手を伸ばす、暗闇に差した光を信じて


<オープニング>


 こわい。
 こわい。
 こわいこわいこわいこわい。
 真っ暗な闇。音もない。この世界から切り離されてしまったよう。
 ずっと私はこのままなの?
 やだ。こわい。助けて。誰か助けて!!

「悪夢に捕われてしまった少女を、どうか助けていただけないでしょうか」
 黒宮・咲(小学生運命予報士・bn0262)はぺこりと頭を下げた。
「まずは今回の経緯をお話しますね」
 そう言って咲はパソコンのディスプレイを見せた。
 ディスプレイに映っているのは、愛らしく微笑む八歳ほどの女の子。
 名前は『白木マナ』と書かれている。
 マナは田舎町に育ち、野や山を駆け回って遊ぶ元気な女の子だ。
 事件は、男の子達が悪戯で掘った落とし穴に落ちてしまったことから始まる。
 それがまた本格的な落とし穴で、ひとりでは登れず、暗闇に怯えているうちに、マナは気を失ってしまったという。
 もちろん既に救助はされているのだが、その時の恐怖をナイトメアに魅入られてしまった。
 そのためマナは今も尚、病院のベッドで眠り続けているのだ。
「このまま悪夢を見続けていたら、マナちゃんの精神は参ってしまい、悪夢に屈してしまいます。そうなれば、喜ぶのは悪夢を見せている来訪者、ナイトメアです」
 一刻も早く助けてあげたいですねと咲は言う。
「夢の中に入ると、落とし穴がぽこぽこ空いた地面があるだけの世界です。そこに真っ黒いのっぺらぼうが十体ぐらいいるようですね」
 イメージはこんなかんじ、と咲はキーを押す。
 ディスプレイには、角が丸い四角の身体に、短い手足がついたのっぺらぼうが表示された。
「彼らの技は体当たりですね。ひたすら体当たりして吹っ飛ばそうとしてきます。吹っ飛ばされたら穴に落ちちゃうんで注意してくださいね」
 そこまで言って、咲はぱたりとパソコンを閉じる。
「マナさんはどこかの落とし穴の中にいます。マナさんに手を差し伸べて、落とし穴から助けてあげてくださいね」
 マナは怯えきっているので、ただ手を差し伸べるだけだと、怯えて手につかまってくれない可能性もある。
 安心させてあげられるような言葉が必要だろう。
「病院の裏口の鍵を手配してあけておきます。病室は302号室。地図も刷っておきますね」
 咲は言葉通り手早く地図の印刷を出すと、『ティンカーベルの粉』と一緒に能力者に差し出した。
「夢の中では、普通には考えられないことが簡単に起きます。でも、夢の中で深い傷を負ったり命を落としてしまった場合、現実の世界でも傷を負ったり命を落としたりしてしまいます。それもご注意くださいね」
 無表情の中に、少しだけ不安を滲ませながら、咲は再度ぺこりと頭を下げる。
「僕はここでみなさんの帰りを待っています。どうか、ご無事で」

マスターからのコメントを見る

参加者
南・瓜(ベルガモットの香・b24461)
桜・美琴(錦上添花・b25470)
国見・眞由螺(影武者・b32672)
黒須・黎(春への刻み手・b34375)
暗都・魎夜(かつてキングと呼ばれた男・b42300)
ユウ・メルフィージ(金煌虎が奮迅鬼・b59264)
葛木・一(ちびっ子ファイター・b59305)
カイジ・ブルーハーツ(副店長執事・b67018)



