<リプレイ>
廃校、というにはまだ早い、とある高校の旧校舎。 今のところ人はいないが、たまに部活などで一部が使われることがあるという。 そのうちのひとつ、旧麻雀部部室。 近い将来、ここで惨劇が起こる。 麻雀を愛した者達の成れの果てによって……。
「麻雀牌もありましたし、始めましょうか」 御社・燕馬(無免許断罪人・b61800)は、これからゴーストを呼び出す儀式を行うため、部室を漁っていた。探していたのは麻雀牌のセット。 「お、あったか。それなら、全員でゲームできるな」 その声を聞いて、永陸・武史(車軸の雨・b26923)は携帯ゲームをしまった。 机に置かれた麻雀牌は、かなり使い込まれているようで、ケースなどもボロボロであったが、牌が抜けているということもなく、問題なく儀式を始めることができる。 その儀式……選ばれたゲームは、麻雀牌でのジジ抜き。 ゴーストは、この部室で麻雀以外のゲームをプレイすると現れるという。 ならば、麻雀牌で違うゲームをしても出現するはず……そして、それはゴーストに対する最大の侮辱である。麻雀はしないし、これなら怒ってすぐに出てくるだろう。 「麻雀は全然わかんないけど、ジジ抜きならわかるよ!」 祭屋・宴(溺れるナイフ・b38961)は読んでいた麻雀のルールブックを後ろに投げ捨てると、広げられた牌と燕馬の説明に注目した。 この牌の中からランダムに一枚抜き、残りの牌でトランプのジジ抜きと同じようにゲームを進行していく。基本は同種牌が揃ったら捨てていき、早く全部牌がなくなった者が勝者。 牌が少なくなる終盤までどの牌が「ジジ」なのか、誰が「ジジ」を持っているのかわからない……その緊張感を楽しむのだ。 麻雀牌で代用でき、誰でもすぐ理解が可能なこのゲームは、儀式にうってつけ。 「牌でジジ抜きなんて初めてだよ」 十条寺・達磨(マッドハッター・b01674)が、裏向きで抜かれる一枚の牌を眺めた。 麻雀牌を使う遊びはいくつかあるけれども、こうやってプレイするのは誰も経験ないだろう。 だからこそ、ゴーストに対する「イヤミ」にもなる。 ゲームが始まろうとしている中、斉藤・夏輝(蒼雲桃楼・b16003)は配られる使い込まれた牌を見て、疑問を浮かべていた。 「一部が透明だって聞いてたけど、それとは違うのね」 麻雀牌は同種牌四枚のうち、三枚が透明だと教えられたらしい。ちなみに、夏輝がうろ覚えだったルール「点数の代わりにレートに応じた血を抜く」というのも、激しく何かが違う。 さて、見慣れぬ数字や絵柄に戸惑いつつも、牌を配り終え、ゲームを開始。 おのおの、揃っているペアを場に捨て、手牌を整理していく。 (「九種九牌ですね……麻雀なら場の状況によって流すか、国士を狙うか考えるんですが……」) 配牌は「一四九(59)138東西北白中」、見事に手牌がバラバラだったノウラ・アウストリース(銀星姫・b67635)。 思わず麻雀の思考になってしまうが、非なるゲームである。 対子を揃え、手牌を少なくし、早くアガリたいものだ。 「慣れないもので、ちょっと混乱してしまいます……」 今泉・晶(小雪の精・b59574)はぎこちない手つきで、牌を並べていた。 牌の数字などは全然わからないが、とりあえず同じものを二個揃えれば……と、頭で考えてはいるものの、このゲームはゴーストを出現させる手段。そう思うと緊張して、手が震える……そして、牌を倒してしまったりと、いろいろミスも出てきた。 リラックスしないといけませんね……深呼吸して、緊張をほぐす晶。 「これ、同じ牌だ。よーし、あと二枚!」 發を揃え、まもなくリーチといったジンク・ネームレス(ボールライトニング・b46260)。 しきりに仲間の顔色を伺っているのは、周囲にゴーストが現れないか警戒しているから。 ゲームをしている背後に竹槍が飛んできたら大変だ。 皆月・弥生(夜叉公主・b43022)も真剣にゲームをプレイしつつ、周りに異変がないか、チェックを怠らない。
