<リプレイ>
●肝試しスタート! 夜の山中。目の前に続いている山道の入り口に、『肝試し大会スタート地点』と書かれた垂れ幕が掛かっている。 「お誕生日おめでとうございます、月島さん」 「あ、ありがと! えーと……あのさ、この肝試し大会って……?」 振り返った生樹に、イセスは懐中電灯を手渡しながら真剣な表情を作ってみせた。 「気をつけて下さいね。あのコース、本当に幽霊が出るんです……白い着物に、長い黒髪。顔半分は血にまみれ……真っ赤な手毬を持った女性の幽霊が……」 ぽそり、ぽそりと呟かれる幽霊の噂に青ざめていた生樹の後ろから、今度は薄い笑みを携えた成美が、携帯音楽プレイヤーを差し出してくる。 「ふふふ……さあ、このヘッドホンをどうぞ」 「う……ん、なんか、もうすでに先の暗闇が重いっていうか……」 ヘッドホンから流れてくるのは、怖いと評判の怪談話。生樹の表情は、明らかに固まりつつある。 「さ、頑張りましょう。最後まで到達した証に、これを持って行ってゴール地点に置いてきて下さい」 そう言って先を促した景綱は、お腹にチャックがついているクマのぬいぐるみを生樹に手渡した。 「そ、そうだね! せっかくの大会だしね! よーっし、いっくぞ〜……」 最初の一歩がなかなか踏み出せないのか、スタート地点で意気込むだけ意気込んで、足踏みしている生樹の肩を、誰かが軽く叩いた。 振り返ったそこには、白い着物に長い黒髪。顔半分を血に染めた女性が真っ赤な手毬を持って立っている。女性は口元だけに、ニコリと笑いを浮かべたかと思うと、一瞬にしてその姿を消した。 しばしの間の後、山道の奥へと消えていった叫び声。 イセスは手の中にあるイグニッションカードを見つめた後、ちょっとやり過ぎたかな? と心配そうに呟いた。 暑い夏の夜。肝試し大会のスタートです。
●このコース、切り抜けられるか! 「き、ききちゃんー、一緒いこー!」 コースの途中で待っていてくれたのか、ルナが少しだけ上ずった声で駆け寄ってくる。同じようにしてコースの途中にいたらしい、さなと水澄花も一緒だった。 合流を果たした四人。一行は真っ暗な山道を、拙い明りの懐中電灯を頼りに進んでいく。 「ききちゃんは怖いの、平気……? 私はお話するのは好きだけど……」 「そーだ! ただ怖がるだけじゃつまらないから、一番最初に悲鳴出した人がアイスを奢るってのはどうだ?」 「ボ、ボクはまだ平気だよっ! いいの? そんな約束して……」 「きゃっ!!」 突然、一番後ろにいた水澄花が短く声を上げて前方を指さした。瞬間、まず声に驚いた三人の肩がビビクン! と跳ねる。 無意識に身を寄せ合い、恐る恐る確認するその方向。道の真ん中で、一人のお坊さんが背を向けて座禅を組んでいた。 生ぬるい風に乗ってくる読経の声。誰かの仕掛けだろうか。 「普段ゴーストと戦っているのに、それでもやっぱりドキドキしちゃう」 「い、いやー。手作りとはいえ、なかなかリアリティあるんだなー、ははは……」 少しずつ、ゆっくりと近づいてみる。 すると、今度はどこからともなく、読経に交じって変な音が聞こえてきた。女性の悲鳴にも似た甲高い音が、どんどん近づいてくる。 「キャー! あそこ! ほら、何か見えるのね!?」 ルナが指さした木陰。白い着物を着た女性がぼんやりと立っていた。その横には、怪しく揺れる、人魂の炎。 『恨めしや……』 かすれた声。今、確かに聞こえた! 「あ、あそこ光って……ぎゃあああっ!?」 「わーー!! 早く逃げ……あわわ、どうしようっ!? 前にいるお坊さんも何かヤダ……っ?」 一斉に上がる悲鳴。もうアイスだの奢りだのの勝負どころではなかった。パニックに陥った一行。