<リプレイ>
●さあ、行こうよ 雪を思わせるふわふわの真っ白コートと手袋、赤いチェックのミニスカート、スエードレザーの茶色いロングブーツで姫咲・ルナ(ピンクの月夜は仔猫の想い出・b07611)がてくてく歩く。 「う〜さむさむなのね」 それを耳にして日下部・拓海(元気にフリッカースペード・bn0008)が素朴な、そして空気の読めていない質問をする。 「じゃあ、なんでルナはミニスカートなんだろう」 くすっと思わずブリギッタ・カルミーン(箱入りヴァンピレス・b49307)が口元を抑える。 女子のお洒落心はなかなか男子には掴めないものだが、それにしたって拓海はダメダメだ。 「簡単に言えば女の子のプライドです。ね? ルナさん」 「女の子のコーディネイトの真剣さを拓海さんも知るべきなのね」 ブリギッタに続きイレーナ・ファングバード(青いハートのストレンジャー・b58075)からも、さらにカッコいい先輩になって欲しいなと、女性側の真摯な意見が提示される。 「さすがおねえちゃん達なのね♪」 年上二人が服を選ぶあのドキドキを上手く言葉にしてくれた事に、ルナがにっこりと笑う。 「そういうの勉強せんと苦労するでー? うちのマフラーかてただ寒いから着けてるのとは違うんやで」 道摩・歌留多(腹黒修験道ガール・b58130)が年上の女(ひと)っぽい余裕の表情でからかう。 いや実は同年代なのだが……。 話を転がすためには努力を惜しまないタイプゆえの貫禄だろうか? いやむしろ自然に出来ちゃうのかもしれない……。 「ど、努力してみるよ……」 すっかり勢いに押された拓海が、なんとかそんな言葉を捻り出した時、行く手には佇む一本の木の影が見え始めるのだった。
●普段着を脱ぎ捨てて? 現場に到着した内田オフィス同好会の仲間達は、一応付近に人の気配がないことを確認して、それぞれ自分のイグニッションカードを手にする。 「イグニッション!」 掲げたカードが力を解放すると、水田・えり子(伝説の少女になりたい・b02066)の姿はいつものステージ衣装に早代わり! 「あ、あれ?」 のはずだったのだがえり子の防具は高校女子冬服のままである。 どうやら枝を譲り受ける時に、礼儀正しい格好をと思いながら、今日の用意をしたせいで、カードに封じた防具も制服にしてしまったようだ。 「あ、えっと……」 思わぬ失敗に顔を赤くするえり子の肩に、真スカルロードのお父さんの(骨ゆえに)白く細い指先がぽんと乗せられる。 (「さすがオヤジさん……」) その素早いフォローに不利動・明(大一大万大吉・b14416)が敬意を込めた瞳を向け、それに続くべく口を開く。 「アイドルと考えれば、制服もありといえるのではないだろうか?」 そういう趣味なのかと思われる可能性を、微妙に孕みながらのフォローに、まさにアイドルを目指す羽藤・みゆき(ポッピングシャワー・b60707)が乗ってくる。 「うんうん。銀誓館の制服は可愛いし、アクセサリーが決まってるから十分ステージでも通用するはずだよ♪」 「それに今回えり子さんは回復役だしね。ちゃんと背徳柔道着の私が制服アイドルを守ってみせるよ♪ 実は射撃攻撃だから前には出ないけど、心意気ね!」 みゆきにつられた様に水城・愛歌(恋の旋律・b69816)も、にこにこと笑いかける。 「もう、みんなったら……ありがとうございます」 それで元気が出たのか、えり子は用意していた詠唱銀を取り出す。 さあ、戦闘開始だ!