ゲームは中盤。 二索をペアにした神薙・王二郎(青嵐の小龍王・b65871)が残り手牌二枚とジンク並び、宴が三枚で次に続く。白熱した戦いが続くが、その勝負に水を差す者が現れた。 「おまえら〜! まーぢゃんしろー!」 声に振り向き、すぐさまイグニッションカードを手にする能力者達。 部室の奥に影が見えた……その姿は、セーラー服を着た女子高生であるが、顔に生気はない。 地縛霊だ。 「もーちょっとでトップだったのに!」 王二郎が残り二枚の牌……五筒と白を不機嫌そうに場へ叩きつけた。 「ゲームではさいきょーかどうかわからなかったけど……お前らを倒してしょうめいするよ!」 その怒りを、ゴーストを打ち倒す力へと変える。全身に浮かぶ白虎の淋漓たる意気。彼の気合に満ちた瞳が、「發」と書かれた緑色のスカーフの地縛霊・速攻の緑龍を睨む。 ジンクもまた、緑龍に並々ならぬライバル心を向けていた。 「女の子の格好してても騙されないぞ、この嘘つきゴーストめ」 姿こそツインテールで背の小さなかわいい少女であるが、中身はゴースト。 偽りを許さぬ心が、邪を憎む……その正直さの具現が魔狼のオーラ。 「俺のスピードについてこれるかい! いくよ!」 「三元牌にちなんだゴーストね……まずは、發からです!」 ノウラも剣を構え、緑龍にターゲットを絞る。 「赤いのが現れたわよ。こっちは私と祭屋さんで抑え込むわね」 弥生は「中」と書かれてあるスカーフをつけた情念の赤龍を確認すると、すぐに動いた。 黒燐蟲が破壊の力を宿した剣を手に、赤龍が持つ二本の竹を組み合わせた槍を警戒する。 自分に来たら耐えればいいだけが……赤龍はここにいる全員を狙える位置にいる。しかも、その攻撃によって、エンチャントした者が持つ武器の力が封じられてしまう。 「計算高いらしいから、みんなも注意してね」 赤龍がどう動くか……全く予断を許さない。 「武史ちゃん、一人で大丈夫? 苦しかったら、すぐフォロー行くからね!」 「やってみないとわかんないが……」 宴は、一人で白地のスカーフをつけた孤高の白龍に挑む武史を心配した。 だが、その心配は彼の表情を見れば無用なものだと、すぐにわかる。 強い敵と戦える……そういった気分の高揚がにじみ出ていた。 彼なら大丈夫だろう。宴は安心すると、すぐに赤龍へ視線を戻す。 「情念の赤龍さんとやら、お相手願おうか! あと、ぶっちゃけ麻雀ってどうやるの!?」 赤龍は彼女の言葉を無視すると、無言で周囲の状況の把握に努める。 その間、能力者側の後衛陣も態勢を整えていた。 「マリー、力を貸してくれ」 達磨は霧のレンズで遠距離攻撃を可能にし、ケットシーのマリーゴールドから魔力供給を受けていた。晶は雪の鎧をまとい、術力を強化している。 「白龍の動きが読めませんから、気をつけてくださいね」 ゴーストなのに、白龍は笑顔を見せていた。 「麻雀は楽しいよ……でも、強い相手と戦うのは、もっと楽しいんだ」 武史と同じような表情。 だが、素性はまったくもってわからない。 「そんなに麻雀したいなら、とりあえず現世ではやめろ」 燕馬の冷たい声が飛んだ。 それにもかかわらず、笑みをこぼし続ける白龍。 理解不能……だから、何が起こるかわからない。