<リプレイ>


 不思議色の雲を抜けた瞬間、広がったのは闇色の空だった。傍らの人はちゃんと見えるのに、空の色はどこまでも暗く、深い。
 落とし穴から見える唯一のものがこれならば、どれだけ怖いだろうと南・瓜(ベルガモットの香・b24461)は思う。
 草一つない地面。落とし穴があるだけの無機質な空間に、空から黒の塊が降る。地に降り立った塊は、やがて手足をはやし、能力者の行く手を阻むのっぺらぼうへ姿を変えた。
 落とし穴の数は三十ほど。あの中の一つにマナはいる。
「マナちゃん、今助けてあげるからね!」
 誰よりも速く、桜・美琴(錦上添花・b25470)がのっぺらぼうの群れへ飛び込んだ。突出するのっぺらぼうの頭をとんと叩き、飛び上がった美琴はのっぺらぼうに『花依恋』を突き立てる。
 美琴に続き、瓜はのっぺらぼうの肩口に思いっきり齧りついた。
 ――これが悪夢の衛兵か。
 ユウ・メルフィージ(金煌虎が奮迅鬼・b59264)はすぅと赤の目を細めた。目に宿るのは嫌悪感。人の弱みにつけ込む輩には、嫌悪こそ相応しい。
 ユウは自らの気を覚醒させた。ユウの肌に虎の紋が浮かび上がる。
 国見・眞由螺(影武者・b32672)は『武器』を旋回させながら、のっぺらぼうを睨みつけた。眞由螺の脳裏に浮かぶのは、病室に寝ていたマナの姿。幼い額に苦悶を滲ませた表情のマナ。
「子どもの弱みに付け込むとは卑劣な……ナイトメア本体がいれば叩き潰すところだ!」
「本当、いい趣味してるね」
 呟いた黒須・黎(春への刻み手・b34375)の前方に、魔法陣が浮かび上がった。
 そして黎の背後に響く爆音。もくもくと上がる赤の煙を突き抜けて、暗都・魎夜(かつてキングと呼ばれた男・b42300)が姿を現す。
「マナちゃん、助けに来たぜ! 暗闇斬り、フィーバー!! 秒で決めてやる!」
 魎夜の『黒炎剣【紅蓮】』がのっぺらぼうを貫いた。
 同時に、どこからともなく鳴り響くファンファーレ。軽快な音とともに、一体ののっぺらぼうが姿を消す。
「マナは暗いとこで、一人はかわいそうだな」
 怯えているであろうマナを想像し、カイジ・ブルーハーツ(副店長執事・b67018)は眉を寄せる。
 そんなカイジの前には濃霧のレンズ。これで後衛の準備は万端だ。
「悪夢は今日でおしまいにしてやろうぜ」
 な、と仲間達に声をかけて、葛木・一(ちびっ子ファイター・b59305)は軽快にステップを踏んだ。一のステップにつられ、二体ののっぺらぼうがくるくると踊り出す。
「二つくらい確認したけど、マナちゃんはいなかったわ」
「俺の周りにもいないようだな……俺も全ては見れていないが……」
 美琴とユウの言葉に、魎夜も「オレのところにもいないな」と続ける。
「戦闘範囲内にはいないかもしれないな」
 瓜はほっと息をつき、のっぺらぼうの体当たりを受け止める。気魄の能力を出来る限り高めた瓜にとって、体当たりを受けるなど造作もない。
 瓜が息をついたのは、マナのいる穴にだけは落ちるものかと思っていたからだった。男の子達に穴へ落とされたマナ。もしかしたら、男は怖いかもしれないと瓜は思う。
「カラースプレー、今は必要なさそうだな」
 穴の半分ほどはのっぺらぼうの向こう側。戦闘中に覗ける範囲の穴はそう多くない。眞由螺はそっとカラースプレーを地面に置いた。
 戦闘範囲にいないならそれに越したことはない。そう思いながら、黎が傍らの穴を覗き込んだ。
 ――そして。
「……見つけた! 後衛と中衛の間、少し離れたところの穴にいる」
 覗き込んだ穴の中に、小さな人影。黎の声に仲間達はハッとした。
 そこへ繰り出されるのっぺらぼうの体当たり。小さく悲鳴を上げて、美琴は落とし穴の中へと落ちていった。


 びくりとマナは肩をすくめた。大きな音が聞こえた気がした。先ほどから叫び声も聞こえている。
 どうしよう、こわい、こわい、こわい。
 加えてかぶりを振ったマナの傍らに、どさりと落ちてくる何か。マナは絶叫をあげた。いやだ、こわい、こわい、こわい!
「――驚かせてゴメンね? 私の名前は美琴。あなたはマナちゃん?」
 けれど聞こえてきた優しい声に、マナは思わず肩をすくめた。閉じた目を開けば、真っ暗だった穴の中に、ほのかな光が差している。
 マナの傍らにいたのは緑色の目の女の人だった。目一杯に涙をためたマナを撫で、女の人――美琴はマナに灯りを手渡す。
「今ちょっと上で、立て込んでるから終わったらすぐ助けに来るからな!」
「びっくりさせてごめんよ……マナちゃんを助けに来たんだ、外の悪者退治してくるからもうちょっとだけ辛抱な」
 声とともにバラバラと、電気の提灯と懐中電灯が落ちてくる。マナが見上げると、そこには灰色の髪の男の人と、同じくらい歳の男の子の姿。
「すぐに助けるからね」
 差し出された手を取って、美琴は笑った。
 たくさんの灯りを抱きしめて、マナはぱちぱちと瞬く。少しだけ、手の震えがおさまった気がした。

