<リプレイ>
● 「みんなとの楽しい花火タイムを邪魔した罪は重いんだぜ!」 白樺・鴇(ホワイトベジタブル・b47803)の光の槍が虫の片羽を貫いた。さっきのお返しだぜっと鴇は笑う。 鴇の傍らで冴樹・戒璃(蒼銀の断罪者・b50973)は眉を細めた。実に深刻な表情で、戒璃は重大な事実を呟く。 「真っ先に白樺はん刺すとか、色黒好み? ……まさか」 どうやら、自ら要らんフラグを堀り起こしてしまったらしい。 「虫は色黒好き? はっ?! 鴾ちゃの次はかいりちゃとシュヴールちゃが危ないっ?!」 「えっ、そんなフラグ?!」 「お、俺もか」 そこに、フラグをより確固たるものにする佐倉・空(翔空・b19754)。空の言葉に鴇とシュヴール・ルドルフ(ラダティスアウェイクナー・b57139)は瞬く。 「そんなフラグ折ったる、潔くスラッシュロンドで散っとけ!」 自ら発掘したフラグを自ら折るべく戒璃は走った。そして全力で叩き込むスラッシュロンド! それはもう全力で。 「キャラ崩壊だなんて致しませんからねッ」 わたくし自称お嬢様で御座いますので! 烏柄杓・百花(薔薇綺譚の末娘・b05461)は表情をきりりと引き締めた。自然を愛でる百花に従い、伸びあがった茨が虫達の自由を奪おうと絡みつく。 「しじみ、やっちゃえっ」 日向・るり(蒼空に揺れる向日葵・b06322)の言葉に「もきゅっ」と頷き、しじみ(真モーラットピュア)はぱちんと火花を放った。同時にるりの弾丸が弾け、黒燐蟲が虫達を食らう。 『あんたらの花火はそんなもんかい?!』 花火師姉は黒燐蟲を叩き落とすと、お返しといわんばかりにどかんと一発。花火師姉の大砲花火を『Violet quartz』で受け、皆月・弥生(夜叉公主・b43022)は眉を潜めた。前衛に立つ弥生の肌に浮かぶは虎紋。 「傍迷惑な。花火は人に向けてはいけませんって先生や両親に教わらなかったのかしらね」 「うん。大きい花火は……空に咲かせるものだよね?」 弥生の言葉に、八伏・弥琴(綴り路・b01665)も頷いた。 弥琴はとんと地を蹴り、花火師姉へと駆け出す。その背後で、弥琴が設置した花火が吹き上がった。光源代わりの吹き上げ花火。時間はほんの僅かだけれど、花火は色鮮やかに闇を照らす。 「花火って人に向けちゃ駄目なんだっよねー?」 ライターを手に、空はにやりと笑みを浮かべた。もう一方の空の手には、めいっぱいロケット花火。 あっちがその気ならこっちもこの気。というわけで――着火。 「にゅっほー!!!! 花火ー!!!」 ひゅひゅひゅひゅーん! 空のロケット花火が闇に光の筋を描き、一直線に飛んでいく。 花火師姉妹の前で弾けるロケット花火。そして空の黒燐弾。散らばる火の粉と黒燐蟲の中、飛び込んだシュヴールは花火師姉へ『朔月』を振り下ろした。――虫から逃れたともいう。
● 「わわっ、流石みんな……」 総攻撃の結果、蔓に絡まって動けない虫二体と撃破した虫一体。残った虫達も疲労しているのを見て、鴇は思わず呟く。 しかし、真の戦いはここからだった。 シュヴールは向かってくるねずみ花火を発見して瞬く。花火師妹のねずみ花火だ。妹はねずみ花火を投げ、投げ、投げ、投げ――投げ過ぎだろ! 『ふふ』 花火師妹は実に愉快そうである。 虫達だってやられてばかりではないのだ。羽音をたて、虫達は戒璃と弥生の元へ。 「む、虫は世の中のおにゃのこの敵なんだっよよー!!!!!!!」 慌てて空が黒燐弾を放つも虫達には当たらない。虫達はきらりと光る針を向け、ちくり。 同時にばしんと叩き落とされる二匹の虫。そしてゆらりと立ち上がる二つの影。 「カトンボ風情が……そんなに叩き落されたいかっ!」 「……喧嘩売る相手間違えた事、今すぐ後悔しろ?」 勢いよく地に足を叩き付け、弥生は虫を睨みつける。対する戒璃は笑みを浮かべた。満面の笑みだった。目は笑っていなかった。 ――ひぃぃぃ! 烈火の如く怒りを巻き散らす弥生と、冷水の如く冷ややかな笑みの戒璃に、びくりと肩を竦める仲間達。怖い怖い怖い! 「お、落ち着いて……っ」 「みんなしっかり!」 あわあわとする弥琴と鴇。その傍らで、るりが虫を抑えようと黒燐弾を撃つ。