全てを攻撃する。 「こちらを見て貰おうか……」 沙梨花は茨に囚われて身動きが取れない地縛霊を、二人まとめて龍撃砲で撃ち抜いた。
●変態じゃない、自分に素直なだけ 五人の地縛霊たちは戦いが始まって一分と経たないうちにほとんどが無力化されていた。二人は鳴瑠の茨に拘束され、残りは亜弥音の使役するケットシー・ワンダラー、翠蘭のダンスによって文字通り踊らされている。 「髪の毛ェェェェェ! 触りたいヨォォォォ!」 「……なんかキモチワルイー」 攻撃するわけでもなく逃げるわけでもなく、間近で踊りながら血走った目で叫んでいる変態は単純に怖かった。伝は反射的に白いキノコ型の弾丸を放ち、地縛霊の眉間に命中させる。 「スケちゃん!」 シューティングファンガスを受けて仰け反ったところを、スカルサムライの多助が滅多切りにした。ジャージ姿の変態は身体に大きなバツ印の刀傷を刻まれ、ばったりと倒れる。 「ブチぬけぇぇぇ!」 清香は自分をスルーした痩せぎすの男、その後頭部を思い切り蹴り飛ばした。顔面から床に叩き付けられた地縛霊は、そのままピクリとも動かない。 「食らえっ!」 誡の足元から伸びた影が腕の形を作り、口髭の男を引き裂いた。サキュバス・ドールのメイは魔力を秘めた口付けを飛ばして追い討ちを掛けると、口髭の男はゆっくりうつ伏せに倒れ伏す。 「幼女が好きだから! 大好きだから! 幸せにするよぉぉぉぉ!!」 「背負う災禍と呪を代償に……貫く」 地縛霊の妄言に惑わされることもなく、沙梨花は青龍刀を構えて、ただ真っ直ぐにハゲ頭の男の腹部を貫いた。串刺しにされたハゲ頭の男は沙梨花の肩を掴もうと手を伸ばしたが、その途中で力尽きる。こうしてあっさりと四人の変態が散っていった。 「幼女が好きで何が悪い! 何が悪い!」 最後に残った地縛霊は鏡華に抱きつこうとしたが、目の前に滑り込んできた翠蘭を代わりに抱き締めてしまう。さらに亜弥音の魔弾をまともに受けた男は、魔力の炎に包まれた。 「くふ……ハァ、ハァ……」 火達磨にされたまま、地縛霊は膝をつく。その拍子に足元の鎖がじゃらりと鳴った。地縛霊も苦しんでいるのだろう。 「ハァ……ハァ……ウヒ、ヒヒヒ」 だが、鏡華はようやく悟った。地縛霊の息が荒いのは、苦しんでいるからではない。むしろ興奮し、恍惚としているのだと。 「星となれぇぇぇ!!!」 身に纏う風の力と怒りと生理的嫌悪感を刃に込めて、変態の顎に向けて必殺の一撃を放つ。宙を舞った変態はもんどりうって倒れ、そして動かなくなった。
●少女たちの願いと思惑 「終わったようですね」 沙梨花は息を整え、額に滲んだ汗を拭き取る。 「まぁ、なんつーか……こう、コメントに困る地縛霊だったよな」 地縛霊からスルーされたことに微妙な気持ちを抱きながら、清香は感想を述べた。 「皆さん、これからお茶にで……ぐふっ!?」 そう言い掛けた誡の首をメイの尻尾が巻きつき、締め上げる。 「さて、最後の仕上げをして早めに退散しよう」 ユヰと伝の二人は助け出した女の子を旧校舎の入り口へと運び、眠ったままの彼女を校舎の壁にそっと寄り掛からせた。ここなら教員たちの駐車場にも近い。まだ車も残っているようだし、すぐに見付けてもらえるだろう。 「あれが変態さんかぁー……」 しんみりとした口調で呟くと、伝は『ああいう人には気をつけよう』と心に刻み込んだ。 「変態さん……今後出ないで欲しいのです……」 オレンジ色に変わりつつある空を眺めながら、鏡華も祈る。
だがしかし、彼女の願いはきっと叶わないのだろう。 何故ならこの世に変態は、それこそ星の数ほどいるのだから。 その思いの強さから生まれたゴーストは、まだまだ存在しているに違いないのだから。
|
|
|
参加者:8人
作成日:2009/07/20
得票数:楽しい5
笑える23
泣ける1
怖すぎ3
ハートフル1
せつない1
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
| |