 マナがいる落とし穴から距離を取っていた黎は、のっぺらぼうに向けてオトリ弾を放った。赤く点滅する光につられ、一体ののっぺらぼうが黎へと向かう。
 ――少しでも前衛が楽になればいいけど。
 黎はのっぺらぼうの攻撃を受けながら、前衛に視線を送った。
 のっぺらぼうは残り九体。くるくる踊ったままののっぺらぼうと、黎へ向かったのっぺらぼうを除いても、あと六体。
 吹き飛ばされた瓜の背を、中衛に出たユウが身体を張って押し留める。これ以上前衛が減るのは命取りだ。
 武器を封じられた魎夜は、吹き飛ばされこそしないが、ダメージは防げない。のっぺらぼうの総攻撃に、魎夜はがくりと膝をついた。
 武器が封じられては、旋剣もヘブンズパッションも大した回復量は望めない。
「魎夜、大丈夫か?」
 カイジの白燐奏甲は届かず、一は救出班。こうなれば前衛の瓜が回復を補うしかない。
 少しでも数を減らすべく、眞由螺は『布都御魂(フツノミタマ)』を振り上げた。巨大な両刃の長剣が紅蓮の炎をその身に纏う。
「吹き飛ぶ暇もなく、粉々にしてやろう!」
 眞由螺の長剣は、のっぺらぼうの身体をまっぷたつに切り裂いた。封術覚悟の撃剣。盛る魔炎に焼き尽くされ、のっぺらぼうは塵となって消え失せる。
 続けて、ユウは怨念が満ちた眼でのっぺらぼうを睨みつけた。ユウの肌に浮かぶ紋が、魔眼の力を高めていく。禍々しき呪いがのっぺらぼうを蝕み、毒がその身体に満ちた。
「桜姉ちゃん、大丈夫?」
「怪我ないか」
「うん、大丈夫よ! 二人がかりだと早いわね!」
 一とカイジの問いに、美琴は笑みを返す。
 一とカイジの手を借りて穴から出てきた美琴は、出てくるやいなや、のっぺらぼうへと駆け出した。隠していた『花依恋』をのっぺらぼうへ突き立てると、元々の毒のダメージも相まって、のっぺらぼうは姿を消す。
「お待たせ! 暗都兄ちゃん、いくぜ!」
 一から魎夜へ放たれるヘブンズパッション。魎夜の傷が一の情熱ビームで癒えていく。
 魎夜の傷が癒えるのを確認し、瓜は顎に力を溜めた。のっぺらぼうの体当たりを押さえ込み、勢いよく齧りつく。瓜の顎がのっぺらぼうの身体を抉り取った。
 一方、黎が狙うは自分に引き寄せられたのっぺらぼう。黎の手元に生み出される猛火の塊。それは魔法陣の力も相まって、より大きなものへと変化する。
「――消えてもらうよ」
 黎が放つ炎の魔弾。魔弾はのっぺらぼうを射抜き、魔炎で包み込む。気魄ののっぺらぼうに、術式の魔弾は相性が抜群。燃え盛る業火は一撃でのっぺらぼうをあるべき世界へ追い還す。
 カイジも魔蝕の霧を――といきたいところだが、今回は霧を通し『瑠璃の花』でのっぺらぼうを斬り落とす。
 手負いも含め、のっぺらぼうの残りは六体。こうなれば数の優位も能力者。加えて一の軽やかなダンスが、のっぺらぼうを巻き込んだ。体当たりもできず、のっぺらぼうはくるくる回る。
 流れはこちらと言わんばかりに総攻撃を仕掛ける能力者達。
 オーラを纏う美琴の『花依恋』、眞由螺の『布都御魂(フツノミタマ)』がのっぺらぼうを切り裂き、瓜の歯がその身を齧り取る。
「オレの剣で悪夢を終わらせてやるぜ!」
 武器封じから解放された魎夜のヒロイックフィーバー。激しい連撃がのっぺらぼうを切り裂いていく。
 霧を通したカイジの一撃。それを追うように黎の魔弾が一直線に駆け抜ける。
「これで終わりだな……」
 そう呟いてユウは残ったのっぺらぼうを赤の目で見る。再びユウの目に宿る禍々しい怨念。怨念はのっぺらぼうを内側から切り裂く。最後ののっぺらぼうは、ぴたりと動きを止めると、そのまま空に溶けて消えた。


