夏こそ温泉に行きたい


   



<オープニング>


 夏。それは一年の中でもっとも暑い季節。
 冷夏が来ると言われていた今年も、いざ夏が来てみれば例年通りの猛暑。
 こうなれば、海やプールに行きたいと思うのが人のサガである。
「というわけじゃからな。温泉に行こうではないか。のぅ?」
 のぅ? などと言われても。藤原・鈴音(中学生土蜘蛛・bn0211)は、そんな事を言いたげな雰囲気の中で、さもありなんと頷く。
「確かに、夏に温泉というのは一見合わぬかもしれん。しかし、よく考えるのじゃ」
 鈴音曰く、夏の海ほどイモ洗いなものはない(と雑誌に載っていた)そうである。
 しかし、そんな所に行くよりも、温泉の方がいいのでないか。
 同じ塩水ならば、温泉でもいいじゃないか、と。
「どうにも、とある山奥に良質な塩泉があるらしくての?」
 塩泉……とは普段聞き慣れないが、塩辛い温泉で色々と身体にもいい温泉なのだという。
 温泉としてはかなり大きい方だが、人の立ち入らぬ秘境な位置にあるせいか、行けば所謂独占状態にできるという。
 となれば、使役ゴーストと一緒に浸かる事も可能ということでもある。
「まあ、男女の仕切りがあるわけでもないからのう。水着とタオルは必須じゃがな?」
 鈴音はそう言うと、面白そうにカラコロと笑う。
「で、どうするのじゃ?」
 鈴音はそう言うと、手近な机に腰を下ろして笑うのだった。

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参加者
NPC:藤原・鈴音(中学生土蜘蛛・bn0211)




