<リプレイ>
●枯れかけた花を踏み分けて 「荒れた温室ってのは寂しいもんだな」 姿を隠す闇をまとったまま、加藤・風雅(首売六郎兵衛・b11769)は呟いた。 温室を覆うはずのビニールは破け、雑草に覆われた土はすでに固くなってしまって。 「一体……何をどうすればこうなるのかな?」 悲しげに呟きながら、御影・頼子(蜘蛛護りの言霊使い・b56529)はそっと草をかき分ける。雑草の間からは、まだ命を保っている花の株が覗いていた。 「こんな場所を一人で手入れしてるなんて、健気な子じゃないか。守ってやらないとな」 風雅の言葉に全員が頷く。まだどうにか生きている温室と、それを蘇らせようとする少年。けれどそこに巣食うのは、ただ命を刈り取るだけの者。 「花を愛する心を踏み躙る様な行為、少々許しがたいものがございますね……」 「けれど……なんで彼女たちがこうなってしまったのか、少し気になるな」 雑草を抜きながら、土御門・泰花(風待月に咲く菫・b58524)と霜月・瑠樹(金色の狼は月夜に唄う・b63208)が言い交わす。 「怨みなのかそれとも仲間を増やしたいのか。どちらにしてもきっと花が好きな少女達だったんでしょう……悲しいですね」 セドリック・ヘブナー(まあ良いじゃないですか・b50715)が悲しげな瞳を向けて嘆息する。白凪・悠菜(白亜の暴走突撃娘・b49077)も、日当たりの良い温室の片隅から、草むしりの手を止めて頷いた。 「十年。今となっては何があったのか知る術も無いけど、そろそろ開放されてもいい頃でしょう」 無垢な命を失わせるわけにいかないから、と皆月・弥生(夜叉公主・b43022)が呟くのに、能力者たちは頷き、作業を再開する。黙々と石や木々を取り除いていた月乃・星(永遠の欠食児童かも・b33543)が、バケツの中身をぶちまけようと…… 「……って、月乃さん! ミミズばら撒いちゃ駄目ですー!」 「? 土を肥やすには、これを」 「せめて許可取ろう、許可!」 きょとん、と首を傾げる星を、必死で止める一同。一気ににぎやかになる温室。 ふと空気が変わったのを感じ、周りの様子に気を配っていた弥生が顔を上げる。 「来たわよ、みんな……」 見渡せば、そこは一面の荒れ果てた野原。 ふわり、と白いワンピースが揺れる。抱えた花束が震える。三人の少女が能力者たちに歩み寄る。 その一人の手から、ざあぁっ、とまき散らされた白い花びらが、能力者たちの血に濡れる。 それが、戦闘開始の合図となった。
●舞い散る花を仕留めに 「花壇に女の子、ね。どうもやりにくいな……」 風雅が旋剣の構えをとりながら、後衛の面々を守る位置へと動く。悠菜がその後ろで魔法陣を描き、魔弾の射手の力を呼び出す。 「……っ」 星が発勁手袋を一番強い地縛霊に向け、バッドステータスの危機から仲間を引き離そうと、衝撃波を叩きつける。けれど、地縛霊は吹き飛ばされることはなかった。花束で衝撃を受け流し、赤い花びらをばら撒く。それは毒となり、能力者たちに染み渡った。 「相手をしてもらいましょうか。……無理矢理でもね」 「僕も行きますよ……」 何とか毒を振り払い、また堪えつつ、弥生とセドリックが前に走り出ながら、武器に黒燐蟲をまとわせる。その後ろから頼子が、赦しの舞での癒しを送った。 「以前何があったにせよ、許されることではありません……参ります」 旋剣の構えをとりつつ、泰花も地縛霊の前に立ちはだかる。 「過去に何があったにせよ、被害者が出る前に止めないとね」 瑠樹が詠唱ライフルを向け、範囲攻撃を行ってきた地縛霊を打ち抜く。 地縛霊たちが花をばら撒き、枝を突き刺せば、能力者たちが剣を、衝撃を、弾丸を、魔弾を返す。互いに癒し手がいる戦いは、長引く。 今もまた、地縛霊の一体が空色の花びらをばら撒き、地縛霊たちの傷を癒していく。 「っ!」 続いて、隣の少女が黄色の花びらをまき散らす。マヒの力を秘めた花びらは、次々に能力者たちを行動不能に追い込んだ。 前衛の能力者たちが動けないその隙に、いくらかガードが甘かったもう一体の地縛霊が、後衛へと近づく。 「行かせないっ!」 