●コオロギ妖獣の音色 闇の中で残留思念だったものが妖獣の姿として実体化する。 「コオロギさん好きだけど、この子は大きすぎるのね!」 巨体を揺すり身震いする妖獣に先手必勝、ルナの握ったマジカルロッドの先端、三日月の部分から炎が飛び出す。 「うん、本当に大きなコオロギ……やっぱり大きな事故が起こる前に対処しなくっちゃ」 「それでは、私は前に参りましょうか」 愛歌が輝くコアを召喚する間に、ブリギッタが前に出て剣を構えながら、呼吸と共に魔狼の気高きオーラを纏う。 もちろん彼女一人に前を任せるつもりはない。明もお父さんと並んで前に進み出ると長ドスを頭上に掲げる。 「またオヤジさんと戦えるとは……光栄です」 もちろんお父さんの方は無言だが、その横顔は笑っているようにも見える。 さらにはイレーナの相棒、真ケットシー・ガンナーのアーサーが、二人の間で二丁拳銃をすちゃりと構える。 「頑張ってアーサー! でも二人の足は引っ張らないでね」 『アン!?』 もっともイレーナは前に出るのがいろいろな意味で心配な様である。アーサーちょっぴりショックっぽい。 それはともかく、前衛が接敵し後衛から攻撃が飛んでくれば、実体を持ったばかりの妖獣も反撃に出る。 長く伸びた白骨触角を振動させ、カラコロカラコロと軽妙な音を響かせ始める。 不気味な外見とは裏腹なその耳に心地よい音が、一瞬にして皆の瞼を重くさせる。 「『「ふにゃ……」』」 目元を擦るルナやイレーナが力の抜ける声を上げる。 「な、なんやうちも眠なってきたわ……って、ん?」 眠気に抗う歌留多が、ルナ達の声の中に違和感を感じて首を巡らすと、自らの相棒ケットシー・ガンナーのイェーガーも目元を擦っている。 「って、普段無口なくせに、こんな時だけ可愛い声かいな。って、まず寝たらアカンやん!」 「綺麗……でも眠…く……って、歌留多さんの言う通りです。寝たらダメ!」 「あと、五分お願いだよぅ」 えり子が自力で立ち直る横で、拓海がすでに寝ぼけている。 「みんな頑張って起きてね。怪我人はいないからみゆきちゃんはレッツ、アタック。虫だけに蒸し焼き、みたいな?」 おめめパッチリで振るう箒から炎が飛び出し、妖獣の体表で爆ぜる。 怯んだ隙を突いてアーサー&ブリギッタが縦横無尽の射撃を加え、さらにお父さんの刃がその外殻を切り裂いていく。 「どうやら体力はあるようです」 「ああ、だが動きは鈍い……動きも単調だ」 攻撃に参加しなかった明の瞳に、無数の文字が浮かんでは消えていく。 「むぎゃん!」 だからといって安全というわけではない。眠気に負けていた拓海が伸びてきた白骨触覚に鞭打たれて、妙な声を上げて目を覚ます。 『もきゅもきゅ!』 自分の主人であるルナがそうなっては大変と、真モーラットピュアのイヴが気合を入れて祈りを捧げている。 とはいえ能力者優位は変わらない。 妖獣は触覚を振り回し、前衛のメンバーを薙ぎ払いダメージを与えたかと思えば、再び眠りの音色を響かせたりと激しく抵抗するが、能力者達は落ち着いて対応していく。 「拓海くん、一緒に皆の心と身体癒しましょ♪」 「僕は癒され、僕も癒すよ♪ それを広げてみんなを癒そう」 「さぁ、頑張って頑張って……勇気と力を振り絞って♪」 「僕の声が届くよね? えり子の声が響くよね! 明、ルナ、歌留多にお父さん♪」 「イレーナ、みゆき、イェーガー♪」 「イブに愛歌に、アーサー、ブリギッタ♪」 重なる癒しの歌声が仲間達の名を呼んでいく。 拓海は年上も年下も、人も使役ゴーストも関係なくただその名だけを旋律に乗せる。 その意図が判るような気がして、えり子もあえてそれに倣う。 