<リプレイ>
●さあやって参りました、打ち上げの時間でございます 校庭に残された特設ステージ。文化祭は終われども、解体まではあと一日。となれば、この舞台付近に集まった面々の目的は一つ。 「みんな、ノッてるー!?」 風姫の声が響き渡る。おーっ、と聴衆たちの声。マイクを掴んだレニーが舞台の上に躍り出る。Combat Band Ascalonのメンバーが奏でるのは主にロックミュージック。風姫がキーボードに指を滑らせ、レニーが歌うオリジナル曲を盛り立てる。 出演順を待つ者も観客席で聴衆に徹する者も、いつしかその曲に引き込まれていく。その盛り上がりを活かすように、奏でられる曲は変わっていく。感謝を、希望を、歌い上げていく。
興奮覚めやらぬ中、代わりに舞台へ上がるのはBastard Swordの面々。 「お前達の協力があったからこそ、このショーは開演できる! 皆、ありがとう!」 紳士郎――もとい、鼓動覚醒ジャスティビートが爽やかに叫ぶ。正義のヒーロー・ジャスティビートは、銀誓館を乗っ取りに来た悪の組織たちと日夜戦っているのだ! 「これ程の協力者を得られたのも……俺の人望と、撮影技術のお陰だな!」 先を続けようとした紳士郎の言葉を、凛とした声が遮る。 「余裕ですね、ジャスティビート」 狼面に槍(のつもりのただの棒)を持った人影はフィリーゼ――いや、舞台の上でその名を呼ぶのは無粋か。 「私はフローズンノワール! 貴方を打ち倒す者です、覚悟を!」 「出たな、悪のネオクレイドールめ! いけー、ジャスティビート!」 目を輝かせる鉄太。そう、いつだってヒーローの勇気の源は、無垢な子供の笑顔と決まっている! 助太刀するヒーロー・シルバーJの出現で、さらに場は盛り上がる。フローズンノワールを追い込んだと見えたその時、高笑いと共に現れたのは突撃槍を手にした鎧。槍がちょっぴり重そうに見える。 「あ、あれは白夜のピルム・ムルス!」 「伊達や酔狂のシルフィードではない!本場の突撃槍の戦いを見せてやろう!!」 高らかに叫ぶのは久恒演じるピルム・ムルス。敵の敵は味方、敵の味方は敵。シルバーJのライバルたる彼は突撃槍の猛攻に打って出る。 「あぶなーい!」 鉄太の叫び。あわや、と思った瞬間、突然舞台袖からスモークが吹き出す! 「見つけたぞ、ジャスティビート! 嘗ての因縁、此処で決着を付けてくれる!」 煙の中から現れるは、漆黒の身体に赤き刃を携えた、悪魔の如き悪の戦士――仄暗影侯・ヴェクサシオン。 「ジャスティビートは私の獲物、渡しはしません!」 「ええい、我が邪魔をするでない!」 陽炎ことヴェクサシオンのコスチュームは圧倒的な完成度。とは言え、 「がんばれシルバーJ!」 「!」 シルバーJの華麗な活躍により、出番はあっさり終了。所詮悪は滅びる運命なのだ。 これで再び二対二、固唾を呑んで見守る観客達。そこに再び―― 「全てのヒーローは俺の獲物だ…邪魔をするというのなら、貴様等も破壊する!」 「くっクっクッくッ…」 ――黒煙が吹き出すと共に黒ローブの怪しい人影が乱入。第四勢力と第五勢力が現れたのだ! 「この場ハ我らEBC教団ガ包囲シマしタ。さァ……スポットライトは私ガ頂キます!」 高らかに笑うベルハーライト。 「タイミングが被っ……いや」 悪の怪人は引け際をも承知している。ヒーローに必殺技を一発、そこで戒一郎は動く。 「邪気力が高まり過ぎたか……? これ以上は限界か、撤退する!」 華麗に退場した戒一郎に代わり、雄飛が華麗に参上! 「ゼノカマキリ、この裏切り者め!」 叫ぶのはフローズンノワール。 「今の俺はもう怪人じゃない、戦士ビースタッガーだ! 行くぞストライク・B!」 雄飛の必殺技にジャスティビートとシルバーJの力が加わり、いざ必殺の三連攻撃! 「正義のジャスティビートたちは、ちょーカッケーヒーローだ!」 かくして舞台には平和が戻った。戦えジャスティビート、真に悪を滅ぼすその日まで!
