名亡シ花


<オープニング>


 ぽろぽろと、小さな花が風に舞い落ちる。
 緩やかに香り立つその芳香は、そっと寄り添うように甘く、慎ましい。
「おかあさん、まだかなぁ……」
 薄暗い公園のブランコで、小さな女の子が帰りの遅い母親の帰宅を待っている。
 その子にとって、母親を待つのはいつもの事だった。
 母親が自分のために夜遅くまで仕事をしているのだということを、その子は理解していた。ただ、寂しさと早く会いたいという想いとが、いつもは家で大人しく待っているその女の子の足を夜の薄暗い公園へ向かわせた。
 ギィ……ギィイ……。
 軋んだ音色。
 ブランコがゆっくりと揺れる。
 夜咲く花の香りが彼女の鼻をくすぐった。
「……名前を、呼んで」
「……ぇ?」
 声をかけられて、彼女は振り向いた。
 その女の子の背後に立っていたのは、青白い顔をした、まだ幼さの残る少女――。
 青白い顔をした少女が、にこりと冷笑を浮かべた。
 その笑みにつられて、小さな女の子が口を開いた。
「おねぇちゃ……」
 ……ギィ……ギィイ……。
 ブランコの軋む音が公園に響く。
 ててん、てんっ……と、鞠が弾むように地面に転がり落ちたのは、小さく愛らしい花の首。
 次いで零れ落ちたのは、黒く紅い雫。
 小さな女の子の体が、遅れて地面へと突っ伏した。
 緩やかな風に花は香る。
 静かに、ただ静かに、そっと寄り添うように。

「皆さん、お集まり頂きありがとうございます」
 深夜の教室で、藤崎・志穂(運命予報士・bn0020)がそう言ってぺこりと頭を下げた。
「その事件が起こっているのは、夜の公園です」
 夜の公園に青白い顔をした少女の地縛霊が現れ、夜中に寂しい心を抱えてその公園を訪れた者に声をかけ、問いかけに対して誤った言葉を口にした者の首を、悉く切り落としているのだという。
 既に何名かの犠牲者がでている。これ以上犠牲者が出ることは、何としても食い止めたいところだ。
 その少女の地縛霊は青白い顔に肩ほどまで伸びた髪、まだ幼さの残るその顔から推測するに、恐らく中学生くらいだろう。
「夜に一人でその公園へ行けば、現れると思います。ただし……」
 心のどこかに、寂しさを抱えた人の元だけに。
 囁くような声で、志穂はそう口にした。
 誰か一人を囮として公園内へ踏み入らせ、他の者は公園外の物陰から地縛霊の出現をじっと待ち構える――危険ではあるが、地縛霊を出現させるにはその方法しかないだろう。
「今回犠牲になろうとしている女の子が来る前に、その地縛霊を倒してください」
 とはいえ、地縛霊が現れるのは太陽が沈んでからだ。地縛霊を出現させるのに手間取ったり、戦闘で手間取ってしまえば、戦闘中に女の子が公園に到着してしまう可能性もある。この辺りも何らかの対応が必要になってくるかも知れない。
「その少女の地縛霊は、初撃がとても強力なんです」
 名前を呼んで、という言葉に対する返答が正しければ、初撃は免れる。
 だが、もしも返答を誤れば――背後から放たれる容赦ない一撃は、回避困難だ。能力者とはいえひとたまりも無いだろう。
 囮役となる能力者には、それなりの用意と覚悟が必要かも知れない。無論それ以外の者も、もしもの時に備えての準備が必要だ。
 地縛霊は右手に鋭く艶かしいナイフを持ち、それで斬りつけてくる。
 その叫び声は花を散らし、多くの者を巻き込んで、何度も、何度も切り裂く。
 そして、その笑い声は花を揺らし、自分と自分の味方となる者の傷を癒すのだという。
「戦闘になると、もう三体の地縛霊が現れます」
 少女の手によって殺害された男性と女性、そして少年の地縛霊だ。
 彼らは特に特殊な能力は無く、それぞれ力任せに殴りかかってくるらしい。三体すべてが少女の地縛霊の壁となるのだから、それなりに厄介な相手ではある。
「地縛霊を退治した後は、お母さんの帰りを待つ女の子と遊んであげるといいかも知れないです。お花も、良い香りがして、とてもきれいみたいですから……」