「2人のデュエット……素敵だよ」 光の槍を放つ愛歌が親指と人差し指で丸を作る。 「回復、ありがとう。えり子ちゃんと拓海くんのデュエットはちょっと羨ましいね」 白燐蟲を操りながらみゆきが微笑む。 「〜♪」 ルナのようにいつのまにか口ずさむ者もいて、仲間達がえり子達の気持ちを酌んでよりいっそうに奮起する。もちろん使役ゴーストだって同じだ。 振り下ろされた触覚を左手の刃で受け止め、明はプログラムを纏った拳を叩き込むと、妖獣がじりりと後ずさる。 「にがさへんでー!? 一方的にどついたるっ!!」 森王の槍が歌留多のホーミングクロスボウ、紅い隼から放たれる。 「私の方は光だよ!」 愛歌の槍もそれを追随し着弾、妖獣の巨体は大きく右に傾ぐ。そしてそれが決定打となる。 体力に優れた妖獣ではあったが、さらに使役ゴースト達の一斉攻撃を受け、ついに消滅してゆく。 カラン。 コロン……。 最後に残った触角から落ちた骨が、地面で跳ねると小さな音を残して、その全ては完全に霧散した。 「みんなとだと……恐ろしいはずの依頼も怖くないです……♪」 勝利の瞬間にほっと息を吐き、ブリギッタがにこりと笑った。
●消えゆくものにお祈りを 妖獣を倒した能力者達が一人の少年、少女に戻っていく。 戦いの痕跡を出来るだけごまかし、ほっと一息をついた時、件の木を見つめていたイレーナが、仲間達を振り返るとちょっとした提案を切り出す。 「あの……わたしたちの森でも、木材がどうしても必要な時木を切り倒します。でもその時は村のみんなでお祈りしてから使わせてもらうんです。だから、お祈りしませんか?」 「イレーナちゃんの故郷では木を切る時にお祈りするんです? そうですね。私達も……」 えり子の言葉にブリギッタはそっとその幹に触れる。 「きっと由緒正しい木だったんですね……大事にされていたって想いが伝わってくる気がします」 「わかるの?」 「さあ、どうでしょう」 尋ねる拓海にブリギッタは柔らかに微笑むと、一歩下がって祈りのために目を閉じる。 「自然を壊す事が良い事か悪い事か……それを判断するのは私達では無い。だが敬意は忘れたくないな」 明も同じく祈りのために膝を折ると、仲間達もそれぞれに祈りの姿を取る。 「違う形で、私達のところへおいで」 「うん、それがこの木にとってせめてもの供養になると嬉しいわ」 瞳を閉じて、両手を組んでルナが呼びかけ、愛歌も頷く。 そんな姿を昇り始めた朝日が照らす。後はただ時が来るのを待つだけだった。
●かくも幸せな帰途 「この枝、大事に使わせていただきますね」 「ああ、それじゃあ気をつけて帰れよ」 「ありがとーございます!」 「ありがとうございます。大切にしますね」 無事に枝を受け取ったえり子達は、見送りの言葉を受けて帰途に着く。 当然のごとく一番重い枝を受け持った明は、その枝ぶりをなかなかのものだと見定めていた。 「ねえねえ、それでこの枝で何を作るのかな?」 そこで拓海も担いだ枝を指差し仲間に問う。 「そやね。帰り着いての楽器作りが本番やでー? みんなちゃんと考えてあるんやろか?」 「歌留多は決まってるの?」 「うちは宮太鼓を造るでー♪ 本格的なくり抜き式の太鼓を造りたいけど、さすがにそないな技術あるわけないし……なんとか集成方式で……いや難しいようなら、ばち二本だけでも……」 「どんなけグレードダウンすんネーン♪」 微妙に弱気になっていく姿に、拓海が楽しげに関西弁風にツッコミを入れると、仲間たちがくすくすと笑う。 「でも私も作るんだったら、木だけに木琴とかいいんじゃないかしら、なんて思ったり。