夏華 〜国営公園の花火大会2009〜


   



<オープニング>


 人々の手が届かぬ大空で、彩られた花が蕾を開く。
 届かないから美しいのか、闇に浮かぶ光だから美しいのか。或いは、大切な人と共に見上げるから美しいのか。感じ方も理由もそれぞれに、毎年20万もの人が園内を訪れる。
 今年も、東京都内の国営公園で花火大会が開催される。
 打ち上げ総数は5000発。
 連発するというより、一つずつじっくり打ち上げていく――どちらかというと、まったりした花火大会だ。
 ゆえに大玉がメインだが、終わりを報せるワイドスターマインは幅が約300mとダイナミックで、「全て見終わった」のだと判っていても、花火の余韻がなかなか消えない。
 打ち上げられる種類の一つに、繊細な花を咲かせる芸協玉がある。毎年趣向が凝らしてあり、開いた花の色や形が次第に変化していく様も好評だ。伝統的な牡丹や菊花火はもちろん、経験と技術を積み重ねた『匠の華』まで、惜しげもなく披露される。
 他にも、定番の一尺五寸玉や、子どもに人気の星型やハート型、動物を象ったものまである。
 しかも、今年は東京五輪招致活動として、金銀銅の煌きや、五色の大輪も空に咲かせてくれる。

「基本はまったり眺めるような花火大会だけど、屋台周辺はすっごく賑やかなんだ」
 君に嬉々として話すのは、廊下で出くわした井伏・恭賀(運命予報士・bn0110)だ。
 君へ声をかけてきた理由は他でもない。
「25日、夜7時20分から8時半までなんだけど、暇なら行こうよー」
 顔を覗き込むように誘いをかける恭賀は、普段と変わらぬ緩い笑顔のまま。
 もう少し詳しく話して欲しいと君が言うと、恭賀はパンフレットを君に差し出した。

 メイン会場は『みんなの原っぱ』という、文字通りの原っぱだ。
 東京ドーム二つ分と広大で、花火大会中、最も賑やかな場所でもある。
 原っぱは木々に囲まれているため、観衆の中で立ち見が嫌なら、木々の下、原っぱの隅で腰を下ろすのも良い。もちろん、立ち見するほど間近で見上げる花火も壮観だ。
「俺は原っぱの隅で見る派なんだよねー。高城は逆に、人混みへ突っ込んでく派っぽい」
 それぞれ原っぱ内の好きな場所で、好きなように見るのが一番だと彼は話す。
 しかし、観客数が尋常ではないため、行ったり来たりするにはかなり体力を使うようだ。そのため食べ物など屋台で買えるものは先に入手し、屋台を充分満喫してから原っぱへ向かうのが良いと付け加えて。
「あたしは屋台もがっつり楽しんでくつもり、よ」
 そんな君の前に、高城・万里(田舎育ちの野球猫・bn0104)までもが姿を現した。
 パンフレットを手に持っている。彼女も、誰かを誘ってきたところなのだろうか。
「高城お疲れー。……あ、あのさ。君もよかったら他の能力者さんに声かけてきて欲しいんだ」
 半ば照れるように瞳をすがめ、万里から視線を移した恭賀が、君へ願いを託す。
 人は多い方が楽しいだろう。もちろん一人静かに過ごすのもまた、素晴らしい時間となりそうだ。
 どうしようかと考える君に、ここで恭賀が注意事項を告げる。
「あ、そうだ。イグニッションとかは駄目だよ。……使役ゴーストも、残念だけどお留守番」
 微かに眉尻を下げて笑い、使役さんはまた別の機会にだね、と心なしか残念そうにで。
「それじゃ、一緒に行けるならよろしくー。向こうで会えるかはわかんないけど」
「何せすごい人混みだもの、ね」
 言い終えると、別の人へも声をかけたいのか、二人は君の前から立ち去ってしまった。

 君は、花火大会へ行ってみる?

