燃え盛る世界


<オープニング>


「みんな、よく集まってくれた」
 教室に入った能力者達を、山田・大五郎(高校生運命予報士・bn0205)が出迎えた。
「実は強力な残留思念を見つけたんだ」
 場所は、山奥にある洞窟。
 入り口は小さいが、中はかなり大きな空洞になっている。
「人の手の入っていなさそうな自然洞窟だが、残留思念が集まっている以上は何かあったのだろう」
 それに関しては何も分からない。
 おそらく、調べても徒労に終わるだろう。
「で、詠唱銀を掛けた後に現れる地縛霊だが……年端もいかぬ少女の姿をしている」
 まだ幼く、十才ぐらい。
 白を基調とした質素な着物をやや手余している。
「とはいえ、外見とは裏腹に強力な力を持った地縛霊だ」
 手加減などは一切無用。
 むしろ、そんなことをすれば、こちらが足元をすくわれる。
「肝心の能力の方だが、至って単調だ……ゆえに強いぞ」
 攻撃方法は、広範囲に灼熱の嵐を巻き起こす――このひとつのみだ。
 だが、それは強力でいかに能力者達といえど長く持ち堪えることはできない。
「加えて、炎狼とでもいうべき妖獣も一緒に現れる」
 数は六体。
 俊敏な動きで、襲い掛かってくる。
 その爪にはマヒが、牙には魔炎が伴っているので、これも放置できない。
「長期戦になれば、長期戦になるほど、勝つのは難しくなるだろう」
 しかし、と付け加え、
「みんなならば、この状況も打破してくれるものと信じている。この依頼託しても大丈夫だな?」
 問いかけに、能力者達がそれぞれに肯定を示す。
 そして、彼らは戦場へと向かった――。

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参加者
木嶋・栞(兇ツ祓・b03097)
卿爾・輝政(月歌樹の影帽子・b24309)
マリア・シンクレア(癒しの聖女・b24391)
竜造児・咲耶(黒鱗竜・b28506)
十夜・空(カントーニヴェム・b44148)
天宮・宗(怠惰にして眠れる蒼龍・b44652)
葬儀・人(確信犯・b45657)
白眉・吹雪丸(空谷の徒・b69180)



<リプレイ>

●戦いの前
 暗闇に包まれていた洞窟に光が差し込んだ。
 光は瞬く間に洞窟の中を席巻し、ごつごつとした岩肌を照らし出す。
(「こんな自然の洞窟に年端もいかない少女の霊。しかも強力な炎を操るとは……一体、ここで何があったのでしょう?」)
 マリア・シンクレア(癒しの聖女・b24391)が明かりを地面に置き、周りを見渡した。
 運命予報士の言葉どおり、人が過ごした形跡は見当たらない。
(「炎を操る女の子か」)
 同じように何があったのかを気にしながら、木嶋・栞(兇ツ祓・b03097)も準備を始める。
 潤沢に用意された照明によって、闇はどんどん隅へと追いやられていき――、
「こんなところでしょうか。……ところで、作戦を確認しておきたいのですが」
 作業が終わったところに、天宮・宗(怠惰にして眠れる蒼龍・b44652)が呼びかけた。
 これから、戦うのは強敵。
 ゆえに用心にこしたことはないと仲間達がうなずく。
 こうして僅かな齟齬(そご)は埋まっていくが、
(「……けれど、この不安は何でしょう」)
 宗の胸中に芽生えたのは言いようのない不安……。
 どこか歯車が噛み合っていないような感覚……。
 他の仲間達も感じているのかもしれない。だが、それだけで逃げるわけにも行かない。
(「全てが燃える。本当に、全てが?」)
 不安を振り払うように、葬儀・人(確信犯・b45657)が残留思念の強い場所を睨みつける。
 そして、念のためにランタンを腰にくくりつけていると、
「腰でしょうか? 頭にでしょうか? 卿爾さんみたいに帽子を被ってくれば良かったですね」
「帽子につければいい……? ふ、そういう訳には参りやせん……」
 栞の言葉に、卿爾・輝政(月歌樹の影帽子・b24309)がゆるりと首を振った。
 まるで映画のワンシーンのような所作。
「(いや、深い意味はねぇですが)」
 このぼそりとしたつぶやきが無ければ、だが……。