 志穂はそう言い終えると、花のような微笑を零した。
「皆さんなら、きっとやり遂げてくださると信じています。良い知らせをお待ちしています」

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参加者
姫咲・ルナ(ピンクの月夜は仔猫の想い出・b07611)
御堂・まりあ(断罪と慈悲の黒紫蝶・b20379)
流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・b23085)
アリーセ・エルンスト(颶風纏いし猟犬・b33163)
糠姫・さなぎ(蛇巫・b37699)
来留須・京一(道楽従属ヴァンパイア・b54059)
有明・十六夜(やんちゃな土蜘蛛・b62452)
佐美・早矩(氷霧と硝子の匣庭剣士・b66586)



<リプレイ>

●今を生きる者
 ゆるゆると陽は落ちてゆく。
 緋色に焼けた空は刻一刻と色を亡くし、人々の心の中に微かな不安を煽る。
 覗き込んだ公園の端々から闇が手を伸ばし、次の獲物を待ち構えるように密やかに広がっていった。
「名前を呼んでと語りかける地縛霊。寂しい心に誘われて現れる少女の霊、っすか」
 来留須・京一(道楽従属ヴァンパイア・b54059)がシーソーの位置を確認しながら呟いた。
 過去に何かあったのだろうか。その問いに答えられる者は無い。
「寂しい女の子……公園に来る子も霊の子も、きっと同じような思いを抱えているのね」
 微かに頷く姫咲・ルナ(ピンクの月夜は仔猫の想い出・b07611)の言葉もどこか寂しげに響いてゆく。
 夜咲く花は時満ちず未だ咲かぬ。
 指先に触れた乾いた感触と共に小さな蕾がぱらりと零れ、足元に忍び寄る暗闇に吸い込まれていった。
「何故寂しい心を持つ人のところに現れるかは分からないが……」
「悲しい事が遭ったかも知れませんが決して許せる所業ではありません」
 流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・b23085)の言葉に続くように、アリーセ・エルンスト(颶風纏いし猟犬・b33163)が凛として言い放つ。
 その言葉は何よりも正しく、この場にいる能力者たち全員の想いでもあった。
「地縛霊ってことはそれ相応の事件があったのだろう。可哀想だがそれを許す訳にはいかない」
 せめて安らかに成仏できるよう引導を渡そうか。佐美・早矩(氷霧と硝子の匣庭剣士・b66586)が淡々としてそう告げる。
 京一は彼らの言葉にこくりと一つ、頷いた。
「過去は変えられない。新しい犠牲者が出るのを食い止めるのみ、っすね」
 今を生きる者のために。それが彼ら能力者たちがこの場へと集まった理由なのだから。
「能力者としての大切なお仕事ですね。しっかり頑張りましょう」
 糠姫・さなぎ(蛇巫・b37699)の言葉と共に、彼らは互いに頷き合った。
 静かに、静かに、闇が迫る。
 それぞれの想いを抱えて、能力者たちは己の役を果たす為しっかりと手のひらを握り締めた。
 ゆらり、今を生きる者たちの影が風に震え揺れていた。

