不幸せの涙石


<オープニング>


 物陰が長い闇を生む。伸びゆく影が覆う建物裏の茂みは、その影につられるかのように揺れた。
 建物から、職員らしき足音が遠ざかっていく。元より人気は控えめだ。そんな建物の裏側、日陰に愛された林が横たわる。黙したまま、硬い身体を通行人にして。
 ず、ず、と重たい音を立てて隆起したような岩が揺れる。歩みは遅く見えるものの、その動きが緩いということはない。何かを探すように、時折辺りを見回してはまた歩き出す。
 悲しげな顔で、ぽろぽろと闇色に染まった涙を落としながら。
 林を抜けた先には建物がある。だが、彼は林を抜けようとしない。
 ただ人気に怯え、様子を窺うかのように、ぐるぐると回り続けるだけだった。たった一人で。


「人造ゴーストだなんて、ひどい話だよ」
 井伏・恭賀(運命予報士・bn0110)が、珍しく不愉快さを表情へ浮かべた。
 ディスティニーサーガの裏にいた存在は、生命を造り出す――つまりデータから人造ゴーストを生み出すことを目的としていたと、つい先刻報告が届いたばかりだ。
 報告をもたらした能力者達によって、計画は阻止できた。だが、不完全なまま起動したプログラムの影響が、現実に出てしまっていると恭賀は告げる。
 ディスティニーサーガのモンスターに酷似したゴーストが、けいはんな学研都市へ出現したのだ。
「不完全って言ってもゴーストだからねー。一般人からしたら脅威そのものだよ」
 だからこそ、急いで現場へ向かい人造ゴーストを殲滅する必要がある。
 恭賀から頼んだ場所は、とある公的な建物の後方。当日は曇りゆえ暗さも増している林だ。
 そこに現れた人造ゴーストは、ディスティニーサーガでも対峙した『不幸せの王子』というゴーレムだ。対峙したといっても、そのときと全く同じ存在ではない。
 ゴツゴツした岩のような見目通り、体力も力も高いが、ゲーム内と異なり右腕が無い。不完全な状態で起動したプログラムの影響だろう。
「攻撃方法もゲームとちょっと違うんだ〜」
 片腕を我武者羅に振り回し、近接周囲の全てを排除しようとする他、急に泣き出すこともある。
 不幸せの王子が泣くと涙石が零れるのはゲームと同じだ。しかしこの涙石、まるで鳥のように意志を持って飛び、着弾と同時に爆発する。黒い涙石なのだが距離を問わないため、遠くにいるからと油断していると痛い目に遭う。
「まだ遭遇した一般人もいないし、被害も出てないよー。出てないうちだからこそ、だね」
 恭賀いわく、暫く彼は林の中を彷徨うだけだと言う。人と大きさも然程変わらないため、林の中でも隠れていられたのだろう。しかし人の気配を知って、気になるのか建物側へ近寄ったが、いざ人間の気配がすると一目散に林の奥へ逃げ帰ってしまうのだ。
 能力者とて、例外ではない。
「逃げ回られるのも厄介だし、なるべく林の中で倒しちゃってねー」
 林は広いが、全方位へ動ける場所でもある。逃走されないよう、注意を払う必要が出てくる。
 もちろん、相手もずっと逃げ回ったりせず、いざとなれば応戦する。

「あと、不完全な人造ゴーストの他に、ケルベロスのちっちゃいのがいるよ〜」
 ケルベロスという言葉に、一瞬能力者達が身構える。
 そんな彼らへ、恭賀は説明を続けた――小さいケルベロスは、完全な姿のゴーストなんだ、と。
「それが理由かは解らないけど、不完全なゴーストを攻撃してくれるよ」
 例えるなら仲間割れに似た状態だ。ゆえにそのケルベロスも倒すか、或いは無力化して連れてくる必要があるだろう。
 見目もサイズもまるでライオンの赤ちゃんだが、鎧を部分的に纏った立派なゴーストだ。爪での切り裂きは運が悪いと追撃を招き、獰猛な牙で噛みつかれたら無傷ではすまない。