でも作れるかしらって不安はあるよ」 ひとしきり笑うと愛歌もちょっぴり眉根を寄せる。 「木製の楽器っていえば他にはオカリナかな? みゆきちゃん、手先は器用な方だからがんばるっ!」 一方みゆきは『なせば成る』の精神で、すでに製作への情熱が溢れそうだ。 「まあ、私も不器用な方じゃない。皆の楽器作り、出来る限り手伝うよ。それにしても楽器か……私は尺八か和笛か……」 皆の言葉を聴きながら明は二つの候補を挙げる。 「えっと、尺八は確か竹だった気が?」 「う、そうだったか」 今度は珍しく明がえり子につっこまれて、またまた笑いの花が咲く。 「私、手に握ったり触れるのに使いたいのね。だからカスタネットとか…マラカスの手のところとか♪」 そうすればぬくもりが感じられるとルナが説明すると、イレーナがぽんと手を打つ。 「わたしはハープがいいかなって思ってたの。でもルナちゃんのカスタネットなら、アーサーも使えるかも♪」 相棒と一緒にカスタネットを鳴らす姿を想像してイレーナがにこにこする。 「あ、楽器……ではないですが……」 と、ちょっとだけ遠慮がちにブリギッタが切り出す。 「結社の看板なんていかがでしょう。皆さんに見てもらえますし、きっと木も喜んでくれます♪」 「それもとっても素敵♪ 出来た楽器で合奏をと思ってたんです。看板も別の形の共同作業として、皆で協力して作ってみるのも良いかもv」 思ってもみなかった提案に、枝を受け取る手配をしたえり子も乗り気のようだ。 「ずっと残るし結社の思い出にもなるしとってもいいアイデアだと思うのね!」 「すごいなあ……」 看板の話にルナがはしゃぎ、イレーナが素直に感心する。 「それにぬくもりを感じる楽器での合奏も楽しそう。できるだけいろいろな種類の楽器を作りたいね」 「最高のセッションになりそうだよね♪」 愛歌とみゆきが合奏にも期待を寄せる。 「じゃ、僕はみんなと被らない楽器を考えるよ! なにがいいかなぁ」 「うちや明はんに合わせて和楽器とかどうやろか?」 うんうん唸る拓海に歌留多がアドバイスを送ると、他の仲間達もあれやこれやとアイデアを出し始める。 「命は……こうして巡りゆくのかもしれませんね」 想いが、失った形を別の形へと繋げていくような、寂しくて、でもくすぐったいような暖かさを感じる光景に、ブリギッタは空を見上げる。 「帰ったら曲を用意しないとな」 その視界に、身長差のある明の顔が映る。 ああ、そうだ。そうして紡がれる旋律もまた、きっと形を変えた命なんだろうなと、感覚的に理解する。 「大事に使って、可愛く飾ってあげます」 えり子も同じように感じているのか、手にした枝に語りかけている。 そんなえり子が顔を上げた拍子に、互いの視線が重なると、えり子はにっこり笑ってから、小走りに先頭を行く拓海達を追い越し、えいっと振り返る。 「ん?」 「どないしたん?」 愛歌と歌留多が声をかけると、えり子は深呼吸してぺこりと頭を下げたあと、とびっきりの笑顔を見せて言う。 「皆さん、今日はホントにありがとうございました♪」 「ぷっ」 思わず拓海が笑ってしまう。ああ団長はやっぱり団長なのだなと。 仲間達もそれぞれに顔を見合わせると、アイコンタクトでタイミングを計る。 「せーの」 「「「どーいたいしまして!」」」 嬉しそうに、そして本当に楽しそうに団員達は、元気よくそう言葉を返すのだった。
|
|
|
参加者:8人
作成日:2010/01/31
得票数:楽しい5
怖すぎ1
ハートフル3
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
| |