<リプレイ>
●真夜中の花園 「廃墟に不良がたまってゴーストの犠牲者になる。それ自体は良く聞く話だが……、またけったいなゴーストが生まれたもんだねぇ。さしずめ花を愛する薄幸の少女の地縛霊と、その犠牲者になった不幸なリビングデッド、って取り合わせか。まぁ、ゴーストである以上、退治するだけなんだがな」 ゴーストが確認された屋敷に辿りつき、冬柴・細(ペンネームは姉小路細雪・b60582)が溜息を洩らす。 屋敷の入り口は固く閉ざされており、厳重に鍵が掛けられている。 そのため、能力者達は裏口に回って塀の壊れた場所を見つけ、そこから花園があった庭に入っていった。 不良達のせいで花園が荒らされてしまったため、辺りに咲いている花が半分以下になっている。 「……何だか……この花園、見ていると……、少し、切なくなってしまいます、ね……」 白燐光で花園を照らしながら、天河・翼(蒼冥の蛍・b03014)が瞳を潤ませた。 屋敷を覆う塀は非常に高くて外を見る事が出来ないので、少女にとっては花だけが心の安らぎだったのかも知れない。 「それにしても、不良達の行いには腹が立ちますね。花は心に安らぎを、感動を与えてくれる物。無機質な場所に一輪咲いているだけで、空気に彩りを添えてくれる宝です。なのにむしり取ったり、掘り返したりするなんて……、何がいいのか。理解不能です」 不機嫌な表情を浮かべながら、ベルナルド・フェルミ(朝色流れ星・b63374)が不良達に対して怒りを覚える。 もしかすると、不良達は軽い気持ちで花園を荒らしたのかも知れないが、少女にはそれを許す事が出来なかったのだろう。 「まぁ、綺麗なものを壊したくなる下卑た感情は、覚えがありますが……。しかし、許しておけるかというと、また別問題ですね。……とは言え、公正の機会はもうないわけですが……」 ゆっくりと辺りを見回しながら、バルトロメオ・ワニブチ(ブルータルモスキート・b55091)が壁の壊れたところを発見する。 その壁はバットか何かで叩き壊されたらしく、花園だった場所まで続いていた。 「それじゃ、罪滅ぼしのため自分が地面に埋まって、お花の代わりになっているんですね。頭にお花が咲いているなんて、とても可愛いですね〜♪ 土に埋まっているうちに頭から咲いたんでしょうか〜♪」 自分なりに納得した様子で、瀬良・柚希(熾天の癒し・b49411)がニコリと笑う。 花園だった場所には点々と花が咲いており、ビクビクと不気味に蠢いていた。 「正直、不良だと可愛いと思えませんね……。……花には何の罪も無いのに……。不良の考える事はよく分かりません。まぁ、理解したくもありませんが……」 クールな表情を浮かべながら、瑚宵・莱鵡(凛葬の幽月・b06200)が花園に視線を送る。 どんな理由であれ、不良達に非があるのだから、同情する気持ちはまったくない。 「しかも……、襲いかかってくるんですよね……。なんと……、中途半端な……」 色とりどりの花を眺め、沙更女・粗目(蛇の心臓・b40178)がボソリと呟いた。 花園に咲いている花はどれも美しく、その下にリビングデッドが埋まっているとは、想像する事も出来ない程だ。 「ひょっとしたら、地縛霊の少女は庭園のあるお屋敷のお嬢様だったのかな? かつて、庭園には美しい花が咲き乱れていたようだし、花は『愛情を込めて育てると綺麗に咲く』ってよく聞くから、たぶん、とても心優しい子だったんだろうね。庭園の花が枯れてしまった後も、地縛霊になってまで花を心配しているのだとしたら、ボク達が静かに眠らせてあげないと……。どうせなら、まだ花がたくさん咲いていた頃に、来てみたかったな……」 何処か寂しそうな表情を浮かべ、松澤・真赭(真紅の蜘蛛・b54505)が美しかった頃の花園を想像する。 今は半分以下になってしまっているが、不良達によって花園が荒らされる前は、とても美しい場所であった事を容易に想像する事が出来た。 「綺麗なお花には棘があるっていうけど、可憐な美少女さんも我慢の限界を超えて、不良さん達を襲ってしまったのかも知れないね。そう考えると何だか悲しくなってくるけど、気を引き締めていかなくっちゃ」 自分自身に気合を入れながら、姫咲・ルナ(ピンクの月夜は仔猫の想い出・b07611)がイグニッションをする。 それと同時に花園に埋まっていた花のまわりが盛り上がり、リビングデッドと化した不良達が姿を現した。 「地縛霊の少女に、リビングデッドの不良達……。悲しみの連鎖が産んだ悲劇は俺達が断ち切るん、だっ! ……これ以上の悲しみはここでお終い、な」 険しい表情を浮かべながら、エルアン・ファスニックモア(乙女なナイト・b61226)がリビングデッド達を睨む。 リビングデッド達は自分達がどうしてこんな目に遭ったのか、理解する事も出来ないようなので、それを分からせる必要があった。