 かくして準備も終わり、イグニッションを終えた能力者達は陣形を整えていく。
「どこから現れるのか、分かれば良かったのですが……」
 十夜・空(カントーニヴェム・b44148)が僅かに口元を歪めた。
 敵の出現位置。それが分かれば、どれだけ戦闘を有利に進めることができるであろうか。
 しかし、現実にそれを知る術はない。
(「それでも、後ろは守ってみせる」)
 人が後ろを見遣る。
 そこには癒し手たる、栞と、空の姿が。
 二人が倒れることはほとんど能力者達の敗北を意味する。
 ゆえに是が非でも守ると、人は心の中で誓った。
 きっと秘めたる思いは、それぞれに。戦いに向かう礎として。
「よろしく頼む」
 白眉・吹雪丸(空谷の徒・b69180)が仲間達に短く言えば、
「さて、今宵の演目の始まりですよ?」
 空もいよいよ始まる戦いに向けてインカムの調子を確かめる。
 準備は終わった。後は――、
(「山奥の洞窟にある強力な残留思念。何があったか分からないですけども、誰かが犠牲になる前に彼らには此処で倒れてもらうとしましょうか」)
 宗が握り締めた詠唱銀をさっと撒く。
 途端に膨れ上がる熱気。ほどばしる炎。射抜くような殺気。
 膨れ上がった炎は四散すると狼としての姿を現し、中心には年端も行かぬ少女が立っている。
「……さて……狩りの時間っと……」
 物怖じも無く、竜造児・咲耶(黒鱗竜・b28506)が動き出す。
(「ふむふむ、あれが少女の地縛霊ですか。なにがあったのかな? でも、誰かに被害が出たら大変だから何とかしないとですよね」)
 空も声楽杖を手に戦いに意識を向ける。
 脳裏に浮かんだ少しだけ複雑な気持ちを、頭の隅へと追いやって――。

●灼熱の洗礼
 まず、先手を取ったのは能力者達。
 繋がった絆が巧みなコンビネーションを生み出していく。
「さて、少しでも多くの狼を眠らせましょうかね」
 空が奏でる静かで暖かな歌声。
 それに誘われて三体の炎狼がスピードを緩めると、そのまま眠りに落ちる。
「茨の縛鎖よ、我らが敵を内に捕らえよ!」
 眠った炎狼を見定めながら、吹雪丸が茨の領域を放てば、更に一体を捕らえることに成功。
(「このような場所に、小さなお嬢が独りきり……如何な過去があったのかは存知やせんが、このまま放っておくわけにはいきやせん……疾く、解放してやらねば」)
 闘気を具現化したチェーンは迫る炎狼へと伸びるが、輝政の思いとは裏腹に空を切る。
 だが、機先を制した能力者達の攻撃によって、既に敵の3分の2は動きを封じた。
 ならば他の能力者達が狙うは、ただひとつ!
「主よ。願わくば、この哀しき少女の魂に救済を……」
 マリアが胸の前で十字を切った。
 それが始まりの合図。
「射貫きますっ!」
「このチャンスは逃さない!」
「主の御名において、光よ魂を浄化せよッ!」
 栞の破魔矢、人のスピードスケッチ、マリアの光の槍が、同時に少女へと襲い掛かった。
 畳み掛ける見事な連携。
「まだだ! 蒼龍の咆哮から逃れる術は無い!!」
 更に、宗が大きく踏み込んで渾身の爆水掌。
 だが、その攻撃を受けても少女は眉ひとつ動かさない。
 ゆっくりとした動きで右手を胸の前に持ってくると、そこを起点に灼熱の嵐が生まれた。
「……これがっ」
 咄嗟に、栞が目と口を閉じて両手を前へ。
 熱が通り過ぎ、目を開けると辺りは一変していた。
 あまりの高熱が通り過ぎたためか、岩肌に炎が残っている。
(「この荒れ狂う炎は、女の子の心情か、それとも何かを伝えようとしているんでしょうかっ。どちらにしても、放置はしておけない存在ですね。その思念、ここで絶たせて貰いますっ」)
 栞が決意を強くして、戦場を俯瞰(ふかん)する。
 いつの間にか、炎狼が近い。
 どうやら、先ほどの嵐に乗って距離を詰めていたようだ。
「……さ……遊ぼうか……わんちゃん共」
 そこに立ち塞がったのは、咲耶。
 仲間に出遅れる形となっていたが、その役目までおろそかにはなっていない。
 二体の炎狼を前にして虎紋覚醒を起こすと、襲い掛かってくる牙を振り払う。
(「……注意する……のは爪。……この数で麻痺は痛い……からね……」)
 僅かに後退。
 先ほどまで居た場所を、もう一体の炎狼の鋭い爪が通り過ぎていく。
「……この炎狼方、お嬢を守ろうとしているみたいですねぇ……」
「……そう……みたいね」
 輝政が痛ましげにつぶやき、咲耶が淡々と返す。
 炎狼達が何を思っているのかは分からないが、時間が無い。
 これが最善なのだと、輝政は思いながら気合一閃――インパクトを打ち込んだ。