百花も再び茨を這わせ、 「これはこれで意外な一面を見れて楽し……いえ何でも!」 おっと、つい本音が。 「日方さん、レッドファイア!」 虫を引きつけるべく、弥琴は日方(ケルベロスオメガ)に指示を出した。これ以上仲間達を怒らすわけにはいかない、怖いから。 まさに飛んで火に入っちゃう虫の群れ。日方の火にまみれながらも、虫は炎に向かって飛んでいく。飛んでいって――ちくり。 「ひ、日方さーん?!」 そして日方は怒った。 咆哮し、前足で虫を叩き落とした日方に、弥琴は思わず叫ぶ。傷を癒すべく魔狼の気を纏いながら、シュヴールが弥琴の肩をぽんと叩いた。 『行くでぇー!』 そこへどーんと放たれる姉の花火。妹のねずみ花火もじゃんじゃん飛んでくる。もうなにがなんだか。 「だから花火は人に向けるな!」 「はっぴ族は空以上に危険人物なんだっよよー!!!!!」 花火の爆発に爛れる腕。痛みに顔をしかめながら、鴇は再び光の槍を虫へ放った。続けて空も「あれ? ここって人物でいいのかな?」と首を傾げつつ黒燐弾を。蟲に蝕まれ、虫二匹が地に落ちる。 「しじみ、回復をっ」 るりはしじみにシュヴールを回復するよう指示を出し、自らは黒燐蟲を纏った。黒燐蟲の仄かな光がるりの傷を癒していく。 「虫はあと少しで御座いますね」 百花は再度茨を呼ぶべく『Une chanson de fleur』を構えるが、しかし。 ――ダンッ!! 激しく地面に叩き付けられる虫達を見て、百花はびくりと肩を竦めた。叩きつけたのはもちろん戒璃と弥生。 しゅうぅと音を立て、煙をあげる地に突き立てられた詠唱兵器。『Unendlichkeit』の裾を翻すと、戒璃は仲間達を振り返った。 「群がる虫とか普通に邪魔やったな?」 実に爽やかな笑顔で。 一方、文字通り虫を叩き潰した弥生は、立ち上がるとともにそっと仲間達から視線を逸らす。 「……切れてないわよ?」 嘘だ! 思わず総ツッコミの仲間達。 なにはともあれ戒璃と弥生、そして日方の怒りは解けたらしい。虫撃退も完了し、残るは花火師姉妹のみ。不敵な笑みを浮かべる姉妹に、隠れの懐中時計の面々は武器を構える。 『念動剣』の切先を向け、鴇はゆっくりと口を開いた。 「ハッピいいな……」 ――――え?
● 思わずうらやむ姉妹のはっぴは、闇の中でも鮮やかだった。はっぴの裾をはためかせ、姉妹は花火を構える。 『こっからが本番やでぇ』 虫達が消えたことにより、少し姉妹の顔つきが変わったように見えた。一変した雰囲気に、霧隠れの懐中時計一同の表情も引き締まる。 いつの間にか吹き上げ花火の音は止み、丘には静寂が広がっていた。それぞれ持ち寄ったランプやランタン、弥琴の掌から溢れる光が闇を照らす。光がなければどれほどの闇が落ちるだろうか。闇、ゆえに花火は良く映える。 「花火って綺麗ですよね」 るりはそう言って、空に輝く光の花を思い出したのか、ほんわりと笑みを浮かべた。 「でもこの花火綺麗じゃないです」 それから、ものすごく微妙な表情で姉妹を見るるり。だからやっつけるのだとるりはぐっと拳を握る。 『ふふふ』 るりの言葉に花火師姉妹が返すのは笑みだった。花火師妹がピンクはっぴを翻し、煙花火を能力者達に投げつける。途端、あたりに立ちこめる妖しい煙。煙にまみれ、シュヴールと鴇の武器の回転動力炉が動きを止めた。 「わっ、止まった!」 「厄介だな」 厄介だが、シュヴールには想定内。無理はしないと心に決め、シュヴールは僅かに後退する。 「花火は安全に楽しむもので御座いますよ!」 百花は『Une chanson de fleur』で煙を払い、花火師姉妹に鋭い視線を向けた。 「言葉が通じないのなら、力で解らせて差し上げましょうとも!」 開花を願う歌のような優しき錫杖の音を響かせて、百花は花の代わりに光を生み出す。光の行く先は花火師妹。光で象られた百花の槍が妹の肩を貫いた。 「殴るのも撃つのも危ないよ、ほんと……!」 振り下ろされた姉の大砲花火を、弥琴は『呪奏琵琶』で受け止める。同時に姉の魔炎が唸りを上げて燃え上がった。踏みしめた弥琴の足から砂埃が上がる。 ふと、琵琶が軽くなった。