<リプレイ>
● 不思議色の雲を抜けた瞬間、広がったのは闇色の空だった。傍らの人はちゃんと見えるのに、空の色はどこまでも暗く、深い。 落とし穴から見える唯一のものがこれならば、どれだけ怖いだろうと南・瓜(ベルガモットの香・b24461)は思う。 草一つない地面。落とし穴があるだけの無機質な空間に、空から黒の塊が降る。地に降り立った塊は、やがて手足をはやし、能力者の行く手を阻むのっぺらぼうへ姿を変えた。 落とし穴の数は三十ほど。あの中の一つにマナはいる。 「マナちゃん、今助けてあげるからね!」 誰よりも速く、桜・美琴(錦上添花・b25470)がのっぺらぼうの群れへ飛び込んだ。突出するのっぺらぼうの頭をとんと叩き、飛び上がった美琴はのっぺらぼうに『花依恋』を突き立てる。 美琴に続き、瓜はのっぺらぼうの肩口に思いっきり齧りついた。 ――これが悪夢の衛兵か。 ユウ・メルフィージ(金煌虎が奮迅鬼・b59264)はすぅと赤の目を細めた。目に宿るのは嫌悪感。人の弱みにつけ込む輩には、嫌悪こそ相応しい。 ユウは自らの気を覚醒させた。ユウの肌に虎の紋が浮かび上がる。 国見・眞由螺(影武者・b32672)は『武器』を旋回させながら、のっぺらぼうを睨みつけた。眞由螺の脳裏に浮かぶのは、病室に寝ていたマナの姿。幼い額に苦悶を滲ませた表情のマナ。 「子どもの弱みに付け込むとは卑劣な……ナイトメア本体がいれば叩き潰すところだ!」 「本当、いい趣味してるね」 呟いた黒須・黎(春への刻み手・b34375)の前方に、魔法陣が浮かび上がった。 そして黎の背後に響く爆音。もくもくと上がる赤の煙を突き抜けて、暗都・魎夜(かつてキングと呼ばれた男・b42300)が姿を現す。 「マナちゃん、助けに来たぜ! 暗闇斬り、フィーバー!! 秒で決めてやる!」 魎夜の『黒炎剣【紅蓮】』がのっぺらぼうを貫いた。 同時に、どこからともなく鳴り響くファンファーレ。軽快な音とともに、一体ののっぺらぼうが姿を消す。 「マナは暗いとこで、一人はかわいそうだな」 怯えているであろうマナを想像し、カイジ・ブルーハーツ(副店長執事・b67018)は眉を寄せる。 そんなカイジの前には濃霧のレンズ。これで後衛の準備は万端だ。 「悪夢は今日でおしまいにしてやろうぜ」 な、と仲間達に声をかけて、葛木・一(ちびっ子ファイター・b59305)は軽快にステップを踏んだ。一のステップにつられ、二体ののっぺらぼうがくるくると踊り出す。 「二つくらい確認したけど、マナちゃんはいなかったわ」 「俺の周りにもいないようだな……俺も全ては見れていないが……」 美琴とユウの言葉に、魎夜も「オレのところにもいないな」と続ける。 「戦闘範囲内にはいないかもしれないな」 瓜はほっと息をつき、のっぺらぼうの体当たりを受け止める。気魄の能力を出来る限り高めた瓜にとって、体当たりを受けるなど造作もない。 瓜が息をついたのは、マナのいる穴にだけは落ちるものかと思っていたからだった。男の子達に穴へ落とされたマナ。もしかしたら、男は怖いかもしれないと瓜は思う。 「カラースプレー、今は必要なさそうだな」 穴の半分ほどはのっぺらぼうの向こう側。戦闘中に覗ける範囲の穴はそう多くない。眞由螺はそっとカラースプレーを地面に置いた。 戦闘範囲にいないならそれに越したことはない。そう思いながら、黎が傍らの穴を覗き込んだ。 ――そして。 「……見つけた! 後衛と中衛の間、少し離れたところの穴にいる」 覗き込んだ穴の中に、小さな人影。黎の声に仲間達はハッとした。 そこへ繰り出されるのっぺらぼうの体当たり。小さく悲鳴を上げて、美琴は落とし穴の中へと落ちていった。