<リプレイ>

「彰人くん、早く早くっ! 温泉だよっ! 温泉っ!」
「さぁ行くぞ都、水着の貯蔵は十分か―?」
 何やらテンションの高い掛け合いが響く、青い空の下。
「あぁ、塩温泉は初めてですがいいものですね」
 広がる光景を見て、そんな霧芽の声が響く。
 そう、ここは山奥の、とある温泉。彼女達は今日、此処に来ていたのだ。
 塩温泉初体験という面々も多いが、彼等も霧芽同様、感嘆の溜息を漏らしていた。
 目の前に広がる雄大な光景、そして普通の温泉とは少し違う、塩温泉というモノ。
 楽しみは、MAXに達しようとしていた。
「覗くでないぞー?」
「覗いたりしませんって! どうせ混浴ですし……」
 そんな冗談交じりの応酬がかわされ、ルイーネの発案により造られた更衣室で、それぞれが水着に着替えて浸かり始める。
「やっぱり塩辛いな……肌もひりひりする」
 温泉を少しなめてみた縁が、そう呟く。
「はい、どうぞ。皆さんには日ごろいろいろご面倒かけていますから今回はあたしは皆さんに奉仕するのですよ♪」
 お茶を配っているりのあの声が聞こえ、縁は手伝おうかと声をかけようとして。
「水着コンテストとても可愛かったですよ」
 光もまた、りのあと同じようにお茶を配り、ルーミアに声をかけているのが見える。
「ありがとうございます、ですけど……ゆっくり出来る時にゆっくりしてくださいね? お二人は学園祭の間良く動いていらしたのですから」
 そうしているうちに、リースが2人の手を引いて温泉に浸かる様に促し始め、縁もそれに追随する。
 温泉は、誰もがゆっくり楽しむべきものなのだから。
「しゅーちゃんとお出かけできて嬉しいなー♪」
 そんな光景が繰り広げられている横では、由梨の屈託のないセリフに終が顔を赤くしてツンデレのような台詞を吐きだしている。
「ベ、別に……か、顔が赤いのは温泉にのぼせただけなんだからね! 勘違いしないでよね!」
 そう、温泉とはカップルの多い場でもある。終達だけではなく、別の場所でも同じような光景なそこかしこにある。
「こうやってぇ〜、一緒に温泉に入るのもぉ〜、久しぶりですねぇ〜」
「今日は思う存分のんびりしようぜ、瑠璃家」
 瑠璃家と昇一郎は、互いに寄り添うようにして見つめ合っている。
 それは自然とそうなって、何となく目を逸らす事ができなくなっているのだけれども。
 やはり、同じような光景は他にもある。
「薬斗くん、誘ってくれてありがとう、ほんと、来てよかった」
「いてて……っ、男の子だものしょうがないデスヨ?」
 薬斗は、何をしようとしたのかジウに手の甲を抓られながらも幸せそうな顔をする。
 久々のデートとなった2人は、なんだかんだで嬉しそうな顔をしている。
「……欲を言えばその姿は僕以外の人に見られたくないかな」
「大丈夫、この水着も私も葬さんだけのものですから……」
 そう言ってキスを交わす葬と繭もまた、2人に負けない仲の良さを発揮している。
「水着とはなんとも無粋だが、此処は雑多なモノが多すぎる……夏輝を他に見せるつもりもない、今はコレで愉しもう」
 何やら他とはちょっと違う事を言うのは、護だ。
 照れ隠しに温泉を掬ってみている夏輝を抱き寄せつつ、ゆっくりと浸かっている。
「む、味噌は貴方に関係あることなの! 夏輝の作ったの食べるの!」
 何やらカップルを通り越して新婚夫婦か何かのような会話をしている2人だが、それなりに楽しそうだ。
「山奥に塩泉、ということは昔は海に繋がってたのかしら?」
「それは分からんが、泉質も良い様子だし……疲労回復にはもってこいだな」
「塩泉、初めてですけど、体に良さそうな気がしますね」
 ルイーネと邦宜がそんな会話を交わしながらゆっくりと浸かる横では、信長や他の第六天の仲間達も気持ち良さそうに浸かっている。
「そうそう、まりあーじゅは水着コンテスト二位だったそうだな。おめでとう」
「堂々たる結果じゃ。今日、来ておる水着も似合っておるの。そういえば龍顕に信長殿はバトルロワイヤルでベスト100じゃったの」
 龍顕が話を振ると、呉葉もそれに追随する。
「わたしも参加してみたのですが、緊張のしっぱなしで死んでしまいそうでした。大勢の人前に立つのはどうにも苦手です……」
 白髏が溜息をつき、そんな白髏にまりあーじゅがジュースを差し出す。
「ちなみにここの女性陣はスタイルいい人が多いので秘訣を聞きたいものです……特に胸とか! 胸とか!」
 大事な事なので2回言ったまりあ〜じゅに話を振られ、呉葉が困ったように笑う。
「温泉というのも……良いものですね」
