立ちはだかる男


<オープニング>


 深夜、1人の男性が、いつものように帰宅するべく、橋を渡っていく。
 すると、不意に男性は不思議な感覚に包まれ……気付いた時、ザーザーと雨が降りしきる空間の中に彼は立ちつくしており、その目の前には、身長2mはあるのではないかという大男が立っていた。
 男は、先端がカブトムシの角のようになっている棒を手に、男性へと一気に距離を詰め……彼の脳天めがけ、勢いよくそれを振り下ろし、彼の頭をたたき割ったのだった。

「今回の現場は橋の上、大男の地縛霊が相手となるよっ」
 神崎・優希(中学生運命予報士・bn0207)の説明によれば、深夜、田舎町にある橋の上に、身長2m以上の地縛霊が現れ、そこを通りがかろうとする者を見境なく襲い、カブトムシの角のような形の棒で相手をたたきつけ、その命を奪い取るのだという。
 地縛霊が現れるのは、午後11時以降であるらしく、人数や格好、性別などに関係なく、橋の上を通りかかろうとした者全てを自身の特殊空間へと引きずりこむのだという。
 田舎町という事もあり、その時間帯に出歩く人はあまりいないものと思われるが、一応、人払いを行っておいたほうが確実だろう。
 特殊空間内部は見た目は通常の空間とほぼ変わりないが、常に雨が降り続けている空間であるとの事。
 地縛霊は2mを超す男の地縛霊であり、カブトムシの角のような形の棒で相手をたたきつけたり突き刺したりする攻撃を行うようである。
 素早さはそれほど高くないものの、攻撃力や体力はずば抜けて高いらしい。
「結構強敵みたいだけど、みんななら勝てるって信じてるからねっ」
 ぐっと拳を握りしめてそう言いながら、優希は能力者達を見送る。
「それじゃあみんな、勝利の報告、待ってるからねっ」

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参加者
諸葛・彩雲(高校生魔剣士・b15410)
空木・紫唖(レグルスの雨花・b22801)
南・瓜(柑香のベニート・b24461)
シン・メイフィールド(赫のアルドーレ・b37067)
御剣・蛍(中学生ヤドリギ使い・b37792)
皆月・弥生(夜叉公主・b43022)
天宮・宗(怠惰にして眠れる蒼龍・b44652)
黒瀬・芙美(星のひとひら・b48231)
神倉・紅牙(忘却の彼方より・b52223)
柳生・狼華(心壊レシ修羅ノ王・b62835)



<リプレイ>


 深夜、とある橋に現れて行く手を遮るという特殊な形状の棒を持った大男の地縛霊。
 彼を倒し、一般人達が安心してその橋を行き来できるようにするため、銀誓館学園より10人の能力者達がやってきた。
「これで準備は整いましたね」
 念のために工事中の看板やコーンを設置し、一般人が戦闘エリアへと入り込まないよう配慮する黒瀬・芙美(星のひとひら・b48231)達。
「通行の障害を取り除くんですから、ある意味工事中も間違ってないですね」
 苦笑いしながらそう呟く柳生・狼華(心壊レシ修羅ノ王・b62835)。
 何はともあれ、皆で協力し合った甲斐もあって作業は無事に終わり、あとは戦いに赴くのみとなった。
「雨の降り続ける特殊空間か」
 突然雨の降る空間へと引きずり込まれて、しかもそこに、2mを超えるという大男が佇んでいたのなら、一般人はさぞかし驚くだろうな……と思う南・瓜(柑香のベニート・b24461)。
「脳天から一発とか……怖いなあ」
 そう呟きながら、何故棒の先がカブトムシの角の形になっているのだろうと空木・紫唖(レグルスの雨花・b22801)は疑問に感じていた。
 彼女がそういった形のもので思い浮かぶのは、干し布団等を叩く棒位であるようだ。
「問答無用で頭割るって、行為だけ見ても恐ろしすぎる……」
 シン・メイフィールド(赫のアルドーレ・b37067)もまたその光景を想像し、ぶるりと震えながら思わず頭をおさえてしまうが、今回は同じ結社に所属する頼もしい仲間達とともに参加しているという事もあり、頑張ろうと心に決めているようであった。
「それにしても、カブトムシの角のような形の棒というのは時期外れじゃないか?」
 と、皆に問いかけるようにして諸葛・彩雲(高校生魔剣士・b15410)がそう言う。
 この時期なら、トナカイの角のような棒の方がいいんじゃないかと彼女は考えているようだ。
「そうね、夏ならまだ理解もできるのだけど」
 そんな彩雲の言葉に頷く皆月・弥生(夜叉公主・b43022)。
 彼女達の言うとおり、今の時期にカブトムシというのはおかしな話である。
「確かに、大男と橋と雨とカブトムシの角の形した棒との関係性を問いたい」
 同じく、地縛霊の考える事はよくわからないなと感じている神倉・紅牙(忘却の彼方より・b52223)。
 何の共通点も見いだせない事件ではあるため、能力者達もやや困惑しているようである。
「そういえば姉さんはカブトムシやクワガタが大好きで、昔は捕りに行くのをよく手伝わされたものです」
 あんな所やこんな所……色々と行かされましたね……そんな事を思い出し、思わずほろりと涙がこぼれ、よく生きてこれたなぁと思いながら、御剣・蛍(中学生ヤドリギ使い・b37792)は自分自身に感心してしまう。
 そんな様々な思いを胸に、能力者達はいよいよ橋へと足を踏み入れ……やがて不思議な感覚に包まれた彼等は、ふと気付くと、ザーザーと雨が降りしきる空間の中、カブトムシの角のような形の棒を手にした大男と対峙していた。
「橋の上にとどまる地縛霊よ、君が行なう事を見過ごす事は出来ない」
 ここで、僕達に倒されて倒されてもらいます、と言葉を続ける藍色の髪と藍色の瞳を持つ少年、天宮・宗(怠惰にして眠れる蒼龍・b44652)。
 地縛霊を倒し、一般人達が安心してこの橋を通り抜けられるよう、能力者達はカードを起動させてそれぞれの武器を手にし、戦闘を開始するのであった。