●手折らせぬ強さを
 公園の前で、ピンク色の少女が興味深そうに公園の中をきょろきょろと見回していた。公園の中にひっそりと佇むブランコやシーソーを自制するようにじっと見詰めている。
(「こんなとこに1人いるとますます寂しくなっちゃわないかな……」)
 ルナは心の中でそう呟いた。
 微かな不安を胸に覚えたルナの傍らでは、公園の中一人佇む女の姿を見詰めながら有明・十六夜(やんちゃな土蜘蛛・b62452)が油断無く周囲を警戒している。
(「何で地縛霊になっちまったのかは知らねぇけど、とりあえず女の子に危害を与える前に倒させてもらうぜ」)
 御堂・まりあ(断罪と慈悲の黒紫蝶・b20379)は一人この公園にやってくるという女の子の足止めをすべく公園前で待機し、アリーセ以外の六名もまた公園外の垣根の影に身を潜め、囮役の彼女の姿をじっと見守っていた。
 早矩は待ち時間に耐え兼ねて花を摘んでいる。アリーセが一人公園の中へ入ってから、もう随分と時間が経っていた。彼らが地縛霊を誘き出すために選んだのは、公園の出入り口から最も近い場所にあるシーソーだ。
「……姉さん」
 ぽつり、呟く。
 アリーセはシーソーに腰掛けたまま足下の砂を踏み鳴らした。
 ぎぃ……軋んだ音が公園内に響き渡る。
 時は流れ、待つことを知らぬ闇が迫り来る。
 彼女は一人、望郷の念に駆られていた。
 幼い頃、今は遠い場所に居る姉と遊んだ記憶。それは彼女にとってとても大切な、唯一の故郷だ。どれだけの友人と、どれだけの時を過ごしても満たされることの無い寂しさ――心の中に湧き上がる想い。
 じゃり、足下で砂が啼く。
 少女は現れない。
 彼女はどれだけ時間がかかろうとも、慌てずのんびり対応しようと心に決めていた。普段から温和な彼女の心構えがそうさせているのだろう。それとも、仲間への信頼故か。
 どれほどの時間が経っただろうか。
 不意に風が凪いだ。
 いつの間にか闇は深まっている。小さな花が咲き零れ、白い花弁がふわりと開いた端から甘い芳香を漂わせている。
 背後に、何か居る。アリーセの背筋を、ぞくりと悪寒が迸った。
「……名前を、呼んで」
「……ナナちゃん」
 一瞬だった。
 青白い顔をした少女が、にこりと冷笑を浮かべた。
 回避は試みた。けれども――艶めかしく閃いたナイフがそのか細い首に突き立てられ、駆け抜けるような痛みがアリーセの首を襲った。
 ナイフが駆ける。迸る痛みが首を裂く。
 ばたばたと盛大に血が滴り落ちた。
「こちらも相応の礼、返させて貰おう……!」
 強烈な痛みに顔を歪めながら、アリーセは荒れ狂う暴風を纏い少女の地縛霊目掛け捨て身で突撃した。己の優位に油断したか、少女が悲鳴ともつかぬ声を上げアリーセの攻撃をまともに受け止める。
 零れ落ちた紅い滴が暗闇に吸い込まれていった。辛うじて立っている。そう言っても過言では無いほどのダメージを被った。体力のある彼女でなければ、この強烈な一撃には耐えることができなかっただろう。少女との距離を置くようにじりりと後退するも、狙いすましたかの如く彼女を囲むように三体の地縛霊が現れる。
 拙い――次々と溢れ出る生温い液体に、彼女の額に汗が浮かんだ。
 十六夜が、影郎が、皆が全力で駆けた。
 誰よりも早く敵を己の射程内に捕らえたのはルナだ。
「うわあ、ぞろぞろ出てきたの!」
 そう口にしたルナの体内を魔弾のエネルギーが逆流し始める。
「死んでからもずっと寂しいなんてツライこと。だけど、人の寂しさに付け込むなんてダメダメなのねっ」
 さなぎはアリーセの元までたどり着けず己の武器に白燐奏甲を施す。それに続くように飛び出した京一が少年の地縛霊の首筋に噛み付いた。揺らいだ敵の壁を見遣りながら息の上がったアリーセが飛び退いて黒燐奏甲を纏う。
 影郎がアリーセと敵との前に滑り込むように立ちはだかった。
「今を生きるものの為に眠っていてもらうぞ」
 大地を踏みしめる。強烈な衝撃波が放たれ、男と女の地縛霊が派手に吹っ飛んだ。
 むくりと起き上がり呻り声を上げて男と女の地縛霊が次々と影郎に掴みかかった。早矩の放った氷雪に満ちた竜巻が次々と飲み込んでいく。
「よっしゃ! 行くぜ!」
 十六夜は黒燐奏甲をその身に纏った。
 少女の地縛霊が場にそぐわぬ、異様な笑い声を零しだした。その途端、白き花が心惑わせるような匂いを纏ったままぽろぽろと散りゆき、地縛霊たちの傷を癒した。
 少女の地縛霊を守る壁のように男女と少年の地縛霊が立ちはだかり、それに対峙するように京一、影郎、十六夜が立ち並び、その更に後ろに後衛陣が控えていた。彼らの視界は後衛中央に布陣したさなぎの白燐光によって確保されている。
「イヴ!」
 少女目掛けルナの放った炎の弾が襲い掛かり、その身を魔炎が駆け上った。アリーセの元へと辿り着いたルナの真モーラットピュアのイヴが傷口をぺろぺろと舐めて癒す。
「ご加護を」
 さなぎが回復の為アリーセに白燐奏甲を施すも、それでも尚初撃の傷は癒しきれてはいない。
「手傷は負えど、この程度なら」
 癒しの力を享受しながら、アリーセが少女を真芯に据え暴走黒燐弾を撃ち放つ。連携するように京一が目の前の少年を捕らえ、再びその血を貪った。
 影郎の肌に虎縞模様が浮かび上がり髪が逆立つ。
「……ッ!」
 少年の霊が京一に、男と女の霊が影郎に掴みかかった。勢い任せの攻撃に、二人の足がじりりと砂の上を滑る。
「皆、飯の時間だ!」
 できるだけ多くの地縛霊を巻き込むようにと放たれた着弾点で、十六夜の黒燐蟲が地縛霊たちの体を貪った。
 狂気染みた叫び声を上げ、少女が花を散らす。
 多くの者を巻き込み、何度も、何度もその身を切り裂く叫びが、能力者達の耳を劈いた。
 少女の地縛霊がクックと肩を揺らすように嗤う。その口元に冷たく歪んだ微笑が浮かべられた。
「戦いを早く終わらせるのは……霊になったこの子のためでも、これから来るあの子のためでもあるのね」
 月を模したロッドを構え立つルナの言葉に、傷口から這い伝う血を拭った幾人かがこくりと頷いた。

