God Jul 〜ユーレニッセからの贈り物〜


       



<オープニング>


 銀誓館学園のクリスマスパーティー。
 毎年、様々な趣向を凝らすパーティーが開催され、学園はクリスマス一色に染まります。
 冬休みを目前としたクリスマスイヴの日は、様々なパーティーが開かれているようです。

 クリスマスパーティーは無礼講。
 たとえ、今まで一度も口をきいた事が無い人とでも、一緒にパーティーを楽しむ事ができます。
 クリスマスパーティーは、新しい友達を作る為のイベントなのですから。

 気に入ったクリスマスパーティーがあれば、勇気を出して参加してみましょう。
 きっと、楽しい思い出が作れますよ。

●ミルク粥片手に、淡い光の中で
 真っ赤な頭巾に膝丈のズボンを穿いた、白いひげの小人。彼らはニッセと呼ばれています。
 屋根裏や納屋に住み、家の人々へ幸運をもたらすだけでなく、イタズラまでしちゃう可愛い小人。
 そんなニッセたちはクリスマスの時期だけ、プレゼントを手渡しに来るユーレニッセとなります。
 ミルクでお米を煮詰め、砂糖とシナモンも入った甘〜いミルク粥は、彼らの大好物です。
 家族でいただく前に一口、彼らへあげないと怒ってしまうこともあるんですよ。
 そんな可愛らしいユーレニッセが、あなたに代わって、あなたの想いをお伝えします。

 参加者の皆様へ一つずつお配りする、ユーレニッセのぬいぐるみ。
 ニッセ人形と一緒に、ミルク粥も持って過ごしましょう。(おかわりもあります。)
 服装や持ち物は自由ですが、会場は大教室と、その傍らに広がる中庭です。大教室の窓は、家にあるような人一人が楽々通れる大きな窓。なので、中庭との行き来も簡単です。
 もちろん、中庭へ出る方は防寒をしっかりと。暖かい大教室の中で過ごす方も、窓の開け閉めがあるため、風邪を引かない格好でどうぞ。
 大教室の照明は落としてあります。中も外も、明かりはキャンドルだけ。
 そして最後は参加者全員で輪になって、キャンドル片手にクリスマスソングを歌い続けます。ニッセをお見送りし、「来年も呼ぶからよろしくね」の意味を篭めて。

 ……ひとつ大切なことがあります。
 それは、ニッセに触れた瞬間から、あなたは言葉のすべてをニッセへ託さなければならないこと。
 誰かとの会話も、誰かへの想いも、独り言も、ニッセを通して口にしましょうね。
 自分では言えなくても、ニッセを通してなら話せることもあるかもしれません。
 もしかしたら、お友達のニッセと自分のニッセが集まり、あなたの噂をする……なんてことも。

 さあ、ミルク粥の香りに惹かれたユーレニッセへ、あなたはどんな言葉を託しますか?


「……ってことなんだけど一緒にどうだろう? って、この人が言ってるよー」
 木彫りの人形を顔の前まで持ち上げ、井伏・恭賀が君へ声をかけた。持ち上げた人形の腕を揺らせば、おいでおいでをしているようにも見える。
 君の手にあるのは『ユーレニッセからの贈り物』というクリスマスパーティの招待状だった。
 恭賀が興味を持っているらしく、通りがかった君へ、一緒に参加しないかと誘いをかけてきたのだ。
 君と同じ場に居合わせた高城・万里と神谷・轟も、招待状を読み終え、徐に閉じた。
「あたし、お人形で遊んだことないからわからない、の」
「うーん、なりきりっていうか、一人伝言ゲームっていうか……」
 どう表現すれば良いのか恭賀が言いよどむ間に、サンプル用に借りてきたらしい彼の持っていたユーレニッセ人形を、万里が奪い取る。
 そして掴んだまま軽く人形を振り、彼女は気のない声でこう告げた。
「うちのご主人がチキンハートで困っとるんじゃ。良い方法は無いじゃろうかのぉ?」
「あはは、そんな感じ〜。高城ノリノリだねー」
「今のはお主のことを言うたんじゃよ」
「!?」
 放るように言い切ると、万里はその人形を恭賀へと突き返す。
 二人のやり取りの後、轟が肩を竦めて君へ告げる。
「……会話は今のように行うようだ」
 簡単に言えば、全ての会話はニッセの人形になりきって話す。これがこのイベントの基本事項であり、ちょっと変わったルールだ。
 再び招待状へ君が目を落とすと、最後の方に主催者の一言が添えられていたと気付く。