「あっちの頭を割る勢いでいくよ」
 戦闘開始と同時に、華麗なるペンさばきによって、地縛霊そっくりのSD調のイラストを描くシン。
 描きだされたイラストはまるで実体があるかのように動きだし、手にした武器で地縛霊へと攻撃をくわえていった。
「2mなんて……許せな……いえ、別に私情なんか混ざってませんよ、決してそんな」
 そう取り繕いつつ、紫唖はケルベロスオメガに後方からレッドファイアで攻撃を行うように指示を出し、自身は真っ白な雪だるまの鎧を身に纏う。
「まずはみなさんを……」
 夢の力を解放し、周囲の仲間全てを幻夢のバリアによって包み込んでいく芙美。
 彼女が発動させたサイコフィールドの効果によって、仲間達の防御力が強化されていった。
「しっかり、前を務めろ」
 真スカルロードを鼓舞しながら、瓜は呪いの力が込められた呪符、呪殺符を一瞬にして作り出して地縛霊へと投げつけ、それは真スカルロードが地縛霊へと攻撃を行うのと同時に相手の体へと張り付き、目には見えない負の力によってその身を襲う。
「そんなカブトムシの角のような形の棒なんか持つばかりか、おまけにそれを振り回すとかお前は子供か!」
 何となく思った事を口にしてみる彩雲。
 黙ったままでいるのは彼女の性に合わないらしい。
「だから、何でカブトムシの角なんだ」
 カブトムシに思い入れでもあんのか?と首をかしげる紅牙。
 それぞれの想いを地縛霊にぶつけつつ、彼ら二人はそれぞれの武器を頭上へと掲げ、高速回転させる事によって、自身の能力を強化していった。
「みんな、足元に注意するようにね」
 雨が降っているため、うっかり足をすべらせでもしたら命取りになるかもしれない。
 仲間達に注意を促し、弥生は髪の毛を逆立たせ、皮膚に虎の模様を浮かび上がらせる。
「五条大橋の弁慶気取り?、生憎私達は義経程甘くないよっ!!」
 そう言い放ちながら、狼華は握りしめた長剣へ黒燐蟲を纏わて黒くぼんやりとした光を放たせる事で、攻撃力を上昇させていく。
「蒼龍の咆哮から逃れる術は無い!!」
 しっかりと地縛霊の姿を捉えながら、宗は大自然のエネルギーを体内に取り込み、それを衝撃波へと変換して一直線上に放ち、地縛霊を襲う。
「姉さんの理不尽な仕打ちの数々に比べれば、ゴースト退治なんてどうって事ありません」
 そんな事を言いながら、蛍もまた、雪だるまアーマーを発動して雪だるまの鎧を身に纏い、攻撃の準備を整えていく。
「……ツブス」
 数々の攻撃をうけてもなお、地縛霊はまだまだ体力に余裕があるようであり、彼は狼華に狙いを定めてその棒を振り下ろし、彼女の脳天を強打し、体力を著しく低下させてしまったのだった。


