≪霧隠れの懐中時計≫啼く声、轟く


<オープニング>


 ざわざわと。
 晩秋に差し掛かった秋風に揺れるのは、僅かにつく葉を落とす大木。
 その下に、ぽっかりと開く、大きな穴があった。

「丈夫な所に穴を開けて、身を潜めたのかな?」
 不思議そうに大木の下の穴をじっーと見つめるのは八伏・弥琴(綴り路・b01665)。
 人工的な掘り具合を見ると、自然で作られたものでないのは明らかで。
「本当にあるとは、思っていなかったですよー」
 隣で感嘆の声を漏らしていたのは、日向・るり(蒼空に揺れる向日葵・b06322)。
 その様子に、冴樹・戒璃(蒼銀の断罪者・b50973)は満足そうに口元を緩めた。
「わいの言った通りやろ?」
 季節はずれの肝試し?
 いいえ、何となく防空壕を見にいかないかと結社で声をかけてみた所……、
 何時の間にか大所帯になっていたなと笑う戒璃に、弥琴とるりもクスっと笑みを零す。
「中に入って見たいなー☆」
 誰よりも好奇心が勝っていたのは、アリス・ラシュエル(天球の姫君・b50497)。
 竹を割ったように爽快に言い回した彼女に、誰も反対の意を唱える事なく、頷いて。
 ――だが、しかし。
「……ちょい待った」
 すっ、と冴樹は口元に人差し指を立てる。
 そして、もう片方の手で、先を行こうとしたアリスを制止させた。

 おぉぉぉぉ……。

 其れは、妙に辺りに響いた。

「何か、声のようなものが聞こえるわね」
 只ならぬ冴樹の様子に、皆月・弥生(夜叉公主・b43022)も耳を澄ませる。
 そして、仲間に警戒を促そうと振り向こうとした瞬間、空気が変わった。
「なんだか、やばそうな感じですねぇ……」
 西行寺・瑠璃(幸子は俺の嫁・b46311)の瞳にも薄らと揺らめく景色が飛び込む。
 同時に、野原・柚希(カフカ・b58945)も警戒の色を濃くするように呟いた。
「皆さん気をつけてください、地縛霊の特殊空間ですっ!」
 変化しているのは、景色だけではない……。
 木々が揺れているのに、風の音さえしないのだ。
「後ろだ……!」
 背に感じるのは、只ならぬ憎悪……そして、悲しみ。
 シュヴール・ルドルフ(ラダティスアウェイクナー・b57139)は来た道を振り向く。
 そこには、先程まで皆で和気藹々と歩んだ道は、なかった……。

『『オォォォ…………』』

 在るのは、古く錆びれたような金属音と、幾つもの苦しみを訴える慟哭だけ……。
 そこには防空壕前に4人づつ2列で並んでいた彼等の後方を塞ぐ、兵士達の姿があった。

(「なんだか、泣いているみたい……」)
 彼等の服装から見受けられるのは、一昔にあった戦いの情景。
 この防空壕に籠り、護り、戦い、そして、無念の死を遂げたモノ達。
 生者に向けられた視線は虚ろでありながらも、哀しみが籠められていて。
(「私達まで、悲しくなってくるわね……」)
 守る者は既に無く、戦いに囚われたままの亡霊達。
 彼等の嘆きが、無念が、言葉無き叫びとなって、少年少女達の胸の内にも轟く。
「せやけど……この戦い、避ける事はでけへんな」
 やるべき事は、只1つ。
 仲間と共に起動の声を上げた冴樹は、自分に言い聞かせるように武器を構える。

 ――彼等を、有るべき姿に還す。

 それが、自分達『霧隠れの懐中時計』の役目だという風に。

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参加者
八伏・弥琴(綴り路・b01665)
日向・るり(蒼空に揺れる向日葵・b06322)
皆月・弥生(夜叉公主・b43022)
西行寺・瑠璃(幸子は俺の嫁・b46311)
アリス・ラシュエル(天球の姫君・b50497)
冴樹・戒璃(蒼銀の断罪者・b50973)
シュヴール・ルドルフ(ラダティスアウェイクナー・b57139)
野原・柚希(カフカ・b58945)