 あらゆる言語が奪われた静寂の中、唯一共通の言葉を喋るのはニッセだけです。
 ニッセを通さなかった言葉は、まるで呪文のように不可解な言葉となるでしょう。
 だからこそ、耳を澄まし、ニッセたちの噂話へ意識を寄せてみませんか?

「平たく言うと、せっかくのクリスマスだから静かに過ごそうよってことなんだろねー」
 恭賀はニッセ人形で口元を隠しながら、君へ話を続けた。
「高城も神谷も参加するんだってさー。君はどう? 時間あるなら一緒にやろうよ」
 もちろん、イグニッションを含む危険行為は避けるべきだ。主催者の趣旨に逆らう行動や迷惑行為も、他の参加者やスタッフを悲しませることとなるだろう。
 ただ、飲食物の持ち込みは可となっている。もちろんクリスマスらしい物であればだが。
「一人参加も大歓迎だよ〜。俺たちだってそうだし。だから会場で話せたら話したいね〜」
 嬉々とした微笑みを零し、恭賀は人形の腕を摘んで振ると、万里や轟と共に別の能力者の元へ向かった。
 彼らの背を見送り、君はもう一度招待状という名のイベント案内のチラシを見遣る。

 君はこの催しに参加する? それとも、参加しない?

マスターからのコメントを見る

参加者
NPC:井伏・恭賀(運命予報士・bn0110)




<リプレイ>

●中庭
 疎らに咲く光の花の下、大層な照れ屋だと告げ口するさつきのニッセは、胸を張っていた。寒さに鈍くなった唇を震わせ、羽花はそんなさつきのニッセへ耳を傾ける。
「代わりに教えるが……」
 伝えられない日頃の想いを、誤魔化すこともなく、さつきが紡ぐ。ニッセの言葉を借りて。
「……ずっと一緒に居るよ、と」
 たとえ何処にいようと、この空のように繋がっていられる。
 確かな想いを乗せたさつきへ、羽花は耳まで朱に染めた。融けていく。そう感じる。
「大好きなんだから、もう」
 零れた羽花の呟きが、白く上り詰める息と共に虚空へ掻き消えた。

「待たせてごめん」
 陽里が息を切らして言うのを、さくらはかぶりを振って笑った。大丈夫よ、と。それだけ。そしてふと、大教室にも夜空にも輝く煌きへ視線を向ける。
「私、そんなにやわじゃないもの。でもありがとう」
 気遣ってもらえた喜びは率直に表し、さくらがニッセの手を取る。
 恍惚のため息を零したのは陽里だった。彼女につられて、笑っている自分がいつもいる。助けられているのだと、改めて実感させられた。
 ――願わくば、彼女がいつまでもありのままであるように。
 陽里が託す祈りを、ニッセの人形が優しい眼差しで聞き入れていた。
 一方、何処が一番好きなのか、ニッセが胸の内を暴くように明彦へ耳打ちした。
 優しい、と一言で述べてしまうには勿体無い好きなところを、余すことなくハディードが紡ぐ。温かい。そう感じたのはきっと、ハディードだけではないのだろう。眇められた明彦の瞳が、それを物語っていた。
「今までありがとう。それから……これからも傍に居ててな」
「いつも傍にいて支えてくれてありがとう、だって」
 重ねた手は、確かな命が目の前にあることを二人へ刻ませた。