 ――しかし、能力者達が優勢に見えたのもここまで。

 再び巻き起こった灼熱の嵐が戦況をあっという間に上書きした。
「話どおりに凄い威力だ……」
 吹雪丸はそれを耐え凌ぐと、奥義まで高めた吹雪の竜巻を起こす。
 少しでも早く敵を倒さなくては、このまま押し切られてしまう。
 その後ろでは、空が葛藤していた。
 予定では灼熱の嵐の届かぬ距離まで逃げるつもりであったが、それでは一手を無駄にする。
(「……どうしましょう」)
 考えても答えは見出せない。
「大丈夫、癒し手はひとりじゃありません。私に任せてください」
 言うが早いか、栞が赦しの舞を踊る。
 僅かな回復といえども、八人がその恩恵を受けるとなれば大きい。
「分かりました」
 声を残して、空が下がる。
 二度目の移動は戦況的に見ても厳しい。
 ゆえに灼熱の嵐の範囲外ギリギリを見定めて、空は移動を終えた。
 後は少女が動かぬことを祈るばかり。
 幸いなことに今のところその気配はない。だが、戦いは更に激しさを増していく。
「合わせるぞ」
 吹雪丸が氷雪を吹き荒らせれば、
「燃えない僕らにご注意ください」
 うそぶきながら、人がスピードスケッチを放つ。
「……まだです!」
 更に少し遅れて、マリアの投げた光の槍。
 技量の差か――半分は防がれているもののダメージは確実に蓄積している。
(「……だけど、これでは足りない!」)
 宗がリボルバーガンレットを突きだす。
 だが、それは囮。
 本命は右手に巻きつけた布槍から繰り出す、爆水掌奥義!
 確実に入った。……しかし、少女は健在。加えて淀みもなく灼熱の嵐を巻き起こす。
 熱波が通り過ぎ、能力者達の被害は甚大になっていく。
「大丈夫ですかっ?」
「いま、癒しを届けます」
 栞と、空がすぐさま仲間の傷を癒すが、それでもダメージの方が大きい。
 押されている、追い詰められている、不安が徐々に現実へと変わっていく。
「行ってくだせぇ。お嬢を倒すにはもっと火力が必要でさぁ」
 輝政が炎狼に鎖を伸ばしながら言った。
 確かにここから逆転するには、咲耶の攻撃力が必要だ。
「……だけど……」
「自分の不始末は自分でつけやす」
 更にすみやせんと、輝政は付け加える。
「……分かった……無理しないで……」
 咲耶が炎狼を振り払いながら前へと。
 それを見送りながら、輝政は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
 もう彼にはそうするより他にない。
 防具がもっと耐久性のあるものであったならと、そんなことを考えても詮無いこと。
 今は倒れないように立っていることが、炎狼を引きつけておくこが、彼の出来ることであった。

●限界領域
 傷が深くなっていく。
 まるで空気さえも熱を持ったかのようで、息をするのさえも苦しい。
「……くっ、すみやせん」
 輝政が最後の炎狼を倒した直後に、灼熱の嵐によって倒れた。
 ほとんど敵と刺し違えたような形だ。
「しっかりしろ、直ぐに安全な場所まで連れて行ってやるからな」
 急ぎ、吹雪丸は駆け付けると抱きかかえて後退していく。