<リプレイ>

●啼く声、轟く
(「背後を取られた上に、特殊空間に引きずりこまれるなんて不覚です……!」)
 後衛である自分の眼前に現れた敵に、野原・柚希(カフカ・b58945)は唇を強く噛み締める。圧倒的不利な状況に、心の臓を掴まれたような緊張感が奔った。
「今は忘れ去られかけている過去の傷跡が呼んだのかもしれへんね」
 突然の奇襲に冴樹・戒璃(蒼銀の断罪者・b50973)は反射的に瞳を細める。
 昔、『そういう事』が有った事実を消し去らないよう、皆をこの地へ案内した事、その想いが、彼等をここに呼び寄せる事になったのかもしれない……と。
「もしかして僕達、敵兵とかに見えてる?」
 ――遊び半分で来るべきじゃなかったのかも……。
 そう呟きを零しながらも八伏・弥琴(綴り路・b01665)はさっと地面を軽く蹴る。
 同時に、後方に下がった西行寺・瑠璃(幸子は俺の嫁・b46311)と擦れ違いざまに前に飛び出すと、そのまま手近な銃剣兵の懐に素早く潜り込み、そして体内で練り上げた水の力を一気に叩き付けた。
(「なんだかとても悲しそうですね……」)
 昔、ここで戦って亡くなった人達なのだろうか……。
 だが、ここで自分達まで倒れる訳には行かないと、瑠璃は鎖剣を高々と掲げる。
 旋剣の加護を得た彼の瞳に映るのは、教科書で見たような戦時中の兵士達だった。
「急いで陣形を建て直すのが、先だな」
 続けてシュヴール・ルドルフ(ラダティスアウェイクナー・b57139)が飛び出すと、彼の動きに合わせて日向・るり(蒼空に揺れる向日葵・b06322)も後方に下がる。
(「戦争はとっくに終わってるのに……」)
 教科書で見た事があっても、実際と思われる彼等を前に悲しさが込み上げてきて。
 だが、自分達が出来る事は1つ。るりは口元を強く結ぶと、黒き蟲の力を施した。
「わおー。バックアタック! やってくれるじゃないのさ!」
 敵の動向に注視していたアリス・ラシュエル(天球の姫君・b50497)が素早く動く。
 月と星を冠する術扇から放たれた槍を模した一筋の光が、眼前に迫る銃剣兵を貫いた。
『痛イ、痛イ……!』
 だが、アリスと柚希が敵前に晒されている状況に変わりない。
『ダガ、コノ身、朽チ果テヨウト……我々ハ戦ウー!』
 苦しげな声と共に、彼らの敵意が確実に能力者達に剥けられる。
 続けざまに放たれた火炎瓶を受けた柚希を一級兵が狙撃しようとした、その刹那。
「俺が今からする事は……あんた達が生前そうしたであろう行動だ」
 命を奪い合う事、それは起こらない方が良い事なのは確かだろう。
 だが、騎士を目指す身として、彼等が何かを護ろうとした過去には敬意を払いたい。
 だからこそ、シュヴールは率先して仲間の盾となってその身で狙撃を受け止めた。
「いけない……!」
 己よりも先ずは仲間を癒そうと皆月・弥生(夜叉公主・b43022) が前に飛び出す。
 高体力のシュヴールと弥琴が盾になっていなければ、2人は初撃で崩れていただろう。
 殆どが始めに強化していた事で、敵への攻撃と仲間への回復が疎かになっていた。
「無理せんで、わいの後ろに!」
 魔狼の力を身に宿した戒璃も飛び出し、敵を見据えたままアリスも素早く後方に下がる。
 深い傷を負った彼女に、るりの真モーラットピュアのしじみが癒しを施した。
「徹底集中攻撃でいくさかい」
 敵の一斉攻撃で仲間の半数近くが体力を消費した現状は、明らかに不利。
 戒璃の一分の隙も無い流麗な動きと同時に飛び出した刃が、敵を無慈悲に切り裂く。
 隊列が整った事を確認したシュヴールも、敵前衛に速やかにターゲットを定めた。
「配置完了、攻撃開始です!」
 仲間の回復を無駄遣いさせない為にも、柚希は素早く魔法陣を形成する。
 隊列が整った事を確信した柚希の声を合図に、能力者達は一気に攻めに転じた。