慌てて逃げ道を探していた生樹は、何かにがっしりと肩を掴まれる感覚を覚え、思わず振り返った。 「タ……スケ……テ……」 目の前に映った青白い顔。口の端から滴る鮮血。そして、赤く汚れたボロボロの服。助けを求めるように見開かれた目と自分の目が合ってしまう。 「……っわああぁあ! ゴメン! ボクにはたぶん助けらんないー!!」 掛けられた腕を振りほどいた生樹が、またもや全力ダッシュで駆け抜けていく。 「効果抜群でしたね……」 木陰で釣竿に垂らした火の玉を操っていた克乙は、幽霊の格好に扮した相方のサキュバスキュア、乙姫と顔を見合わせて頷き合う。 「これか本当に怖い肝試しってやつだよ、月島」 気合の入ったメイクと演技を披露した龍麻が、くすくすと笑いながら小さくなっていく背中を見送った。
立ち止まって気がついた。一人になってしまっているという事実。 他の皆はちゃんと逃げられただろうか。そう不安に思いつつも、近くの木に掛けられた矢印の標識を見つけた生樹は、気を取り直して歩き始める。 「あれ? 生樹ちゃん。もうここまで来たんだね。一緒に行こうよ」 「あっ、弥勒君っ! よかった、心強いよ! ありがと〜」 少し行った所に、見慣れたクラスメイトの姿があった。明るく笑って差し出された炭酸飲料を受け取った生樹が、安堵の息を漏らす。 ジュースを飲みながら歩く。上がっていた息も整ってきたと思ったその時、急に弥勒が立ち止まった。 「ちょっと待って……今、何か寒気がしなかった……?」 「えっ、そ、そうかな……」 ぎくり、と固まった生樹は、注意深く辺りを見回してみた。時折、不気味な何かの鳴き声と変な音楽が聞こえてくる。 これは何か来る! ここにきてやっと学習した生樹は気合を入れて構えた。 突然、目の前に、ゴトン、と音を立てて転がってきたマネキンの首や腕。これには一瞬びっくりしたが、まだまだ余裕である。 「ワァーーーーっ!」 次に、いきなり揺れた木陰から声を上げて走ってくる誰か。しかし、これまた見慣れたクラスメイト。顔を隠していたものの、間違えるはずもない。 「も〜、綺羅ちゃん、おどかさないでよ〜」 「えへへ、ごめん、ごめん〜」 手で隠していた顔をすっと上げる綺羅。この時、思いも寄らぬ事態が起こった。 無いのだ。目も、鼻も、口も…… 「……っ! か、顔がっ……!?」 「ん? ボクの顔に何か付いてます?」 「や、そうじゃなくて、顔が……っぎゃーー!!」 振り返ると、さっきまで普通だったはずの弥勒の顔も、何故かつるりと何もない状態に。そして、その更に後ろの暗闇の中で、二つの骸骨がゆらゆらと揺れているのを見てしまった。 生樹はとうとう声を上げて走り出した。 大事なクラスメイト達の顔が抜かれて骨になってしまった。そんな訳の分からないことを思い、この時初めて、少し涙が出た。 まあ、骸骨の正体は、もう一人のクラスメイト、外印だったのだが…… 白熱する肝試しのコースはまだまだ続く。
立ち止まり、肩で息をする。心臓は、まだ早鐘のように鳴っていた。 大きく深呼吸をした生樹は、懐中電灯をしっかりと握り、改めて前へ進む。 「ううう……うう……く、苦しい……っ」 途中の道に、髪の長い女の子がいた。脅かし役の人にしてはどうも様子がおかしい。 うずくまった彼女は、苦しそうに咳き込んでいる。生樹は慌てて女の子に走り寄った。 「だ、大丈夫?」 「突然、む……胸が……ごほっごほ……っ」 口に当てた手から、赤い血のようなものがポタリと落ちる。助けを求めるように、赤く染まった手が伸ばされた。 「しっかりっ……って、えぇっ!?」 伸ばされた手を掴んだ生樹は驚愕した。手が、手首ごとスポンと抜けたのだ。ゆるゆると頭を上げた女の子。その顔が、鬼婆のように恐ろしく歪んでいた。 