瞬いた弥琴の目に映ったのは、姉の腹部を射抜く光の槍と、姉の腕に引き裂く影の手。振り返れば、鴇と空が満面の笑みを浮かべていた。 悔しげに顔を歪め、花火師姉は膝をつく。弥琴の呪言に蝕まれていたうえに、総攻撃を受け、流石の姉も疲労の色を隠せない。 「……よし」 回転動力炉が動き出したのを確認し、シュヴールは再び地を蹴った。やり返してやると決めていた。今、全ての力を武器に込めて、シュヴールが渾身の一撃を放つ。 「お別れだ――じゃあな」 闇夜に浮かぶ薄い月のよう、煌めいた『朔月』が姉の体を貫いた。同時に姉の体を蝕む衝撃。駆け巡る猛毒に瞠目し、花火師姉は空に散った。 「随分好き勝手やってくれて……是非ともお返しをしないとね?」 傍らをすり抜けていったねずみ花火を一瞥して、弥生は花火師妹の元へ。弥生の『Violet quartz』が妹の体を切り裂いた。 一方、ねずみ花火はるりのところで破裂した。胸に花火の直撃を受け、僅かに眉を寄せるるり。体勢を立て直しながら、るりはしじみに火花の指示を出す。 「こっちの花火の方が綺麗だもん」 弾けた火花にるりは笑った。 加えて花火師妹の胸元に浮かぶ十字架の印。浮かんだ印にただならぬ気配を感じたのか、花火師妹の笑みが消えた。けれど、もう遅い。 ――ロックオン。 戒璃が指を差したその瞬間、叩き込まれる連続の弾丸。身を捩ろうと叫ぼうと、印がある限り弾丸からは逃れられない。一直線の弾丸に射抜かれ、花火師妹は絶叫を上げた。 絶叫は終焉を示す。闇に溶けるかの如く消えた花火師妹。後に残ったのは静寂と闇だけ。 「花火で害齎す光でなく――来世への希望乗せた光になっとき?」 戒璃の言葉も闇の中に消えた。
● 「待ってたぜ! 花火花火〜♪」 戦闘後のしんみり感を吹き飛ばすように、鴇の元気な声が丘に響いた。鼠花火だろー、打ち上げだろーと鴇は楽しそうに花火を広げる。 「あ、打ち上げはオレちょーっと怖いから誰か頼んだ!」 「任せろ」 鴇の言葉に頷いて、シュヴールは吹き上げ花火に火をつけた。 鮮やかな光が空に向かって散らばった。線香花火とか淑やかなのも良いけれど、こういう華やかな花火も綺麗だとシュヴールは思う。 「秋の花火も綺麗ですね」 「はい。秋の月に照らされた中で行う花火も、また味が御座いますね」 吹き上げ花火を見つめ、るりと百花は顔を見合わせて微笑み合った。 「それと。わたくし、花火はやっぱり手持ちが好きです」 そう言って百花は手持ち花火をるりに渡し、百花自身も手持ち花火に火をつけた。 秋風に揺られる花火を見つめ、「花火は夏だけじゃないですよね」とるりは言う。 「負けた人は運動会当日のお弁当担当とか……どうだろ」 戒璃から線香花火を受け取って、そう呟いたのは弥琴だった。 「弁当はわいでも構わへんけど……野菜だらけになるで?」 「おべんとーは……そ、空が作ると到底この世のものとは思えないものになりますがいいですか?」 瞬く戒璃の隣で、あわあわとする空。そして弥生は「お弁当?」と小さく首を傾げた。 「あと、記念写真撮りたいなぁ」 「あ、わいも撮りたいんやけど」 加えて呟いた弥琴の一言に、戒璃はカメラを見せて微笑んだ。たしかにこれも良い思い出ねと弥生も笑う。 「あら、じゃあわたくしもお写真を」 いそいそとカメラを取り出す百花。戒璃と自分のカメラ、二つのカメラを手に百花はぱたぱたと駆け出した。 「それでは撮りますわよー」 百花の言葉に各々答え、写真を撮るべく霧隠れの懐中時計一同は二列に並ぶ。ぱちぱちと赤く点灯するランプ。3、2、1―― ちなみに記念写真撮影後、お弁当をかけた線香花火大会はしっかり行われたとかなんとか。さて運動会当日のお弁当の行方は、いかに。
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参加者:8人
作成日:2009/10/12
得票数:楽しい13
カッコいい1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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