みんなの幸せ家族計画


<オープニング>


 青い絵の具で塗りたくったかのような、爽やかな秋晴れの休日。
 大型ショッピングモールは、いつもの週末と変わらず多くの人で賑わっている。
 故郷のような森や山の匂いは無いが、目まぐるしく変わる店模様は、セタ・オルティス(西の六花・bn0299)の好奇心を刺激するのに充分だった。
 そんな彼女が辺りを見回すと、住宅街が近い所為か、親子連れの姿がかなり目立つ。
「……自分、一日だけでいーので家族が欲しーです」
 居候として世話になっている神谷・轟を見上げて、セタがそんなことを言い出した。
「あとあと、家族らしさとか、もっともっと知りたいのですよ」
「家族らしさ、か」
 考え込むように顎へ手を添えた轟の横で、少女は指を折りながら言い募る。
「普段はガンコで無口なのに感動屋さんで号泣すると止まらないパパさんとか、メルヘン趣味なママさん、ツンツンした妹、いつも自分を苛めるお兄ちゃんとかと過ごしたり……そーゆー家族さんを眺めるのも、いいですね!」
 そこまで言い終えたセタは、あっ、と思い出したように声をあげる。
「自分、11月9日がお誕生日だそーです」
 他人事のような言い方で、ぎゅっと拳を握って。
「なので、皆さんを夢の中だけのショッピングモールへ、ごショータイするですよ!」
 モール内に迷子のアナウンスが流れる中、大きな緑の瞳が輝いた。

「いいねー、やろうよ」
 先日の出来事を知人の運命予報士に話してみると、のほほんとした言葉が返ってきた。
 運命予報士の井伏・恭賀は続いて、轟が聞いたという『夢』の内容に唸り、携帯電話を取り出す。
「夢だから使役さんも堂々と連れていけるし、並ぶ商品に夢らしさが出るってのもいいね」

 セタの話によると、夢の中のモールにはこんな店もあるらしい。
 通路や店構えはよくあるモールと変わらないが、『おもちゃ屋』の店内には「割れないシャボン玉」がたくさん浮かんでおり、数々のおもちゃが並ぶ。
 使役ゴーストを模した物や、昭和の香りがするおもちゃ、夢へと訪れた人の思い出のおもちゃも存在する。
 どういうおもちゃがあるのかは、店を訪れた者の想像力次第ということだ。

 そうして『おもちゃ屋』を抜ける頃には、ビュッフェスタイルのレストランで腹ごしらえの時間になる。
 定期的に特集が組まれているようで、今回は「おふくろの味特集」だ。
 夢へ入った者達の考える「おふくろの味」が見事に揃っている。ちなみに、同じ名称のメニューでも見た目や味が違うといった現象が、ここでは発生する。これも夢へ訪れた者に影響されてのことだ。
 広々とした店内は席の行き来も自由。もちろん時間制限も無い。ゆっくり家族に関する話をしたり、自分の「おふくろの味」につい語らってみるのも楽しいだろう。

 空腹が満たされた頃には、帰宅の時間が迫っているだろう。
 虹色の自動ドアをくぐり、無数の星で満たされた外へ踏み出せば、ようやく夢は覚める。

「あはは、聞けば聞くほど『夢』って感じだねー」
「最初にこの話を聞いた時は、もっとリアルにモールを再現するかと思ったんだがな」
 肩を竦めた轟の言葉に、恭賀は視線を携帯へ落とす。
「……それだと『夢』じゃないから、かなー? とにかくさ、能力者さん呼んで賑やかにしようよ」
 セタはもちろん、恭賀や轟と面識が無くても構わない。むしろ大喜びするだろう。
 本当の家族と訪れるもよし、この日だけの家族を結成するもよし、家族同然の仲間と来るもよし。家族との思い出や、家族への想いを語るために一人で参加するもよしだ。
「その日はセタちゃんの誕生日だけど、来てくれるだけでも喜ぶと思うしねー」
 家族が欲しいという願いのほか、家族らしさを知りたい、とも少女は言った。
 来てくれた人達が、日頃家族とどう接しているのか。家族同然の仲にはどんな顔を見せるのか。
 そもそも、その人にとっての『家族』とは何なのか――。
 いろいろな家族のあり方を知って、多くの考え方を学ぶこと。
 それは、ひとつ歳を重ねる少女にとって、良い経験となるだろう。
「とりあえず、片っ端から呼んでおく。そこからまた誰かへ繋がるだろう」
「おおっ、頼もしいな〜。俺も負けないよ!」