「瓜君、いくよ」
「了解だ」
 呼吸をあわせ、同時攻撃をしかけていくシンと瓜。
 シンは自分そっくりのSD調のイラストを描いて具現化させて攻撃を行うよう指示し、瓜は一瞬にして呪殺符を作り出して投げつける。
 普段から共に日常を過ごしている2人のコンビネーションは完璧なものであり、地縛霊の体力を一気に奪い取っていった。
「飄ちゃん、私達も続きますよ」
 続けざまに、紫唖が極夜、雪の女王を投げつけ、それが命中するのとほぼ同時に、ケルベロスオメガがレッドファイアにて地縛霊を襲い、その身を真っ赤に燃え上がらせた。
「なかなか強力な一撃ですね……」
 決して油断は許されない事を頭に置きつつ、芙美は光り輝く4つのリフレクトコアをその場へと召喚し、自らの周囲をグルグルと旋回させる。
「覚悟はいいな」
 地縛霊を睨みつけながら、自分の足元の影を地縛霊めがけて伸ばす彩雲。
 影は地縛霊へと到達すると腕の形となって浮かび上がり、爪の先でひっかくようにして、地縛霊の体を強く引き裂いていった。
「お前、その身長少し寄こせ」
 相手を見上げつつ、そんな事を呟く紅牙。
 身長の伸びが悪い者としては、2mを超える存在というのは苛つくものであるようだ。
 そんな彼は十六夜、陽翼を漆黒のオーラによって染め上げながら地縛霊へと接近し、それらを交差させて相手の体をばつの字に切り裂き、深い斬撃を刻み込んだ。
「狼華、無理せず一度下がって」
 深く傷ついた仲間にそう警告しながら、弥生は先程の虎紋覚醒にくわえて黒燐奏甲を発動し、自らの力を最大限にまで強化していった。
「ふん……変な武器を使う割りには中々やるじゃない……」
 仲間からの警告を受けた狼華は、傷をいやすためにライカンスロープを使用。
 己の肉体を制御して隙のない構えを取り、体の奥底より湧きあがった魔狼のオーラを身に纏う事で、自己回復を行う。
「逃がしはしませんよ!」
 片足を軸とし、その場で激しく回転し始める宗。
 その勢いを利用し、目にも止まらぬ速さで繰り出される数々の蹴りが、一発、二発と地縛霊の体のいたる所へと次々に叩き込まれていき、それまでのダメージも重なって、宗が回転をやめた頃には、地縛霊はすでにふらふらの状態となっていた。
「これで終わりにさせてもらいますよ!」
 腹いっぱいに息を吸い込み……一気に吐き出す蛍。
 吐き出された吐息は全てのものを凍てつかせる冷気となって地縛霊へと襲いかかり、あっという間に彼の体を氷漬けにしてしまい、彼の体はそのまま後方へと傾いていき……パリーンという音ともに砕け散り、やがて消滅していったのであった。


 無事に戦いに勝利した能力者達は、雨の降りしきる空間から、無事に通常の空間へと帰還を果たしていた。
「お疲れー。圧迫感のある地縛霊だったな」
 ふーっと一息つきながらそう感想を述べる紅牙。
 確かに、攻撃力や体力といったものよりもその体の大きさの方が、能力者達にとっては驚異的であったかもしれない。
「うり君、ふみちゃん、今日はありがとね」
 心強き仲間達に対し、礼を述べるシン。
「……」
 地縛霊、そして彼の手によって犠牲となってしまった者達が安らかに眠れるようにと、平等に黙祷を捧げる紫唖。
「カブトムシの角のような形の棒を持っていたところから察するに、生前は昆虫好きの心優しい青年だったかもしれないな……」
 そんな事を考えながら、手を合わせ、地縛霊の冥福を祈る彩雲。
 彼女達の想いはきっと、地縛霊や、その犠牲となった幾多の魂達に届いている事であろう。
「……橋に立ちはだかる大男か」
 牛若丸と弁慶ではないが、ここで待ち伏せるのはあまり縁起のいいものではないと思う瓜。
 彼の言葉どおり、地縛霊もまた、弁慶のように退治されてしまった。
「門番みたいな地縛霊さんでしたね……すっごい迫力だったのです……!」
 人払いのために設置した看板等の撤去作業を行っていた芙美は、ふと地縛霊の姿を思い出しながらそう呟きながら空を見上げ、これからは、付近の住民達が平和に暮らせますようにと願うのであった。
「攻撃力や体力に自信があったみたいですが、うちの姉さんに比べればまだまだ甘いです。ミジンコ以下です」
 何処か誇らしげにそう言いながら、
「そんなゴーストが私に勝とうなんて10万年早いのです!」
 と言葉を続け、蛍はキリッと表情を引き締める。
「工事終了ね」
 そうこうしているうちに、狼華達が頑張った甲斐もあり、早々と看板等の撤去作業が全て終了した。
「さて、かえりましょうか」
 周りに危険がない事、撤去作業が終了した事、そして仲間達が無事である事を確認し、微笑みながら皆に帰還を促す宗。
「そうしましょうか」
 宗の言葉に頷きながら歩き出す弥生。
 こうして能力者達は無事に大男を退治し終え、平穏が取り戻されたその橋をあとにし、銀誓館学園へと帰還していくのであった。


マスター:光輝心 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2009/12/08
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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