「速さなら負ける気がしない! 勝負だ!」 ジンクの揚げた気炎で、戦いが幕を開けた。 王二郎とノウラが真正面からぶつかっていくところを、死角を突いて緑龍に襲い掛かる。 しかし、緑龍の機動力・反応速度は彼を上回った。 撃ち込もうとした蹴撃は、追い風を受けて速度を増した緑龍の一発によって迎撃される。 跳ね返され、床を叩いて悔しさを全身で表現するジンクだが、めげずに飛び掛った。 三日月の牙が緑龍に喰らいつき、王二郎が続けて青龍の拳打を叩き込む。 「速攻で攻めても、和了れないと意味なんかないわよ!」 王二郎の一撃で体勢を崩す緑龍に、ノウラが斬り込んだ。 剣に宿した黒一色の気迫が、緑のオーラ漂うゴーストをなぎ払う……しかし、ノウラの言ったことは、能力者自身にも当てはまる。いくら速攻で落とそうとしても、安い手ばかりでは相手を潰せない。 剣を受け止めると、緑龍は顔に邪笑を浮かべた。 「その手は封じさせてもらう!」 達磨が破壊力を削ごうと、魔の霧をゴーストの周辺に発生させ、晶は地の底を這うような低く悍ましい言葉で緑龍を呪う。しかし、その一連の攻撃を掻い潜り、緑龍は緑色の毒霧を能力者達に浴びせかけた。周囲は、あたかも緑一色に染まる……。 「アメリカ生まれの役を技名にしてる奴に、文句をいわれる筋合いはないよ!」 体を蝕んでくる毒に苦しみながらも、王二郎が挑発する。 そこへ……赤龍の気配が飛び込んだ。 周囲の緑に咲くただ一点の紅華のように、赤龍を包む唐紅の気迫が、緑の毒に染まった部室へ鮮烈に映し出された。その炎のような気迫をまとった姿は、まるで赤い羽根を広げた孔雀のようで。 赤龍は弥生と宴をかわし、集中されている緑龍のフォローへ入った。そして、激しき真紅の一撃が王二郎を襲う。 たった一撃で防具は破壊され、火傷が体を痛めつけた。 「これ以上は危ない! 下がれ!」 「ごめんなさい! 引き止めれなかったわ!」 燕馬の舞が王二郎に降りかかった災いを消し去り、弥生が黒燐蟲の力を与える。 次に何かあれば、王二郎の身の保障はない。幸い、赤龍が背負っていたオーラは消え去り、力が発揮できないでいるものの、追撃してくる可能性もある。 「壁になるわ。後ろには通さないからね」 「マリー! 穴を埋めろ!」 夏輝がすぐにフォローに入り、マリーゴールドも壁になって後ろに下がった王二郎を守る。 赤龍は能力が封じられたはず。すぐに、遠距離攻撃で彼がとどめをさされることもないだろう。 そうなる前に……夏輝は緑龍を睨んだ。手にしたナイフが鈍い光を放つ。 「こっちを無視しないでよ!」 宴が赤龍の背中に向けて剣を振り下ろした。 えぐられた傷口から流れ込んでくる力に、相応の手ごたえを感じるが……相変わらず、赤龍は微動だにもせず、周囲を見回している。 一方で、武史は白龍と激しい攻防を繰り広げていた。 「やるな……こうでないと、わくわくできないぜ」 剣に魔気の色を浮かべながら、白龍の顔を覗く武史。 ゴーストの目に浮かぶのは殺戮の炎……だが、そこになぜかライバル心のような感情を覚える。 そうかといって、倒れてしまっては迷惑をかけてしまう。 体力はまだ十分にある。こいつを抑えている間に、仲間が他の龍を倒してくれれば……。 そのとき、武史の背筋に、今まで感じたことのない悪寒が走った。 「一人でも、寂しくはないよ。孤独は、私を育ててくれるから」 意味深な言葉と共に、能力者がゲームで使っていた、机に裏返したままの牌を白龍が開く。 白。 地獄単騎の白。即ち、独釣寒江雪。 刹那、強烈な冷気が武史を襲った。 「まだまだだ……」 剣を振り上げ、闘気を鼓舞する武史。