 こうして、メールの受信を報せる音が、君の携帯電話を震わせた。

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参加者
NPC:セタ・オルティス(西の六花・bn0299)




<リプレイ>

●夢の中へ
 大きなショッピングモールに入ったおもちゃ屋。夢と希望に充ちた店内は、ふわふわと割れないシャボン玉が浮かび、種類を問わず無数のおもちゃが存在した。
 まるで大きなおもちゃ箱だと目を輝かせたセタを、『ソトゴト!』の香が抱きしめる。
「もー、はぐれちゃ駄目じゃないセタちゃん!」
「むぎゅ。えへへ、くるしーのですよー」
 セタが笑いながら訴える横で駄々を言ったテーオドリヒに、香は「算数満点取ったらね」と答える。テーオドリヒからしてみれば、好物を前に「待て」と言われたようなものだ。たまったものではない。
 咄嗟に綾へ援護を要請するべく視線を送るも、
「昔はこれが欲しいと言って、駄々を捏ねたものです」
 当の綾はプラスチック製の宝石を掬い、懐かしむことに没頭していた。
 おもちゃの宝石に囲まれたコーナーの一角、美風はセタさんの手の平へパワーストーンを乗せる。
「この色は恋愛成就。将来素敵な旦那さん見つけて、本物の家族をつくると良いわ」
 淡々と告げる姉に、小さい子に何言ってんの、と颯壱が溜息を吐く。
 本物の家族、という言葉を反芻するセタは、不意に頭をぐりぐり撫でられ目をぱちくりさせた。見上げればすぐ後ろに龍麻が立っていて。
「せっちゃん、兄ちゃんがいなくても元気してたか〜」
「! もちろんですよ!」
「お祝いに何か買ってあげるよ。あ、こっちの着せかえ人形とかどうだい?」
 時代の変化を感じさせる着せ替え人形の群れに、人形遊びをしたことのないセタは興味津々だった。
 そして様々な人形が腰を休めている棚の先――玲螺は『使役のヒーローなりきりセット』を物珍しげに見つめていた。蜘蛛童レッド、モーラットピンクにケットシーブラック、ケルベビイエローやマンゴーグリーンと、なかなかの揃いっぷりだ。
「パレハ、ちょっとこれで遊んでみぬかの?」
 玲螺に呼ばれ、パレハがセタとなりきりセットを広げ出す。妹達を見守ろうと壁へ背を預けていた涅雅は、大人サイズのなりきりセットを向けられ呆然とする。
 せっかくだから着てほしいとセタにせがまれ、涅雅は頬を掻き、やがて観念したかのように「よし」と気合を入れる。
 ヒーローごっこで駆け回る姿もある中、小春は使役モチーフの合体ロボ――若干昭和テイスト――を発見し、密かに目を輝かせていた。
 同じ頃、『カルガモ親子』の仲間達は鞠の並ぶ棚を前にしていた。
 ――子がいるような歳でもないのだがねえ………良いかな。どこかの甘えん坊も、素直に甘えるようだし。
 と琴音を一瞥する万葉の袖を、シーナと琴音がくいと引く。
「母上様、これが欲しいです」
 憧憬か甘えかに似た色を瞳に含み、琴音がねだる。万葉は躊躇わず綺麗な柄の鞠を取り、琴音へ手渡した。手鞠歌を口ずさむ琴音の視線が、ふと眺めるばかりだったシーナへ飛ぶ。ゆっくり、琴音を真似ながらぽんぽんと鞠をつけば、おもちゃ屋の中を歌と鞠つきの音が流れていく。
 不意に、聳える無数のモラぐるみの山がポテポテと崩れ落ちた。合間からモーラットのポメが八重の足元まで転がり戻り、止水がほくそ笑む。
「ほら、簡単だったでしょう」
「一発で見つかっちゃったね」
「きゅ!」
 ポメを挟む八重と止水を交互に見遣り、兄弟を繋ぐ見えない絆にセタが笑う。そんなセタへ、止水は至って穏やかに口を開いた。
「もう少し井伏さんや神谷さんに甘えても良いと思います」
 思いがけない提案だったのか、セタは目を瞬かせる。
「僕、思うんだけど、井伏さんと神谷さんは、もうセタさんの家族なんじゃないかな」
「家族、です?」
 まるで想像もしていなかったと言わんばかりに、セタは首を傾いだ。
 同じ頃、役柄などポーンと忘れて、真昼は蜘蛛童服売り場へと突撃していて姿を晦ましていた。『蜘蛛童服秋冬物新作』と聞いて、じっとしていられなかったのだろう。
 真昼を待つ間、茅はセタを肩に乗せ、子どもの手が届かないところにあった硝子細工の蜘蛛童へと触れさせる。肩車に慣れていないのか、セタは茅に確りしがみついている。
「綺麗だねぇ、セタ。……うん? 深夜とパレハも見たいかな?」
 深夜とパレハが揃って茅の足をぺしぺし叩いている。でも今日はお姉ちゃん優先だよ、と茅がにっこり微笑むと、深夜はセタを見上げるパレハの前で体を低くしてみせた。
「パレハ、ごこーいには甘えるですよ!」
 ぎちぎちと顎を鳴らし、パレハが深夜の上に乗ろうとする。
 とりあえず、なんとか蜘蛛童タワーっぽくなったようだ。