 話すきっかけを探す詩祈のニッセを見兼ね、パックという名のニッセを口へ寄せた未緒が、沈黙を破る。
「プレゼントの用意もなしなのか?」
 唐突な喋り方に目を瞬かせた詩祈も、慌てて人形を喋らせる。
「プレゼントは用意しとるようやで? 後で渡すそうや」
 思わぬ返答に演技を忘れ、未緒が目を見開く。しかしすぐにパックで口元を隠し、期待しててやるよ、と鼻を鳴らした。
 もどかしい感覚に囚われそうなやり取りが耐えない中、
「バッグパッカーもいいかもしれんぞ」
 口端を僅かに上げた轟の返答に、相談を持ちかけた暈人が肩を竦め笑う。
「随分思い切った行動だな」
「何なら、今度共に山篭りでもしてみるか?」
 不意に、近づいた八重の口から轟は、サングラスを取った顔を見せて欲しい、とニッセを通してささやかな願いが告げられた。期待に満ちた少年の眼差しを受け、特別面白い目はしていないが、と彼は躊躇いもなく答える。テンプルへ手をかけようとしたところへ、当人を探していた止水が声をかけた。
 やや不慣れな様子で人形が持っているのは、白く湯気が上るレモネード。機会をすっかり逃した八重は、微笑み挨拶を交わす止水を見遣り、すぐに他駆けていった。
 そこへ近寄った和希は、主の心情をこっそり伝えるニッセを抱き、迷いの色を瞳へ浮かべる。
「まあ杞憂じゃな。お前さんは強いからのう」
 紛らわせるように笑った声へ、轟はニッセの手を僅かに挙げてみせた。
「心配してくれる存在がいるというのは、ありがたい」
 もちろん、思われるのがそればかりでは寂しいだろうな。
 本気とも冗談とも取れぬ調子で、彼は肩を竦めた。

「クリスマスだぞ。女の子を誘ったらどうだ」
 仁王立ちした龍麻のニッセが、参加者たちの合間を練り歩く恭賀へ、開口一番にそう命令した。
「オイラがナンパを教えてやるぜ!」
「お、俺はそういうの苦手だから、ちょっといいやー」
 なんとも残念な反応だ。
「そこのいぶせっこ! 楽しんでるかい?」
 不意に、夜をつんざく裏声が響く。嗄れ気味の声を発したニッセへ、恭賀のニッセが手を振る。
「氷の穴に飛びこむ根性ある子って聞いたぞ」
「イベントと日常の寒さとは違うぞよー」
 心なしか、応える声が震えていた。
 龍麻とすいひが他の参加者達の元へ向かった直後、翔太のニッセにいきなり背を突かれ、くすぐったく笑った恭賀は、振り向き目を瞬かせる。隠れた少年の表情が、夜の色に包まれ窺えない。
 表情の代わりに少年のニッセが迷わずぶつかっていけば、恭賀のニッセは、主の楽しそうな声と共に、しかとその体当たりを受け止めた。
 じゃれるような人形劇が繰り広げられる中で、同じく予報士を探していたレイアスが、軽い足取りで姿を現す。
 ただいまと、ありがとう――。
 二つの想いをご主人の代わりに伝えるレイアスのニッセへ、恭賀のニッセが「こちらこそじゃよー」と応じる。
 レイアスがふと踵を返せばそこには轟の姿があって、思わず呼びかけた。
「僕のご主人が、どうやったらそれだけ身長が大きくなるのか教えてほしいそーな」
「良く寝て、良く食い、良く走ればいいだろう」
 轟はニッセを揺らし、お約束の回答を投げる。