● びくりとマナは肩をすくめた。大きな音が聞こえた気がした。先ほどから叫び声も聞こえている。 どうしよう、こわい、こわい、こわい。 加えてかぶりを振ったマナの傍らに、どさりと落ちてくる何か。マナは絶叫をあげた。いやだ、こわい、こわい、こわい! 「――驚かせてゴメンね? 私の名前は美琴。あなたはマナちゃん?」 けれど聞こえてきた優しい声に、マナは思わず肩をすくめた。閉じた目を開けば、真っ暗だった穴の中に、ほのかな光が差している。 マナの傍らにいたのは緑色の目の女の人だった。目一杯に涙をためたマナを撫で、女の人――美琴はマナに灯りを手渡す。 「今ちょっと上で、立て込んでるから終わったらすぐ助けに来るからな!」 「びっくりさせてごめんよ……マナちゃんを助けに来たんだ、外の悪者退治してくるからもうちょっとだけ辛抱な」 声とともにバラバラと、電気の提灯と懐中電灯が落ちてくる。マナが見上げると、そこには灰色の髪の男の人と、同じくらい歳の男の子の姿。 「すぐに助けるからね」 差し出された手を取って、美琴は笑った。 たくさんの灯りを抱きしめて、マナはぱちぱちと瞬く。少しだけ、手の震えがおさまった気がした。
マナがいる落とし穴から距離を取っていた黎は、のっぺらぼうに向けてオトリ弾を放った。赤く点滅する光につられ、一体ののっぺらぼうが黎へと向かう。 ――少しでも前衛が楽になればいいけど。 黎はのっぺらぼうの攻撃を受けながら、前衛に視線を送った。 のっぺらぼうは残り九体。くるくる踊ったままののっぺらぼうと、黎へ向かったのっぺらぼうを除いても、あと六体。 吹き飛ばされた瓜の背を、中衛に出たユウが身体を張って押し留める。これ以上前衛が減るのは命取りだ。 武器を封じられた魎夜は、吹き飛ばされこそしないが、ダメージは防げない。のっぺらぼうの総攻撃に、魎夜はがくりと膝をついた。 武器が封じられては、旋剣もヘブンズパッションも大した回復量は望めない。 「魎夜、大丈夫か?」 カイジの白燐奏甲は届かず、一は救出班。こうなれば前衛の瓜が回復を補うしかない。 少しでも数を減らすべく、眞由螺は『布都御魂(フツノミタマ)』を振り上げた。巨大な両刃の長剣が紅蓮の炎をその身に纏う。 「吹き飛ぶ暇もなく、粉々にしてやろう!」 眞由螺の長剣は、のっぺらぼうの身体をまっぷたつに切り裂いた。封術覚悟の撃剣。盛る魔炎に焼き尽くされ、のっぺらぼうは塵となって消え失せる。 続けて、ユウは怨念が満ちた眼でのっぺらぼうを睨みつけた。ユウの肌に浮かぶ紋が、魔眼の力を高めていく。禍々しき呪いがのっぺらぼうを蝕み、毒がその身体に満ちた。 「桜姉ちゃん、大丈夫?」 「怪我ないか」 「うん、大丈夫よ! 二人がかりだと早いわね!」 一とカイジの問いに、美琴は笑みを返す。 一とカイジの手を借りて穴から出てきた美琴は、出てくるやいなや、のっぺらぼうへと駆け出した。隠していた『花依恋』をのっぺらぼうへ突き立てると、元々の毒のダメージも相まって、のっぺらぼうは姿を消す。 「お待たせ! 暗都兄ちゃん、いくぜ!」 一から魎夜へ放たれるヘブンズパッション。魎夜の傷が一の情熱ビームで癒えていく。 魎夜の傷が癒えるのを確認し、瓜は顎に力を溜めた。のっぺらぼうの体当たりを押さえ込み、勢いよく齧りつく。瓜の顎がのっぺらぼうの身体を抉り取った。 一方、黎が狙うは自分に引き寄せられたのっぺらぼう。黎の手元に生み出される猛火の塊。それは魔法陣の力も相まって、より大きなものへと変化する。 「――消えてもらうよ」 黎が放つ炎の魔弾。魔弾はのっぺらぼうを射抜き、魔炎で包み込む。気魄ののっぺらぼうに、術式の魔弾は相性が抜群。燃え盛る業火は一撃でのっぺらぼうをあるべき世界へ追い還す。 カイジも魔蝕の霧を――といきたいところだが、今回は霧を通し『瑠璃の花』でのっぺらぼうを斬り落とす。 手負いも含め、のっぺらぼうの残りは六体。こうなれば数の優位も能力者。加えて一の軽やかなダンスが、のっぺらぼうを巻き込んだ。体当たりもできず、のっぺらぼうはくるくる回る。 流れはこちらと言わんばかりに総攻撃を仕掛ける能力者達。 オーラを纏う美琴の『花依恋』、眞由螺の『布都御魂(フツノミタマ)』がのっぺらぼうを切り裂き、瓜の歯がその身を齧り取る。 「オレの剣で悪夢を終わらせてやるぜ!」 武器封じから解放された魎夜のヒロイックフィーバー。激しい連撃がのっぺらぼうを切り裂いていく。 霧を通したカイジの一撃。それを追うように黎の魔弾が一直線に駆け抜ける。 「これで終わりだな……」 そう呟いてユウは残ったのっぺらぼうを赤の目で見る。再びユウの目に宿る禍々しい怨念。怨念はのっぺらぼうを内側から切り裂く。最後ののっぺらぼうは、ぴたりと動きを止めると、そのまま空に溶けて消えた。
