≪†−銀狼の騎士団−†≫銀の名にかけて−Fight a duel with…


<オープニング>


 冬の到来を報せた風が、温もりと喧騒を忘れた廃ビルの中を通り過ぎる。
 橙から深い藍へと染みこんでいく空の下、硝子すら無くした窓から差し込む夕陽が生む影に、幾つもの呼吸が重なった。
「詠唱銀をこちらへ渡してもらうぞ」
 その集団の中では最年長らしい、体格の良い男性が告げた。亜麻色の髭を撫でつける仕草や見目は、明らかに三十歳を過ぎた重みを乗せている。
 向かい合う八塚・辰房(幻龍舞踏・b59657)は、そんな彼らを見遣り吐息だけで笑った。
「セニョール? 何がおかしいノ?」
 男の背からひょこっと顔を覗かせた女性が、褐色肌にギラギラと輝く黒の瞳で首を傾ぐ。
「ずいぶんな余裕だと思ったからな」
 徐に辰房が呟けば、タイミングを見計らっていた仲間達が物陰から飛び出してくる。
「待ち構えた甲斐があったな」
 太い柱の脇から現れた五百蔵・清己(前人未到の廃ジャンル・b36142)が、餌に釣られた襲撃者達を一瞥する。彼の言葉にかこの状況にか、天を仰いだのは黒い髪がくるくると癖付いた青年で。
 しかし、口を開いたのは彼のすぐ斜め前にいた長身の青年だ。
「イェンス。多い。数」
 訥々と紡いだ長身の青年へ、イェンスと呼ばれた小柄な少年がかぶりを振ってみせる。
 揺れた金髪の合間から、透き通る程の青い瞳が能力者達を捉えた。
「数と外見だけでは計れないものもありますよ、チャバ」
「一つ確かなのは、俺達が負けないということだ」
 不敵さを含んで言い捨てた紅陣・烏刻(炎と蟲を従えし死を告げる烏・b68785)に、金髪の少年イェンスが眉根を寄せる。
 烏刻の言葉に同意を示す意味で風波・椋(悠久の黒・b43193)が頷き、六人の襲撃者達を見遣った。
「渡しませんよ」
「そうです。皆と一緒なら負けるはずないと思ってるですよ」
 宝条・志帆(首輪と奈落の霊獣・b64301)も意志を声で表明する。真っ直ぐな彼女の眼差しに、目を瞬かせたのは癖毛の青年だった。
「可愛いシニョリーナと目、合っちゃった!」
 飛び跳ねて喜ぶ癖毛の青年を、腕を組み黙り込んでいたはずの背の高い女性が、ぱしんと叩く。
 ふん、と鼻を鳴らした彼女は、能力者たちを冷めた瞳で見下ろした。柔らかく波打つブロンドの髪からは想像つかない冷たさだ。
「つべこべ言わず渡しゃいいのよ。じゃなきゃ、痛い目に遭うわよ」
「上等だ、やってやるぜ」
 口角を吊り上げ挑戦に応じた月宮・狼也(銀狼の先駆け・b63662)に、しかし女性の視線は色を変えない。
 ぐっと拳を握り締め、唇を結んでいたのは辻村・崇(蒼氷の牙を持つ幼き騎士・b63628)だ。見慣れぬ相手との邂逅に、自らを奮い立たせる。
「……がんばらないとだね。騎士としても」
「キャッフー、そう言われると苛めたくなっチャウ!」
 そんな崇に気付き、褐色肌の女性が甲高い声ではしゃぐ。
 テンションに差のある襲撃者達へ能力者たちが身構えると、最年長の男性が静かに意識を向けてくる。
「ほう、騎士とな」
「おお、俺達は『銀狼の騎士団』だ」
 どんと胸を張り今川・沙京(高校生白虎拳士・b71433)が宣言した。
「ここで退くわけがないぜ!」
 沙京は、にっ、と口端をあげる。
「……坊ちゃん、彼らのチームワークを侮ってはならんぞ」
「それは彼らとて同じですよ、ユオザス」
 ユオザスと呼ばれた最年長の男性が唸ると同時に、イェンスがまぶたを閉ざす。
 ふと、辰房が六人の襲撃者達へ指先を向けた。誇りの乗った、指先を。
「今からお前たちの腐った騎士道精神を叩き直す者たちだ! よく覚えときな!」
 果敢な発言がビル内に響く。