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参加者
NPC:井伏・恭賀(運命予報士・bn0110)




<リプレイ>

●屋台にて
 藍色で夏をゆっくり染め上げ、深く優しい風はただただ人々の背を後押しするように撫でていく。
 夜を待ちあぐねた人々が揃って国営公園の門を潜り、普段から静かに横たわる公園は、そんな人々を広大な胸へ受け入れる。
 訪れたのだ。夜明けまで続くような、長くも短い祭りの夜が。

 人混みにはぐれてしまわぬようにと、修哉が久方ぶりの着流し姿で冬華の手を引く。
「ちゃんと花火、見られるかな?」
 不安を口にする冬華は、繋いだ手からじんわり染み入る温もりに、頬を赤らめずにいられなかった。
 屋台の群れを通り過ぎる人もいれば、足を止め明るさと喧騒に酔いしれる者もいる。
 明らかに難しい大物へ銃口を定め、龍麻は同じ構えを取った恭賀へ笑いかけた。
「言霊があるのなら……俺はあれを絶対取る!」
 宣言と共に撃ちだした弾は、見事大物を落とす。ね、と言わんばかりの顔で恭賀が彼へ笑顔を返していて。
 誰かとすれ違う度に林檎飴を舐め、ふらふらと屋台を抜けてきたアイリは、知った顔を発見し、立ち止まる。花火へ誘いをかけた相手を発見し、軽く挨拶に走った。
 駆けゆく少女の影さえ知らず、ふわふわと巨大なプールで漂う無数の金魚が、突然映りこんだ二つの顔に驚き駆け巡る。
「私、負けず嫌いですよ?」
「悠ちゃんには負けないよ!」
 つかさと悠がポイをぎゅっと握り、揺れる水面へ突撃させた。
 波打つプールの先、数店存在する射的屋のひとつに、その兄妹はいた。妹は兄のために。兄は妹のために的を狙い撃つ。相手を想い射れば、それは導かれるように結果を生み、瑞明と桜霞は手に入れた品を交換し合った。
 同じ頃、激戦に百円玉の山が猛スピードで崩れていく中、射的屋を覗いた恭賀を、チャンスとばかりに翔太が引っ張る。
「きょうが が なかまになった!」
 しかし、やろうと促す前に恭賀は浴衣の袖を捲くっていて、暁までもが満面の笑みを浮かべた。
「負けたらとうもろこし奢りなんですよ!」
「とうもろこしでも何でもドンとこい!」
 言わなきゃ良かったと恭賀が後悔するのは、もう少し後だ。

 連なる射的屋の一件から、みりるの歓声が夜空へ鳴り響いた。直後、その声は喜びの音を孕み、渡されたぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
「俺コレ系一杯持ってるし……記念にやるよ」
「うわー、大事にするー!」
 埋めたみりるの表情は、きりっとしたクマのぬいぐるみだけが知っている。
 かた抜きに挑む者は幾人かいた。華音も行く末を見守る中、ヒーローの面を揺らし、悠樹がカカシのかた抜きを前に唇を綻ばせる。今となってはやや珍しいかたぬきの店に、集まる人々がいる。
「意外とハマるんですよねコレ」
 悠樹のすぐ横では、僅かに追いつけなかった恭賀が頬を緩ませて、
「よーっし、負けたからなんか奢るよ〜! 何がいい?」
 大きく胸を張った。気前が良いというより、お兄さんぶりたいのだろうか。
 彼らのように屋台で遊び時間を使う人ごみの中を進み、食べ物ばかりへ狙いを定める輪もあった。
「食べたいものある人は言いなよー」
「じゃあ、わたくしはりんご飴!」
「ねえ、わたあめ屋寄ってー」
 義衛郎が告げたが早いか、百花と透子は矢継ぎ早に口にする。自らも食べ物を抱えつつ、義衛郎は小柄な諒を心配し何度か振り返る。お下がりの浴衣を纏った当人は、次々食べたい物を口走る仲間達に目を丸くさせていた。早く買い物を済ませ、場所取りに精を出していたジンクの許へ急がなければ。
 きっと喧騒から遠い素敵な場所で、待っているだろうから。