●レストラン
「こら、だめでしょ!」
 ビュッフェ形式のレストランへ入って真っ先に響いたのは、飛び出したケルベロスベビーのアルファを空中で抱きとめた悠の声。
 ナイスキャッチ、とパチパチ手を叩いたセタへ、ご一緒しませんか、と悠が誘う。取り皿へ卵焼きを乗せながら、悠は懐かしい匂いにうっとり鼻をひくつかせる。
「飽きないんですよねー……すごいですよね、おふくろの味って」
「だからおふくろの味って呼ぶんでしょーか?」
 首を傾いだセタに、そうかもしれないと悠は小さく笑った。
 次々皆が、それぞれのおふくろの味や、仲間のおふくろの味を撮り始めた頃、『空』の輪から空腹の訴えが響いてくる。萩吾のものだ。
「腹減ったパパ! 兄っつうかパパだと主張!」
「今日はパパがご馳走してくれるから、好きなもの注文しちゃおうね」
「こらお前ら! パパとか言ってやるなって!」
 パパパパと連呼する萩吾と青葉に、ももきがすかさず突っ込みを入れる。が、ももきもももきで並んだセタと轟を見て。
「アレだ、年離れた従兄妹……せ、セタが成長すれば問題解決! なパレハ!」
 何の話? とでも言いたげにパレハは首を傾げる。そんな彼らのやり取りに、傍観していた轟がこっそり肩を震わせ笑っていた。
 以前結社の仲間と作ったカレーをおふくろの味とした萩吾は、家族への溺愛っぷりを言動で露にする。
「末三兄弟! 何食う? にーちゃん持ってきてやる!」
 それまで、青葉に渡されたメニューをじっと眺めていた勇樹が、ハンバーグにすると宣言した。
「入学時とか誕生日とか、お祝い事は決まってハンバーグだったんだ♪」
「俺オムライス!」
 ももきが勇樹に負けず劣らずのはしゃぎっぷりを見せる傍ら、青葉は何の飾り気もない塩むすびを思い浮かべる。シンプルだからこそ優しい味なのかもしれない。
「時々自分でも作ってみるんだけど、ちょっと違うんだよね」
 手の平から伝わる温もりが、人によって違うからだろうか。青葉は不思議そうに笑うだけで。
「ももき、ロースとビーフを独占しにいこ……ぶっ!」
「萩吾にももき! ふざけてばかりいると殴るよ?」
「殴ってから言うなよなー」
 賑やかな空気が漂う一方、イグニスとルシアは窓際の静かな席へ座っていた。
「はい、あーん」
 お義母さんの味がどんなのか楽しみだ、と期待に胸を膨らませていたイグニスへ、ルシアは躊躇無く「あーん」を勧める。食欲そそられるミートパイの香りを辿り、イグニスは口を開いた。
「あーん……ん、美味しいな」
 頬を染めぎこちなく応じるイグニスに、ルシアは小さく笑う。今は夢でも、近い将来に現実になるはず。そうなった時のことを想像して、溢れる幸福感を閉じ込めるかのように、ルシアは目を閉じた。
 一方、思い出話に花を咲かせていた智巳と聖は、噤んだまま言葉を発しない雪紗に気付き、名を呼ぶ。智巳と聖が懐かしんではしゃぐのを、雪紗は寂しさをぐっと飲み込み眺めていたのだ。二人の思い出に自分はいない。そんな些細な寂しさも、大きく膨らむ切欠になってしまいそうだ。
「気にすんなよ。これから俺達家族の想い出を作ってきゃいいのさ」
「出会ってからのこの一年で色んな事があったでしょ? もう私達は立派な家族よ」
 智巳と聖の温もりと優しさに触れ、雪紗は何度も頷いた。