 クラスメイトでいられる期間は長いようで短く、それを惜しむように人形を掴んだソランジュは、そんなクラスメイトの元へ急いだ。
 クラスが変わっても、友達で居て欲しい。
 そう、照れを混ぜた彼の願いに、轟はニッセで口元を隠しながら、微笑む。
「望むのなら、それに応えるだけだ」
 飾らぬ言葉が、彼の心をままに映す。
 そこへ顔を覗かせたのは、ジングルだ。似た姿のニッセと共にぺこりと頭を下げた。ご主人からのプレゼントだと話すニッセが、身体を揺らしてはしゃぐ。その様に轟もニッセの頭を押し、頷かせる。幸福を祈るおまもりが、ニッセの柔らかい腕を通して差し出された。
 ふと、縫のニッセ人形が、パタパタと腕を広げる。
「北育ちだからまだ暖かく思うんです」
「そいつは便利だな」
 何の変哲も無い会話ゆえに、轟も普段と変わらぬ調子で応じた。そんな縫の一部始終を眺めていたアルトは、ふとニッセを揺らし、こう尋ねる。
「いつもサングラスをしているが、理由でもあるのか?」
 主が気にしているのだと、それこそ強弱もつけぬまま好奇心だけで問う。そして轟は、そんなアルトの質問にサングラスを押し上げ、
「……眩しすぎるからな」
 何がとは続けず、ただそうとだけ。
 同じ頃、深々と冷え込む中庭に集う人影を横目に、ルシアは予報士の姿を発見し、ニッセを口元へ添えた。
「相変わらずのほほんとしておるのかの?」
 穏やかな音は夕方から夜にかかる空気の中、緩やかに響く。のほほんという単語にか、小さく笑った恭賀のニッセが頷いた。

●室内
 揺らぐキャンドルの灯りを瞳に映し、キルシュが言葉を喉へ詰まらせていた。とても臆病なご主人なんだ、とジャックのニッセは言った。だから自分といることで、大切な花を傷つけてしまうのではないかと。隠し通すはずだった想いを、ひたむきに。
 そんな想いの欠片に触れてしまったから、キルシュも、キルシュのニッセも黙り込んでしまった。けれど思い切ってニッセを顔の前へ掲げ、口を開く。
「鳥に翼はあっても花は飛べなくて……それでも花の傍に居てくれるのかなって」
 絡まる不安も優しさも交わすように、ジャックはキルシュのニッセへ、自らのニッセを触れさせた。

「舞夜ちゃんも、いつもより若く見えるよ!」
「そうそう、炎の揺らめきで年齢肌も誤魔化……」
 ぽこん、と軽い衝撃音と共に、痛いと訴える穹の声が落ちた。語彙が少なくてごめんね、とニッセを左右へ揺らす穹に、舞夜は「まだぴちぴちだ、ですよ!」と寒さにか覚える熱にか、顔を赤らめる。
「でも……こうして、一緒に居ても良い口実になるなら」
 ぼんやりと過ごす時間も、灯の揺らめきも、心地よい。
 舞夜の呟きは、偽りもなくただ、穹の耳朶を優しく打った。

 腕をさすりながら室内へ戻る恭賀は、そこでアンナと真夏のニッセに迎え入れられた。二人が持ちかけてきたのは秘密の交換で。
 奥歯が生え変わったこと、冬だというおに水風呂に入りそうになったこと――そんな他愛もない、だからこそ優しげな音を含む打ち明けに、恭賀もころころと表情を変えて楽しむ。
「キミのご主人の秘密もこっそり教えて欲しいのだ」
 秘密を尋ねられた恭賀は、暫し視線を泳がせた後ニッセの腕を考え込んだかのように組ませて。
「能力者さんが大好きってことじゃな」
「それ、秘密になってないってよ」
 思わず噴き出した真夏が、ニッセの口を借りて突っ込む。それもそっかぁ、と間の抜けた笑顔を返した恭賀に、二人は顔を見合わせ笑い、その場を後にする。
 傍らへ腰掛けた懐かしい顔に、まばたいた恭賀は微笑んで、ニッセでお辞儀を返した。無理はしていないか、そればかりが気がかりだと、訥々と紡がれる言葉を、もう一人のニッセが黙って受け止める。
「またおかえりと言って貰えるよう、頑張るからの」
 掲げた笑顔に偽りは映らず、ゆえに恭賀とニッセも、
「ただいまを聞けることが、こやつにとって何よりの喜びであろうの」
 そう、同じように笑った。