●仲間と
 眩い光が横から降りかかり、汐音は慌ててイセスを問い質す。
「何だそのにやけた顔は! 一体何を撮った! ちょっとデータ見せてみろ!」
 賑二人の賑やかさが、空へと昇っていく。
 誰かと一緒に祭りへ来るなど、一零には考えもつかなかった。世界を感じるのではなく、世界に混じるのだ。確かな変化に口元の緊張を緩めれば、傍らで志音がその表情に呆然となった。
 タイミングというものは、とにかく気紛れなものだ。
 大華を映した空を、玲紋は見届けたのにエルが見損ねてしまう。すかさず「今上がってる方がでかいって」と玲紋がフォローするものの、エルは更なる高みを望むばかりだ。
 上がる花火に意識を奪われる人々の隅、ぎこちない桜を手招き、ツカサがカメラを掲げ記念撮影をしようと告げる。促されるままに桜は微笑んだ。ほんの僅かに。
 同じく花火を写真に収めていたのは、克乙だ。
「写真では、体全体に響く花火の音を伝えられないのが残念です」
 心底悔やしそうな克乙を、別の機会があるって、と恭賀は相変わらず緩い笑顔で宥めた。
 一方、喧騒に最も近い場所、涼しい顔の万里へ、不意にかちわり氷が差し出された。途端に万里は瞳を輝かせ次の瞬間には「嬉しい、です」と照れる。
「ここの空はすごく近いね」
 弥琴の声が花火に掻き消えた。花咲く大空へ手を伸ばす。掴めそうだった――届かないと、わかっていても。
 大勢の中にいれば、無き語さえ掻き消されていただろうか。喉を嗄らすように柊・エルが涙を溢れさせる。カキ氷のシロップ色に染まった新品の浴衣を、カイルがタオルで丁寧に叩いて色を抜く。
「応急処置だ。ほら、なくな」
 食べるの手伝ってやるから、とカイルが告げると、エルは涙を飲み込むように頷き、心を委ねた。

 二度と訪れないひとときを精一杯楽しむ。
 そんな意気込みで業が紡いだのは、時雨への爽やかな言葉だった。
「なので、しぐデレ……神月先輩。このロング羽織をどーぞ」
 どう見ても手にあるのは女性用だ。
「説明しよう! しぐデレラとはヒロイン時雨く……」
「オレはれっきとした男の子なのですがっ!」
「ほら焼きソバを食べさせてあげよう。はいアーン」
「むぐぐ!?」
 陸が見えないカメラ目線で説明をし始めたが早いか、時雨の反論を望が焼きそばを押し付けて制止する。
「しぐデレラ、たこ焼きを買ってきて頂戴。3秒以内よ」
 アリーセに至っては無茶な要求を向けてきた。
「どうせならもっと可愛い女子にしろよ!」
 至極最もな抗議が、時雨の口から飛ぶ。しかし、やりすぎたかなと首を傾いだ夏希も刹那、しょうがないよと笑顔を向けるばかりだ。
 仲間とふざけあう若者達がいる一方、忙しない日常ゆえ、二人きりでのんびりする時間の有り難さを、蒼はしみじみと実感する。隣を見遣れば、止まることなく食べ物を頬張る千歳の姿がある。僕ら変わってないよなー、と蒼は変化無き距離に胸を撫で下ろした。
 飽きないから好きだと、瑞鳳は花火をそう称した。しかしすぐさま兇の顔を覗き込み、比べるまでもなかったと頬を擦り合わせる。すぐ消えてしまうより、ずっと傍にいてくれる方が良い。
 儚さをも飲み干した二人の気持ちが、重なる。

●みんなの原っぱ
 初めて二人で出かけたのが、この花火だった。
 灯は苗字で呼んでいた頃を懐かしみ、愛おしそうに瞼の裏へ蘇らせる。そんな灯の横顔を花火が照らすのを見つめ、静馬は溢れ出る幸せを噛み締めた。
「あ、姉様! ハートだったのよぅ! すごいのね!」
 見るも聞くも初めての世界にロゼットは興奮を煌かせた。そんな少女を、霞彗はただただ目を細め見つめる
 高揚した気持ちを隠しきれないのは、近くにいた笙乃も同じだった。歓声が夜空に瞬く。笙乃と一緒に見上げる恭賀も、同じように。
 楽しんでいるだろうかと、空鵺が傍らを覗けば惚けた想いに胸が焦がれ、洸弥はそんな空鵺を案じて、腕を伸ばす。
「せっかくの花火見逃すぞ?」
 空鵺の頭をぽんと撫でる手は、熱を帯びていた。
 みんなの原っぱの隅で過ごす若者が多い中、人ごみを掻き分け、間近で見上げる花火の大きさと地響きに、麗音が自分を包む腕を握った。重なる色も人々の意識も、哉蛇と麗音の幸福に満ちた逢瀬を知らず、咲き続ける。