「デスサガの決着をつけるためにも、頼んだよ能力者さん。いってらっしゃい」
 人の手で造りだされたゴーストを葬るのも、戦いの終止符を打つのも。
 すべてを託して、恭賀は緩く手を振った。

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参加者
美崎・曜子(人形小町・b15178)
空知・麦丸(てなもんだ人生・b18308)
黄泉野・空穂(此岸と彼岸の狭間・b18905)
高月・世良(ハティ・b24657)
ウィル・アルトリオス(灯志樹・b29569)
蘇芳・沙那(鎮めの花・b31261)
ユゼン・クロイラ(瓦礫の国のもったいないお化け・b35092)
藤井・アンナ(ドルンローシェン・b40518)
ルゥ・シルヴァン(三日月を駆るケモノ・b47794)




<リプレイ>

●不幸せの王子
 夏の緑に覆われた林を、幾つもの影が風とともに抜けていく。建物側から奥へと追い込む風は、彼らの生きる音と匂いを乗せて、林を緊迫感で包んだ。
 美崎・曜子(人形小町・b15178)が、身を低くしながら仲間達へ手を振る。それが、ターゲット発見を報せる合図だった。
 不幸せの王子の近くには、俊敏な動きを魅せる影もある。小さなケルベロスだ。ケルベロスが爪で硬い身を引っ掻き、不幸せの王子が痛みを拒むように腕を振り、ケルベロスを強打する。
 扇状に広がった能力者達の中、右翼先端に位置する蘇芳・沙那(鎮めの花・b31261)は、歩みを速めた。
 彼女だけではない。相手を取り囲めるようにと、能力者達は静かに配置につこうとしている。扇状から徐々に包囲し、輪を狭め敵を追い込もうとする流れは見事だ。しかし物音を立てぬよう静かにそれを成すのは、急ぎであれば尚更難しく、やや手間取っていた。
 戦闘は数だと再認識し、空知・麦丸(てなもんだ人生・b18308)がのっしのっしと歩く岩の身体を一瞥する。
「こっちは総勢14の戦力やしな」
 使役ゴーストを連れているメンバーが、今回は多い。包囲にさえ成功すれば、容易く逃すこともないだろう。
 しかし、『不幸せの王子』とゲーム中で名づけられていた相手は、木々の合い間から近寄る姿に一瞬動きを止めた。そしてまるで怯えるかのように身を揺らし、得物を手に次々姿を現した若者達を見て、踵を返した。すぐさま奥へと踵を返してしまう。
 こちらから敵が見え、しかも仲間同士が視認できる距離なら尚更、敵からもこちらが見える可能性が高かった。ゆえに、全く気付かれず包囲網を完成させることは、余程上手くやらない限り難しい。
「行ったぞ!」
 雪だるまを身にまといかけたウィル・アルトリオス(灯志樹・b29569)の叫びが、林に響く。
 同時に、曜子の広げる白燐蟲が視界の難を払った。良好となった視界に後押しされ、麦丸が真ケットシー・ガンナーを振りむく。
「ジゲン、ガンナーの出番やで!」
 頷く仕草の後、ジゲンが不幸せの王子を足止めするべく撃つ。太くどっしりした足が、その射撃に翻弄される。
 突然の襲撃に驚いたのは小さなケルベロスも同じだろうか。能力者達へ攻撃する気配は今のところないが、その獰猛な眼差しが、いつ彼らへ牙を剥いてもおかしくない。