「手を返せ〜!!」 「ぎゃーー!!!」 「ごめんごめん〜驚いた? 眞子だよ〜」 「ふぇ? なんだ、眞子ちゃんか〜。びっくりしたよ〜……!! うっわぁぁあっ!?」 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。 鬼婆のお面を剥ぎ取った眞子の顔。またしても、つるりと何もない。 何だろう。これがデジャヴとかいうやつだろうか。 叫びながら走っていると、前を歩く二人組みに遭遇した。近づく足音に振り返った顔。よかった。のっぺらぼうではない。 「どうも。お花見の時も会ったんですが、覚えてますか?」 「うん、もちろん……ちょ、ま……ごめんね、走ってきたからっ……」 ゼイゼイ、と息を吐く生樹の顔を、京は少し心配そうに覗き込んだ。生樹が落ち着くのをしばらく待ったところで、暇はスッと手を差し出す。 「生樹クン、怖くない? ね、手繋ごう!?」 そう言って、生樹の手を取った暇。空いているもう片方の手では、しっかりと京の上着の裾を握っている。 「別にオレが、こ、怖がってるとかそういんじゃなくて……生樹クンが怖いだろうと思って……い、言ったんだからねっ。京クンも、逃げないように掴んでるんだからね! 全然怖くないよ!」 「うわ、何だあれ! ぎゃー!」 「「ぎゃーー!!」」 わざとらしく叫んでみせた京の声に、女子二人は本気で驚く。それはなぜか。後ろから血まみれの大男が走って追いかけてきていたからである。 「わー! うわーっ!!」 「ちょ、せ、先輩……! 大丈夫ですって! あれ、連司ですってば……あれ?」 勢い余って抱きついてくる暇をなだめていた京が首を傾げた。自分と、暇と、追いついてきたフランケンシュタインの連司。 気が付くと、一人足りなかった……
とにかく今日はよく走る日だ。しかし、今は疲労よりも恐怖が強い。また一人になってしまった生樹の懐中電灯を持つ手が、カタカタと震え始めた。 ゆっくりと進んでいく明り。木陰でそれを待ち構えていた茂理がトラップを発動させた。 「……果たして喜んで頂けるかな?」 設置しておいた装置により、空高く舞い上がっていく等身大の人形。 『ぎぃぃやああぁぁーー!!』 「うわぁーーっ!!」 中に仕込まれたスピーカーから大音量で響く悲鳴。それに負けないくらいの悲鳴が、もう一つ上がった。 ここまできたら、もう何があっても怖いと思う状態のようだ。同じようにして木陰に隠れていた悠樹の、釣竿に吊るしたこんにゃくと濡れたサラシという定番の仕掛け。それが目の前を通過しただけで、飛び上がるようにして驚いた生樹が、とうとうその場にしゃがみ込んでしまう。 ダメ押しのように鳴り響くホラ貝の音。目を閉じ、耳を塞いで震える生樹に、救いの手が差し伸べられた。 「生樹ちゃん、大丈夫?」 「実流ちゃん! よかった〜、ここで一緒に回ってくれる人に会えたよー!」 「それじゃ、一緒に行こうねっ☆」 手を繋ぎ、歩き始めた実流と生樹。だが、これは半分罠だった。仲間の脅かし役が潜んでいる場所を知っている実流は、さりげなくその場所を通るようにコースを選んで歩いていく。 最初に二人の後からこっそり近づいてきたのは夏果だった。ボロボロの着物に、ボサボサの髪。血糊も完璧。 まずは手始めに、手にしたこんにゃくを二人の首筋に、ぺとりと当てた。 ちょっと間の抜けた悲鳴と共に二人が振り返ったところで、口元に薄ら笑いを浮かべる。 「う〜ら〜め〜し〜や〜」 懐中電灯による、顔の下からのライトアップ。古典的だが、何とも言えない凄味がある。 「「っきゃーー!!」」 本気で逃げる生樹と、ノリで着いていく実流。しばらく走っていくと、何やら古いお堂のようなところに出てしまった。 「……うぅっ……うぅぅぅぅ……」 お堂の中から何やら奇妙な声が聞こえてくる。誰かが中で泣いているのだろうか。意を決し、お堂の扉を開いてみると、そこにはうずくまって泣いているグルーネルの姿が。 「ぎゃあああああぁぁぁぁっ!?」 何をそんなに驚愕したのだろう。きょとんとする二人を追い抜き、走り去っていくグルーネル。どこまで行くのだろうか。今日一番の悲鳴を上げた彼女は、闇の中へと消えていくのだった……