●リビングデッド 「ふーん……、貴方達が花園を荒らした不良ですか」 少しずつ間合いを取りながら、ベルナルドがリビングデッド達に語りかける。 しかし、リビングデッド達は呆けた表情を浮かべ、頭のてっぺんに咲いた花から、甘い匂いを漂わせた。 リビングデッド達の頭に咲いている花はとても美しく、不良達が傷つけた花そのもの。 そう考えただけでリビングデッド達に対する怒りが沸々と湧いてきた。 「あまりにも綺麗な花園だったからこそ、破壊する価値があると思ってしまったのかも知れませんが正直不快ですね」 森羅呼吸法を発動させながら、バルトロメオがリビングデッド達を睨む。 その途端、リビングデッド達がボロボロと涙を流し、『助けて……く……れ』と両手を伸ばしてきた。 「不良さんの、道に進まれて、恐らく、外見的に、格好よいものに憧れるお年頃だったのでしょうが……。なんと、申しますか……、お悔やみ申し上げます」 何とも言えない微妙な気分になりながら、粗目がパラノイアペーパーを放つ。 だが、リビングデッド達は顔を真っ赤にさせ、『こっちが下手に出りゃ、いい気になりやがって!』と襲いかかってきた。 「どうやら……、まったく……、反省していない……ようですね……」 何処か寂しげな表情を浮かべ、莱鵡がパラノイアペーパーを放つ。 その一撃を喰らってリビングデッドが悲鳴をあげ、訳の分からない事を叫んで地面に突っ伏した。 「いまのうちにハートの祝福をどうぞです〜♪」 リビングデッド達と十分に距離を取りながら、柚希がベルナルドにヤドリギの祝福をする。 それでも、リビングデッド達は頭に血が上っているため、唸り声をあげて飛びかかってきた。 「それじゃ、情け容赦なくいきます。ですが、なぶる趣味はありませんので、ご安心を」 リビングデッド達の攻撃を避ける事なく、バルトロメオが牙道砲を撃ち込んだ。 そのため、リビングデッドが派手にバランスを崩し、自分が潜んでいた穴に転がり落ちた。 「実に……哀れですね……。そこで……反省していて……ください……」 ギンギンパワーZで仲間達を援護しながら、莱鵡が次々と倒れていくリビングデッド達に視線を送る。 しかし、リビングデッド達はまったく納得しておらず、『どうして俺達がこんな目に遭わなきゃいけないんだ!』と迫ってきた。 「お花畑を荒らした罪は重いです〜♪」 一気に間合いを詰めながら、柚希が呪詛呪言を炸裂させる。 その一撃を喰らってリビングデッドが血反吐を吐き、『……こんな花畑に何の価値がある』と言って崩れ落ちた。 「少なくとも……、あなた達よりも……、価値があると思いますよ……」 ケットシー・ワンダラーのアルファルド(愛称:先生)と連携を取りながら、粗目がパラノイアペーパーを放つ。 だが、リビングデッド達は『こんな花に俺達よりも価値があるわけねえだろ!』と叫んで、再び攻撃を仕掛けてきた。 「リビングデッドと化した事は可哀想だとは思いますが、同情はしません。美しい花園を荒らした事、あの世でしっかり懺悔してから、生まれ変わって下さいね。実は僕……、綺麗な物を傷つける人って、大嫌いなんですよ」 リビングデッド達に対して爽やかな笑みを浮かべ、ベルナルドが光の十字架を発動させる。 次の瞬間、リビングデッド達が清浄なる裁きの光に包まれ、『俺達は何も悪い事をしていないのに!』と叫んで消滅した。 「花の種でも持ち帰りますか? ……園芸系の結社ならば、再び綺麗な花を咲かせてくれる事でしょう」 仲間達に声をかけながら、バルトロメオが花の種を回収する。 そのため、ベルナルドは『ええ、そうしましょうか』と答え、いつかまた美しいな花が咲く事を祈りつつ、今は荒れ果てた花畑を眺めるのであった。