 人生の酸いも甘いも知り尽くしたかのようなニッセを前に、弓姫と小夏は人形の手足を自在に操りながら、それこそ人形劇を思わせる動きで言葉を繋げていた。
「わしの主人は弓姫の事が大好きらしいのじゃ」
 恥ずかしさを紛らわせるかのように、小夏のニッセが顔を覆う。えへへ、とくすぐったそうに笑い出したのは弓姫で。
「うちのご主人も小夏ちゃんが大好きだよ! なのじゃ」
 甘いミルク粥の香りに鼻をひくつかせつつ、二人のニッセは互いを手放すまいと抱きしめあった。ぎゅっと、ぎゅっと。
 近くで抱きしめあう人形達には気付きもせず、沙夜と瀧人は、湯気を浮かべたミルク粥へ視線を落としていた。
 関係は一言で語りきれず、ゆえにこうしてぶつける機会があることを幸いと思い、沙夜は感謝の気持ちをニッセを通して告げる。
「心配かけてしもうとるじゃろが、前向いて、幸せに過ごしとる」
「それで良かろうて」
 ひとつひとつをゆっくり飲み込むように、瀧人のニッセが大きく頷いた。不意に、約束を覚えているかと、沙夜のニッセが尋ねる。覚えとるかの、と短く紡がれたそれに、不安の色は含まれていない。
 言葉にすることで確かめる。ただそれだけで。
「安心せい。忘れてはおらん様だからの」
 瞼を伏せた瀧人が、ニッセ越しに呟く。嬉しそうに微笑む顔が、闇に浮かんで見える。そして、沙夜が歩き回る万里へニッセの手を振って見せれば、いつもの空気が、二人の間へ戻ってきた。

 決して小さすぎることはない二つの命を包み、ブランケットが温かい灯の光を映す。メッセージがあるのだと、こころのニッセが主人からの伝言を躊躇いなく結い上げていく。
「わたしは、赤くんのことを信じてる。ずっと隣で見守っているから……ね。大好き」
 一息に告げたからか息が苦しく、こころは顔を逸らす。普段と異なる響きの音に、赤は目をぱちくりさせて。
「おっ……ぼ、ボクのご主人、も……大好きだ……よ、って……!」
 寄り添い、間近にある存在も、声も、確かに聞き届けた。感じた。
 だからこそ、あまりの不意打ちに上擦った赤の声が、卑怯だぁ、と震えながら伏せられた顔の下で、花を咲かせる。
 日頃なかなか言えない想いというものは、きっと多くの人にあるものなのだろう。
 冬らしい寒気が隙間を滑っていく中、リィムのニッセがそっと梓真のニッセへ触れ、寒くないだろうかと目を細める。
「どうやら梓真は、情けなくなる位、君の事が好きらしいよ」
 飾る言葉も躊躇いも脱ぎ捨て、ただ一緒に過ごす時間の愛おしさを撫でるように、梓真が微笑む。
 すると、はにかんだリィムがニッセでそんな梓真の袖を掴み、小さく頷く。
「リィムも一緒だよ」
 短い言葉に、魂ごと篭めたかのように力が入る。
「どんな時もいつも梓真さんを想ってる」

 クリスマスは楽しく過ごせそうか。
 そう、おかわりを繰り返す雛の傍らで、アトラがニッセ人形の腕をつまみ、ぶっきらぼうに尋ねた。きょとんと目を丸くしたマルメロが、そんなアトラのニッセへ近づき、老齢の者を連想させる笑い方を取る。
「わしの主人は、一緒のクリスマスをすごせてとても喜んでおるぞ」
「そうそう、大好きな皆と一緒にいられて、ごはんが美味しくて……」
 ミルク粥を掬うマルメロの言葉に、雛が一度だけ大きく頷く。
「……これ以上の幸せなんてないんだよう……!」
 嬉々とした声は、まるで空から舞い散る光の粒。
 そう、窓をふと見遣った人々の間から歓声があがっていた。
 はらはらとした雪花が、大教室内にいる皆の瞳にも届いたのだ。