 そんな仲間達の様子を見て、トリスタンもクスリと笑うのだった。
「濡れて毛がぺったりしても、可愛い……湯加減どう?」
「……あれだ、濡れたモーラットって何だこれー!」
 真グレートモーラットのヒスイと一緒に浸かっている漣の横でプカプカと浮かびながら沙希はヒスイをツンツンと突く。
 温泉は広くて、沙希が一人プカプカ浮いているくらいでは、他とぶつかったりはしないので安心である。
 勿論、浮いているのは一人ではなかったりするのだが。
「塩泉、恐るべし」
 わざわざ浮き輪を使ってプカプカしている月吉の視線の先にいるのは弥介だ。
「もし沈む時は一緒よ……!」
「むきゅー」
「あ……! たわさんお湯舐めちゃ駄目!」
 何やら一部にちょっと弱気なセリフが混ざっているようだが、とても楽しそうな二人の様子を見て月吉にも思わず笑みが浮かぶ。ここは足が着く、という事実を飲み込んだままで。
「いやー、眼福眼福ー」
 何やらだらしない顔でお湯に浸かっている鈴音(九段下)は、色々なものを捨て去った感じにゆったりとしている。
「う〜ん、温泉気持ち良い……あ、真赭と藤原さんも一杯どう?」
 遥日は、何やら妙な夢を見たらしい真赭に麦茶を差し出す。
「うぁ……太平洋の真ん中で、乗ってた船が沈没する夢見た……」
 どうやら、寝ぼけて温泉に鼻まで浸かってしまったようだが……麦茶を飲みほすと真赭は、ぷはー……と生き返ったような顔を見せる。
「目を閉じて……心を鎮めて、水の流れを読めば、いずれは……」
 水の流れなるものを読もうとしている燐灰もなんだかウトウトしているが、乗ってた船が沈没する夢を見るのは、まだ先のようだ。
「疲れたときは、温泉に入りたくなりますね」
「そーですねー」
 ソフィーの言葉に、稲穂はぷかーっと浮かびながら適当な相槌をかえす。
「あ〜あ、今年は泳げるようになりたいわね」
 そんな事を呟くマリアの視線の先に居るのは、クリスティナだ。
「向こう岸まで一直線ですわ!」
 塩泉で目を開けられず、それでも泳ぐ根性は見上げたものだが、それ以前に泳げているという事実がマリアには羨ましいようだ。
 やがてゴツン、とクリスティナが頭をぶつける音が聞こえてくるが、それはさておき。
「一緒に温泉これるなんて……夢みたいです……」
「そうだの。リュウル殿と共に温泉にこれて、わしもとてもうれしいぞ」
 桔梗は、抱きついてきたリュウルをそっと抱きしめ返して、安心させるように呟く。
「絶対にまた一緒にこようの。お姉さんとの約束だぞ?」
 そんな2人から離れた場所では、別のカップル模様も見える。
「あの子の水着可愛いねー」
「そうそう、あのフリルとか似合ってるよな〜……ってミチルいたのかっ!?」
 ソフィアとリスティアを見ていたカイトは、いつの間にか背後に回ってきたミチルに驚き……その後、2度目の驚きの声をあげる。
「ミチルナイス水着! 綺麗! 美人! かわいい!」
「……! あっ、えっと……ありがとう。カイト君の水着もカッコイイね!」
 何やら凄い大騒ぎを始めたカイトの目をフェイスタオルで隠すと、2人は仲良く温泉に浸かり始め……そんな2人を尻目に、とても初々しいカップルが別の場所にも。
「あの、おかしくないですか……?」
「おかしくなんかないよ……可愛いね。水着、凄く似合ってる……!」
 戒の素直な褒め言葉に、セリスは思わず顔を綻ばせる。
「水着はこの前新調した、お気に入りの水着を持ってきましたの。戒にぜひ見ていただきたくてっ」
 水着も可愛いが、セリスも可愛い。そう言いたかった戒だが、さすがにそこまでは言えなくて。
「塩泉って言うけど……ホントに塩辛いのかな? 地下水脈がきっと岩塩の地層通ってるんだね」
 ゆうを膝にのせて、晶はゆうの顔を覗きこむ。今回こそは自分の水着姿を見て貰おう、という意気込みは、ゆうの突然の頬へのキスで真っ白になってしまう。
「まっかになって照れてるきーちゃんもダイスキだよっ♪」
 そんな事を言われてしまうと、何も言えなくて。晶は自分の顔が赤いのが隠しきれなくて、ただゆうを強く抱きしめる。
「水着デビュー、温泉で良かったの?」
「汗も流せて美容にもいい。文句なしよ」
 弥琴がロロにそう訊ねると、ロロはさも当然と言わんばかりに答えて。
「……これ似合ってるのかしら……」
「え、ちゃんと似合ってるよ?」
 自信なさげにそう言うロロに、今度は弥琴がそう答える、そんな掛け合いの光景もあって。
「塩泉って、死海みたいにカラダが浮いたりするのかなぁ〜?」
 何やらスケルトンだらけの一団の中で、睡花がそう呟く。
「……たぶん」