 それが、始まりの合図となった。

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参加者
五百蔵・清己(前人未到の廃ジャンル・b36142)
風波・椋(悠久の黒・b43193)
八塚・辰房(幻龍舞踏・b59657)
辻村・崇(蒼氷の牙を持つ幼き騎士・b63628)
月宮・狼也(銀狼の先駆け・b63662)
宝条・志帆(首輪と奈落の霊獣・b64301)
紅陣・烏刻(炎と蟲を従えし死を告げる烏・b68785)
今川・沙京(高校生白虎拳士・b71433)



<リプレイ>

●who
 せめて理由を教えてと、廃ビルを抜ける風に抗うように、辻村・崇(蒼氷の牙を持つ幼き騎士・b63628)が迷いの無い声で騎士甲冑姿の謎の組織へ尋ねた。
「少年よ。好奇心旺盛なのは頼もしいが、踏み入る必要は無い」
 亜麻色の髭を顎へ撫で付け、ユオザスが答える。
 崇が近くに佇む真ケルベロスのコル・レオニスへ指示を耳打ちする間、八塚・辰房(幻龍舞踏・b59657)は、袋詰めにした詠唱銀を、後衛にいる沙京へ届く距離まで近づき、投げ渡す。そしてイェンス達へと振り向いて。
「銀狼の騎士団の名にかけて……ここで倒させてもらう!」
 銀を渡すという彼の行動に、イェンス達が視線を重ねた。
「全力でいかせて貰う。そもそも手加減出来る余裕なんて無いしな」
 相手と自分達の戦力を想定すれば、余裕を維持するのは難しいと知れる。今川・沙京(高校生白虎拳士・b71433)は、突き刺すように組織の者達へ言葉を放り、超越した力を消す霧を生んだ。
「厄介さは折り紙つきだぜ?」
「でしょうね」
 不敵に口角を上げた沙京へ、イェンスもまた彼と酷似した表情を映す。
 戦いの始まりにきっかけは必要だが、必ずしもそれが合図になるとは限らない。だが月宮・狼也(銀狼の先駆け・b63662)がアイノの眼前へ飛び出した頃にはもう、全てが始まっていた。
「人狼騎士の名に掛けて、その性根を叩きなおしてやるぜ」
 張り詰めた空気をも裂くように、狼也が剣で風を切る。ひゅ、と鳴いた刃がアイノへを抉っていく。仕返しとばかりに彼女が得物を向ければ、物質とは呼べぬ様に変貌したそれが、狼也の体内へすり抜け内側から痛みを印として刻む。
 自らの情熱を身体で表現するのはダナだ。想いを滾らせたビームは、主に応えアイノの傷を癒す。
「第二騎士隊 蒼狼 風波椋、推して参る!」
 なんちって、と陽天気な仕草はすぐに置き、遊撃に動く風波・椋(悠久の黒・b43193)が恨みの念をナイフへ篭めた。念ごとシモーネを串刺しにすると、青年は自由の利かぬ身体を嘆き叫ぶ。
「ワオ、シモーネとうとう狂っタ?」
「彼は平常運転よ」
「酷い!」
 大げさとも思える彼に、組織の者達がくつくつと肩を震わせる。
 真剣さに垣間見る彼らのやり取りが表すのは、経験か、或いは――。
 冗談とも取れる会話に油断せず、紅陣・烏刻(炎と蟲を従えし死を告げる烏・b68785)もシモーネの斜め前へと飛び出した。
「襲ってくるのなら徹底的に叩き伏せるのみ」
 誓いのごとく燃え上がった紅蓮が火花を散らす。しかしシモーネの得物と接触し、威力を削がれてしまう。
「これを喰らって立っていられるか?」
 初手からの集中砲火に、シモーネも漸く眉根を寄せた。
 そして今はもう身体が自由に動くと気付き、そそくさとエネルギーの弦を生んだ。掻き鳴らした弦は、怒りという名の呪いをもたらす。
 すぐさまイェンスが腕を広げ、仲間達の幻影を、怒りに満ちた彼らの前へ飛ばす。同時に彼らから痛みを拭った。
「さて、これ以上踊るのは防がせてもらうか」
 五百蔵・清己(前人未到の廃ジャンル・b36142)は吐息だけで笑い、ダナの頭部へキノコを生やす。
 殺さずの方針とはいえ、彼らも決して弱くない。簡単には死なないだろうと清己も感じ取っていて、ゆえに戦闘不能までは余計なことを考えないと決めた。
 一方、キノコを植えられたダナは、物珍しいのかそれをつつき、
「何コレぴりっぴりだネ!」
 ときゃたきゃた騒ぐ。痺れで身体の自由は利いていないはずだが、弱みをまるで見せようとしない。
 賑やかさを払うように、崇が廃ビル内へ氷雪に充ちた竜巻を招く。ほぼ同時に、怒りで我を忘れたコルがシモーネへと牙を剥いた。
 しかし、すんでのところで避けたシモーネは、甲冑についた埃を払うように手を泳がせる。
 シモーネに張り付く椋を、チャバが睨み付ける。魔眼が呼ぶのは痛みと深い毒で、椋は思わず眩暈を覚えた。
 連携を重視するのは、両者とも同じだろう。だがあえてそれを成さずに動く宝条・志帆(首輪と奈落の霊獣・b64301)は、赦しの舞で仲間達から異常なる力を撫で取っていく。
 しかし狼也は、自分から痛みが取れていないと気付き、先ほどアイノから受けた刻印を思い出す。
 ――アレがアンチヒールか……!
 刻まれた印を振り切るように首を振る一方で、志帆は組織の者達への不満を口にし始める。
「複数で力づくって、『騎士』を名乗って取る行動じゃないと思うです」
 むすっと僅かに頬を膨らませ、彼女は不機嫌さを顕著に示した。ほう、とユオザスが感心の唸りをあげる。
 別に気をとられて良いのかと挑発するように、辰房がユオザスの前まで駆け、年長者への真っ直ぐな質問を放る。
「銀誓館と敵対している組織と関わっているか?」
「……」
「なら、そういった組織を知ってるか?」
 止めぬ辰房へ、ユオザスが気合を乗せた一撃を叩き込む。狙い澄ました突撃槍を、辰房は自らの拳で抑え、受ける痛みを軽減させた。
 衝撃は酷く重い。感じる苦痛こそが、相手の強さを計る確かな証となった。