 一部始終を眺めながら、ユゼン・クロイラ(瓦礫の国のもったいないお化け・b35092)は強固なる鎧で真フランケンシュタインBのラピエサージュの守りを固めた。自分に似た体格ゆえか、その行動にか、王子の意識がユゼンたちへと向かう。
 光り輝くコア越しに、藤井・アンナ(ドルンローシェン・b40518)が王子を見つめた。仲間との間合いが開きすぎぬよう注意を払って、ふと――自分のような行動が叶う、そんな相手のいない存在を。
 自らの能力を高めるのは、黄泉野・空穂(此岸と彼岸の狭間・b18905)も同じだ。長杖を掲げ、次の機会に備える。
「彼らは、脅威ですから」
 手ごわい相手となるならば、尚更。空穂は戦う術を持てた現実に目を細め、祈るように魔布陣を生成する。
 腰に下げたランプが鈍く鳴る。高月・世良(ハティ・b24657)は、杖で帽子のつばをくいと押し上げたベルと顔を見合わせ、ベルが王子を踊りに誘う間、魔法陣で力を高めた。
 しかし王子は誘いに乗らず、ただベルをねめつけるだけだ。
 ルゥ・シルヴァン(三日月を駆るケモノ・b47794)も続けて、得物を掲げ旋剣の加護を得る。押し隠していたため息を紛らせて。
「ゲームから出てきたりしないでよね」
 レベル上げに没頭していた先日を思い出す。本当につい先日のことだ。慣れないことをするものではないと、ルゥが緩く肩を竦める。
 ともに戦場へ立つフランケンシュタインFWの龍鬼を見上げ、沙那は瞳を濡らした。
 ――とても、悲しいことです。
 道具としてのみ生み出された命を、少女は伏せた睫毛を震わせてまで嘆く。主の心情を感じ取ったのか、龍鬼がちらりと沙那を振り返る。思いがけず縋りつきそうになったその腕で、沙那は漆黒の弾丸を放った。
 龍鬼も彼女の一手に重ね、渾身の力で王子を殴る。
「涙石くるで!」
 刹那、予備動作を警戒する麦丸の叫びが木霊した。
 聞き届けるか否かの、一瞬の出来事。不幸せゆえにか、恐怖にか王子がぽろぽろと雫を流す。雫は真っ黒な石と化し、自由の中へ羽ばたいた。けれど羽ばたきはすぐさま地へ落ち、ルゥを襲う。
 飛び立った涙石の素早さに歯を噛み、麦丸は幼いなりに堂々と構え、両手のロッドから魔法陣を生み出す。
 ――人の業、っちゅーと格好付けすぎか。
 人造ゴースト。その響きに、麦丸は嫌な汗を浮かべた。人の手で創られたのならば、後始末も人の手で。己の手と王子を交互に眺め、麦丸が決意を新たにする。
 そのとき、ガツッと鈍い衝撃が王子に走った。跳ねて飛び込んだ曜子の角兜と蟲笛が、猛々しい獣の力を乗せ王子を掻いたのだ。普段の運動神経など何のその、素早い曜子の一撃に、王子の関節が悲鳴をあげる。
「痛そうですし、すぐ止めてあげます」
 その歩みを。その涙を。
 曜子の宣言が宙を駆ける頃、アンナは魔法の茨で王子を捕えようとした。だが、王子は精一杯の抗いを、茨を振り払うことで見せ付ける。
 ウィルはふと、今自分たちが立っている場の冷たさに眉根を寄せた。
「……寂しいトコだな」
 王子は自分の存在も、周りにある存在も理解できないのだろうか。彼の疑問に答えは返らず、ただ熱を冷ますためだけに吐息を吹きかけた。
「また泣きそうだ、気をつけて、ケルも」
 涙の素振りを世良が察し、呼びかける。僅かに、ケルベロスが世良を見遣った気がした。