●悔恨の声
「黒燐よ、喰らい尽くせ!」
 なるべく多くの敵を巻き込むように剣先を振うのは、弥生。
 瞬間、黒燐と虎の力で高めた弾丸が炸裂して、仄暗き戦場を漆黒が飲み込んだ。
「早く倒れてくださいね!」
 瑠璃が伸ばした闇の腕が怒濤の集中攻撃で疲労した兵士を2つに切り裂く。
 兵士が断末魔の声を上げて崩れ落ちた瞬間、瑠璃の肩を怨念に満ちた弾丸が貫いた。
『ヨクモ、我等ノ同胞ヲ……!』
「気をつけ……きゃあ!」
 範囲攻撃を散らす為、極力固まらないように声を掛けていたるりが悲鳴を上げる。
 道幅が狭い中、前衛と中衛を中心に次々と爆風が上がっていたのだ。
「思ったより術式の攻撃が効かへんね……強敵やわ」
 爆風を掻い潜るように戒璃も詠唱マントを翻すが、ことごとくかわされてしまう。
「ならば、倒し切るまで攻撃を仕掛け続けるまでだ」
 シュヴールが解放した魔狼の力が、深く傷付いた自身を癒して力を高める。
 率先して敵の攻撃を引き受けていた彼の傷は、決して浅くは無い。
「僕も、頑張るから」
 自分も盾くらいにはなれるからと浅く無い傷を負っていたのは、弥琴も同じ。
 身軽さを活かして仲間を牽引していた彼にシュヴールと戒璃は力強く頷いた。
「私達の事も忘れては困るんだな☆」
『モキュッ!』
 肩で息をする2人にアリスとしじみの癒しの力が包み込む。
 仲間の声が、確かな癒しの力が、攻撃を一手に引き受ける前衛の背を支えていた。
「幸子、お願い!」
 荒く息を吐く主人の姿に、真サキュバスの幸子が素早く祈りを捧げる。
 無垢な祈りが身に浸透した毒を打ち消し、瑠璃の傷をみるみるうちに癒した。
「素早く確実にいきましょう」
 柚希も仲間と声を掛け合いながら麻痺を狙って雷の弾丸を撃ちだす。
 しかし、相手は術式系。易々麻痺に掛かってくれる相手ではない。
 ――瞬間、前線の空気がかわった。
『オォォ、突撃ーー!』
 瀕死を負った兵士が決死の叫びを上げながら特攻した先には――弥生。
 弥生も咄嗟に両刃の長剣で受け止めんとしたが、その衝撃は体に浸透した。
「――っ!」
 防御に徹しても伝わる重い一撃に弥生の顔が苦痛に歪む。
「皆月はん!」
「その突撃、次も使わせるわけには行きません!」
 只ならぬ気迫に危険を感じた戒璃と柚希は弥琴とシュヴールにも声を掛けて。
 瑠璃も弥生が立て直すまで何とか倒さなければと、闇の腕を伸ばす。
「特攻精神は味方の不利益しか生まないが、な」
 シュヴールは間合いを狭めると具現化した氷を乗せたナイフを斬り込ませる。
 ――一閃。氷を乗せた刃が銃剣兵の胴体を切り裂いた。
「……なんか、自分を見ているようなネーミングだわよ」
 肩を落とすような溜息を零すアリスだったが、直ぐに術扇を構え直す。
 回復に専念するものが少ない中、治癒を途絶える訳には行かなかったからだ。
「つらい戦いですね……」
 直後に一級兵に狙撃された柚希にしじみが優しく治癒を施す。
 腐り落ちるような痛みは尋常でなく、息苦しささえ覚えていて。
 だが、何よりもつらいのは、彼等の悔恨を訴えるような声だった……。
「……ごめんね」
 いきなり大勢の人間が来て、彼等も驚いたのかもしれない。
 だけど、今は眠らせてあげることしかできないと弥琴は紫紺の刀身を振う。
 弥琴が放った水の刃を追うように、瑠璃と幸子は同時に射撃で援護を試みて。
「終わらせましょう、その悲しい未練を」
 嘆くのは自分の無力か、或いは護りたかったはずの今の世界の有様か。
 自らの体内に眠る力を覚醒させて立ち上がった弥生の双眸は氷刃のように鋭く。
 柚希もしっかりすべきことをしなければ、と目前の敵を強く見据えた。
「勉強は嫌いですけど、こういうのは覚えるの得意です」
 るりが魔眼で見据えた敵に、能力者達は休む間もなく攻撃を与え続ける。
 普段の日常や戦闘前ならともかく、戦いながら記憶する事は想像以上に困難で。
 だが、一点集中攻撃を狙っていたのもあって、疲労した敵は明白だった。
「攻撃は過剰なくらいで、丁度ええわ」
 戒璃がまるで翻弄するかのようにマントを振えば、一瞬の内に血華が舞う。
 息の根を止めるまで油断出来ないというのが、戦いだという風に……。
『イ、イヤダア、死ニタクナイ……』
 啼きながら崩れ落ちる銃剣兵の姿に、一瞬だけ戒璃の眼差しが曇る。
 自身の限界をわきまえないと、彼等のような姿になるのかもしれない。
 そう、垣間見たような気がしたから――。
「範囲攻撃のおかげで、一級兵も少し弱って来たね☆」
 出来るだけ突撃は防がなければと思うのは、アリスも同じ。
 だが、今は回復を止める訳には行かないと、治癒に専念していて。
「打ち漏らすと、特攻で道連れにされかねないわね」
 敵は残り3体。だが、彼等の悔恨と嘆きは衰える事もなく。
 回復が足りない状況に危機を覚えた弥生も、率先して味方の回復に努めていた。