 まるで隣人へ挨拶するかのように、和希は轟へ声をかけていた。彼女が話したのは、おふくろの味であるけんちん汁のことだ。雪の中を歩いて帰ったとき、この匂いがしただけで暖かくなる。紛れもない家族の味だろう。聞いている方まで暖まりそうだ。
 さりげないアドバイスも交えれば、普段料理を滅多にしないという轟もゆっくり頷く。
「試してみよう。助かる」
 礼を述べると、和希は僅かに瞳を眇めるだけだった。
 その頃、別の席では。
「あたしがおふくろの味と言われて思い出すのは、おばあちゃんが作ってくれたコロッケかな」
 由衣は、記憶を手繰り寄せながら生み出したコロッケを、セタへと差し出していた。形も決して整っているとはいえない。けれど一口食べれば、作り手のやさしさが止め処なく溢れ出てくるコロッケだ。セタも「美味しい」と呟き、もらったコロッケにがっつく。
「誰かと一緒に食べたら、同じ料理でも違うのかもね?」
 一人で作っても、あの味になることがない。そう頬を緩めたのは小春だ。誰かと一緒に食べること。誰かのために作るのとは、また違ってくるのかもしれない。
 皆のおふくろの味を聞いているうちに、セタは真っ白なままの皿を前にした紗津希に気付く。紗津希は何も食べず、何も乗っていない皿をじっと見つめていたのだ。これはきっと、おふくろの味が解らないからだろうと、紗津希自身も考えていて。
 けれどここは、発想力の勝負だ――何せ夢の中なのだから。
「自分が家庭を持ったら、大好きな人や子供に食べてもらいたい料理ってことで!」
 脳裏を過ぎるのは婚約者の顔。そして、家族として共に暮らすであろう未来の姿。
「あ、このトマトソースのパスタ……いつだか彼氏のトマト嫌いを直そうと思って、美味しいお店に誘った時のなんだよ」
 紗津希が頬を染めながら言う。誰かのおふくろの味になる可能性。それを秘めた料理を前にして。
 そうしてセタと共にテーブルを囲う面々に、ジャックも同席を願い出た。彼がテーブルへ置いたのは、フィンランドのパンケーキ。余り見ないタイプゆえか、セタやパレハたちが食い入るように覗き込む。
「ガキの頃によく食べたものだ。ジャムとグラニュー糖を掛けると絶品だぞ」
 おすすめの食べ方を教える仕草は柔らかく、真剣に聞いていたセタもジャムとグラニュー糖をたっぷり乗せた。さすがに量が多い気がして、ジャックは肩を竦める。
 食べることが喜びとでも言わんばかりに、幸せそうに食べるセタを眺めていたら、食べ終わる頃になって少女はこんなことを言い出した。
「自分にもコレ作れるです? 難しくないなら、作ってみたいですよ」
 最近、お菓子や料理を作ってみたいと思う機会が増えたと彼女は言う。
 ある意味年頃らしい感覚だろうかと、ジャックは睫毛を震わせた。