●すべてはプリンのために 星めぐりのうたの結社企画は演劇喫茶。そんなわけで、後夜祭もカーテンコール調だ。何が起こるのかと待つ龍麻たち観客の前で、いよいよ幕が開く。 かつん、と杖をついて現れるのはアンコウじぃやこと優。同時に、焦った顔の浦島太郎こと奏夜が下手から走り出る。 「ようやく逃げ出せた……竜宮城は怖い所……ハッ、そこに見えるはアンコウの!」 アンコウじぃやは人の良さそうな笑みを浮かべたまま、華麗に舞台を横切―― 「こら無視すんなー!」 ――れなかった。 「これは浦島殿。ワシの胃薬と提灯、役に立ちましたかの?」 「役に立ったよ! 立ちすぎですよありがとうよ!」 「泣く程とは、譲った甲斐があったのう。ほっほっほ」 飄々と去っていくアンコウじぃや。下手から現れた夫婦に道を尋ね、袖へと消えていく。反対側へ去っていく浦島太郎の、背中がちょっと煤けている気がする。 「ダーリン♪」 ここで主役は夫婦に交代。劇の衣装はそのままに、踊りながら舞台を巡る二人。奥様の名前は椎、旦那様の名前は雪貴。ごく普通の二人はごく普通に結婚しました。でもただ一つ――奥様は魔法少女だったのです! 「奥さま、大好きですよ♪」 そんな二人の元に大変な危機が迫っていることを、二人はまだ知らなかったのです……。 「クケケ〜!」 「あ、あれは!」 突然上手から現れたのは、恐ろしいサメ! ……の姿をした翠。 「な、なんで劇終わったのにこんな格好を……」 ティリナの衣装はうっかり乙姫様のまま。とはいえ、出てしまったものは仕方ない。 「こら! いい加減にしなさい!」 「クケ〜!」 乙姫衣装の裾をたくし上げ、果敢にツッコミを入れるティリナ。 「って、あれ?」 突然、ツッコまれた翠の背後に、謎のワゴンが迫る! 逃げ去る奥様とダーリン、サメではなくワゴンから逃げるティリナ。 「さー楽しいパレードのはじまりだよっ! ……ってまだブレーキ直ってないよこのワゴンっ! 止まらないーっ!」 「皆さま、今日はどうもありが……へきゅ!」 なんと恐ろしい交通事故でしょう。サメに激突したワゴンの上でぐったりしているのは影だ。そこへ横から割り込む竜一、もとい新生ギャラクシー☆ナイト! 「チーフ! 貴方の野望、このギャラ☆ナイが打ち砕いてみせる!」 「やれるものなら……あ、あれ?」 胸を張る影だったが、ワゴンが再び動き出す。 「ああ! 何するんだよーっ!」 「まだ何もしてな……い、いや! これこそギャラクシー☆ぱんちの威力だ! そういうことにしよう!」 いわゆる自損事故というやつである。それはさておき、これで残るはあと一話。 「幸せの黒焦げプ……あぅ!」 りぃん演じる月のうさぎは、幸せの黒こげプリンを運ぶ前に暴走ワゴンの餌食に。合掌。 影のワゴンが走っていった先で、更なる悲鳴が上がる。 「轢かれてる人もいるみたいだけど、ほどほどにね」 沙宵はしっかり救急箱を持参している。そんなカオスの中でふとシキの視界に入ったのは、舞台袖に立つセドリックの背中。 「よし! みんな、この浮き輪につかまるんだー!!」 襲いかかるシキ、しかしその謎のかけ声があったが故にセドリックの回避も早い。 「あれ?」 勢い余って舞台へ転げ出るシキ。僕らお客さんなんだから、と言いかけたセドリックは、ばったり倒れたままのシキをちょんちょんとつつく。そんな二人をしばらく見つめていたジュリエットことジブリールは、ふわりと舞台の上に現れて手を伸ばす。 「二人とも、いつまで舞台の上にいるの?」 「ネージュ……あ、プリンの山が君を呼んでるよ」 セドリックの説得がよく効いたようで、がばりと起き上がるシキ。