●不幸せの涙石
 ――なんてもったいない。
 含んだ意味は言葉に変えず、創造主の許を離れても尚不幸な相手を、ユゼンが哀れむ。指先で、ラピエサージュへ施す闘気を練り上げながら。
 彼には帰る場所も、頼る相手も無い。ならばせめて安らかな眠りをと、沙那も呪われた弾で王子を射抜く。矢継ぎ早、龍鬼が王子を叩いた直後を曜子の一撃が降る。獣の加護を得た一撃は重い。
 仕返しとばかりに、片方だけになった腕を王子が振りかぶる。咄嗟にウィルが前衛へ注意を促すものの、僅かに間に合わず風を切って腕が振り回された。
 ――わけもわからず生み出されて、こんな場所を彷徨って……。
 世良は喉が渇いたのに気付く。息が荒いのは自分だけではない。消耗とは違う粘りつくようなもどかしさが、そうさせているのかもしれない。
 編みこんだ術式に世良の惑いが重なり、炎を伴って王子を叩く。炎が消え去る頃には、ベルが誘う踊りの世界へ王子も一歩足を踏み入れていて。
 ――ボクは詫びんよ。
 むしろ恨め。滾る想いは声にせず、麦丸が魔弾の雷撃で王子の体力を削る。
 徐々に、徐々に王子の足取りが鈍くなっていく。何処へ行くでもない、彷徨い人の足取りが。
 ジゲンの射撃が標的を狙い定めるのとほぼ同時、ふと振り向いた麦丸の目に、傷つきながらも敵へ突撃するケルベロスの姿が映った。
「ちびそっち行った! フォローよろしゅう!」
「ちび、危ねえから下がってろよ」
 真っ先に応えたウィルの呼びかけに、ケルベロスは首を傾いだものの留まる気配もなく、不幸せの王子を引っ掻く。
 王子が悶えるように身を揺すった。哀しみと苦痛に苛まれてか、或いは。
 ――まさか、居場所が無えことを知って怯えてるのか?
 全身から血の気が引くのを感じ、ウィルは腕をさする。
 覚えた寒さも拭い去るように、アンナが優しい祝福をケルベロスへ飛ばした。描かれたハートが、アンナの愛情をたっぷり含んで、自身とケルベロスを癒す。
 作られたゴースト、しかも設定されていたであろうデータから生まれた彼に、心はあるだろうか。アンナは繊細な指先で唇を撫で、紡ぎかけた疑問を音にせず空気へ溶かす。
「解放して差し上げましょう」
 もし、その涙が悲しみによるものなら。
 その間、痛みが引いていくのに気付いてか、ケルベロスは王子へ意識を移したアンナをじっと見つめる。
 直後、宙を切り裂き走った魔弾が、纏った雷で王子を追い立てた。悲鳴のひとつもあげず、ただ苦しげに王子がもがく。空穂が放ったものだ。
「嗚呼、嘆きの王子様……何をそんなに嘆いていらっしゃるのです?」
 舞台に立った彼女の言葉が、王子へと突き刺さる。間髪いれず、スカルロードの宵闇が死神の大鎌で頑強な身体を切り裂いた。
 すかさずルゥも黒き影の異名を持つ一太刀を浴びせるが、王子のたくましい腕に防がれ、威力を削ぐ。
 いくら猛攻を与えられても、不幸せの王子から速さと力は奪えない。豪腕が曜子めがけ翳される。反射的に曜子が身を屈め、丈夫な角兜で重たい一撃を防いだ。
「その哀しい運命から……解き放たれるのじゃ!」
 続け様に沙那の意気込みを乗せた弾丸が、ラピエサージュの拳と、ユゼンが撃ちだした弾丸に重なり、王子を叩く。
「仲間が、あなたの仲間に助けられたから……」
 不意にユゼンが向けるのは、王子ではなくケルベロスへと。
「今度は、わたしが助ける」
 凛とした声に、ケルベロスが耳をそばだてた。まるで内緒話でも聞くように。
 そして、痛みを退けるべく曜子が呼吸を整えた刹那、世良が真夏の太陽に酷似した熱き魔弾を放つ。逃げる隙さえ与えぬほどの、猛攻だ。
 ――涙ごと蒸発させる。悲しい運命に終止符を。
 そんな世良へと、不幸せの王子が涙石を飛ばす。まるで春先に見る漆黒の鳥のように、涙石は世良の足元へ低空飛行し、直撃と同時に飛び散った。
 負傷した主を心配そうに窺い、ベルが魔力を躊躇いなく供給する。
 涙石の行方と、涙石の生まれる敬意を眺めた所為か、麦丸は術式を編みながら叫びたい衝動を抑えきれずにいた。
「つか泣くなや! ……ほんま、やりにくいなっ」
「くるぞ!」
 ルゥの声が響き渡る。
 再び、涙石が息吹いて空を駆けたのだ。ウィルの傍らへ着弾し、彼と、すぐ近くにいたケルベロスをも巻き込む。
 悲しみが深くなっていくほど、強さが増すように強力だった。そんなはずはないのだが、消耗が激しいのもまた、能力者達が敵の攻撃を「脅威」と感じる所以かもしれない。
 相手はたった一体だが、たった一体ゆえに強い。
「……悲しい物語は、涙は、ここで終わりにしましょう」
 アンナが再びヤドリギのもたらす祝福を虚空へ浮かべ、ルゥがこれ以上ケルベロスを攻撃させはしまいと、小さなケルベロスを後背にして立ちはだかる。
「せっかく共闘してるんだしね。馴れ合うのは苦手だけど」
 不敵な笑みが、微かにルゥの口角を模った。
 ふと、空穂がスカルロードの名をここで呼ぶ。指先で魔弾を結い上げながら。
「宵闇様、せめて、嘆きの王子様に、安らかな終焉を」
 空穂の動きに乗った宵闇が、主の意志とともに戦場をゆく。大鎌が涙もろとも王子を断ち、並んで突き進んだ魔弾が王子を覆う。帯びていた雷が能力者達の決意を束ね、餌食にする。
 大きく仰け反り、王子は曇り空へと残った腕を伸ばした。
 分厚い雲に隠された果てしない大空を、求めるかのように。