●おうちへかえろう
 笑顔は幸せを齎すものだと、亮はマンゴーファラオのシャズナと椿を見つめながら思った。食事も終わりに近づき、これが締めだと言わんばかりに紅茶を注ぐ亮と、またケーキを端から端まで選ぶように眺めるシャズナに、椿は柔らかい音を吐息に含む。
 デザートのひとときを過ごす一行の傍ら、フィルは蜘蛛童・爆のリラに、ジャムを使った菓子を差し出す。
「わたくしの料理は、リラのおふくろの味になれるかしら?」
 食事の楽しさを、美味しいと感じる喜びを教えてくれたリラは、そんな彼女の眼差しを一心に受け入れる。もうすぐ目覚めを迎える。けれど、夢が消えても変わらないものは確かにある。それをいとおしむように、フィルは瞼を伏せた。
 一方で、『おうちごはん』の面々は賑やかな夕食を過ごしていた。
 ミカのお袋の味、デミグラスソースたっぷりのハンバーグの佳織が食欲をそそる中、可愛い妹が欲しかったんだとはしゃぐ縫に、綺麗なお姉さんがほしかったので嬉しいとセタが笑う。傍らのケルベロスベビーのラメトクとパレハは、向き合ったまま両者一歩も動かない。
 お父さんのセドリックと長男の茲、そして吟が、縁側で家族を眺める一日を過ごすご老体のごとく、唇を結んだまま家族を見守る。
「……この時期、オーブンで焼き上げた小振りの南瓜があったな」
 沈黙を破ったセドリックの言葉に含まれた単語を耳にし、茲がおふくろの味を舌の上へ蘇らせる。
「南瓜かぁ。今の時期だと南瓜チーズがおススメだね」
 そうぼんやりしている間にも、仲間達はケーキ作りを始めていて。
「セディお父さんも茲お兄ちゃんも、手伝ってくださいっ」
 ミカに促され、そろそろと腰を上げた。
「生地を混ぜるのはお父さんの役目だ。任せなさい」
 たのもしーです、と拍手したセタを、縫がちょんとつつく。耳打ちした後に縫が力説したのは。
「素敵な旦那様の可愛いお嫁さんになって、暖かい家庭を!」
「お嫁さん憧れるです!」
「あ、セったんこっちおいで!」
 救助に手招きされ、セタが駆け足で近寄る。そして茲と救助と共に、苺と生クリームへそっと手を伸ばす。
「つまみ食いは1つまでですよ!」
 ミカに先手を打たれる様を見て、セドリックと吟が微かに目を細めた。

 茜色から深い夜の色へ変わった空が、モールの外に塗りたくられていた。そろそろ醒める時間なのだと、何人かが声を揃えた。
 大きな背中を思い出し星を指す救助に、人々の視線もつられる。
 そこが帰るべき場所だと、小春が藍色の瞳を瞼で覆う。
 そうして家族のいる世界へ発つ少年がいた場所で、テーオドリヒはセタへ言葉を掛ける。『家族に必要なもの』を教える少年の表情に、セタも自然と笑みを零す。
 彼を見送ったすぐ後、穏やかな声が届き、セタが耳を動かした。振り返れば、すっかり上機嫌の小菊と小道、そしてグレートモーラットのもにゃの姿がある。
 一人じゃないですよ、と小菊が吐息で笑うと、小道はそろりと手を伸ばして小菊とセタの手を取った。
「おうちに帰るとき、お星さまもお日さまもきれいだけど、さびしーなのですよ?」
 何故か驚き瞬いたセタに、小道がはにかみながら話す。
「だから、お母さんたちとおててつないで帰るのです」
 笑いあう親子から、セタは繋がれた小道の手へ視線を落とす。
 そういえば今日はたくさん手を繋いだ。抱きしめてもらった。肩車だってしてもらった。
 家族の話も聞けた。たくさんのおふくろの味を知ることが叶った。
 家路を急ぐ家族が、すぐ横を過ぎていく。ふわりと、その家の匂いが鼻腔をくすぐった。まるで本物の家族のように。
 誰も、現実へ戻ることに不安や寂しさを感じていないのだろう。夢主でさえ。
 突然立ち止まったためか、近くにいた仲間に名前を呼ばれ、セタは目尻を擦る。
「ちょっと、寒さで鼻がツンてしたのです。さ、おうちへ帰りましょー!」
 そう言い切る少女の鼻先は、確かに少しだけ赤くなっていた。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:42人
作成日:2010/11/09
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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