●Duel
 待ってましたとばかりに、毒から回復した椋が魔を退ける呪言の力を得物へ篭めた。
「本気で止めに来ないんですか?」
 そうでないと勝負にもなりませんよ。
 まさしく挑発らしい挑発を呪言の念へ重ねて託せば、ふらりとシモーネの身体が揺らぐ。
 餞別とばかりに、同じタイミングで沙京が魔を蝕む霧を呼ぶ。出し惜しみをする暇など、ない。
「得物が使えない気分はどうだ?」
 霧に蝕まれた組織の者達の幻影が消滅し、回転動力炉の轟音さえも鈍る。
 機会を逃すまいと、清己もダナへ再びキノコの呪縛を贈った。続けて動きを封じられては、ダナも成す術が無い。
 ――流す血は少ないほうがいい。
 敵味方問わずに。清己が抱くのは、ある意味で最も人らしい情だろうか。
 地道に行動を封じられていく中、悶えたシモーネの得物が椋の体内へ痛みの刻印を残す。
「姉ちゃんには俺と付き合ってもらうぜ?」
 狼也がアイノの視線を遮ったまま、足元から伸ばした闇の手で、彼女ではなくシモーネを引き裂く。心こそ折れなかったものの膝を折ったシモーネは、薄い意識の中でちらりとアイノを見遣る。
「痛い……癒してアイノちゃん」
「無理ね」
 温度差のある彼らの掛け合いに、狼也が鼻を鳴らした。
「へっ、随分余裕だな」
 聞き逃さなかったアイノはぎらりと彼を睨み付け、体当たりする。接触と同時に光が炸裂し、狼也の身体が宙に浮いた。
 吹き飛んだ彼は辛うじて真後ろにいたコルとぶつかり、遠くまで行かずに済んだ。しかし受けた痛みは計り知れない。
 そしてアイノの動きに乗ろうとしたダナだが、キノコに秘められた力により自由が利かない。そんなダナを一瞥しつつ、イェンスは詠唱兵器を狂わす霧を生む。霧に触れたのは前衛陣とコル、そして清己だ。
「普通、仲間の回復優先じゃないんですか?」
 志帆が気怠げな眼を、驚きに見開いた。
 封術に囚われたままの烏刻が、今度はユオザスの斜め前へと走る。目的は辰房と共にユオザスを阻むこと。しかし一人増えたところで、ユオザスは怯む素振りも無い。
 相手も力ある存在なら覚悟があるはず。そう踏んだ烏刻は、思い切って口を開いた。
「俺たちは世界結界を守るために戦っている」
 意志を伝えるものの、相手はまるで聞こえていないかのようだ。
「おまえ達は何のための組織だ?」
 沈黙こそがユオザスの返事だった。
「おまえ達にとって俺達は……」
「か、はっ!?」
 視界の隅で光が炸裂し、椋が吹き飛ぶのを見た。後方へ背から着地した椋は、咳き込みながら気合いで肉体を凌駕する。
 そう、倒れたシモーネを庇うため、チャバが前進してきたのだ。
「若いの、お喋りを好むなら他所でやってくれ」
 唇を重たく震わせたのはユオザスだった。握っていた得物を非物質化させ、烏刻の体内へ痛みと刻印を与える。
 間近で対峙する前衛を見守る崇は、世界を巻き込む吹雪で冬を思い知らせた。
「大人は大切な気持ちを忘れている。思い出させてあげるよ!」
 猛る主の決意を感じ取ってか、同時にコルが直線状を揺らぐことなく突進する。猛進を横目に、辰房は回転の勢いのままにユオザスへ連続の蹴りを入れた。
「お前らの行いに何の意味があるかは知らない。だが……」
 彼の眼差しに、偽りは無い。
「決して許せるものじゃない!」
 届いた言葉に頷いた志帆も、また貫き通す意地を舞いにて披露する。
「強盗恐喝団の方がニュアンス近くないです?」
 しかし不幸にも、烏刻の禁癒だけは拭えずに。
「ひゅ〜、紅一点のダンスカッコイイ!」
 跳ねたダナが志帆へウインクをし、負けじと情熱に溢れたダンスで観客を自分の世界へ招く。
 踊りへ誘われた者達により動きが乱れる中、沙京は再度魔蝕の霧を漂わせる。
「俺も騎士ってガラじゃないが、あんた等は騎士じゃない」
 ――単なる強盗だ。
 語尾は音にならず、直後アイノが地を蹴り前衛を突破した。
「……この人数の中へか?」
 無茶だ、とかぶりを振った清己は、咄嗟に空いた穴を塞ぐべく彼女の前へ陣取る。
「止めさせてもらおう」
 するとアイノは大胆不敵にほくそ笑み、黒き影を連れた一撃で彼を襲う。休まず椋が彼女の傍らへ寄り、ナイフへ乗せた恨みの念で突いた。
「銀は渡さない。じっとしていてください」
 ぐ、と呻いてアイノが仰け反る。
 刹那、彼女を中心として黒燐蟲の塊が落ちてきた。弾けた群れは清己と椋を貪り尽くし、椋がぱたりと崩れる。