● 「今から行くけれど吃驚しないでね?」 仲間達に見守られる中、美琴はマナの元へと降り立った。 先ほど会話をしたせいか、マナは幾分か落ち着いたようだ。それでもマナの目には警戒心が残ったままだし、マナの小さなてのひらは震えている。 「もう怖いことは終わりよ。安心してね」 美琴はマナの頭を撫で、そっと抱きしめた。ぬくもりに安心したのか、マナの頬をぽろぽろと涙が伝う。 合図もかねて美琴が見上げれば、丁度瓜が穴を覗き込み、手を差しのべるところだった。 「上には七人いるよ、驚かないでね。皆、マナちゃんを助けにきたひとだから、安心して出ておいで」 瓜の傍らから黎が顔を出す。黎の言葉に頷いて、マナはおずおずと瓜の手を取った。差し伸べられた手。掌から伝わる体温。とても、あたたかい。 マナが穴から身を乗り出し、地面に足をつく。瓜の手をそっと離し、マナは能力者達を上目使いに見回した。 「怖かったな……良く頑張った! 偉いぞ」 「良く、1人で耐えられたな偉いぞ」 満面の笑みでマナを迎える一。傍らのカイジがわしゃわしゃとマナの髪を撫でた。ぱちぱちと瞬くマナに、カイジは嬉しそうに言葉を続ける。 「怖がってもいい。でも暗いとこで、1人で頑張った事は本当に偉い事だぞ」 カイジの言葉にマナは「ほんと?」と小さく首を傾げた。 「もう大丈夫だ、暗い中一人でよく頑張ったな……」 笑みを向けたユウに、マナもつられたのか表情が緩む。うん、とマナは笑顔で頷いた。そして、その瞬間だった。 ――無機質な地面に、満開の花が咲き乱れたのは。 突然のことに眞由螺と魎夜は目を見開いた。瓜の手を借り、穴から出てきた美琴も思わず瞬く。 黄色にピンク、赤にオレンジ。野の花のような水色の花も、ところどころに咲いていて。 「あれね、オオイヌノフグリ。あれはスミレなの」 とマナが語りだしたところを見ると、マナが見てきた野の花の記憶なのだろう。 「ねぇマナちゃん。覚えておいて、マナちゃんはひとりじゃないわ。あなたを心配してくれる友達も家族もいる。だから必ず助けはくるわ」 口調を変えて、眞由螺はマナに優しく語りかける。マナは真剣な表情で、眞由螺の言葉をしっかりと聞いていた。 「助けは呼べば必ず来るから、安心していいぜ?」 魎夜も眞由螺の言葉に続いた。闇の中に一人、同じ経験をしたものとして、その恐怖はよくわかる。 「わかった」 マナは元気よく頷いた。 「どうしても怖い時は、助けてって言って良いんだよ」 「うん。マナが助けてって言ったら、お兄ちゃん、助けに来てね」 黎の言葉にマナは言う。黎は思わず瞬いた。 マナはすっかり元気を取り戻したらしい。「今度は肝試しでもして脅かしてやれ」という一の言葉に、「マナ、やり返してやるの!」と勇ましい言葉を返すマナ。元来、元気な女の子のようだ 「マナちゃん。お日様が沈んでしまえば夜になり、暗くなる暗くならないと、俺達もお日様も休めないんだ。休まないと、朝になっても元気に遊べないだろう?」 瓜はマナと目線を合わせ、優しい表情で語りかける。元気になったのなら、この先はただ一つ。 「朝になるから、起きよう」 舞い上がる花びら。溢れる光。光は太陽の日差しのようにあったかい。能力者達を見回して、マナは「うん!」と頷いた。 悪夢が崩れる。花びらと光をまき散らして。元気よく野を駆け回るマナの姿を想像して、能力者達は表情を緩めた。 少女はもう、悪夢を見ない。
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参加者:8人
作成日:2009/08/23
得票数:ハートフル14
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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