●地縛霊 「なんだか胸がキュンとしちゃう……。やっぱり、乙女だから、かな。あら、このお花……綺麗なんだ、ぞ。……体から花が咲いているのはどうしてな、の?」 不思議そうに首を傾げながら、エルアンが森羅呼吸法を発動させる。 地縛霊が作り出した特殊空間の中では乙女な気持ちになってしまうらしく、戦う事がとても野蛮に思えてきた。 「乙女な気持ちにさせる……なんて、上等じゃ……ねーか……」 白燐奏甲を発動させながら、翼が唇をギュッと噛み締める。 特殊空間の影響で乙女な気持ちにならないように、漢になったくらいの気持ちで臨ではいるものの、少しでも気を抜くと一気に乙女モードに突入しそうな雰囲気だ。 「は、早く地縛霊を倒さなきゃ、戦う事も出来なくなっちゃう……。そうなると、大ケガするより厄介なのね」 キラキラの月型ロッドを振り回し、ルナが真モーラットピュアのイヴに指示を出す。 その指示に従ってイヴがパチパチと火花を散らし、悲しげな表情を浮かべた地縛霊を攻撃した。 「そういえば、地縛霊の外見は『花のように可憐で、儚げ』なんだったね……。あぅ……、何だか攻撃しにくいよ〜」 森羅呼吸法を発動させながら、真赭が困った様子で汗を流す。 地縛霊と化した少女は明らかに被害者なので、どうしても気が引けてしまう。 その上、特殊空間の力によって、身体に花が咲き始め、全身に力が入らなくなってきた。 「……この、花を見ながら……のんびり、出来たら……いや、駄目駄目……それどころじゃ、ない……です」 激しく首を振りながら、翼が氷の吐息を吐きかける。 しかし、地縛霊が悲しげな表情を浮かべるため、彼女が苦しむ姿を見るたび、胸がズキリと痛んだ。 「あわわ、急がなくちゃお花が……、ぽわわんといい気持ちに……フラフラ」 だんだん抵抗する事が出来なくなり、ルナが乙女な気持ちになっていく。 すでにイヴは乙女モードに突入しているらしく、瞳がキラキラと輝いている。 「あいにく、お花畑でチョウと戯れるお年頃でもない。現実で乙女チックはTPOをわきまえんとな」 すぐさま赦しの舞を発動させ、細が冷静になった地縛霊に視線を送る。 確かに、地縛霊と化した少女には同情するが、だからと言ってここで見逃すつもりは全くない。 だが、特殊空間の影響で再び乙女な気持ちになってきたため、早く決着をつけねば取り返しがつかない事になってしまう。 「べ、別に攻撃なんてしたい訳じゃないんだから、な」 再び乙女な気持ちになりながら、エルアンがどことなく女々しい雰囲気を漂わせ、地縛霊に獣撃拳を炸裂させた。 その途端、絹のように柔らかい感触が伝わり、エルアンの心を罪悪感が包み込む。 「……あまり考えるな。何も考えず俺達がやるべき事をやればいい」 仲間達にアドバイスをしながら、細が再び赦しの舞を発動させた。 それに、例え一瞬しか効果がなかったとしても、仲間達を混乱状態から回復させる事が出来るのなら無意味ではない。 「私達も負けてられないの」 自分の心を奮い立たせるようにして、ルナがイヴと連携を取って雷の魔弾を撃ち込んだ。 それと同時に地縛霊がマヒ状態に陥り、乙女な気持ちから抜けだした。 「ここで花と一緒に寝んねしてるん、だ」 地縛霊の懐に潜り込み、エルアンが獣撃拳を叩き込む。 次の瞬間、地縛霊の身体が花弁となって辺りに飛び散り、特殊空間が跡形もなく消え去った。 「せっかくのお花畑がボロボロね……。今度は、違う形で会えたらいいな。敵さんとしてでなく、ね」 地縛霊と化した少女がいた場所を眺め、ルナが小さな可愛らしいブーケをそっと置く。 イヴもルナの横にちょこんと座り、一緒になって両手を合わす。 「……在りし日は……乙女な気持ちに、なってしまうくらい……綺麗な花園、だったんです……よね……」 悲しげな表情を浮かべ、翼が少女達の冥福を祈る。 脳裏に浮かぶには、少女が愛した美しい花園。 「残念な気持ちになってしまうのは、俺だけではないは、ず……、だ。でも、これ以上の惨事が増える事を断ち切ったのだから、これでよかったのかも知れないが……」 自分の行動を思い返しながら、エルアンが可憐な少女の安らかな眠りを祈る。 もしかすると地縛霊は、自分と同じ気持ちにさせる事によって、花が荒らされた苦しみを理解してほしいと思っていたのかも知れない。 「……ごめんね。乙女な気持ちになってあげられなくて。いつか必ず、花好きな人に気付いてもらえる日が来るから、それまで我慢だよ」 一輪だけ咲いている花を見つめ、真赭が優しく語りかける。 その花はまるで地縛霊と化した少女が生まれ変わった姿のように思えた。
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参加者:10人
作成日:2009/10/04
得票数:楽しい2
笑える4
ロマンティック2
せつない2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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