マヒを打ち破り、風雅が地縛霊の行く手をさえぎる。繰り出された紫の花を避け、黒影剣で斬り返す。 星はそれに続こうとしたバッドステータスの地縛霊に、静かに瞬断撃で斬りかかった。 「清めの舞にて彼の者につきし汚れを祓え……!」 頼子の舞が、仲間たちのマヒを払い、癒していく。マヒから立ち直った弥生が、さっそく呪いの魔眼を地縛霊に向け、毒を流し込む。同じ相手に悠菜がすかさず雷の魔弾を叩き込んだ。 なおも花をちぎって散らそうとする地縛霊の前に、セドリックが大鎌を、泰花が二振りの剣を構えて立つ。 「これで……終わりに!」 「破邪顕正――墨染桜花!」 抜群のコンビネーションで左右から叩き込まれた黒影剣に、地縛霊は花束を取り落とし……地面へと落ちる前に、もろともに消えて行った。
少女が花で能力者たちを指し示した途端、足元から何本ものツタが能力者たちの体を這い上った。 「くぅっ……」 ツタにからめとられ、頼子がうめく。回復を司るはずの彼女は、締め付けから抜け出すことができないでいた。 後衛が動けないでいる間に、もう一体の地縛霊が星に花を突き刺す。臆することなく星は攻撃を叩きつけるが、何度も攻撃を受けた体はかなりの傷を負っていた。 「黒燐蟲よ……月乃さんに!」 弥生が黒燐奏甲をかけ、星の傷を癒す。 「頼子さん……! 急急如律令――治癒符、改!」 泰花がからめとられた頼子に、癒しの力を込めた符を放つ。 いくらか乱れた戦線を、セドリックと風雅が押し戻し、ツタを放った地縛霊に打撃を与えていく。 「っ! これで……行けます」 ツタを振り払い、頼子が舞う。積りつつあった能力者たちの傷を、赦しの舞が癒していった。 悠菜が魔弾の射手を掛け直し、次の攻撃に備える。瑠樹が詠唱ライフルを構え、確実に地縛霊を撃ち抜く。 「どうせ偽物の世界なら、花の咲き誇る花壇を作れば良かったんだ……」 風雅が、影からダークハンドを呼び出し、地縛霊に向ける。 「その鎖に縛られてるせいで出来ないのか? なら……俺達が、解き放とう」 闇色の手に引き裂かれた地縛霊は、風雅が見守る中、声もなく消えて行った。
少女の手から散っていく薄桃色の花びらが、安らげぬ眠りに能力者たちを誘う。 一度膝をつきながらも、能力者たちは立ち上がり、攻撃を続けた。 「撃ち抜きますっ!」 悠菜が雷の魔弾を放ち、地縛霊を打ち据える。 「これで……」 「行きますよ!」 セドリックが、続いて泰花が黒影剣を振りかぶり、地縛霊に斬りつける。二人ともこれが、最後の黒影剣。 弥生が、荒れ野にわずかに咲く花を、踏み荒らすように踏み出す。繰り出された花でつけられた傷を、呪髪と長剣で受け流して耐えた。 「あの世にも、花の一つは咲いているでしょうに……」 悲しげな視線に乗せられた呪いの魔眼が、地縛霊の体に、傷とともに毒を流し込む。 「連綿たる土蜘蛛の祖霊よ……彼の者に力を授けよ!」 頼子が弥生に祖霊を降臨させ、傷を癒していく。 「さて……当たってくれよっ!」 瑠樹がクロストリガーを繰り出そうと、ライフルを掲げる。二挺のライフルから何発もの弾丸が吐き出され、地縛霊の体に食い込んでいく。 最後に立ちはだかったのは、星。 「…………っ」 目にも止まらぬ速さで繰り出された一撃に、一瞬遅れて地縛霊の動きが止まり――白い服の少女は、消えて行った。 同時に、能力者たちの周りに温室の鉄骨が姿を現す。特殊空間が解除されたのだ。 「ここでどんなことが起きたのかわからないけど……新たな犠牲は出さずに済んだ……」 ようやく舞の手を止めて、頼子はほっとした顔で呟いた。
●息づく花をよみがえらせて 庭仕事の道具を手に、温室に姿を現した少年は、大勢の先客の姿に目を丸くした。 「昔は綺麗だったのに、今じゃこうなってたのか。ちょっと寂しいな」 「あ……あの、OBの人ですか?」 恐る恐る声を掛けた少年に風雅は頷いて、良かったら手伝わせてくれないか、と申し出る。 「あ、でも、手が結構汚れますよ? それにしても、OBの方がどうして……」 「花が咲くのは嬉しいものだろう? 何か理由がいるかな?」 「……自宅でも家庭菜園やってる。ここ見つけて興味湧いたから」 「土いじりってやった事がないから、どうすれば良いのかよく分からないけど……やり方を教えてくれないかな?」 穏やかに言う風雅の隣で星が、瑠樹が、そして全員が次々に手伝いを申し出る。 少し戸惑っていた少年は、けれど満面の笑顔で「お願いします!」と頭を下げた。