●幸福の教え
 幸せを教えるべき存在は、もうひとつ。
 小さなケルベロス――ケルベロスベビーだ。
 能力者達は攻撃の手を止め、彼の者へと向き直った。低く呻きこちらを威嚇する様は立派なケルベロスだ。少しでも手を出せば、相手も容赦なく襲い掛かってくるだろう。
 しかし、ベビーは能力者達に戦う気が無いと知るや否や、剥きだしにしていた歯を隠す。戦いの最中に、ベビーを援護したのもまた、「戦う気が無い」と判断する基準となったのだろう。
「先程の王子の様に傷つけたくはないんだよ……」
 ぽつりと零した世良の言葉に耳を揺らし、戦意を喪失したベビーがくるりと身を翻す。
 歩きだすベビーへ、咄嗟にルゥが一緒に来ないかと呼びかけた。
 ――ボクもコイツには興味有るし。
 共闘した理由を知りたい。だから、ついてきてくれれば。
 そんな湧き上がる希望を胸の内に抑えたまま、ルゥは相手の反応を待つ。しかしこれだけでは、彼の者を呼び留める理由にならなかった。
「わたし達が戦う必要はない。戦う以外の道も、ある」
 続けてユゼンが唇を震わせ、想いを紡ぐ。
「……ここにいるわたし達とラピ達が、誰よりもそれを証明してると思うから」
 ぴたりと、ベビーの足が止まる。引き寄せられたように振り返り、寄りそって主と並ぶ使役ゴーストたちを見回していく。
 沈黙が流れた。
 様々な姿の使役ゴーストと、彼らが慕う主の表情に、ベビーが首を傾げる。そしてか細く「くぅん」と漏らす。
 説得にあたる彼らの言動と、戦いの最中に見せた態度が、行動が、ケルベロスへ何かを芽生えさせたのだ。
「出生が何だろうが生命として完成しているなら」
 まるで乞うかのように、諭す想いがはらはらと曜子の口から溢れてくる。
「どんな形でも、生き続けるべきです」
 生きているのだから。生まれてこれたのだから。
 義務や権利といった単語を使わずとも、伝わる心はある。ベビーは恐る恐る、否、興味を示し能力者達へゆっくり近寄った。
「ほーら、餌やでー?」
 麦丸が干し肉で餌付けを試みる。駄目元のつもりだった彼だが、大人しくなったベビーは拒みもせず干し肉を噛み、初めての味と感触ゆえか不思議そうに尻尾を振る様子は、動物の赤ん坊のようで。
 そんなベビーをウィルがバッグへ手招き、優しさで撫でる。
「よしよし、一緒に帰ろーな」
 この調子ならば締め付けずとも大丈夫だろうと、アンナも胸を撫で下ろし安堵感から息を吐いた。
 そしてアンナが教えたのは、未来へ繋がる帰途。
「大丈夫ですよ、すぐに新しいおうちに着きますからね」
「ガウッ!」
 能力者の想いに応え、小さなケルベロスは元気に鳴いてみせた。
 澱みも迷いも、吐き捨てて。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2009/07/30
得票数:知的1  ハートフル16  せつない10  えっち1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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