●Determined
 躍りの魔力より開放された烏刻が最初に成したのは、アイノへの射撃だった。
「他の奴を気にしてる余裕があるのか?」
 その場から放った独鈷杵が彼女を強か傷つけ、矢継ぎ早に沙京が最後となる魔蝕の霧を孕む。
「負けられないな、一気にいくぜ!」
「コー、アイノを攻撃だ!」
 駆け寄りながら叫ぶ狼也の言葉よりも早く――コルはただ、主である崇へ近づけさせまいという意志でアイノへ飛び掛っていた。身を翻し回避したアイノへ、狼也が剛剣を振り下ろせば、彼女の得物が致命傷を避ける。
 清己と狼也、コルで彼女の足を止める間、後方では崇の起こした氷雪が狂い咲く。
 ――本当の騎士の力と誇り、そして純粋な想いの力で撃破するよ!
 同じ頃、辰房は前衛を突破しようと試みるユオザスを抑え込んでいた。
「おっと、お前の相手は俺だぜ」
 阻害され、しわの浮かんだ男の目尻が細くなる。
「無視して逃げる気はないよな?」
「がはははは、もちろんだ。そうでなくてはな!」
 豪快に笑った男が辰房へ痛みの刻印を押し付けた直後、チャバの手を離れた黒燐蟲の群れが、アイノの周囲に固まった能力者達を掃討する。
 清己が倒れ、意識を失いかけた狼也は魔狼の猛々しさで自らを癒す。
「人様のもんを力づくで持っていく奴等に、はいそうですかと渡せるかよ」
「そのとおりです」
 幾度目になるか、志帆の舞いが仲間達の背を後押しした。
 鼻歌交じりにダナが腕を広げれば、彼らの幻影がもやのように浮かび、痛みに歪む表情も和らいだ。イェンスも彼女に沿って癒しを皆へ運ぶ。
 よろめく足で踏ん張りながら、アイノは何を省みるでもなく崇と沙京との間合いを詰める。範囲攻撃を連発していた崇を狙い定めて。しかしアイノは、行く手を阻む崇を吹き飛ばすでもなく、わざわざ痛みの印を残す手段を選んだ。そんな彼女を追走するコルと狼也の背へ、チャバがじっと視線を送っていて。
「アイノ。恩に着る」
 彼の独り言を耳にし、烏刻が首を傾ぐ。そして何かに感付き、振り向き声を荒げた。
「追うな! 彼女は囮だ!」
 ビルの中に木霊した叫びが、黒き蟲のざわめきと重なる。
 気付けば狼也が膝を突き、コルも苦しげに唸っている。暴発弾に巻き込まれた崇と沙京も、思わず眉根を寄せた――陽動だ。
 しかしこちらも決して劣勢ではない。志帆が癒しをもたらし、沙京の放った鎖鎌がもはや防ぐ力すら無いアイノを仰臥させた。
「なんだよソレ……」
 湧き上がった感情を、沙京がギリと噛む。
「銀を奪うためなら、そこまでするのかよッ!」