「今から行くけれど吃驚しないでね?」
 仲間達に見守られる中、美琴はマナの元へと降り立った。
 先ほど会話をしたせいか、マナは幾分か落ち着いたようだ。それでもマナの目には警戒心が残ったままだし、マナの小さなてのひらは震えている。
「もう怖いことは終わりよ。安心してね」
 美琴はマナの頭を撫で、そっと抱きしめた。ぬくもりに安心したのか、マナの頬をぽろぽろと涙が伝う。
 合図もかねて美琴が見上げれば、丁度瓜が穴を覗き込み、手を差しのべるところだった。
「上には七人いるよ、驚かないでね。皆、マナちゃんを助けにきたひとだから、安心して出ておいで」
 瓜の傍らから黎が顔を出す。黎の言葉に頷いて、マナはおずおずと瓜の手を取った。差し伸べられた手。掌から伝わる体温。とても、あたたかい。
 マナが穴から身を乗り出し、地面に足をつく。瓜の手をそっと離し、マナは能力者達を上目使いに見回した。
「怖かったな……良く頑張った! 偉いぞ」
「良く、1人で耐えられたな偉いぞ」
 満面の笑みでマナを迎える一。傍らのカイジがわしゃわしゃとマナの髪を撫でた。ぱちぱちと瞬くマナに、カイジは嬉しそうに言葉を続ける。
「怖がってもいい。でも暗いとこで、1人で頑張った事は本当に偉い事だぞ」
 カイジの言葉にマナは「ほんと?」と小さく首を傾げた。
「もう大丈夫だ、暗い中一人でよく頑張ったな……」
 笑みを向けたユウに、マナもつられたのか表情が緩む。うん、とマナは笑顔で頷いた。そして、その瞬間だった。
 ――無機質な地面に、満開の花が咲き乱れたのは。
 突然のことに眞由螺と魎夜は目を見開いた。瓜の手を借り、穴から出てきた美琴も思わず瞬く。
 黄色にピンク、赤にオレンジ。野の花のような水色の花も、ところどころに咲いていて。
「あれね、オオイヌノフグリ。あれはスミレなの」
 とマナが語りだしたところを見ると、マナが見てきた野の花の記憶なのだろう。
「ねぇマナちゃん。覚えておいて、マナちゃんはひとりじゃないわ。あなたを心配してくれる友達も家族もいる。だから必ず助けはくるわ」
 口調を変えて、眞由螺はマナに優しく語りかける。マナは真剣な表情で、眞由螺の言葉をしっかりと聞いていた。
「助けは呼べば必ず来るから、安心していいぜ?」
 魎夜も眞由螺の言葉に続いた。闇の中に一人、同じ経験をしたものとして、その恐怖はよくわかる。
「わかった」
 マナは元気よく頷いた。
「どうしても怖い時は、助けてって言って良いんだよ」
「うん。マナが助けてって言ったら、お兄ちゃん、助けに来てね」
 黎の言葉にマナは言う。黎は思わず瞬いた。
 マナはすっかり元気を取り戻したらしい。「今度は肝試しでもして脅かしてやれ」という一の言葉に、「マナ、やり返してやるの!」と勇ましい言葉を返すマナ。元来、元気な女の子のようだ
「マナちゃん。お日様が沈んでしまえば夜になり、暗くなる暗くならないと、俺達もお日様も休めないんだ。休まないと、朝になっても元気に遊べないだろう?」
 瓜はマナと目線を合わせ、優しい表情で語りかける。元気になったのなら、この先はただ一つ。
「朝になるから、起きよう」
 舞い上がる花びら。溢れる光。光は太陽の日差しのようにあったかい。能力者達を見回して、マナは「うん!」と頷いた。
 悪夢が崩れる。花びらと光をまき散らして。元気よく野を駆け回るマナの姿を想像して、能力者達は表情を緩めた。
 少女はもう、悪夢を見ない。


マスター:小藤ミワ 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/08/23
得票数:ハートフル14 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。