 咲いても咲いてもすぐ散ってしまう花に、葉里が濡れた睫毛を震わせる。悠は彼女の表情に紡ぎかけの唇を閉ざし、ティアリスはそっと葉里へ顔を寄せて。
「……散ることを怖がっていると、お花は綺麗に咲けないのですよ」
 少女からの言葉に、葉里は強張った唇を解き、頷いた。
 彼女はどんな顔をして、花火を見ているのだろう。ふと思い浮かんでイグニスが振り向けば、すぐ横ではルシアが花火に照らされた彼を見つめていて。視線が重なったことに、二人して小さく笑った。
 これを見せたかったのだと、柘榴が達成感を含み微笑めば、嘉禄もフィリーゼも顔を見合わせ礼を述べる。取った帽子を目深に被り、嘉禄はこれが粋ってもんかな、と胸の内で呟く。三人が握る杏飴に、花火の彩りが映り込む。
「先輩といると、不思議と落ち着くのですわ。癒し系、でしょうか?」
 銀糸に煌く浴衣の袖を揺らし、彩華が首を傾ぐ。彼女からの評価に、恭賀ははにかんで「君もねー」と返しながらカキ氷をつついた。
 どん、と鈍く心臓を掴むような職人の魂が、また空へと舞い上がる。
 恒例の掛け声を拓己が木霊させる中、健斗は懐中電灯で顔を照らし、うらめしや〜、と仲間達を脅かしていた。愛香が悲鳴を上げ、ももきは健斗をキッと睨む。
「脅かすなアホ!」
「わ、猫さんみたいです」
 のんびり届いた悠良の声と拍手に、愛香とももきが素早く空を仰いだ。
「にゃ、にゃんこー!!」
 消えかけの猫型花火が、しかと目に映った。

 一発一発が空を飾る度、ジュリエットとららみはくっつきあったまま、堪えきれない興奮を叫びへと変える。
「こりゃーすげぇ! 腹にクルねッ!」
「あたしあんなおっきくて綺麗な花火見るの初めて!」
 打ち上げの間は綿あめを「あーん」し、花咲けば叫ぶ二人の時間は、あっという間に過ぎていった。
 同じ頃、互いの胃の大きさに驚きながら夏夜と漣花が腰を下ろしたのは、原っぱの外れだった。会場で見る方が迫力があって良いと夏夜がはしゃぎ、漣花もつられるように想い出を紡いでいく。やがて振り返るであろう、その時まで。
 金魚がゆらゆらとココナの動きに沿って揺れる。開いた花の色や形が徐々に姿かたちを変えていく様に感動し瞳を輝かせるココナを微笑ましく眺め、ウィルもまた、世界一大きな花へ想いを馳せた。
 緩やかな時間の流れと二人を祝福するかのように花が咲く。たまにはこういうのも良いと、省吾と薫がたこ焼きへ手を伸ばせば、二人と同じように寄りそう串に、笑いを零さずにいられなかった。
 白桜の簪が花火の色を映す下で、諷がかき氷を頬張る。沙夜は濃藍の浴衣の袖を引き、綺麗よね、と僅か口元へ手を添えた。食べ物を奢った側の誠が、一口頂戴ー、と美味しそうに食べる仲間達へ毛をかければ、下駄を鳴らした司姫が振り返って。
「一口と言わずに一個どうぞ。多めに買ってますから」
 各々が空腹を満たす頃、記念撮影をしたいとほぼ同時に言い出して、カメラを手に取る。丁度発見した万里も手招けば、嬉しそうに頬を染め駆け寄ってきた。

 花火が上がった時は何て言うんだっけ。始まりは小夏の些細な疑問だった。結局答えが出る前に花火が打ち上がり、
「たまごやきーっ!」
「こなちゃん、それは、たまやー! だと思うの……!」
 弓姫が笑いたい衝動に声を震わせた。
 穏やかな時間の流れは、誰にでも平等に訪れる。
 世話になった礼をぼそぼそとあるかが紡ぐ間に、天空が光った。鮮やかに散りゆく花は見事で、しかし一瞬ゆえに強く瞳へ刻まれる。来年の記憶にも刻まれるだろうかとあるかが傍らを一瞥すれば、霞月の視線と重なり合って。いてやらねばならないと、霞月はそんなあるかへ誓いを手向けた。
 音と色の洪水が湧き上がる。花火大会の終わりを報せる壮大なワイドスターマインが、余力を振り絞るかのように夢を打ち上げたのだ。
 繋いだ指先を温もりを逃さぬよう、乙女は藍の瞳で花火を映したまま想いを紡ぐ。刹那、遥が乙女をそっと抱き寄せる。
 返事は、言葉にせず伝えられたのだ。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:84人
作成日:2009/08/02
得票数:楽しい13  知的1  ハートフル14  ロマンティック6  せつない1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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