「長期間放置されていたから……一度苗はポットに植え替えて、土を作るところから始めるのでしょうか?」 「ええ、そうです。雑草を抜いて、花の苗を探し出して……」 土いじりの好きなセドリックや頼子、それに少年が、雑草に埋もれた花の苗を探し出し、どれを選り分けるか指図する。 「酷い荒れ様……これを一人で何とかしようだなんて、余程花の世話が好きなのね」 苗を植え替えながら話し掛ける弥生に、少年はにこりと微笑んで。 「ええ、大好きです。一人でも何とかしようと思いましたが……こうして手伝ってくれる人がいて、すごく嬉しいんです」 あなたも花の世話はお好きですか? と問われ、弥生は少し考えて、 「私はそこまで興味があるわけではないけど、でもそうね……土の匂いというのも悪くはない」 どこか照れたように笑って、言った。 「そういえば……夕化粧、オシロイバナの花言葉はご存知ありませんか?」 こちらにも、照れている少女がもう一人。 薄く頬を染め、泰花はそっと苗を掘り出しながら少年に尋ねる。 「オシロイバナですか……『内気』『柔和』『あなたを思う』、それに『不思議な気持ち』……といったところでしょうか」 お好きなのですか、と尋ねる少年に、泰花はさらに頬を赤くする。 「大切な恋人の誕生花なのです。知っておきたいと存じまして……」 「恋人の誕生花、ですか……記念日にまつわる花など知っていると、とても素敵ですよね」 つられて赤くなった少年に礼を言い、泰花は掘り出した苗を手に、そっと立ち上がる。 苗を選り分け、雑草を取り除き、さっぱりした花壇に肥料を撒いて。 綺麗になった花壇にまいてほしいと、悠菜はコスモスの種を差し出す。 「コスモス、可愛いですよね。お好きなんですか?」 「ええ。来る前に買ってきたものなのですけど」 「ありがとうございます! せっかくだから、皆でまきましょうか」 嬉しそうにコスモスの種を受け取る少年に、今度は星が大きな籠を差し出した。 ワイルドストロベリー、しそ、かぶ、大根、スイートバジル、タイム……野菜や果物、ハーブなどの苗や種の詰め合わせだ。 「……今の時期、植えるといい」 「うわあ、すごい……調理実習なんかに使えるかな? それに、野菜や果物の花も、とても綺麗なんですよね」 喜ぶ少年に頷いて、さらに差し出すのは小さなバケツ。……先ほどばら撒こうとしたものと、中身は同じ。 けれどバケツの中を覗き込み、少年は笑顔を見せた。 「ありがとうございます! ちょうど土を柔らかくしてもらったから、ミミズも住めますね」 良い土を作ってくれるミミズは、園芸好きにとっては大事な存在。 それを素直に喜ぶ少年に、星はわずかに笑顔を見せた。
「「お疲れ様でした!」」 夕闇に辺りが沈む頃。ようやく花壇らしい形を整えた温室を前に、能力者たちと少年は、会心の笑みを浮かべた。 「大変だろうけど、これからも頑張って」 「頑張って、綺麗な花を咲かせてください」 「はい! みなさん、ありがとうございました!」 何度も礼を言う少年に見送られ、能力者たちは温室を後にする。 皆で整えた花壇には、やがてまた花が咲き誇り、命の息吹が溢れるだろう。 ここはもう悲しい枯野でも死の空間でもなく、華やかな命が息づく場所となる。 能力者たちはそれを確信し、心地よい疲れに身を任せながら帰途に着くのだった。
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参加者:8人
作成日:2009/09/07
得票数:怖すぎ1
ハートフル12
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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