肝試しコースのゴール地点付近。なんとかここまで辿り着いた生樹は、凛と弥琴と並んで歩いていた。 「二人とも……お、音聞こえない……?」 「まさか、聞こえませんよ。いやですね、みこみこったら……それより、ほら、もうゴールですよ?」 「やったーゴールだー! よかったよね……って、あれ?」 恐怖から解放され、喜んだ生樹だったが、またおかしな事に気がついてしまった。 さっきまで一緒だった二人が忽然と消えてしまったのだ。振り返った道の真ん中に、凛のモーラット、風が残されていて、もきゅもきゅ、と鳴いている。 「なんで? 二人は?」 生樹が鳴き続ける風に近づいた時、突然、道の両脇の茂みがガサガサっと音を立てた。 「ばあっ!!」 「わっ!」 「わーーー!!」 「ふふふ、驚きましたか? 油断大敵ですよ☆ 生樹さん♪ お誕生日おめでとうございます」 「驚かせてごめんね? お誕生日おめでと」 最後の最後で脅かし役に回った凛と弥琴。 祝いの言葉に、改めて今日が自分の誕生日だと思い出した生樹は、ありがとう、と明るい笑みを浮かべるのだった。
●夜の誕生パーティー! 「「「お誕生日おめでとう!」」」 始まった誕生パーティー。今日集まった仲間達からのお祝いに、生樹は大きな声でありがとう! と返した。 肝試しのゴール地点で開かれているパーティーは、明るく賑わっている。 生樹に驚かせすぎたことを謝ったり、改めておめでとうの言葉を掛けたり。中にはプレゼントを持参してきて手渡す人も、ちらほらと。 設置されたテーブルには、各自が持ち寄ったデザート類が並んでいる。 「生樹さん、お誕生日おめでとうだよ」 自身も今日が誕生日だという、水澄花。ありがとう、という言葉の後に、おめでとうの言葉が返ってくる。 「梅之介くん、そろそろいいですよね」 「そうですね、頃合だと思います」 やんわりと微笑み合った、美桜と梅之介。デザートが並ぶテーブルの上に、ホールのケーキが二つ並ぶ。片方は普通のバースデーケーキ。もう片方は北海道のミルクを使って作ったアイスケーキだ。 「生樹ちゃん、お誕生日おめでとう。これからも仲良くしてくださいね」 「うん! ありがとう!!」 ケーキを差し出しながら、優しく微笑する美桜に、生樹も満面の笑みで頷いてみせたその時だった。 「ぎにゃーーーっ!!!」 一つ、大きな悲鳴が上がった。スタート地点で、生樹に手渡されていたクマのぬいぐるみ。抱いていたそれが、突然震え出したのである。 クマのお腹の中に仕込まれていたのは携帯電話。仕掛けは簡単だが、油断しきっている人間を驚かすには十分だった。 笑い声が響くパーティー会場。 思い出に残る楽しいパーティーと、本当に最後まで油断のできない肝試し。 今年の夏は、楽しく、そして涼しく過ごせそうです。
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参加者:24人
作成日:2009/07/23
得票数:楽しい22
怖すぎ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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