●名を亡くした花
 薄闇の中に女の子の姿が見えた瞬間、まりあは安堵した。
 それと同時に、不意に脳裏を過ぎった考えに鼓動を跳ねさせた。
 この位置取りは、拙くは無いだろうか。
 地縛霊をおびき出したのは公園の出入り口のすぐ側にあるシーソーだ。
 女の子を待ち受ける場所と、地縛霊をおびき出す場所。それほど大きくも無い公園でこの位置取りでは、あまりにも近すぎる。
 幸いにも垣根は低木とはいえ、少女の視界を覆う程度の高さがあった。それはただの偶然だ。だが、それに救われたのだ。
 自分が此処に居るのはこの子の安全を確保するためだ。仲間たちがこの背の向こう側で戦っている――どれだけ不審に思われようとも、自分がやるしかないのだ。
 まりあは女の子に歩み寄った。
「こんにちは」
 夜道を歩く小さな女の子が、見知らぬ少女に声をかけられて不意に足を止める。
 少女の艶やかな漆黒の髪が月明かりに揺れ、金色の双眸が闇夜に瞬く。
 唐突な出来事に、女の子は一瞬戸惑うようにまりあを見上げた。
「こんな時間にどうしたの?」
「おかあさんを迎えに行くの」
 同じだけ瞬きを返して、女の子はそう答えた。
 返答を返すだけ人懐こく、それなりの度胸を持ち合わせているのだろう。
「お母さんを? どこで待ち合わせをしているの?」
「あのね、そこの公園。おかあさん、いっつもこの道を通るから」
 女の子がまりあの背後を指差して口を閉ざした。まるで通せんぼでもするかのように立ち塞がったまりあに、訝るような視線を投げかけている。
 まりあの手に、じわりと汗が浮かんだ。
「そうなの……でも、公園は今学校のボランティア関係の部活の一環で遊具の点検中だから中には入れないよ」
「え? そうなの? ……どうしよう」
 女の子が困惑したような表情でまりあを見詰める。
 確かに、公園の中からは若い男女の声が聞こえてきた。
 余程真剣に取り組んでいるのか、怒号すらも飛び交っているのだ。
 女の子は両手をぎゅっと握り締め、大きな瞳を瞬いた。その瞳に薄っすらと涙が浮かぶ――けれども、女の子はそれを零しはしなかった。
「おねぇちゃんは、ここで何してるの?」
「遊具で遊ぶ年齢でもないし、構造に詳しいわけでもないから……役に立てそうなこともなくて。邪魔になりそうだったから、離れてたの」
「そうなの……点検、いつ終わるのかなぁ?」
「きっと、すぐに終わるよ。良かったら皆が戻ってくるまで話し相手になってくれないかな?」
「……うん、一緒に待っててもいい?」
 まりあがこくりと頷くと、女の子は安堵したように笑んだ。
「お母さんが大好きなんだね。どんなお母さんなの?」
「うん、大好き! あのね、とっても優しくてね、いっつも頑張ってるの」
「そう……」
 ――わらわにも、大好きな姉様がいたのじゃよ。
 香り立つ、黒い闇に覆われた夜。
 微かな風に揺られながら、少女たちの話し声が花のように咲き零れた。