緑龍に攻撃を集中するも、火力不足で倒しきれない能力者達。風の流れが変わり、力を取り戻した赤龍が、傷ついた緑龍に一筒の如き盾を与えて守る。 二体の龍の連携に翻弄されていた能力者達だが……その連携が徒となり、一気に形勢が逆転した。 「ずっと、これを狙ってたのね。石になるといいわ」 夏輝がその期を逃さず、ガードを固めた緑龍に呪いの一刺し。 まるで満月を思わせるような丸い盾を貫き、緑龍を石像へと変えた。 ここで初めて、赤龍に焦りの挙動が見られた。 予期せぬ出来事に唖然とする赤龍を置いておき、緑龍を破壊した能力者は、次なるターゲットである白龍に集中する。 白龍は傷を癒す力を失ったまま、武史と戦い続けていた。 「援軍参上! 速攻でいくよ!」 ジンクが白龍に蹴撃を見舞っていく。ノウラもそれに続き、黒き刃の斬撃を繰り出した。 傷を癒せない、強化できない……このままではやられていく一方だが、ゴーストは能力者達の僅かな隙を突いて、逆転を狙う。赤龍の放った竹槍がジンクの詠唱兵器の動力炉を停止させ、白龍は強烈な冷気でノウラを瀕死まで追いやった。 しかし、白龍に次を凌げるだけの力は残っておらず……達磨の放った一撃に崩れ落ちた。 「悪い、ちょっと休憩させてくれ」 危険というほどではないが、武史の傷もひどい。 何が起こるかはわからないため、一旦戦列を離れる。 残された赤龍は、能力者達の力を削ぐ戦略に出た。 竹槍でエンチャントした者の力を次々と消失させていく。攻撃力がなくなるということは、回復力もなくなるということ。 「まずいわね……」 弥生は黒燐蟲の光が消えていくことに、焦りを感じた。 ゴーストの前に全く無力……ただ、引き下がるしか手段はない。 だが、そんな攻撃も夏輝の前には何の効力も及ぼさなかった。 「これ以上は……させません」 怨念のこもったナイフが、赤龍へ深々と突き刺さる。 すでに半分の者は負傷と武器封じを受けて無力化しているが、晶は呪言を唱え続け、完全回復した王二郎も加わり、最後の攻勢に出る能力者達。 「麻雀が難しいことはよくわかったよ!」 宴もかなり傷ついてはいるが、赤龍から力を奪取して持ちこたえている。 王二郎の連脚を受けてうずくまる赤龍に、漆黒の気をまとう一撃が突き刺さる。 赤龍の手から槍が消えた。もう限界か? だが、最後に残された力を炎に変え、能力者達を葬り去ろうとする……しかし、それよりも速い一撃を有する夏輝が、二本のナイフで赤龍を切り裂き、打ち倒した。 「楽しむのは結構ですが、人に押し付けてはいけません」 燃えるように消えていく、麻雀を愛した者の思念を見送る夏輝だった。
なかなか苦しい戦いであったが、皆無事のようだ。 「安らかに眠れ……そして、すみませんでした」 仲間が麻雀牌を片付けている中、燕馬が部室の奥に一礼する。 なぜか湧き上がってきた得体の知れない罪悪感。 これからは雀荘に近づかないで生きていこう……燕馬も片付けに戻る。 能力者達の疲労は、顔に色濃く出ていた。 三体だけで、十人の能力者と互角に渡り合ったゴーストだ。 いずれも、強力な敵だったことは間違いない。 でも、怪我人はおらず、無事に帰れるということに武史は安息する。 痛む体を引きずって、能力者達は旧麻雀部部室から立ち去った。
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参加者:10人
作成日:2009/10/05
得票数:カッコいい11
えっち1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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