●祈り、願う声
「手は抜かないよ」
 敵の動きを見据えて振われた紫紺の刀身から放たれたのは、水の刃。
 弥琴の声を受けてシュヴールも確実に同じ敵を狙うが、既に2人の息は荒い。
(「魔狼の力も尽きたか……」)
 自己回復が無くなった今、無茶な事はできないとシュヴールも感じていた。
「しじみ、やっちゃえっ!」
 るりの声にキリっと眉を引き締めたしじみがぴょんと飛び出す。
 同時に。後方に下がった弥琴と入れ替わると、パチパチと火花を見舞った。
『御国ノ未来ト栄光ノ為ニ! 突撃ーー!』
「特攻は2度と使わせないですよっ!」
 先程の突撃で銃剣兵の行動を大体把握していたるりが声を張り上げる。
「大事な仲間を倒れさせてたまるかいっ!」
 戒璃は隣で頑張る小さな仲間を護るように敵の間に入って切り込んでいく。
 前線で戦い続ける彼のコートは血とススで塗れていたが、意地が彼を動かした。
「幸子は絶対守りますので!」
 むしろ自分の身を護れとツッコミたいところだが、瑠璃は至って真剣。
 主人の応援に後押しされた幸子も魔力を秘めた口付けで援護射撃を送っていて。
 弥琴も即座に姿を二重に映し出す霧を生み出して、攻撃に備えた。
「イノシシ注意報、りょーかーい☆」
 回復を軸に闇雲な攻撃を控えていたアリスの火力は十分余裕がある。
 アリスが生み出した光は、戒璃の攻撃で疲労した銃剣兵に引導を手渡した。
「援護を頼みます……!」
 残る敵は、一級兵らしき2体のみ。
 弥生は低く身を屈めるように間合いを狭めると、両刃剣を横薙ぎに払う。
 神秘の力を込めた一閃。その確かな手応えに口元に軽く微笑を浮かべた。
「強さ厄介さは一緒ですね、気は抜けません」
 銃剣兵のような範囲攻撃や突撃は無いものの、危険な事にかわりない。
 柚希は漆黒のアームブレードを構えると、雷の弾丸を勢い良く撃ちだした。
『俺ハココヲ死守スル! 同胞ト其ノ家族ノ為ニ!』
「騎士として人として、その過去には敬意を払うぜ」
 だからこそ、ここで必ず決着をつける。
 一気に間合いを狭めたシュヴールもダメージが蓄積した敵に狙いを定める。
 地縛霊に堕ちたとしても、これ以上の罪は重ねて欲しくないという風に――。
(「ちゃんと、迷わないように……」)
 風の音も、何処か泣いてるように聞こえて。
 しじみの祈りを受けたるりは瞳に禍々しい力を籠めて睨みつける。
 氷に、そして猛毒に犯された一級兵の胸を、瑠璃の弾丸が貫いた。
『イ、イヤダア、死ニタクナイ……!』
 残り1体となった一級兵が苦し紛れに撃ちだした弾丸が弥生の腕を貫く。
「まだ為すべき事がある……ここで朽ち果てる訳にはいかない!」
 腐り落ちた弾丸に黒衣の袖が血に染まる。
 傷口から生じる焼け付く痛みに弥生は倒れまいと堪えていて。
「……もう二度と苦しむ事が無い様、此処で終わりにしようや」
 ただ攻撃するだけでは、脅威から護れる筈はないのだから……。
 戒璃のマントの裾から飛び出すのは刃。繰り出すは刃奏でるレクイエム。
 闇に煌く銀閃と血華を追うように、柚希の炎の弾丸が唸りを上げた。
(「死に隣接した恐怖は、私達も知ってるんだ」)
 遠い過去、無慈悲なまでに殺しあった戦争、そこに意味はあった?
 自分も今更考えてもわからないし、彼等が応えることもないだろう……。
「負の感情に囚われ続けるの、苦しくない?」
 だが、彼等に、自らに問い掛けるようにアリスは一筋の光を生み出す。
 光は、亡霊達に心からの安らぎを贈るように、闇を払った。
(「僕達が、貴方達の終わりを告げてもいいのだろうか……」)
 彼等の激動の時代に比べたら、今はすごく平和な時代なのだろう。
 学校に行けて、友達と遊んで、のんびりと空を仰ぐことがてきて……。
 そんな自分達に、彼等の心を理解してあげられるのだろうかと弥琴は思う。
 ――だが、しかし。
「もう、休も?」
 無念を訴えたって何も変わらない事だけは、嫌でも知っている。
 そして、彼等がこれ以上傷つく必要がないという事も……。
「お休み……なさい」
 弥琴は覚悟を決めたように、一級兵の懐に素早く潜り込む。
 そして、練り上げた水の力を、一気に敵の体内に叩き込んだ――。