●一緒に
 吐息が冷え切った世界を温め、吹き込まれる言葉もまた、ひとつひとつまるで宝石のように煌いていく。
 主を哀れんだ人魚のニッセを見つめていた圭吾は、自分と同じくやや押しに弱いニッセへ、全てを託した。しかし紡ぎかけたニッセへ囁かれた想いに、圭吾の頬が朱に染まる。
 腕で隠した圭吾の表情を知り、人魚は自らのニッセと顔を見合わせ、くすりと微笑む。
「やっぱり、一番馬鹿なのはうちのご主人だな」
 ――それでも、お前の所のが好きなんだと。

 恭賀への挨拶も済ませたカイと沙那は、着飾ったそれぞれの姿を傍らに、静かな夜の下で語り始めていた。
「もし沙那が風邪を引いたら、粥を作ってやるらしい」
 そうは言ったものの、風邪を引かないに越したことはないと、カイは立襟のマントで彼女を包み込んだ。狭間に一瞬だけ映った驚きの表情も見守るように、唇は閉ざして。
「では、カイ様がお風邪を引いたら私が作って差し上げますね。……と言ってますよ」
 マントを掻き寄せ、沙那は震える睫毛を伏せた。
 ひそひそと紡がれる内緒話は、ニッセたちの井戸端会議のようだ。
 琴里たちのニッセも例外ではない。琴里がニッセの両手で顔を隠せば、蒼十郎のニッセが主の口を隠すように腕を広げる。主の好み――秘密を打ち明け合うニッセとは対照的に、蒼十郎も琴里も、抜けていく力と帯びる温もりに顔を綻ばせた。
「お菓子を取ってったり、無理そうな事を言ったり、背中や上に乗ったり……」
 くすりと、蒼十郎のニッセが笑う。
「けど、楽しくて、嬉しくて……一緒に居てくれて、ありがとう、って言ってましたよ」
 口元をニッセで包んだ蒼十郎のくぐもった声は、しかと琴里へ届いた。それがきっかけとなって、どちらからともなく、互いのニッセをそっと寄せる。ありがとう。たった五文字の言葉を、幾度も重ねて。
 真剣さは不思議と伝わってしまうものなのか、葉里はそわそわしたトーリの様子に首を傾げていた。
「わしの孫が今悩んでおるのじゃ。二年間の片思いにしゅーしふを打つと言ってきかないの、じゃ」
 トーリのニッセが震わすのは、確かな歩みの結果と、これから踏み出す一歩のための音。視線ばかりは人形に注いだまま、トーリは真っ直ぐに続きを話す。
「おたくのお孫さんから、いい返事はもらえる、か、のぅ……?」
「……あたし!?」
 思いがけずに、葉里の視線が動揺に泳ぐ。
 そして葉里はゆるゆるとニッセを掲げ、少し待ってあげてほしいのじゃ、とだけ述べた。

 傍にいると居心地が良くて安心できる。感じたままにその有り難味を告げた円のニッセに、寅靖が目を見開いた。しかしすぐ、思い出したように「此奴も嬉しかろう」とニッセを通して笑む。
「此奴は肝心な事に限って口に出来ない意気地無しじゃから……」
「え?」
 そのまま視線を合わせるのは気恥ずかしく、寅靖はニッセだけを円へ向け、礼を紡ぐ。
 これからもよろしく、といいかけた円は、耳まで真っ赤な寅靖に気付くと、
 ――私、恥ずかしいこと……言わなかった、かな?
 よく似た熱に感染してしまった。

 同じ頃、別の場所では、滾る気合も乗せてニッセを揺らすリネの姿があった。
 迎えた今日、リネはニッセを通し、大好きな人の存在をほのめかす。耳を傾けてばかりの忍も、人形をぎゅっと握りながら言葉のひとつひとつを逃さず掬う。
「大好きな人は、ああなたのごご主人さまなのだけども!」
 途端に、忍が頬を赤らめる。
「ごご主人さまは、どどうな、なの、でしょうか!」
 言い切るとほぼ同時、リネは自らを覆うように抱きしめた温もりを知り、あわあわとそれ以上何も言えずにいた。
 ――俺も大好き。
 そんな囁きが唇から伝わった気がして。