 そう答えるのは、スカルサムライのお父さんにシャンプーをしてもらっている御幸子。
「スケちゃん、今日は久し振りにボクが背中流してあげるねー 」
 そう言いながらスポンジを手に取るのは伝。
 スケルトンだらけのスケルトンパラダイスの出来上がった空間で、お骨さん愛好会の面々は楽しそうに過ごしている。
「タオルにボディソープで……ちゃんとお父さんの骨を綺麗にピカピカに……」
 一方のえり子も、スカルロードのお父さんと、ついでにモーラットピュアのイヴを綺麗に洗っている。
「泡まみれでどこまでがイヴなのか泡なのか……明君、お背中お流ししましょーか!」
「なんだ、姫咲、背中流してくれるのか?」
 そのイヴのパートナーであるルナはスケルトンが温泉に入って、これが本当の骨休めだとか何とか寝言のような事を言っている明の背中を流そうとして、イヴを掴んだ挙句に使うかどうか真剣に悩んだり。
「不利動さん、私もお背中お流ししましょう♪」
 えり子のお父さんに髪を梳かしてもらっていたブリギッタもそう言って、明の背後に回る。
 ゆったりと肩まで温泉に浸かっている茜の近くでは、龍麻と鈴音(藤原)の掛け合いも始まっている。
「ところで、藤原さん? 確かに夏の海はイモ洗い場かもしれませんけど。わざわざ温泉を選ぶってことは実は泳げなかったりするとか?」
「乙女の秘密を覗かんとする者は馬に引かれて車裂きとは良く言うのぅ?」
 奪い取ったばかりのタピオカミルクを鈴音が飲んでいると、茂理もそこへやってきて青汁で乾杯をする。
「コクのある苦味に昨日までの喧噪の疲れもリフレッシュだ。この一杯のために生きてるって感じだよねー♪」
「うむ、その緑色の液体は良く分からんがよかったのぅ」
 そんなほのぼの空間から少し離れた場所では、密かな乙女の悩みも勃発している。
「笙っちはスタイルいいからなー。わ、私はまだまだこれからよっ。これからどんどん成長するのっ!」
 そう独りごちる琴歌が見ているのは、傍らの笙乃だ。
「塩泉だから、泳げるらしいぞ!」
 なんだか琴歌の視線が痛いなー、と思いつつも笙乃はそんな事を口にする。
 ちなみに泳げるのは塩泉だからではなく広いからなのだが、琴歌の視線が痛くて言い間違えたのだろう。
「わーっ!炯ーっ大丈夫かぁ!?」
「いたたたた!」
 のぼせた炯に魔法瓶の中身を全部ぶっかける雪隆。
 たっぷり入った氷が散弾のように火照った肌を打ちすえ、溜まらず炯は飛び起きる。
「……って飲む分は……飲む分も全部掛けてしまったんですか?」
 なんでだー、という雪隆の叫び声に思わず五十鈴はビクリと振り返るが、すぐにスカルロードの焔壽師匠の方へと向きなおる。
「ありがとう、これからもよろしくね」
 今までに、これからに。そんな想いの込められた言葉と、語り足りない言葉。たっぷりの時間の中、五十鈴は想い出話をゆっくりと再開する。
「んーお客さんこってますねー」
 都と身体の洗い合いをしていた彰人は、調子にのって都の胸にタッチして。
「キャァー! そんなサービスは頼んでないよ!」
 ばちこーん、と跳ね飛ばされて湯船の中へ。
「温泉好きの知人の話では、夏場の山奥の温泉には虻が出て刺されると酷いらしいので、虫除けの為の笠代わりです。また、うちわや手拭で虻を見つけたら追い払うとか……」
「ほー、博識じゃのう」
 女性陣による彰人へのビンタリレーが始まったり都に助け出されたりしている横では、克乙が鈴音と真サキュバス・キュアの乙姫に蘊蓄を披露している。
「……近所から温泉出りゃいいのにな」
 ウィルはそんな事を呟きながら、ぼーっと空を見上げる。
「いい温泉卵作れそーな気がするー……卵持って来れば良かったかねぇ、なんてな」
 学園祭が終わって疲れきった身体でも、まだまだ遊ぶ気力は残っている。
 それは塩泉の力なのか、それとも……夏はこれからだからなのか。
 どちらにせよ、空はこんなに青くて……温泉は、こんなにも広くて。
 そろりと泳ぎ始めたウィルに追随するように水泳大会ならぬ湯泳大会が、カップルの面々の邪魔をしないように静かに始まって。
「……夏、じゃのぅー」
 そんな鈴音の呟きも青い空と、白い湯気の中に吸い込まれていく。
 いよいよ夏本番。長い夏休みはまだ、始まったばかりだ。


マスター:じぇい 紹介ページ
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参加者:67人
作成日:2009/07/25
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