●声の行く先
「手向けが永遠への眠りだけは、寂しいさかい……」
 戒璃はデイパックから花束を取り出すと、防空壕の前に供える。
 供えられた花を前に色々思う事を感じながらも柚希は冥福を祈るように瞼を閉じた。
「次こそは、悔いの無い道を歩いて欲しい……な」
 弥琴も道端に咲いていた華を供えると、そっと瞼を伏せる。
 こんな暗く狭い場所ではなく、広く明るい空を仰いで欲しいと、願うように。
「護るべきものの為に、後悔しない戦いをする。約束は出来ないけど、努力はするわ」
「今はただ安らかにお眠りください……」
 思えば、彼等も自分達能力者と同じような存在だったのかもしれない。
 弥生もそっと瞳を閉じ、その隣で瑠璃も静かに黙祷を捧げるように瞼を伏せた……。
「今度こそ、ゆっくり休めるといいですね」
 安らかに眠れますようにと、るりが祈りを捧げた、その瞬間。

 ぐぅぅぅぅぅぅ。

 辺りに、緊張感が抜けるような妙な怪奇音が、響き渡った。

「今のは、何だ……!?」
 新手のゴーストかとさっと身構えたのは、シュヴール。
 しかし、るりが慌てて「私のお腹の音です」と謝って。
「あの……お腹すいてきちゃいません?」
 申し訳無さそうに、だけど照れたような笑みを浮かべる、るり。
 しんみりとした空気が温かく和んだ事に、アリスも微笑を浮かべて応えた。
「ねえねえ、みんなで何か食べに行こうよ☆」
 先程の戦いに、防空壕を前に、切なく感じるのはアリスも同じ。
 だけど、彼等が護ってくれた過去があるから、今の自分達がここ在るのだから。
「私達には無限大の未来があるんだから!」
 そう、明るく振舞うアリスに『霧隠れの懐中時計』の仲間は力強く頷いた。

 ――おやすみなさい。
 少年少女達が去った後、残された花々だけが静かに揺れていて。
 それは、彼等の光ある未来を願い、その背を後押しする、声のようでもあった。


マスター:御剣鋼 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/11/17
得票数:カッコいい10  せつない2  えっち1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
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