二人の手を取って、ジブリールはプリンパーティの会場へ向かう。 「星めぐりのうたの団員も、そうでない者達も、我が鬼の宴へようこそ! 安心しろ実は俺も団員じゃない! では、プリンパーティーの始まりだ〜!」 皆を城に招きプリンパーティを開く鬼、を演じる照明の声に、倒れていたりぃんが起き上がる。 「ジュリエットさん、幸せのプ――」 「ジュリエット!」 月のうさぎを押しのけ、謎の男、もといロミオが差し出すのはプリンパフェ。 「どうして、みんな幸せのプリンがなくても幸せオーラ出しまくりなの?」 そうか! とりぃんは立ち上がる。 「幸せとは、自分の手で掴むものなのね!」 一方のプリンパーティ会場では、照明や夕維をはじめとするメンバーが着々と準備を進めている。 「鬼さんから頂いたレシピ本と心意気、それらを胸にいざプリン道を進みます」 語る間にも泡立て器を握る手は止めない。夕維の笑顔と手つきのコラボレーションはまさにプリン道のそれ。 「ワゴンが止まらないー! プリン食べたいのにーっ!! あたしにもぷりんーっ!」 影の乗ったワゴンがどこかへ走り去っていく。 「はい、あ〜ん♪」 椎と雪貴の周囲には、何だかプリンより甘いオーラが溢れている。 「ぷりんぷりん〜♪」 ティリナは竜一の抹茶プリンを手にしてご機嫌だ。 ジブリールのプリンには花火が飾られ、夕維のプリンはタマゴ形プリンに顔を描いた『不思議の国の王様プリン』。結社や劇の雰囲気ををイメージしたプリンに混じって、シキはなにやらプリンタワーをこしらえている。 「二日間お疲れ様ー! 楽しかったわ♪」 暑い夜にプリンは美味しい。スプーンと皿を配りながら、沙宵は皆に声をかけて回る。 「ぷーりーんっ♪」 プリンに飛びついていたアレンは、翠に「お誘いありがとうなのですよー♪」と声をかける。それから、プリンを抱えたまま奏夜の元へ。 「おつかれさまっ」 「アレン。劇どーだった?」 「楽しかったー♪」 頬にプリンをくっつけながら、アレンは笑う。 「お前達は我が息子のロミ夫とロミ緒ではないか!」 照明の声。もう、一体誰がどんな設定になっているのやら。 そうこうするうちにも、学園祭の終わりは刻一刻と近づきつつある。華やかな終幕の舞台は、華やかだからこそ終わりが来るのを寂しく感じる。 「もう終わりか。もっとやりたい事あったよなぁ……」 ロンドの呟き。終幕に投げ込まれた一輪の青薔薇は、舞台の上で咲き誇っている。 「終わりじゃない。フィナーレは来年へのオープニングセレモニーだよ」 「あぁ、そっか」 崇之に笑いかける。また来年。来年の今頃には、きっとまた後夜祭だ。そう思えば、待つのも楽しいもの。 想うことも、言いたいことも、言葉にできないほどに募っているから……だから、今は一言だけ。 「ありがとう」 プリンで、乾杯。
●そしてまた、新しい日々が始まる 舞台の周囲に集うのは、これからの出演者ばかりではない。無事に結社企画の上演を終えた銀星社の面々は、のんびりと寿司をつまんでいる。 「みんな、楽しかった? 結構スケジュール的に無理させちゃったりもしたけど」 見事に審査員特別賞を受賞した『贋作・森羅蒼鷺亭殺人事件』。結社に集まって、練習をして、舞台に立って、今に至るまで。未亜の問いに、優は笑顔で頷く。 「本番前はどうなるか心配だったけど、無事、うまくいってよかったですよねー」 「観客としても、楽しませて貰った」 シェルリードが口を開く。深雪が迷惑をかけていなかったか、と小声で優に訊ねれば、彼女は笑いながらシェルリードと隣の深雪へと視線を移す。 