●静々闇香る
 まりあが女の子を足止めしている間も、公園内では激しい戦闘が続いていた。
「心も体も燃え上がるほど、ステキな夜にしてあげる!」
 ルナが放つ炎の塊が少女を怯ませる。
「召しませ」
 さなぎの消えてなくなれの言葉と同時に白燐蟲が地縛霊を喰らい、影郎の描いた三日月の軌跡が女の身を穿つ。その強烈な一撃に、とうとう女は呻き倒れて風と消えた。
 憎々しげに殴りかかる少年の攻撃に顔を顰めながらも京一の唇から零れた刃がその身を穿ち、連なるように十六夜の凝縮された妖気の塊が炎と化して呪髪から迸り、強烈な一撃で以って少年を駆逐した。
「いけそうですね」
 早矩の巻き起こす氷雪の風渦が、アリーセの黒燐蟲が、残る二体の地縛霊に深く喰らい付いた。少女と男の唇から悲鳴にも似た叫び声があがる。
 それでも少女は嗤う。くすくすと狂ったようにただ独り、嗤い続けた。花が揺れ、地縛霊の傷が癒された。だが完全に癒しきれるほどの威力がある筈も無い。
 足下で砂が啼く。
 男の霊が両腕を振り上げ影郎に襲い掛かった。殴りかかられた彼の口の端を血が伝う。けれどもそれは具にさなぎの手で癒された。
 反撃とばかりに地面の上を影郎の足が滑り男に急接近する。低い体勢から突き上げるように放たれた拳が男の身を吹き飛ばした。
 京一が駆け出し少女に接近し、援護するようにアリーセの黒燐弾が男の霊を喰らい尽くした。少女の咽喉元に喰らい付いた京一の口の端に血が滴る。
 これで残る敵は少女の地縛霊のみとなった。だが件の少女とて蓄積されたダメージがある。最早その終焉は目に見えている。
 早矩がちらりと入り口に視線を送る。時間が掛かっている。けれども女の子が公園へ入ってくる様子は無い――恐らく、まりあの足止めが成功している。
 少女の狂気染みた叫び声が彼らの身を幾度も切り裂いた。少女の反撃に京一とさなぎの膝が震えた。けれども倒れる者は無い。彼らは怯むことなく一気に畳み掛けた。
 ルナの攻撃に続けとばかり、さなぎとアリーセの蟲が、京一の牙が少女を襲う。
「悪いね……ここで帰りを待とうとする子供が居るんだ」
 影郎が口の端を引き上げた。全力で叩き込まれた蹴撃に、少女の身が大きく傾いた。
「てめぇの名前は何だったんだよ。気になるじゃねぇか!」
 十六夜の言葉と共に放たれた紅蓮撃が少女に最後の空を食ませた。

 暫くして、まりあと女の子の元に十六夜がゴミ袋を片手に現れた。
「あれ? こんな時間に女の子一人でどうしたんだ?」
 女の子はまりあが頷くのを見ると、お母さんを待ってるの、と零した。
「じゃここで一人で待ってるのも危ねぇし、俺たちと一緒に遊びながら待とうぜ!」
 その提案に、女の子は大きく頷いてまりあの手を取った。
 公園の中では既に影郎、さなぎ、早矩の面々がゴミ拾いをしている。
 早矩は女の子の姿を見て、どこか安堵した様子だった。何か思う処があったのだろう。彼は一人シーソーの元に花を添えると、楽しげな笑い声のする方へと視線を廻らせた。
 十六夜やルナ、まりあ達が女の子と共にブランコで靴飛ばしをして遊んでいる。
 傍らでは京一が何かを想う様に香り立つ白い花をぼんやりと眺めていた。
 アリーセは亡き少女を悼むように花に視線を送り、瞳を瞬いた。
「今度会えたら、また遊ぼうね」
 ルナの言葉に女の子は嬉しそうに顔を綻ばせた。そこへ京一が優しく注意を促す。
「でも、夜一人で出歩いちゃだめっすよ。危ないっすからね」
「はぁぃ」
 それでも今宵は淡く輝く月の下、花の香が君にそっと寄り添うから。
 彼らの楽しげな話し声は、絶えることなく闇夜に響いていった。


マスター:珠樹聖 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2009/09/12
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