「色恋沙汰の話はないのかな、ソフィっち?」
 不敵な笑みを抑えきれず、水葉が口元をニッセで隠しながら問う。飲み込んだばかりのミルク粥に咽ながら、ソフィーは人形の手を振って、
「意地悪なんだから」
 と頬を膨らませた。けれどそう考える心も、時間も愛おしくて、ソフィ−はすぐに吐息へ笑みを寄せる。
 だから、「これからよろしくね」と、どちらからともなく告げられれば、互いにくすぐったそうに肩を震わせてしまう。
 同じ時間に分け合える幸せが、余りに煌いていたから。

●Jul
 静寂が支配する夜の色と空気が、次第に深まっていく。
 恭しく差し出した手は、小さなニッセのものだった。壱珂がそうしてみせた時の、その表情に意識を奪われそうで思わず、惺もニッセを差し出された手へと重ねる。そのまま礼を告げるべく、惺のニッセが触れるだけの口付けを施す。
 ニッセ同士のやり取りとはいえ、言葉を発せずにはいられなくて、壱珂がニッセへ声を放る。
「そんなことされたら、男はみんな勘違いしてしまうよ」
 思いのほか、それは羨むような心を含んで。
「……何を勘違いしてしまうの?」
 首を傾げた惺に、壱珂は肩を竦めることしかできなかった。
 同じ頃、なにやら立ち話をしていた轟と万里を発見し、紗耶のニッセが一言断った上で、二人の頬へそれぞれ幸運のキスを贈る。そんな仕草をしてみせたニッセ人形に、万里が「可愛い、わ」と瞳を輝かせた。
「轟どの。学園には馴染まれたかね?」
 少女と共に姿を見せた悠斗が、当たり障りの無い話をした。充分すぎるくらい楽しんでいる、と返す轟の声を聞いて漸く、安堵の息を漏らす。
 ニッセを通して相談事を持ちかけるものは、少なくない。
 出海もまた、すだちのニッセへとストレートな質問をぶつける。
「この男は好きな娘から頼られるようになりたいのだが……」
 良い手はないものかとニッセの首を傾げさせれば、すだちも負けじとニッセを掴み、何気ない日々の積み重ねによって育まれるのだろう、と瞼を伏せた。
「頼るとか考えるより、正直に自信を持って行動して。……らしいよ」

 一方、ミルク粥に舌鼓を打ちつつ、嵐と黎は緩やかな時間の流れを眺めていた。時折混ざる会話には、互いのニッセが優しい相槌を打つ。素直になれそうな予感が走るのは、クリスマスイヴだから――だけではないのだろう。
「おぬしが微笑んで声をかけてくれるたび、とても嬉しくなるんだそうじゃよ」
 優しいから。たまに、泣きたくなるほどに。
 嵐の言葉は最後まで紡がれず、ただ音になった部分だけ、黎が受け止める。けれど、言わずとも解る想いが、それぞれにはあるのかもしれない。
「黎が笑うのは、嵐が笑ってくれるからなんだよ」
 相手に注がれてほしいと願うのは、どちらも祝福だけなのだから――。
 友人や恋人との路を紡いでいく者達も多い中、故郷に戻ると話した榊の前で、玄蕃のニッセが徐に口を開く。遠い物語を読み聞かせするかのように。
「再び巡り会う日まで息災でのう。ただ一人の愛弟子、宮下榊よ」
 真っ直ぐ向けられた言葉に、榊は思わず嗚咽を落としかける。
 泣いたら心配させてしまう。溢れそうな想いを押し込めればそうするほど、温かさが、榊の瞳から零れ落ちていく。
「……ぼくは、わしは師匠の弟子でほ、本当に幸せ、でっ……誇りにおも……」
 寒さから守るため巻いてあげたマフラーごと、玄蕃は旅立つ愛弟子をそっと抱きしめた。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:63人
作成日:2009/12/24
得票数:楽しい3  笑える1  ハートフル20  ロマンティック4 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。