●The end
 咆哮滾るユオザスも、体力がいかに高いと云えど猛攻には敵わず、烏刻が握る紅蓮の一振りで膝を折った。
「坊ちゃん……すまぬ」
「っ、ユオザス!」
 愛称を呟き意識を失った彼を、これまで口を閉ざしていたイェンスが呼ぶ。頼もしい盾が落ちたためか、ダナが見るからに困惑して金髪の少年へ視線を移した。どうしよう、と騒ぐ彼女に比べ、チャバとイェンスは至って冷静で。
 コルはふらつきながらも崇の前で主を守り、沙京と辰房、烏刻もまだ立っている。自分達と組織の者達の人数を確認し、辰房が口を開いた。
「降伏する気はないか?」
 提案に、彼らは驚きを眼差しへ映す。
「譲れない信念が有るとのこと。お聞きするですよ」
 志帆も続けて言葉をかけてみるが、彼らには快諾する気配すら無い。
「身の程を知ったか、痴れ者ども」
 烏刻が瞼を伏せ吐き捨てれば、イェンスが不愉快の色で瞳を眇め、後衛から無音で突撃槍を突きつけた。外の薄明かりを受け、矛先が煌いて見える。
 改めて降伏を求めかけたその時――。
「チャバ、ダナを頼みます!」
 イェンスが辰房たちの許へ突撃しだす。頷きも否定も見せぬうちに、チャバもダナのところへ駆け寄っていて。
「えっ!? 普通こういう時って大将が逃げるデショ!?」
「ダナ。彼は、ああいう人だ」
 説かれたダナは瞳を濡らし、チャバに腕を引かれながら踵を返す。
「待て!」
 制止を呼びかける能力者たちの前に、イェンスがたった一人で攻め込んできた。無防備でいるわけにもいかず、辰房たちは突撃槍を受け止め、有り余る彼の力に喉を震わす。
「……やるか?」
 辰房が問えば、イェンスはふと腕を引く。
「先ほどの提案、お受け致しましょう」
 それは降伏を意味していた。

「僕達と一緒に来てもらいます。いいですね?」
 穏やかに告げる椋にも反応せず、捕縛された者達は視線を落としたまま黙り込む。
「憎いわけじゃないからな」
 組織のことに追求したくなる想いを抱きつつ、清己は呟いた。その言葉にか彼らの態度にか、イェンスの顔が微かに綻ぶ。
「……妙な人達ですね」
「そっちもな」
 清己が息だけで笑った直後、ユオザスが、不謹慎なのは承知の上だが、と前置きを添えた。
「お主らのような戦士と対峙できたことは、誇りに思うぞ」
 ユオザスからの思わぬ称賛に、銀狼の騎士団の面々が目を瞬かせる。
「君達の組織って、可愛い子たくさんいるかい?」
 緊張感など微塵も無い声で、シモーネが訊く。瞳を輝かせる彼の鳩尾を、アイノが容赦無く小突いて大人しくさせた。
「……何にせよ、俺達の勝利だ」
 辰房が現実を紡げば、沙京も笑みを浮かべて。
「それじゃあ、帰って祝勝会といきますか」
 冬空に星が瞬く。
 今宵の戦いは奪われることなき銀の色で、彼らの名を歴史に刻み込んだ。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/11/29
得票数:カッコいい18  えっち2 
冒険結果:成功!
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