 ――とうとう、能力者達の継戦能力にもレッドランプが灯り始めた。

「バッドエンド直行の物語は嫌いじゃないが、一方的にやられるというのもね」
 ごめんこうむると、人がパラノイアペーパーを放とうとすれば、
「葬儀様、同時に仕掛けますよ!」
「ああ!」
 マリアがそれに同調して光の槍。
 二つのアビリティが共に直撃する!
「……これで……どう」
 更にタイミングを計っていた、咲耶が白虎絶命拳を打ち込んだ。
 しかし、肝心の手応えがない。
「……不発」
 誰かが歯噛みする。
 改も奥義も冠せぬアビリティを、格上の相手に当てるとなれば、相応の工夫が必要であった。
「けれど、まだ負けたわけじゃない!」
 渾身の力を篭めて、宗が右手を突き出す。
 誰しも傷が深い。だが、誰も諦めてはいない。
 そこに容赦なく灼熱の嵐が巻き起こる。能力者達の戦意を叩き折らんと猛威を奮う。
「四方を守護せし熾天使様、私に主のご加護を……」
 咄嗟に、マリアが雪の衣を纏い。
「これで補給して下さいっ!」
「誰も倒れさせはしません」
 栞がギンギンパワーZを投げれば、空が癒しの歌を紡ぐ。
 癒し手達もその力を惜しまない。
 どんな状況の中でも最善を尽くす。
 何が間違っていたかなんて後で考えればいいことだ。
(「耐えていてくれる。応えなければ」)
 そんな仲間達の姿を見て、人もパラノイアペーパーを止めようとはしない。
 限界領域は既に超えた。
 後は肉体ではなく、精神の力のみ。
「俺は、まだ戦える!」
 吹雪丸が凌駕して奮い立った。
 まさに満身創痍。
 後衛はもう戦い続けているのが不思議な状況だ。
 だが、そんな状況が長続きするはずもない。
「……こんなところで」
 無理を続けていた、人が地に伏せた。
 どうやら、ここまでか……。
「徹底します!」
 宗が大きな声を出した。
 これ以上戦えば、帰れない者さえ出てしまう。
「……残念……あと少しだったのに……」
 咲耶の目は、少女の微かな変化を捉えていた。
 もしかするとあと少しで勝利を掴めたのかも知れない。
 だが、確かめる術はなく――踵を返した能力者達を灼熱の嵐が逃がさぬと巻き込んでいく。
「誰も死なせないんだからっ!」
 下がりはせずに、栞がギンギンパワーZを投げた。
 自らの役目を最後まで果たそうと、撤退する仲間を支援する。
 少女と近接していた仲間達は一手で攻撃の範囲外から出ることはできない。
 ゆえにその癒しが、宗の意識を繋ぎとめ――栞が代わりに意識を失った。
「簡単に撤退もさせてくれないか……」
 安全圏まで脱していた、吹雪丸が慌てて引き返す。
 負傷者を抱きかかえて必死の脱出。
 気が付いたときには洞窟の出口まで来ていた。
 後ろを振り返っても少女が追いかけてくる様子はない。
「逃げ切れたかのか……?」
 設置したカンテラは壊されてしまったようで、洞窟の中は暗い闇が広がるのみ。
「まるで何もかも燃えて、炭にでもなってしまったようだ」
 誰がこぼしたのか、正鵠を得たような言葉が胸の中を巡る。
 救うことが出来なかった。
 果たすことが出来なかった。
 そして、敗北の味が能力者達の中に苦く残り。
 傷だらけの身体を支え合いながら、能力者達はその場を後にした――。


マスター:てぃーつー 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2010/03/05
得票数:笑える1  泣ける1  カッコいい1  怖すぎ2  知的2  せつない9 
冒険結果:失敗…
重傷者:木嶋・栞(兇ツ祓・b03097)  卿爾・輝政(月歌樹の影帽子・b24309)  葬儀・人(確信犯・b45657) 
死亡者:なし
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