「シェル?」 「え? いや俺は別に何も、ただその……」 深雪が軽くシェルリードを睨む。夫婦漫才、という言葉を思い浮かべながら、楽しそうに二人を見つめる優。 「でもまさか、初めて演劇に携わって、しかもしれが賞を戴くことになるなんて……」 機会があればまた、と深雪が笑う。 ふと、皆の会話を聞いていたさくらの目から涙が零れた。 「小野寺さん?」 心配そうな表情の未亜に、心配いらないと首を振ってみせる。 まるで夢のようだ。さっきまで自分が舞台の上にいたことが。役を演じきれたことが。皆と稽古をしたことが。こうして、友達に囲まれていることが。 能力者として戦う身なれど、お芝居も続けよう、と。そう思えるのも、手を引いてくれた未亜のおかげ。 「やっぱり結社、続けましょうよ」 最初は、学園祭が終わったら解散するつもりだったけれど……優の言葉に、未亜はしばらく考えて。 「もし、みんなが楽しんでくれてたのなら……もうちょっと、続けてみようかな」 仲間達の表情を見れば、迷いは晴れていく。
最後に舞台を飾るのは、内田オフィス同好会の面々。手際よく機材を運び込む。 「毎年やってれば流石に覚えるものだな……感慨深い」 元々は音楽など素人だったのに、と明がつぶやく。大きな機材も複数人で運べば怖くない。後夜祭だけでもお手伝いできて嬉しいです、とブリギッタはほっと息を吐く。 「今年の学園祭もこれが最後……」 有終の美、とは言うけれど、やはり一抹の寂しさは拭えない。 「良かったら皆さん、ご一緒に歌って下さいね♪」 えり子とイレーナに渡された歌詞カードにあるのは、龍麻もよく知る有名なあの歌。 「あ、そろそろ出番なの! 落ち着いて、落ち着いて……」 「ルナちゃん、大丈夫だよ、大丈夫だよ」 ここは年上のイレーナが、そっとなだめて、緊張をほぐす。 「よしっ、がんばっていこー!」 「うん、頑張っていこうね!」 ひとつ深呼吸して、ルナとイレーナも舞台の上へ。 明が手にするのはサックスとハーモニカ。その隣に立つ千早のチェロは、一回り小さい分数サイズ。以前はぴったりの大きさだったはずのそれが、最近なんだか持ちにくくなってきたのは、千早の身体が分数チェロに比べて成長しすぎたせいだろうか。 演奏の直前、ぴりっとした緊張とわくわくに満たされた、この瞬間が千早は好きだ。ブリギッタは観客席に視線を移す。肌へと祭の余韻、覚めやらぬ熱気、そんなものたちが触れていく。 三年の月日をその音の奥に響かせながら、明のサックスが豊かな音色を奏ではじめる。 歌詞のとおり、上を向いて。そこに広がる空、輝く星々に、ルナは目を見開く。イレーナも星に見入っていた。 月の輝く夜もいいけれど、星の夜も美しい。 「皆で笑い皆で歌う夜に……♪」 曲はいつの間にか弾き語りへ。えり子の声が伸びやかに会場を包んでいく。 終わりを惜しみながら。客席にも舞台にも、たくさんの笑顔が咲いていることを喜びながら。仲間と共に歌えることに感謝しながら。あふれる気持ちを歌に乗せて、歌う。 歌に、音色に、篭められた想いはきっと、大切な思い出へと変わっていくのだろう。
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参加者:42人
作成日:2009/08/04
得票数:楽しい10
笑える3
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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